数多の星は蒼穹にて輝く   作:姉川春翠

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第四節 そして共に歩みだす 2

 

 

 

「それで? これからあんたどうするのよ?」

 

 注文した飲み物を口にしながら、トゥネリはそうソラに問いかける。

 現在ソラとトゥネリの二人は、とある喫茶店に赴き軽い食事をしていた。昼食をまだ摂っていなかったことと、ソラの今後について話すためだ。セシルとレフィナの二人も誘って同席している。

 口の中のサンドイッチを飲み込むと、ソラは「うーん」と唸る。

 ギルドに入ると意気込んだはいいものの、その後の生活については特に考えてはいなかった。改めて問われると返答が出てこない。

 

「どうしようか?」

「どうしようかじゃないわよ。あんたが決めることでしょ」

「そうなんだけど……」

 

 とにかく困っている人を助けるという目的しかない中、今後どう生活するのが正解なのだろうか。

 「んー、美味しいー!」とデザートの味に満面の笑顔を浮かべるセシルを見て微笑むと、ソラはふと疑問を口にした。

 

「トゥネリはどういう風にしてるの?」

「わたし? わたしはこの街を拠点に色んな国の依頼を受けているわね」

「色んな国の依頼?」

 

 ソラは小首を傾げる。ここを拠点に活動するということは分かるのだが、どうやって他国の依頼を受けているのか分からなかったからだ。

 合点がいかない様子のソラを見て、トゥネリは項垂れる。

 

「まさかあんた、ギルドがどういうところなのかとか、ギルドに入るとどういうことが出来るのかとか聞かなかったわけ?」

「うん。師匠は『自分の目で見て知ることだな』って言ってなにも教えてくれなかったんだよね。師匠に釘刺されてたのか、ベルさんも教えてくれなかったし」

 

 一体どういう教育方針なんだ。そうトゥネリは疑問を抱かざるを得なかった。

 

「てことは、この王都になにがあるのかっていうのも詳しくは知らないわけね?」

「うん。だからこうして地図を持ち歩いているわけだし」

「ちょっと見せてよその地図」

 

 トゥネリに促され、ソラは鞄から地図を出すと手渡した。

 地図を眺めて、トゥネリはため息混じりにある一箇所を指差す。

 

「つまりこれのこと知らないわけね?」

 

 そこには〝転移の間〟と書かれていた。

 

「なにこれ?」

「あんたこれのこと知らないでよくギルドなんかに入ろうと思ったわね」

「いやー、ははは。自分で調べようにも物が無かったから」

 

 呆れ返るトゥネリを見て、ソラは苦笑する。

 実際ソラは、事前情報など無いに等しい状態でここまでやってきていた。聞いていたのは、人助けが出来る組織だということだけ。それ以外に知っていることといえば、よく読んでいる御伽話の本に出てくることくらいだ。

 

「よくそんなんでユースに認めてもらえたわね」

「あははは……」

 

 トゥネリの指摘にもはや乾いた笑いしか出なかった。

 

「だったらお兄ちゃん、僕たちの家で暮らさない?」

「ちょっとセシル?」

 

 発言を窘めるレフィナ。それを見てソラは軽く笑った。

 

「んー……朝も言ったけど、そこまでお世話にはなれないよ。迷惑だろうしさ」

「い、いえ別に迷惑というわけでは」

「そうだよ! お兄ちゃんが来て迷惑なわけがないじゃん!」

「ありがと。でもやっぱりやめておくよ」

 

 するとセシルは落胆し肩を落とす。もっと一緒にいたいという思いが、彼女の中を渦巻く。これを逃せばもう二度と会えないのではないか、そんな不安が彼女の思いを一層掻き立てていた。

 それを察してか、ソラは俯く彼女の頭を優しく撫でた。

 

「大丈夫。時間がある時に遊びに行くからさ」

「でも……」

「それに、ボクも出来るならここを拠点にしようと思っているからさ。そしたらセシルも遊びに来れるでしょ?」

 

 セシルは小さく頷いて、口を固く結ぶ。

 そんなセシルの様子を見て微笑むと、トゥネリの方に向き直った。

 

「トゥネリはどこに住んでるの?」

「ギルドが用意した、ギルド加入者だけが入居できる宿舎よ。でもあそこもうどこの部屋も空いて――」

「空いて?」

 

 トゥネリが不自然に言葉を切ったため、ソラは首を傾げる。が、ほんのしばらくしてトゥネリは言った。

 

「まあ、空いてないわね」

「そっか……」

 

 どうしたものか、とソラはまた頭を悩ませる。

 

「お言葉に甘えたら? 別に二人といるのが嫌ってわけじゃないんでしょ?」

「それは勿論そうだけど……」

「じゃあこうしたら? 宿舎の部屋に空きができるまではひとまず二人の家にお世話になって、空いたらそっちに移るって。それか――」

「それか?」

「いや……まあこれはもう少し考えさせて。うん」

 

 一瞬顔を反らすトゥネリ。その際、彼女の顔はほんのりと赤くなっていた。

 

「それにあんた、どうせお世話になりっぱなしじゃ悪いからとか考えているんでしょ? だったら住まわせてもらってる間、あんたが稼いだお金の一部をあげたらいいんじゃないかしら?」

「なるほど……」

 

 確かにトゥネリの言う通り、ずっとお世話になるばかりでは悪いために離れようとしていた。そもそもあまり裕福な暮らしのできない家庭なのだからと。

 しかし彼女の言うように、住んでいる間だけお礼としてお金を渡すと言うのであれば――考え方としては悪くはなかった。

 ソラはレフィナの方を見る。

 判断の可否を問われているのだと気づいた彼女も少し考える。

 レフィナもまた、ソラの迷惑になるのではないかと思っていた。あまり裕福な家ではないため、不自由をさせることにもなるだろうと。

 セシルの方を一瞥する。期待の眼差しが向けられていた。

 

「私は大丈夫です。きっとこの子も喜ぶでしょうし」

 

 ソラは少し間を置くと、軽く頷いた。

 

「それじゃあその……少しの間お世話になってもいいですか?」

「はい、勿論」

 

 レフィナの答えに、セシルは満面の笑顔を咲かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 喫茶店を後にしたソラは、トゥネリと共に〝転移の間〟へと向かっていた。

 セシルとレフィナの二人は、ソラを迎え入れる準備のために一足先に帰っていった。その際、二人は仲睦まじく手を繋ぎ、笑顔で手を振っていたのだった。

 転移の間はギルドが管理している施設だ。他国と他国を転移魔法で繋いでいるという。

 一体どんなところなのかと想像しながら向かうこと数分、転移の間にたどり着いた。

 闘技場の大きさを遥かに上回る外壁と門は、多勢の人間が一度に入ることを想定しているのだろう。

 そんな転移の間入り口の横には列が出来ている。列の先には街の兵士が手続きを行なっており、利用者は彼らに利用料を払う仕組みのようだ。

 しかしトゥネリは、列に並ぶことなく入り口の方へ歩を進めた。

 

「並ばなくていいの?」

 

 ソラが疑問を口にすると、トゥネリは服のポケットを弄りながら答える。

 

「わたしたちギルド加入者はここの使用料も手続きも必要ないのよ。これが証明になるから」

 

 そう言って見せたのは、手のひらに収まるくらいの小さなメダルだ。中央には紋様が刻まれている。

 

「なにこれ?」

「ギルド加入者の証よ。ほら、商会の人間もそれを証明するための物つけてたでしょ?」

 

 言われてみれば、とソラは思い出す。

 

「でもボクそれ持ってないけど」

「あんたはまだ正式な手続きしてないから。ルーから書類もらったでしょ?」

「あ、うん」

「今回はそれが証明代わりになるから出しておきなさい」

 

 転移の間に来る前にギルドに立ち寄った時、ルージュヴェリアから渡された書類を取り出す。

 書類を手に入り口へ向かうと、受付とは別の兵士が寄ってきた。

 トゥネリは無言で兵士にメダルを見せると、そのまま入り口を素通りしていく。

 兵士はソラの手に書類があることを知ると、手を伸ばして渡すように促した。

 

「書類の確認をさせていただきます」

 

 要求に応じて、ソラは書類を渡した。

 兵士はじっくりと書類を眺める。それからしばらくして小さく頷くと、書類を返却した。

 

「大丈夫です。どうぞお通りください」

「ありがとうございます」

 

 軽く会釈をして、ソラは入り口の門を通る。

 門の向こうには外観通りの巨大な広間があった。

 広間中央には赤色透明の石柱が置かれ、それを中心にして簡素な魔法陣が描かれている。

 石柱が度々輝きを放つと、人の姿が消えたり現れたりしていることから、これが大掛かりな転移の魔法だと見て取れる。

 

「なるほど……だから転移の間なのか」

 

 思わず感嘆の言葉を漏らすソラ。名前から察することは出来ても、ここまで大掛かりなものだとは想像出来ていなかった。

 

「中央にあるのって、もしかして転移結晶? 普通転移魔法って障害物があると危険なはずだけど」

「正確には転移結柱って言うんだけど、あれのおかげで従来の制限が無くなっているのよ」

「転移結柱……」

 

 確か本でその名を目にしたはずだと、ソラは思い出す。

 転移結柱は、従来の転移結晶の何千倍にも及ぶその大きさから世界で最も稀少な代物だ。その特徴も摩訶不思議なもので、発見時には必ず同色の物が二柱存在すると言われている。

 転移結晶は、魔力結晶に転移先と同様の魔法陣を書き込んだものだ。これは結晶を割った瞬間に発生する膨大な魔力を活用して転移するためなのだが、転移結柱の場合魔法陣を書き込む必要がない。

 というのも、同色の結柱の間にはいわば〝見えない道〟が繋がっているからだ。そのため転移先の座標も必要がなく、また結柱が安全な場所を自動的に選んで転移させることから障害物も関係ない。転移結晶と同様、ほんの僅かな魔力を使うことで遠方に向かうことができる。

 ただ一方で、本体に触れなければならないという欠点があった。便利さを考えれば大した欠点でもないのだが、それでも直接触れるとなると大人数を一度に転移させることは出来なくなってしまう。

 そこで用意されたのが、周囲に描かれた魔法陣。この魔法陣が転移結柱の入り口の役割を果たすことで、遠方の行き来を可能にしたのである。

 

「正直これが使えなかったら、人の往来なんて微々たるものだったでしょうね」

 

 トゥネリの発言に、ソラは確かにと頷く。そして同時に先刻の言葉に合点がいった。これがあれば、他国にある依頼を受けることも容易くなる。

 

「あ、一応言っておくけど目を瞑っていた方がいいわよ。人によっては気持ち悪くなっちゃうから」

「そうなの?」

「ええ。初めて使った人が目を開けたまま転移して、その先で吐いたって光景を何度も見てるから」

 

 小さな声で「それに身をもって経験したし」とトゥネリが付け足すも、ソラの耳に届くことはなかった。

 

「そっか。じゃあ気をつけておく」

「ん。まああんたならなんか大丈夫のような気もするけど、念のためね」

 

 微笑すると、トゥネリは魔法陣の上に立つ。

 

「それじゃ、向こうで会いましょうか」

 

 そして目蓋を閉じて僅かな魔力を魔法陣に注ぐと、光とともに忽然と姿を消した。

 

「おおー」

 

 感心しながら、ソラも魔法陣の上に立った。初めての経験に期待を膨らませ、ソラも目蓋を閉じて魔力を僅かに注ぐ。

 

「はい、転移できたわよ」

 

 注いだ次の瞬間、隣で声が聞こえてきた。

 おそるおそる目を開けて、ソラは目を輝かせた。

 

「すごい……! こんなの初めて見た!」

 

 目の前では転移の間同様、人が行き来している。しかし王都のものとは違う光景が広がっていた。

 見渡す限りの雄大な広間。ドーム状の天井には、大陸の形をした絵が並んでいる。

 そして赤い転移結柱の他にも、青、黄、緑、白の四つの結柱が正五角形を描くように置かれていた。まさにここは国と国を結ぶための重要な拠点といえよう。

 

「ここで驚くのはまだ早いわよ?」

 

 子供のように目を輝かせているソラを見て、トゥネリはくつくつと笑う。

 

「あ、そうだ。ここはどこなの?」

「それはここを出てからのお楽しみ」

 

 そう言ってトゥネリは、悪戯な笑みを浮かべて歩き出す。その後に続いて、ソラも外へと出た。

 

「わぁ……!」

 

 外に出てすぐ、ソラはさらなる輝きを目に宿す。その様はまさに無邪気な子供だ。

 眼前に広がったのは街だ。大勢の人が行き交い、王都には無いような建物が多く存在している。中でも極めつけなのは、街の中央にそびえ立つ巨大な塔だ。塔の周囲には原初の八賢者を模した石像が並んでいる。

 

「ここがわたしたちが所属するギルドの本部がある場所。どの国にも属さない絶海の孤島にある自由の街――ヴィグドラフよ」

 

 

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