聖杯大戦異譚   作:中澤織部

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第一話 銀の陣営 其の一

召喚されたサーヴァントを前に、俺──神之宮勇季は全身が震えているのを抑えられなかった。

俺の目の前には、人類史に名を残した名だたる英霊──その写し身である六騎のサーヴァントが跪いている。

 

「さて、では誰が誰のサーヴァントであるか、確認していくとしよ。──善次郎殿」

 

俺たちより先に“銀”のセイバーを召喚した、銀の陣営の代表であるアーノルド・ベッグマンは、金髪をオールバックに纏めた端正な顔立ちで笑みを浮かべ、互いの主従の確認を促した。

 

「ほほほ、先ずは儂か」

 

そう言って先ず歩み出たのは、六人の中で最もベッグマンに近い位置にいた、細く老いた髭面の修験僧の格好をした男、滝川善次郎である。

日本に古来から続く、銀瞳の一族でも異端に近い独自の魔術体系を継いだ彼は、此処にいる七人のマスターの中では最も年長で、銀の陣営におけるマスターの一人であると同時に、御意見番として参加している。

中々に頼もしく思えるが、実際のところは顔に似合わぬスケベな好好爺だが。

 

「儂とパスが繋がっておるのは……おお、そなたか」

 

善次郎に応えるように歩み寄ったのは、身長が軽く二メートル以上はあるであろう、見事な糸威しの大鎧に身を包んだ大男だった。

彼は身の丈以上に巨大な和弓を、右腕よりも筋肉で肥大化したのであろう長い左腕に携え、腰にはこれまた業物らしい大太刀を履いている。

鎧を着込んでも解るぐらいに鍛えられた筋肉質の肉体は存在しているだけで威圧感が伝わってくる。

 

「サーヴァント、“銀”のアーチャー。真名を源“鎮西八郎”為朝、召喚に応じ参上した。……さて、妖術使いの老爺よ、貴様が矮小なる身で俺を召喚した不届き者か」

 

源為朝と名乗った“銀”のアーチャーは、太く、威圧するような声で善次郎に問うた。

周りに居るだけの俺や他のマスターたちは、まるで怪物に睨まれたかのように身動きが取れずに怯む中で、真正面から圧を受けている筈の善次郎は、そよ風に撫でられた程度とでもいうように飄々としていた。

 

「ほっほっほ、流石は日本一の武人じゃのう、頼もしい限りじゃな」

 

何時も通りの態度で右手を差し出す善次郎に、“銀”のアーチャーは先程から放っていた威圧感を引っ込めると、差し出された右手を握り返して憚ることなく大声で豪快に笑った。

 

「ハハハハハハハハ! 貴様、妖術使いにしては中々やるようではないか。態々この俺をサーヴァントとして喚んだのだ。そのくらいの肝が座ってなけりゃぁ、その素っ首跳ねて座に帰っていたぞ!」

 

為朝は一通り笑うと、元の立ち位置に戻る善次郎の側に控えた。

あんなにも堂々と相手に対して面と「面白くなかったら殺した」などと言うとは、恐ろしいサーヴァントだが、それを意にも介さない善次郎の方に、勇季はある種の怖さを感じていた。

 

 

……

 

 

「さて、次は白英か」

 

次に、善次郎の隣にいた道服の女性、劉・白英が呼ばれた。

白英は古代中華における女性の道士である坤道を代々輩出してきたという道教の名家の出身であり、様々な効果を持つ薬の作成に長けた錬丹術や、死体を操る『僵戸』の術を専門とする女性だ。

黙って化粧でもしていれば普通に美人である筈の彼女だが、睫毛の長い目の下には大きて真っ黒な隈が目立ち、細い顔立ちも頬が痩けていて、女性としては色々と台無しだった。

純白に蒼で彩られた道服に身を包んだ、腰まで届く艶のある黒い長髪の彼女が善次郎に倣って前に出ると、先程と同じように、サーヴァントの中から一人が歩み出てきた。

 

「サーヴァント、“銀”のキャスター。姓名を陳宮、字を公台、召喚に応じ参上致しました。貴女がマスターでよろしいですかな?」

 

そう問うた“銀”のキャスターは、褐色の肌に眼鏡をかけた、漢の時代の礼服に身を包んだ紫髪の男であった。

如何にも古代中華の軍師然とした格好のキャスターに、白英は黒髪で隠れた顔に笑みを浮かべて答えた。

 

「え、ええ……そうよ……き、キャスター。……貴方には……私たちの陣営の、ぜ、全体的……な作戦立案、をぉお願いする、わ……ね」

 

白英の、日頃からの不安定な声色と喋り方に対して、キャスターは嫌とも思っていないようだ。

 

「成るほど、ならば軍師として腕の発揮しがいがありますな。こうして召喚されたのも一つの縁。末永くお付き合いいたしましょう」

 

そう快く白英に従ったキャスターは、アーチャーと善次郎とは異なり、軍師として白英と共にベッグマンの側に着いた。

 

「それじゃあ、次は僕かぁ、へへへ」

 

そう言って軽くステップを踏みつつ前に躍り出たのは、銀の陣営でも特に優れたヴィンツベルン家の跡取りである、俊英シュルクーザ・デ・ロザリンド・ヴィンツベルンだ。

まだ十三になったばかりの彼の家系は、古くはアインツベルンと近しい一族だったらしいが、相当古い時代に袂を別ち、アインツベルン本家には劣るものの、各地の魔術体系を貪欲に取り込んだホムンクルスの技術は相当に出来がよく、跡取りであるシュルクーザ自身も、片親がホムンクルスであったらしい。

そんな暢気な少年の前に立ったのは、古い警察官の服装のような黒い制服に身を包んだ青年だった。

サーヴァントと言うよりも、極東から拉致された公務員と言われても信じてしまいそうな外見の、黒髪で整った顔立ちの彼は、暗いオーラを放ちながらシュルクーザを前に口を開いた。

 

「……サーヴァント、“銀”のライダーと申します。故あって真名は明かせませんが、一応は“村正”と覚えておいて頂きたい」

 

あまりに丁寧すぎるほどの態度のライダー──村正に、シュルクーザは幼いながらに何やらむず痒いものを感じた。

 

「うーん、別に真名は後で聞くけどさぁ、君って何でそんなに暗いの?」

 

シュルクーザの問いに、ライダーは暗黒のようなオーラを放ちながら、これまた丁寧に応える。

 

「いえ、これはサーヴァントが召喚される時に、全盛期の頃が喚ばれるのが原因でしょう。自分も明るいときはあったのですが、この頃が選ばれたのも何かの縁なのでしょう」

 

「ぬぬぬぬぬ……そうだなぁ、取り合えず、笑ってみたらどうかな?」

 

何気ない言葉に、ライダーは暫し考え込んだ風だった。

一体何を悩んでいるのだろう、とシュルクーザが思っていると、何かを決心したのか、ライダー自分の中では普通の笑顔を作った。

 

「では……これでどうでしょうか」

 

「─────ッ?!??!?!!?」

 

かくして、ライダーの笑顔を直視して気絶してしまったシュルクーザを介抱しながら、表情を笑みから戻したライダーを横目に、ベッグマンが次を促した。

 

 

……

 

 

ヴェルカーナ・ミハエル・カミンスキーは、ハッキリと言ってしまうならばこの銀の陣営に居るべき人間ではない。

確かに、彼の左目は銀の瞳が輝いているが、しかし、彼の一族は歴史ある銀瞳の一族などではなかった。

ミハエルの先祖は帝政ロシアの時代の、北極圏に程近いシベリア北部の片田舎で精霊を使役する魔術を行使する家系だった。

高々五代続いた程度の家系では、魔術回路の質だってそこまで優秀ではなかった彼の人生が変わったのは、彼が生まれたその瞬間であっただろうか。

彼の左目は、ごく稀に起こるというもので、藍色瞳の父と、エメラルド色の瞳の母の間から左の瞳が銀の自分が生まれた……それだけならば遺伝子にまつわる突然変異程度と考えるだけで済んだだろう。

しかし現実はそうならず、ヴェルカーナはこの銀瞳の一族に見出だされたのだが、今はそんなことを考えておくところではなかったか。

紆余曲折あってフリーランスの仕事を請け負うようになったヴェルカーナは、普段通りの着崩した野戦服の格好のままで歩み出た。

目の前に歩み出てきたのは、これまた大柄な体躯の背中に大太刀を背負った、猛禽類を思わせる外套と眼を持つ老人だった。

しかし、ヴェルカーナの才覚は彼が善次郎などとは比べられない、ベクトルの違う恐ろしさを感じさせた。

 

「サーヴァント、“銀”のアサシン、名を梟と言う。召喚に応じ参上いたした。そなたがマスターで良いのだな」

 

アサシンの問いかけにヴェルカーナは無言で頷いた。

 

「ふむ、その目にその面、纏う空気まで、狼と良く似ておるとは……」

 

ヴェルカーナに何か思うところがあったのか、何処か遠い何かを懐かしむような表情のアサシンは、それ以上は声に出すこともなく、ヴェルカーナの元に控えた。

 

「カミンスキーさんが終わったので、次は私ですね」

 

そう言って五人目の少女、ハンナ・エウレカ・ルーデルがヴェルカーナと入れ替わるように歩み出ると、軍服に身を包んだ、若い男が歩み出てきた。

男は第二次世界大戦頃の、ドイツ軍が採用していた軍服を身に纏っており、何ともまあ底抜けに明るそうに見えた。

 

「俺は“銀”のバーサーカー、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルだ。お前が俺のマスターってとこだよな。宜しく頼むぜ!」

 

「はい、宜しくお願いしますね、バーサーカー!」

 

屈託ない笑みを見せるバーサーカーと同じぐらい陽気なハンナを目の当たりにして、一同は少しだけ拍子抜けしたような感覚に陥った。

元来、バーサーカーというクラスはステータスの低さを補うために、理性を失わせ、代わりに、ステータスの底上げするクラスなのだが、このバーサーカーは他のクラスと変わらずに、マスターであるハンナと普通に会話をしている。

しかし、

 

「という訳で先ずは出撃だな! 行くぞマスター!」

 

「ああっ、ち、ちょっと待って、まだ早いよバーサーカー!?」

 

何が「という訳で」なのか、早速マスターであるハンナの右手を掴んで引き摺りながら何処かに行こうとするバーサーカーを、即座に善次郎に命じられたアーチャーが羽交い締めにした。

 

「あ、何だおい、離せアーチャー! 出撃させろぉ!」

 

「ハハハハハ! 早速自らが先陣を切ろうとするのは誉れだが、今は駄目だろうが!」

 

「ええい、クソ、離せこの野郎! 頼むから出撃させてくれー!」

 

やはりバーサーカーだな……」

そう小さな声で呟いたヴェルカーナは、雁字絡めに拘束されたバーサーカーを見やりつつ、銀の陣営最後のマスターである勇季と、召喚してから一歩も動かずにバーサーカーとアーチャーの居る方と、マスターである勇季の方を交互に見ている最後のサーヴァント……恐らくはランサーだろう鎧を纏った背の低い少女を見て、再度溜め息を吐いた。

 

 




銀の陣営、サーヴァント一覧

セイバー:???
・既に召喚済み、不明
・銀の陣営の最高戦力

アーチャー:源“鎮西八郎”為朝
・現代では“平安のモビルスーツ”“日本の呂布”と称されるバーサーカーみたいなアーチャー。
・冗談みたいな伝説を持つヤベー奴。銀の陣営でも重要な戦力。

ランサー:???
・FGOプレイヤーならご存知の可愛い子犬系ランサー。
・本作の主人公は彼女のマスターである(一応)。

ライダー:村正(自称)
・他作品クロスオーバー枠その一。
・超ヤベー暗黒星人。

キャスター:陳宮
・周回でも大人気な☆2枠では破格のキャスター。
・他人の命でステラする鬼畜軍師。

アサシン:梟
・他作品クロスオーバー枠その二。
・忍びの癖に正面戦闘ですら無駄に強い。人返りルート時の全盛期ver

バーサーカー:ハンス・ウルリッヒ・ルーデル
・みんな大好き空飛ぶ魔王。
・第二次世界大戦における世界三大リアルチートの一人でとんでもなくヤベー奴。


うわ何だコイツら(ドン引き)

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