遅くなりました。
メインヒロインはとりあえず八幡ですが主人公誰にしよう……
十師族。それは現代における魔法師社会の頂点に君臨する者たちであり、実力は勿論、影響力においても国の中枢に位置する政治家を遥かに凌駕している。
一条。
二木。
三矢。
四葉。
五輪。
六塚。
七草。
八代。
九島。
十文字。
一に始まり、十で終わる。
担当する家でこれほど綺麗に数字が揃う年は珍しい方ではあるが、滅多に見ない訳ではない。それに、十師族の構成順序が特別視されてもいない。何よりも重要なのは十師族である事の威厳、威光なのだから。
そして十師族と聞いて忘れてはならないのが、彼らを守護する『六道』という存在だ。
十師族と同様、一般市民にまでその存在を知られておきながら、十師族の守護役を自他共に公言しているのが彼らだ。
自分たちの名前をあえて知らしめることで、他を牽制している。
もっとも、十師族の集まる公の場に姿を見せることがあるというだけで普段何処に彼らが居るのかは全く不明なのではあるが。
彼らの名が轟く時——それは、魔法師社会に「何か」が起きる時。
吉報はない。むしろ、波乱と混沌に抱かれた凶報を予想する者ばかりだろう。
そして今年の2095年。彼ら六道に関する一つの情報が、魔法関係者を中心にリークされた。
——六道の関係者が第一高校に入学する、と。
☆
月の下には星が集うように、また突出した能力を持つ者たちの周りには人集りができる。
雪乃と八幡と優美子は、自分たちと話をしようとする一科生の一団に捕まっていた。
「雪ノ下さん! この後一緒にお茶でもしませんか!」
「ごめんなさい、今日はこの後予定が……」
「おい、お前今日は何も予定ないって言ってただろ。付き合ってやればいいんじゃねぇの?」
良いチャンスだ、とばかりに八幡は雪乃たちから離れようとするが……。
「そっ、それは……そうね。別に急ぐ用事でもないし、今日中に出来ればそれでいいかしら。……彼と、ご一緒しても良い?」
そうは問屋が卸さない。雪乃は逃げようとする八幡の意図を的確に汲み取り、計画を全面的に潰していく。
「はっ、はい! 構いません……というかむしろ光栄です!」
「おい待て。俺は約束があるから行けないぞ」
「ヒキオはあーしと帰る約束だしねー」
さり気なく腕を絡め、逃すまいとする優美子。
「お前とは約束してないから。ちょうど良いからお前も雪ノ下と一緒に参加してこいよ」
軽いノリ、というよりはお決まりといった体でやり取りをする三人。それを見た周囲の生徒達は短めの挨拶をしていつの間にか退散していたのだが、次の一言でほのぼのとした(?)雰囲気が崩れる事となる。
「じゃあ誰と約束してたの?」
誰だろう? と首を傾げる雪乃と優美子。幼馴染であるこの三人の事情——というか八幡の情報はほぼ女性陣に筒抜けなので、心当たりがないのは珍しい。
「ん、七草先輩に食事に誘われてるからな」
「食事……生徒会絡み、ということかしら?」
そう雪乃が推測を立てる。八幡は新入生総代の司波深雪に一歩及ばなかったものの、雪乃や他の一科生たちと比べても遜色ない——むしろ突出した座学の点数と実技能力を魅せていたからだ。
その点を評価して、深雪の他にも時期生徒会メンバーとして声をかけた……のは、十分にありうるのだが。
「あ、いや違う。学校が終わって、先輩も仕事を片付けたらその後、二人でランチと買い物や映画を挟んでディナーをどこかで……って、ああいやなんでもない。ところで俺は用事があるから失礼す……るっ!?」
ぐい、と「二人で」のワードが出た途端に両側から腕を掴まれる八幡。振り返るとそこには、満面の笑みを浮かべた優美子と雪乃がいた。
「比企谷くん」「ヒキオ」
誰もが笑顔なのに、誰も笑っていなかった——と、のちの八幡は語る。
「「どういうことか、説明してもらえる?」」
圧倒的なまでの己の発言ミスを今更ながら八幡が自覚するも、やはり時既に遅い。
「……拒否「できないわ」……ですよね」
「……黙秘権「そんなんあると思ってんの?」……ですよね」
「予約……してあるんですけど」
「そう……それほど七草先輩とのお食事を楽しみにしていたのね。ところでそのお食事会の場所は何処かしら?」
「い、いや……普通に言うわけ——」
「勘違いしないでほしいのだけど。七草生徒会長も私達の護衛対象に含まれているのよ」
「ああ……うん、そうだ……そうなんだけど」
『じゃあ、どうしてそんなにお前は顔を赤くしているんだ』という八幡の内から湧き出た問いは、彼の口から発せられる事はなかった。
なぜなら、雪乃がぐい、と顔を近づけて、
「七草家の令嬢が何処の馬の骨ともわからない目の腐ったゾンビにその未来を、或いは身体を犯されてしまうのか思うと、心配で寝てもいられないし食事も喉を通らないのよ。私たちが六道として生きる意味を失ってしまうかもしれないというのにここでその犯罪発生の火種を見過ごすわけにはいかないし、かと言って同じ六道としては極力比企谷くんを疑うような真似はしたくない。だから、せめてあなたの身の潔白を証明しようと思って私が同行しようというの。無論貴方が七草先輩の護衛任務を念頭に考えているのは当然のことでしょうし疑いの余地もない事柄だけれど、それなら一人よりも二人の方が七草家の御当主様も安心できるわよね。何なら三浦さんも一緒についてきてもらいましょうか。誰かがいてくれる事による安心感が増す度合いは計り知れないわ。四人もいれば流石に間違いが起こる可能性なんてあり得ないでしょうし……いいえ、今のは私のミスね。反省するわ、ごめんなさい。『流石に』『有り得ない』という言葉を無意識に使っているのだから、それはつまり、貴方の七草先輩に対しての行いに確信が持てていないということ。信頼するべき仲間を推測で語るなんて、我ながらどうかしてるとしか思えない。物事におけるギャンブル……〝賭け〟は何パーセントかの未確定の部分があるからこそ華があるし盛り上がりも出るわ。けれどそれは確信が持てないからこそ楽しめる部分でもあって、一方的に勝ち続けるディーラーが楽しんでゲームをしているかといえばそれは違うでしょう? いえ、今のは私が楽しんでいるというわけではなくて賭け事自体が私にとって不誠実で不本意に違いない不快なものだって説明したかったの。だから結局、私の言いたい事は貴方を信じている……いえ『信じさせて』といったところかしら。ううん、違う……確かめたい……でもないし、ああそう『証明』よ。誰にでもなく、安心するのに必要なのが証明することだわ。私が貴方に対して疑いを持っているというのはどうしようもない確定した事実。疑念が発生してしまった以上、私は貴方を捜査しなくてはならない。『殺人鬼が発生しました。この近辺に潜んでいる可能性があります。だから貴方の家を捜索させてください』という事。こういう風に事態が推移してしまった以上、断ったり隠し立てをすると犯人を匿っているのかとすら疑われてしまうからよ。あなたにその責任があるとは私個人これっぽっちも思ってはいないけれど、六道という立場上私はその権限を使って責務を全うしなければならないわ。もしそうしておかなくて万が一の事態に発展してしまえば『六道はそんなに規律の弱いモノだったのか』と言われかねないし。わかるわよね、由比ヶ浜さんの家を追い出してまで六道に成り上がった
と、彼女は呼吸を荒くしながら言い切った。
雪乃の言葉に一瞬ときめきかけた八幡だったが、終始「お前は怪しい」としか言っていないのでその勘違いによる熱もすぐに冷める。
だから、だろうか。彼女のその言葉に、八幡がより強く惹かれたのは。
「ヒ、ヒキオ……あーしはその、あんたが心配だからついてくだけだから。あんたが七草先輩を襲うんじゃなくて、七草先輩があんたに襲い掛からないから心配なんだから」
「……ありがとう」
ほろり、と溢れた感想は、優美子の言葉によって氷解した八幡の心だ。
「ぬぐ……ぬ……」
少しだけ心が軽くなった気がして、八幡は雪乃ではなく優美子の差し出す手を取った。