無詠唱が基本の現代であえて長ったらしい呪文を唱えてみる   作:アサヒbb8

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チュートリアルは終わった! 今回から本格的にストーリー始めていきますよ!


どら息子

「そうやって俺は山みたいな大熊を一人で倒したんだよ」

 

「何言ってんだよ。俺が矢氷雨でズタズタにしたんだろうが」

 

「お前は俺を置いて逃げてただろ!」

 

 滝を見に行った山城と榊は、戻って来たハンヴィーの後部座席で大熊を倒した武勇伝をまことしやかに語っていた。主に柚子葉に対して。

 

 無論、2人とも自分が倒したと言い張り、光の大犬の事については触れない。最も、榊に関してはその存在自体を知らない。

 

「すごいね〜」

 

 事実を察している柚子葉は極めて適当な相槌で流す。無論矢月も真実を知っている。

 

 等の山城と榊は、流されている事にすら気づかず、嬉々として嘘武勇伝を語りつづけている。こう言った勘違い男子は、自分の話を女子は楽しんで聞いてくれているものと思い込みがちなのだ。

 

 矢月も昔はそうであった自覚がある。人の感情が読めるようになってからは、その頃を思い出しては密かに赤面する夜を過ごしている。

 

 2人の下らないホラ話に矢月と柚子葉がいい加減げっそりし始めた頃、ようやく目的地に到着した。

 

 周囲を完全に山に囲まれた僅かな平地に形成された農村、奈木村(なきむら)

 

 今回の案件は奈木村の自治体の会長、実質的な村長と呼べる村田むらたという男の名義で発注されていた。

 

 適当な所にハンヴィーを停め、4人で村田の家を目指す。渡された地図に従い、村の1番奥にある大きな木造の平屋にたどり着いた。

 

「古いけど立派な家だね」

 

 柚子葉が見とれながら言うと、

 

「もともとはここ一帯の地主の家だったものですからねぇ」

 

 と、不意に男の声がした。見ると、開け放たれたガラス戸の奥の畳敷きの部屋から、1人の初老の男が縁側に出てきた。

 

「よくいらっしゃいました。私が依頼主の村田(むらた) 文明(ふみあき)です」

 

 そういって村田は、サンダルを履き縁側から降りると、矢月と握手を交わす。

 

 一目で矢月が責任者と見抜いたのだろう。これが年の功というやつか。

 

「依頼の内容はお聞きでしょうが、改めて詳しいお話をさせて下さい。どうぞ中へ」

 

 4人は玄関から家の中に入る。

 

 中は綺麗に片付けられており、古い外観の割に住みやすそうだ。

 

「息子さんと2人で暮らしていらっしゃるのですか?」

 

 廊下を進みながら、不意に矢月が訪ねる。

 

「家内は5年前に先立ちまして......。それにしても、よくお分かりになりましたね。」

 

「あなたと、息子さんらしき気配しかしなかったものですから。あなた自身、普段家事をしていらっしゃるような所作が見受けられましたので」

 

「はっはっ。さすがですな」

 

 多少不躾ぶしつけなのは分かっているが、こうやって観察力をアピールしておけば、今後協力を得やすくなる。矢月はそう考えていた。

 

 先程外から見えていた畳敷きの部屋に通され、机に着く5人。

 

成明(なりあき)! お客様にお茶をお出しなさい!」

 

 村田は奥の部屋に向かって呼びかける。例の、息子の気配のある部屋だ。成明というのはその息子の名なのだろう。

 

「うっせぇじじい! 半人前のガキなんざに茶なんかいらねえ!」

 

 村田が呼びかけた部屋からは、怒鳴り声が返って来た。

 

 どうやら、あまり気立てがいい方では無いらしい。

 

「すみません、うちのどら息子が......今淹れてきますので、少しここでお待ち下さい」

 

「あ、手伝います」

 

「いいんですよ。お疲れでしょうから、ゆっくりなさっていて下さい」

 

 気を使う柚子葉を押し留め、村田は部屋を出て行った。

 

「はあぁ、今時畳とか頭悪すぎだろ...」

 

 たいそう頭の悪いセリフを吐き寝転がる榊。一瞬正座していただけでこのざまとは、情けない。

 

 そのときである、

 

 ガタタッ、と奥の襖が開かれた。そこに立っていたのは、矢月たちよりも少し年上に見える小太りの男。ボサボサの髪、着古した部屋着、典型的な引きこもりといった様相だ。

 

 その男は、座っている4人を目だけで見下し、口を開いた。

 

「おいおい、雑魚寝なんて随分態度の悪い客だな。そこの可愛い娘以外帰ってもらって結構だぜ。どうせ使い物にならない半人前しかいないんだろ?」

 

「てっめぇ! 態度悪いのはそっちだろうが!」

 

 思った以上に口の悪い成明に、即座に飛び起き言い返す榊。

 

 いいぞもっと言え、と矢月は珍しく心の中で榊を応援した。

 

 隣を見ると、柚子葉が必死に嫌悪感を顔に出すまいと奮闘していた。その努力虚しく、矢月以外にも分かる程度に漏れ出ている分、榊以上にウザいと感じているようだ。

 

「いいのか半人前、俺はここの村長の息子だぜ。その気になりゃあ学校に依頼失敗の連絡でも...」

 

「こら成明! 術師さん方に失礼だぞ!」

 

 ここで村田が戻って来たようだ。手には湯のみが乗った盆を持っている。

 

「ちっ、てめえらの泣き顔、絶対拝んでやるからな!」

 

 そう言って出て行った成明から、確かな悪意が読み取れた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 村田からの依頼は、一言で言えば害獣駆除だった。毎晩のように村の田畑が荒らされているらしい。しかし、(ただ)の害獣であれば村の住人でどうにか出来ただろう。

 

 この件の厄介な点は、誰もその元凶を目撃していないと言う点だ。

 

 数日前、村の大人総出で寝ずの見張りを行ったらしい。その際も、誰も荒らしの現場を見ることはなかったが、夜が明けた時には荒らされた畑が発見されたらしい。

 

 それが獣の仕業と考えられているのは、荒らされた様子や足跡が害獣被害のそれであったかららしい。

 

「っで、その足跡を追っても、いつも突然消えて追跡できなかった...と」

 

 村の様子を見て回りながら、依頼の内容を確認する4人。時刻は昼過ぎ。四月の太陽がさんさんと照っている。

 

「っで、どうするんだリーダーさんよぉ」

 

 頭の後ろで手を組みながら聞いてくる榊。意外にも矢月の指示を聞く気はあるようだ。案外あの模擬戦が効いているのかもしれない。

 

 だがそれに応えたのは矢月ではなく山城だった。

 

「この案件には、確実に術師が関わってる。その犯人は山中に身を潜めている可能性が高い。日中は山に入って怪しい場所を探し、夜は散らばって村の見張りをしよう」

 

 完全にリーダー気取りの発言だ。ミーティングの際、矢月に従うと言ったことを全く気にしていないようだ。リーダーとしての責任だけ他人に押し付けて、自分が指揮をとる。これを、意図してでは無く素でやっている分、余計にタチが悪い。

 

 だが、

 

「そう考えるだろうと、犯人も思ってるだろうな」

 

 そう矢月は冷静に返した。

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