無詠唱が基本の現代であえて長ったらしい呪文を唱えてみる   作:アサヒbb8

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ころがる戦況

「まったく、無駄に大物が釣れたものだ。骨が折れるな」

 

 そう言った男の(まぶた)が、少し歪んだ。笑っているのか。

 

「加古さん...パラサイトだったのか」

「パラサイトってなんだ?」

 

 山城の呟きを耳ざとく聞き取り、榊が尋ねる。

 

「パラサイト...妖怪や精霊、そう言った人外の力を遺伝的に宿してる人間のことだよ」

 

 緊張の中でも、山城は少し嬉しそうに解説する。

 

「そしてその力を振るうのに、魔法陣や他一切のプロセスは必要ない。自分の手足のごとく力が使える、極めて貴重な才能だ」

 

 意外にも、山城の解説を緑目の男が引き継いだ。

 

 そして、さらに目を細めて続ける。

 

「本当に......厄介だ。拉致しなきゃならないのに、手加減できずに殺してしまいそうだ」

 

 瞬間、柚子葉たち3人に強い悪寒が走る。

 

 強い...まず間違いなく敵わない。柚子葉は全身で感じ取った。

 

「榊くん、山城くん...時間稼ぐから、逃げて」

 

 震えだしそうな唇を何とか抑えて、彼女はそう指示した。

 だが無論...

 

「なっ! 何言ってるんだよ加古さん!」

「そうだぜ! あんなコート野郎、俺がぶっ飛ばしてやる!」

 

 2人は否定する。だが柚子葉と違って、その体は震えを抑えられてはいなかった。

 

「状況を考えて! これはもう学生任務の枠を超えてる! 早く行って!」

 

 声を荒げる柚子葉。

 

 しかしその時、周囲一帯がドーム状の半透明の光に覆われた。広さは、緑目の男を中心に半径100メートルほど。

 

 結界に閉じ込められた。

 

「行かせると思ったか? コミックじゃ無い、これは実戦なんだぜ?」

 

 低く抑揚の無い声で話す男の足元には、魔法陣が輝いていた。見ると、男の周囲にもドーム状の結界が張ってある。どうやらその結界は、捕獲と防御両方に使えるようだ。

 

 それに気づいた柚子葉は、チッと小さく舌打ちすると、

 

「とにかく出来るだけ離れて、脱出方法を探して! 真と黒衣は2人を守って!」

 

 そう言って柚子葉は男に突進した。

 

 一瞬で肉薄した彼女は、爪と刀で凄まじい連撃を叩き込む。

 しかしその全ては結界に阻まれ、男に届くことはなかった。

 

「駄目か......なら!」

 

 そう言って柚子葉は一歩下がり、右手を握る。するとその右腕に、凄まじい電流がほとばしり始めた。

 

 虎の剛腕に、雷獣たる鵺の。それを全力で結界に打ち据える。

 

 どっがあああ!

 

 落雷のような轟音とともに土煙が巻き上り、男を結界ごと包む。

 

 視界が悪い中、柚子葉は再度身を引いて様子を見守った。

 

 もう少しで煙が晴れると思われた、その時だった。

 

 きゃあ! っと叫び声をあげ、柚子葉が吹き飛んだ。

 

「柚子葉ちゃん!」

 

 榊の声が響く。

 

 3メートルほど地面を転がって止まり、すぐに顔を上げる柚子葉。その目には、同じ場所で涼しげに立つ男の姿が映った。結界には、傷1つも入っていない。

 

( 見えなかった! いったい、何が⁉︎ )

 

 急いで体制を立て直す柚子葉。

 見えない攻撃は、確かに彼女の腹部を打った。斬撃で無かったからまだ良いものの、攻撃を見切れ無ければジリ貧だ。

 

 再度刀を構え、神経を研ぎ澄ませる。

 

 だが、

 

「そう簡単には、対応させないさ」

 

 男がそう言い、パチンと指を鳴らした。

 

 すると、

 

「おあぁ!」

「やばい、加古さん!」

 

 榊、山城の叫び声がした。

 見ると2人の周囲に、先ほどとは違う魔獣が2体、輝く魔法陣と共に召喚されていた。

 召喚されたのは、巨大な鷹と狼。いづれも榊、山城に襲いかかって行く。

 

 今は真と黒衣がうまく防いでいる。だが、その2体の召喚獣が先程のマンティコアレベルなら時間の問題だ。

 

( どうにかしないと... )

 

 そう思いつつ、柚子葉は男を振り返る。

 

 だが......

 

「よそ見は......良くないぞ?」

「え...うっ!!」

 

 またしても、柚子葉の体が突き飛ばされた。先程と同じ、見えない攻撃。

 

 

「一芸だけじゃあ、やっていけないからなぁ」

 

 

 そう言いつつ、男はクツクツと小さく笑い声を上げた。

 

( くそっ! 戦い方がいやらしすぎる! )

 

 逃げ隠れできない結界内で召喚獣に戦わせつつ、自分は安全圏からチクチク援護する。

 柚子葉は心の中で、畜生が...っと毒づいた。

 

 ...だが、分かったこともある。起き上がりながら、柚子葉は口を開いた。

 

「球状の結界...今私に放ったのも、あなたを囲っているのも同じもの」

 

 柚子葉は精一杯強がって、勝気な笑みを浮かべる。

 

「攻撃が見えなかったのは、暗い上に結界が半透明だから見えにくかっただけ。あなたはただ、小さな結界の球を私にぶつけた......違う?」

「ほぉ、やるじゃないか。90点だ」

 

 はっはっはっと笑い、男は楽しそうに褒める。

 

「どうして分かった?」

「待ち伏せしている時からずっと、感知用の術は張っておいた。だから、ここを取り囲んでいるのも、あなたの周りのも、半球では無く球状なのはすぐ分かった。それにあなたはさっきから、新しく魔法陣は投影していない。つまり、ずっと同じ術を使っている...」

 

 ふむふむ...っと男はうなづいて、問う、

 

「召喚獣を出した時、俺は魔法陣を出したぞ?」

 

 それに対し、柚子葉は答える。

 

「魔道具...仕込んでたんでしょ? 」

 

 そして矢月を真似るように、陰惨な笑みを浮かべる。

 

 

「あなた......一芸しか持ってないんじゃない?」

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