無詠唱が基本の現代であえて長ったらしい呪文を唱えてみる   作:アサヒbb8

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一難去って

「ぐっ...お前、どうして...。俺の召喚獣は?」

 

 緑目の男は、苦しげに尋ねる。腹を貫いている、黒い帯の出所...自分の背後に向かって。

 

「ああ? あんなので俺を足止めできると思ってるのか?」

 

 そこには、右の手のひらから帯を伸ばした矢月がいた。その帯はあれほど固かった結界を、貫いている。当の本人は、なにか特別な事をしたような風でもない。この程度、矢月には朝飯前だ。

 

「とりあえず、お前のペットには全員退場してもらうぞ」

 

 矢月はそう言うと、空いている左の手のひらを榊達を襲っている二対の魔獣の方に向け、

 

「カーラ!」

 

 と唱えた。すると、右手から出ているのと同じ黒い霧の帯がさらに左手からも伸び、魔獣達に向かっていった。

 

「ぎゃああ!」

「がああぁ!」

 

 逃げる魔獣達を、黒霧の帯はすばしこい蛇のように正確に追い詰め、間もなく二つの首を地面に転がした。

 

「な、なんだ…その術は!」

 

 それを見た男は、目を見開き驚愕の表情を浮かべる。

 

「俺のとっておきだ。......で、お前は何者だ?」

 

 男の質問を適当に流し、今度は自分が質問する。しかしこれには柚子葉が答えた。

 

「やづ! こいつ、アスラの残党だよ! あのテロの犯人の1人!」

 

 再度興奮した様子で、必死の剣幕で叫ぶ柚子葉。しかし矢月の返答は素っ気ないものだった。

 

「いいや、黒衣を通して聞いていたが、それは嘘だ」

「えっ!?」

 

 予想外に否定され、豆鉄砲を喰らったよう顔の柚子葉をよそに、矢月は男に顔を向け直し、続ける。

 

「お前...不死結界を狙ってるて言ったな」

「あ...あぁ」

 

 男は口から血を流しながら、苦しそうに答える。

 

「それは"本当"らしいな......だったら、お前はアスラのメンバーじゃない。なぜなら...」

 

 話す矢月の表情は、今までになく冷たい。

 

「なぜなら、アスラは三年前...既に不死結界に通ずる技術を持っていた。草刈島の収容所で...奴らはそれを使っていた」

「待てよ……。なんで一条がそれを知ってるんだよ。まさか、草刈島の生き残りなのか!?」

 

 急に山城の驚く声が聞こえる。

 矢月が召喚獣を屠ったからだろうか。榊と山城は話が聞こえる範囲まで近づいて来ていた。

 

「お前らは今は黙っててくれ。っで、どうなんだ?」

 

 矢月はそれを特に気にする様子も無く、男への尋問を続ける。

 

「...なるほど。生き残りが引っかかるとは...。本当に運が悪いな...」

 

 男は観念したのか、痛みを堪えつつも素直に話し出した。

 

「確かに我々は、アスラでは...無い。本当の組織の名は、天来(てんらい)教」

「天来教って言うと、草刈島テロ終結の際にアスラが起こした爆発を、神の所業だと盲信する新興宗教のあれか」

 

 天来教の存在は有名で、ここ2年間勢力を全国的に広げている。榊ですら知っているようで、頭上に"?"マークが浮いていない。

 

「盲信とはなんだ。我々は...あの神の御業(みわざ)を、もう一度再現する! そのために...不死結果が必要なんだ」

 

「......そんなことだろうと思ったよ」

 

 男の話を聞き、矢月はため息をついた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 10分後。

 

 矢月、柚子葉、山城、榊の4人は、まだ村はずれにいた。

 あのあと矢月が気絶させた天来教の男を、山城が手当てしていた。矢月は霊符を取り出し、柚子葉に治癒術をかけている。

 

「にしても、加古さんも一条も、草刈島の生き残りだったなんて」

 

 男に包帯を撒きながら、山城が言った。

 

「どうりで......加古さん実戦慣れしてるなと思ったんだよ」

「お前は慣れてなさすぎだろう。どっかのサポーターしてるんじゃなかったのか?」

 

 矢月の方は柚子葉の治療を終え、呆れ顔で山城の会話に混じる。

 

「そっ! それは相手が悪かっただけで!」

「山で熊に襲われた時も...か?」

「それは...」

 

 顔を真っ赤にして下を向く山城。

 車中では、自分が大熊を倒したと自慢していた彼だが、助けてもらった大犬...真が、矢月の式神だと分かった以上、間違いなく嘘だとバレている。見れば、同じく嘘をついていた榊も明後日の方向を向いていた。

 

 今思えばあの熊も、天来教の男の差し金だったのかもしれない。明らかに不自然だった。

 

「そういえばやづ、さっき誰かと連絡してたって言ったけど、誰に?」

 

 痴死しそうな山城を気遣って、柚子葉が話題を変えた。先程半狂乱になっていたのが、今はすっかり落ち着いている。

 

「秀島先生に一通りの事情を...な。他の学生任務も一旦中止させた方がいいだろうから、その旨も」

「私たち以外の班も襲われるかもしれないからね」

「え...なんで?」

 

 2人の会話に、榊が疑問符を投げ込んだ。どうやら状況を理解していないらしい。

 矢月は榊に説明してやる。

 

「奴らの話を聞く限り、目的は俺たちのような引率のついていない学生チームを襲い、拉致することだ。一般人をそそのかして小規模な騒ぎを起こしてたのは、そんな学生を効率よくおびき出すためだろう」

「それでなんで効率がいいんだよ?」

 

 まだ理解出来ない榊。

 

「魔道具だけを複数箇所にばらまいて、それこそ召喚獣とかで見張ってたんだろうさ。昼間の大熊もそれだろう。そうすれば、少数でも学生をおびき寄せ易くなる。言い換えれば、目当ての学生を見逃しにくくなるってことだ」

「......なるほど」

 

 さすがに理解したらしく、納得顔をしている。

 

「みんな...無事だといいけど」

 

 柚子葉がそう呟いた時、プルルル、と矢月のスマホが鳴った。

 

 秀島だ。すぐに応答する矢月。

 

「はい、一条です。......はい......はい......はい、分かりました。すぐに戻ります」

 

 会話が終わったのか、スマホを切って皆に向き直る。

 そして、内容を報告した。

 

 

 

「どうやら、間に合わなかったらしい」

 

 

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