無詠唱が基本の現代であえて長ったらしい呪文を唱えてみる   作:アサヒbb8

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お待たせしました。
矢月の戦闘描写です!


無詠唱が最強と誰が決めた?

 第2戦。矢月vs榊。

 

 模擬戦ルームにて向き合う2人。

 

 一方は勝利を確信し、どういたぶってやろうかと考える粗野な笑み。4級術師であることからの矜持なのか。

 

 片やもう一方は無味乾燥、何の感慨も無いと言ったような表情......否、目の奥には静かな殺意が燃えていた。

 

「まったくよお、クソ無能のくせに俺の相手をしようなんざあ、身の程をわきまえろってもんだぜ?」

 

「しって...」

 

「ほんっと何でこのチームにお前がいんの? あっ、親に金積ませたのか! ふざけんなよ! こっちは真面目にコツコツ強くなってんだぞ!?」

 

( 本当に話を聞かない奴。自分から勝負をふっかけてきた事は棚に置くとしても、よくもまあここまで馬鹿らしい発言が量産できるもんだな )

 

 榊を例えるなら鶏がぴったりだな、と矢月は心の中で苦笑する。

 

 その動揺のない姿を見て、榊はますますのいら立ちを目に宿した。

 

 ちなみに2人の装備だが、榊は流行りに乗って刀を腰に下げている。ただし有名ブランドの高級品。明らかに親の金で買ったもの。まったく、厚顔無恥を体現したような男だ。

 

 対する矢月は、普通のコンバットナイフを右の太ももに一本。それだけだ。

 

『くっちゃべってないでそろそろ始めるぞ』

 

 催促する秀島。会話は観戦ルームにも聞こえている。こんなつまらない会話(?)、犬も食わないだろうし当然の反応だ。

 

 これに対し榊、

 

「時間が無えのか。しゃーねえ、秒で終わらせてやるよ」

 

 いいえ、時間を無駄にしているのはあなたです。

 

『模擬戦開始!』

 

 その声が聞こえる少し前から刀を抜く榊。フライングを気にする様子もなく、そのまま目の前の空中に魔法陣を投影。そこから無数の水弾が弧を描いて飛び出した。

 

矢氷雨(やびさめ)』。3年経っても榊は忍術由来の術を愛用しているようだ。

 

 見ると、水弾の嵐の奥から刀を構えた榊が突っ込んできている。

 

 恐らく、先程の柚子葉のように範囲防御してくると踏んで、それごと矢月を叩き斬る算段なのだろう。大抵の守りであれば、榊の高級刀はそれを十分可能にする。

 

 榊の得意戦法だ。

 

 だが矢月の取った行動は柚子葉以外予想だにしていないものだった。

 

 試合開始から武器も抜かず、魔法陣も投影しない矢月は、小さく口を開き、

 

hrūṃ(コロン)

 

 そう唱えただけ。だがその大きくない声で紡がれた短い言葉は、妙に皆の頭に響き、何か力のあるものだとすぐに理解できる。

 

 その証拠に、今にも矢月を襲わんとしていた水弾の嵐は、まき散らかされたかの如くバラバラの方向に吹き飛んでいった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「今のなに!? 」

 

「呪文みたいの言ってたぞ!」

 

「魔法陣は!?」

 

 観戦ルームで様子を見ていた他の面々は、柚子葉の試合以上のどよめきを奏でていた。それもそのはず。発動プロセスを刻んだ魔法陣を描くことで術を使う、現代式のアプローチしか知らない彼らにとって、矢月が使った術は到底理解できないものだった。

 

 だがここで、山城の声が皆の耳に入った。

 

「あれは旧式アプローチだな。俺も使えるからよく分かる。魔法陣を利用した現代アプローチに対して、もともとの流派本来の手法で術を発動するやり方だ」

 

 山城の説明は続く。

 

「ちなみに今の術はギリシャ神話ルーツの『狂竜の牙(スパルトイ)』だな。狂気をばら撒くことによって術の対象を惑わす物だよ」

 

 その話ぶりはさも冷静に分析している風だが、その声には自慢げな色が混じっている。

 

 しかし......

 

「いや、全然違うよ?」

 

 あえなく柚子葉に否定された。

 

「いや、旧式アプローチなのは合っているけど、使った術は違うってこと。あれは尊勝仏頂(そんしょうぶっちょう)種子真言(しゅじしんごん)だよ。仏教系の呪術だね。」

 

 へ〜、っと感心した声が響く。山城は恥ずかしいような、まだ認めたくないような顔をしているが、柚子葉の影響力に敵わないのは分かっているのか、言い返すことはない。

 

「でも何でわざわざ旧式アプローチを使ってるんだろう。現代アプローチの方が絶対手軽なのに」

 

 と疑問を口にした広瀬に対し、答えるのは汚名返上を試みる山城。

 

「旧式アプローチを使うメリットは、魔法陣を読み取られて術を予測されるのを防げる事だよ。それに、術に使う人の持つエネルギー、魔力を魔法陣に割かない分、若干術の威力が上がるっていう利点もある。まあ一条の場合カッコつけが殆どだと思うけどね」

 

「いや、ごめん違う」

 

 またしても柚子葉に一蹴された。

 

「やづは魔法陣を魔力で描くのがとても苦手だから、旧式を使ってるんだよ。それと、やづが詳しい呪術系統の術が、明治時代に出された天社(てんしゃ)禁止令のせいで殆ど魔法陣化されてないせいもあるかな」

 

 またも感心する声と、顔のほてりが酷くなる山城。

 

 とここで、模擬戦ルームを写すモニターに奇妙な光景が見られ、皆の興味は再び試合に戻った。

 

 何とそこには、犬のようにおすわりする榊の姿があった。




思ってたより長くなってしまい、二話に分けることになっちゃいました。

因みに天社禁止令とは、明治3年に出された陰陽師の禁止令。

尊勝仏頂は罪業、障害を粉砕する仏です。梵名では “まき散らす” という意味を持ちます。
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