無詠唱が基本の現代であえて長ったらしい呪文を唱えてみる   作:アサヒbb8

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過去編後編です。説明ばっかりになって読みにくいかもしれませんが、今回までですので頑張って読んでいただけるととても嬉しいです。


あれからの話をしよう

「俺はあの後、傷の治療やメンタルケアのために4ヶ月間入院した。その間に、2つの術を完成させたことで飛躍的に強くなった」

 

 矢月はそう話しながらも、目の前の大量の料理を着々と減らしている。だが不思議と話す時には口の中は空にしているし、食べ方も丁寧だ。

 

「2つの術って?」

 

 柚子葉が促す。

 

「1つ目は “求聞持法(ぐもんじほう)” だ」

 

「待って、それって虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)にお祈りして記憶力を上げる術だよね? それだったら、魔法陣化されてるくらい有名なのに...

 

 そもそも記憶力を上げるくらいじゃそんなに強くなれないはずだよ?」

 

 確かに、求聞持法は呪術でも珍しく現代アプローチが確立されているくらいには有名だった。とは言え、あくまで補助的なもので、持続時間にも効果にも限界がある。

 

「いや、それはあくまで求聞持法の効果の一部でしか無い」

 

「一部?」

 

「そもそも求聞持法では、記憶力の恩恵を受ける代わりに、自分の知識を虚空蔵菩薩に共有するという “契約” なんだ。魔法陣ではそこまで再現されていないから、恩恵の一欠片しか受けられない」

 

 矢月の説明は続く。

 

「ここからが重要だ。旧式アプローチで求聞持法を行った者たちの知識は、虚空蔵菩薩という “クラウド” に集約されている。そしてさらに、その集約された知識を引き出すことも、できる」

 

「なっ!」

 

 そこまで聞いて、柚子葉は事の大きさに気づいた。

 

「それってつまり、矢月の頭には、歴代の呪術者たちの記憶がまるっと入ってるってこと!?」

 

「記憶じゃ無い、“知識” だ。虚空蔵菩薩が求めるのはそれだけだからな」

 

 それを聞いて、柚子葉はほっと胸をなで下ろす。もし “記憶” ごと受け継いでいたら、矢月の人格は自分のしっていたそれとは大きく変化している可能性がある。だが知識だけならそこまでの事にはならないだろう。

 

「どんな人の知識があったの?」

 

「そうだな、この術を日本に伝えた弘法大師(こうぼうだいし)は当然あったし、安倍晴明(あべのせいめい)蘆屋道満(あしやどうまん)...まあ著名な呪術師はこの術の本質に気づいてんだろうな。大体共有してたよ」

 

 それってもはや最強なのでは? と思う柚子葉。

 

「あ、あとあの人がいたな。現役一級術師の杉田(すぎた) 清春(きよはる)。宮内庁のお抱え術師の」

 

「あぁ、三代(みだい)さんの同僚の」

 

 三代とは、草刈島を共に生き抜いた仲間で、矢月の旧式アプローチの師匠だ。“生き抜いた” というのも、彼も実力のある術師で有名なため、メディア等で生存確認は容易にできたのだ。

 

「それで、もう1つは?」

 

 柚子葉が話を本筋に戻した。

 

「もう1つは求聞持法で得た知識を活用して作った、完全に俺のオリジナルだ。今日使った模擬戦ルーム覚えてるか?」

 

「うん。不死結界でしょ。私はファクターの訓練施設で使ったことあるけど、皆んなは驚いてたね」

 

「そう。俺の術は、似たような空間を......ここに作る」

 

 ここで矢月が指差したのは、自分の頭だった。

 

「俺の術、『シミュレーション』は、自分の脳内に仮想空間を構築する術だ。そしてその空間は、最大24分の1まで時間の流れを遅らせることができる」

 

「待って!? って事はその空間内なら、1時間で1日分の修行が積めるってこと!?」

 

「相変わらず理解が早いな、ゆずは。と言っても24分の1なんて事したら脳がぶっ壊れるから、大抵12分の1で訓練してる。それでも消費カロリーが半端ないから、こうしてたくさん食ってるんだよ」

 

「なるほど......確かにそれは食べなきゃ死ぬね...」

 

 柚子葉は納得したように消えていく料理を眺めた。

 

 もう半分以上食べているのに、矢月の食欲は衰えていないように見える。

 

「そっか、それで今まで訓練して強くなって第六に入ったんだね」

 

「まだ半年分しか話して無いぞ?」

 

「へっ?」

 

 さすがの柚子葉も素っ頓狂な声を上げてしまった。これ以上何があるというのか。

 

「その後、ハワイ...アメリカのPMSC《民間軍事会社》に所属した。サポーターじゃなく、正規のコントラクター《戦闘員》としてだ。『シミュレーション』を手土産にしたら、簡単に雇ってもらえたよ」

 

「だからあんな軍用車に乗ってたんだ...でもそれって、アスラの生き残りを探して、復讐するため?」

 

 柚子葉の問いに、矢月は首を振る。

 

「それもあるけど、1番の理由は違う。さっきも言った通り、日本政府は草刈島テロに関して何か隠そうとしてる。それを探らないといけない。三代さん達は内側から、俺は外側から、だ」

 

「三代さんと連絡を取り合ってるの⁉︎」

 

「“上” にバレないよう最低限な」

 

 そっか...と納得し、一旦情報を整理しつつ食事をしようと柚子葉が箸をとった時、ふと素朴な疑問が浮かび、再び顔を上げ口を開いた。

 

「そういえばやづって、今何級術師?」

 

 その問いに対して、矢月はうーんと少し悩んだあと、決心して口を開いた。

 

「日本規格では、準一級だよ」

 

「準一級術師!!!」

 

 あまりの驚きに思わず机を叩き立ち上がる柚子葉。しかし矢月の次の言葉を聞いた瞬間、もはや卒倒しそうになった。

 

「そしてFOGフォグ規格では、A1《エーワン》ランクだ」

 

 FOG、つまりForce of Globalization ( 多国籍術師軍 )は、アメリカを中心とする資本主義国家群の有する優秀な術師で構成される、最強の軍隊の1つ。そしてA1ランクとは、FOG加盟国の術師資格の規格で、最も高いものだ。




求聞持法についてですが、虚空蔵菩薩に知識を共有して記憶力を上げてもらう、というところまでは史実通りですが、知識を引き出せるというのは作者の勝手な解釈です。あしからず...

あと、民間軍事会社の略ですが、よく聞くのはPMCですよね。でもモントルー文書に基づくPMSCっていうのが正式らしいです。僕も初めて知りました。
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