無詠唱が基本の現代であえて長ったらしい呪文を唱えてみる   作:アサヒbb8

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少しづつ評価をいただけるようになってまいりました。ありがとうございます。

これからもなにとぞ宜しくお願い致します。


広瀬 進

 翌日。寮から大学に向かう道。

 

 その道を大型の軍用車がひた走っている。

 

 ハンヴィーを運転する矢月の横には柚子葉が座っていた。

 

 

 

「寮から大学まで地味に遠いから助かるよ。ありがとうやづ」

 

「いいよ。俺もそうしたいし」

 

 

 

「この車、プライムセキュリティ(矢月が所属するPMSC)で貰ったの?」

 

「そうだな。俺のFOG編入が決まった時に、祝いでな。アメリカ軍で出た新車の払い下げ車両を流してくれたんだ」

 

「新車が余ったの? そんな事ってあるの?」

 

「ハンヴィーは今別の車種に差し替えられてる途中だからな。普段よりは多いんだ」

 

「ていうか、今も軍人として戦ってるのに、日本にいて大丈夫なの?」

 

神促通(じんそくつう)って言う神通力の一種がある。好きなとこにワープできる術だとでも思えばいい。それで移動してる。アプローチに時間がかかるから戦闘では使えないけどな」

 

「うっわチートじゃん」

 

 

 

 そんな話をしているうちに大学に着いたので、2人は車を降りて校舎に入る。

 

 行き先は昨日のミーティングルーム......では無く、かなり広めの講義室。

 

 

 

 扉を開けて中に入ると、既に多くの学生が集まっていた。教卓を中心に、扇型に長テーブルが固定してあり、後ろに行くほど高くなっている。一般的な大学の講義室だ。

 

 

 

 今日は初めに、矢月達が所属するAクラスでガイダンスがある。

 

 第六大学には、各学年A〜Eの5クラスがあり、1クラスの人数は60人。榊がよく言うトップチームとは、各クラスにおける上位12名の事だ。言うなれば、4学年5クラスなので、計20のトップチームが第六には存在することになる。

 

「柚子葉ちゃん!」

 

 どこに座ろうかと見回しているうちに、柚子葉が榊に見つかってしまった。

 

 もっとも、入り口を見張っていたのだろうから、急いだところで変わりは無かっただろう。

 

「ゆずはちゃん、どうして昨日親睦会来なかったのさ? 主役が来なくて寂しかったんんだぜ?」

 

 親睦会? と頭上に疑問符を浮かべる矢月に小声で

 

( 昨日の夜親睦会しようって榊くんがみんなを集めてたの。ちゃんと断ったつもりだったんだけど... )

 

 と柚子葉が説明しつつ、やっぱりやづは誘われて無かったんだね...とため息をつく。

 

「主役も何も、私と榊くんは高校同じだし...」

 

「いやまあ、確かに俺とゆずはちゃんの仲だからこれ以上ないほどに親睦深まってるけど、だからって会わない理由にはならないじゃん。俺はいつだって一緒にいたいんだぜ?」

 

「まるで恋人みたいな言い草だな」

 

 ここで矢月が割って入った。変わらず無表情ではあるが、柚子葉には一抹の苛立ちをたたえているのが分かった。

 

「あ〜聞こえない! こいつ言葉で言いなりにさせてくるから皆んなもこいつの声聞いちゃダメだぜ! 」

 

 対する榊は教室中に聞こえる大声でそう呼びかけた。

 

 昨日あれだけお灸を据えたのにこりていないらしい。

 

「あれは...」

 

「いいかげんにしなよ!」

 

 矢月が口を開きかけたところで、意外な人物に遮られた。

 

 柚子葉だ。

 

「言霊は心を強く持っている人にはほとんど効果がない! 榊くんがあれだけ言葉の影響を受けたのは自分の心に芯が無いからだよ!」

 

「え、いやそんなことは...」

 

 柚子葉がこんなに声を荒げるところは見たことがないのだろう。榊はすっかり狼狽している。周りの学生達もにわかにざわついている。

 

 これ以上目立つのはまずい。

 

 矢月が仲裁、いや強引にうち切ろうとしたその時

 

「榊くん、秀島先生が呼んでいるよ。まだ時間あるから急いで行ってきなよ」

 

 そう割って入ってきたのは広瀬だった。

 

「秀島が? わ、分かった行ってくる」

 

 柚子葉が怒った事に榊も居心地が悪くなっていたのだろう。思いのほか素直に従い部屋を出て行った。

 

「やあ。一条くんと、加古さんだよね? 朝から大変だね」

 

 榊が出て行ったのを確認し、広瀬は2人に向き直る。その穏やかな声には、彼の人の良さが滲み出ている。

 

「あ、あぁ。助かったよ広瀬」

 

 人の感情が読める矢月は、広瀬がひとまず信用に足ると判断し、素直に礼を言う。柚子葉と言うと、つい大声を出した事に若干恥じらいを感じているようだが、矢月にしかわからない程度にしか表情は崩れていない。

 

「いいよ。適当に先生の名前出しただけだし」

 

 

 

 つまり秀島が呼んでいると言うのは嘘だったわけだ。なかなかに狸。

 

 

 

「にしても、昨日のは傑作だったね。彼、榊くんをおすわりさせて仕返しとは」

 

「あれが傑作、ね。なかなかいい趣味してるじゃないか」

 

「昔から榊くんにひどいことされてたんでしょ。見てたらわかるよ。暇さえあれば女子にばかり絡むし、正直みんな鬱陶しく感じてるんだ。だから、あれはとてもスッキリしたよ」

 

 そう言いつつ、立ち話も何なので3人で適当に席に着く。

 

「改めて自己紹介ってのも何だけど、僕は広瀬(ひろせ)(しん)。4級術師で、高校時代はサポーターもやってたけど、大学で離れたから今はフリー」

 

 

 

「加古かこ 柚子葉ゆずは、一応準二級で、ファクターのサポーターも一応やってる、かな」

 

 柚子葉も自己紹介を返す。

 

「俺は一条いちじょう 矢月やづき。四級で、サポーターはやっていない」

 

「嘘、だろ?」

 

 適当にごまかそうとした矢月を、目ざとく突く広瀬。その顔にはいたずらを楽しむ子供のような笑み。

 

「大学には四級で登録してる。なんなら確認してくれてもいい」

 

 これは嘘ではない。あまり目立ちたくない矢月は、アメリカ軍経由で情報操作をしてもらい、実際より低い資格で登録している。FOG規格の件ももちろん伏せてある。サポーター等の学外活動は、そもそも報告義務はない。

 

「いや、それは信じるよ。もっと高い級で登録していたなら、秀島先生が加古さんとの対戦相手を君に指定していたはずだからね。問題は、その登録をごまかせるくらいの地位があるってとこだ」

 

 本当によく気がつく奴だ、彼とは友好的な関係を築いたほうがいい。そう矢月は直感する。

 

 本当なら脅すなりして口止めするべきなのだろうが...

 

「まあ話せないなら、僕の戯言で処理してくれていいよ。別に言いふらすつもりもないし」

 

「はあ、食えないやつだなお前は」

 

 そういいつつも、矢月の表情は心なしか穏やかだった。




主人公とヒロイン2人でハンヴィーに乗る描写にとても憧れがあり、書いていてとても楽しいです。
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