五十鈴生誕祭 リボン合同短編集   作:五十鈴合同

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・輪音
代表作:はこちん!(艦隊これくしょん)
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愛は密やかに(作:輪音)

日本に於ける鎮守府の四天王は、横須賀呉舞鶴佐世保。

この四基地の戦力を基幹として、我々は世界の海を魔の手から奪還すべく日々邁進している。

会社でいうと、大企業や中堅企業辺りが華やかな活躍をしている状況と言えそうだ。

私こと五十鈴という名前の軽巡洋艦の魂を宿した武装娘(認識番号はKJ五八六號)が現在属するのはそんな大企業や中堅企業のような場所などでなく、屯所(とんしょ)と呼ばれる派出所めいたところだ。

数人働く町工場的というか、何人かでなんとか回している電脳関係の会社というか。

全国津々浦々にちんまい基地を沢山設け、海岸線の防衛を構築するのが主目的とか。

左遷した将官の転属先との噂もあるけど、本当のところはどうなっているのだろう?

 

築二〇年とかそれ以上の年数が経過したような建築物に改修を加えて住み、月々の出費を抑えている。

そういった民宿改造型基地が指揮官と私の待機場所。

周辺屯所の武装娘が集団生活出来る規模の中継基地。

そんな箱庭で彼と私は戦時下の日々を過ごしている。

ちゃぶ台にて報告書を手書きで埋め、年代物のファクシミリでの送受信がいつものこと。

提督がにゃんこ柄の妙に可愛らしいエプロン姿でご飯を作るのも、いつものこと。

 

屯所には通常一名から数名の武装娘が属していて、周辺海域の哨戒任務や大手の支援活動などに従事している。

時には複数の屯所で連携して合同作戦を行うこともあり、このなんちゃって基地が娘まみれになることもたまにはある。

そういう目的の場所でもあるからだ。

そんな時に提督がにたにたしているのを見かけると、無性に腹が立つ。

湯上がり姿の無防備な武装娘を見て、鼻の穴を拡げてんじゃないわよ。

そういうのをなんとも思わない子もいるから、提督が図に乗るんだわ。

彼のたるんだお腹をつまんだ私は悪くないと思う。

いい声で鳴くから、ゾクゾクしちゃった。

提督のふくらみ過ぎたウエストがいけないのだよ。

他の女を見つめる提督が悪い。

私だけを見ていればいいのに。

いざという時、私だけがあの人を守れるのに。

 

で、まあ、私たちはぶっちゃけ二軍戦力なんだけど、それでも二軍なりの気概はある。

やって来た子たちの取りまとめ役をして。

旗艦として基幹戦力の意地を見せつける。

そしてやることは大手の先遣隊で露払い。

輸送任務に後始末に回収も仕事のうちだ。

大手の作戦に直接従事することなど無い。

嗚呼、同じ姿の娘の中には大手の最前線で活躍している子が何名もいるというのに。

トホホ。

まあ、それは兎も角。

我ら武装娘は人間たちから艦娘(かんむす)と呼ばれており、その名称をもって我々はこのセカイに実存が刻まれた。

昔の陰陽師によると、名前は呪(しゅ)だという。

ならば、名を持って生きている我々はどんな存在なのだろうか。

昔の戦闘艦艇の魂を持ってこの世に現れた私たちは何者なのか。

古い記憶と戦意を抱え、我らは戦いの道をひたすら歩んでゆく。

暁の水平線に勝利を刻むまで。

提督と平和な未来を築くため。

 

 

前世の記憶は曖昧で、なにやら戦闘の末に沈没した記憶がぼんやり残っている程度だ。

記憶が鮮明だと最悪戦闘拒否に繋がり、それは各艦娘によってかなり波があるらしい。

幸い、この国の艦娘は戦闘拒否どころか戦闘意欲旺盛な子が多く、指揮官たる提督や司令官に求められる資質は時として猛将だったり勇将だったりする。

残念ながら私の提督はひなびたおっさんであり、喜びには程遠い姿をしていた。

まさに歩くトドそのものである。

トホホというか、なんというか。

手先がやたらに器用で料理上手で声のよいのが、彼の取り柄。

少し誇らしい。

猫を飼いたいという提督の希望を却下したら、何故だか黒い猫耳カチューシャを渡された。

とっさにカナディアンバックブリーカーでとどめをさした私は、悪くないんじゃないかな?

 

 

トドが……間違えた、提督が哨戒任務中の私に無線機で指示を飛ばしてきた。

夕闇近づく秋の海。

釣瓶落としの夕陽。

周囲は刻一刻と、暗くなってゆく。

私の耳元に彼の言葉が響いてきた。

通信機の調子が今一つのためか、やや雑音混じりなのが残念だ。

どちらかというと不快でなく、どこかのなにかを揺さぶる深みある彼の声。

声はいいのよね、声は。

 

「五十鈴、救助要請があった。」

「どっちの方角からあったの?」

「お前の位置からすると南東およそ二〇キロ先。」

「それくらいだったら、自力で帰って来れない?」

「『お土産』付きだ。」

「それは厄介な話ね。」

「お前が頼りなんだよ。」

「それは知っているわ。」

「じゃあ頼んだぞ。」

「致し方ないわね。」

「飛ばし過ぎるなよ。」

「わかっているから。」

 

敵味方の情報をやり取りしてゆく。

雑音混じりの言葉が聴こえてきた。

彼との離れた空間がもどかしくなる。

一瞬で心の距離を埋められる通信は、混じり物だらけ。

でも。

それが案外心地よくなるものだわ。

ずっと聴けていたらいいとさえ思うのが本音だけど、そんなことにはならない。

提督と簡単な打ち合わせを終える。

通信はあっけなく切れた。

少し、残念に思う。

……ダメね、そんなんじゃ。

意識を素早く切り替えた。

イケる。

殺れる。

私だけで必要充分な戦力になるわ。

私はいついかなる時も準備万全よ。

だから、急な任務も問題無しなの!

五十鈴にすべて任せておきなさい!

電探の調子があまりよくないけど。

それを補ってあまりある力、見せてあげるわ!

機関の推進力を高め、南東へ舵をきった。

推力全開!

加速装置!

最大戦速!

『缶』と呼ばれる熱機関の温度を高め、放たれた矢の如く海原を突っ走る。

飛ばすわよーっ!

待っていて、私のはらから。

待っていて、我がともがら。

貴女たちを助けるのは私。

軽巡洋艦の五十鈴。

燃える魂を持った戦乙女。

 

 

あの時の失敗は、もう繰り返さない。

絶対、絶対に繰り返さないんだから。

 

 

やや視界不良な夕暮れの海に見える、三つの姿。

逃げる二隻の味方艦、追う一隻の敵艦。

敵が見えた!

いっけえー!

挨拶代わりに砲弾を放つ。

初弾は外した。

だけど、そこ!

五十鈴には丸見えよ!

二発目で至近弾を喰らわせ、三発目で直撃弾を浴びせる。

動きの止まったところに飛びかかって、バールのようなモノを艤装から素早く引き抜き数回頭部に叩きつけた。

赤く光っていた目が輝きを失い、魚みたいな姿の『彼』だか『彼女』だかなんだかが沈み始める。

これが我々に敵対する『深海棲艦』。

正体不明なる白黒の敵対者。

その姿は千変万化多種多様。

人に似た姿の者もいるのだ。

『姫』とか『鬼』とかと呼ばれる者さえ存在する。

いずれも例外なく美しい姿と聞いた。

まるでモノクローム・ヴィーナスね。

いつか、『彼女』たちと戦う日が来るのだろうか?

 

「もう一体、後ろにいるわ!」

 

救助対象から発せられた叫びが聞こえてくる。

思考を現実に急ぎ切り替え、闘志を素早く再燃焼させた。

振り返りざまに、副砲を三連射する。

意外と近くにいた黒い魚じみた相手が、被弾しながらも果敢に突撃してきた。

どうやら、敵さんは弾切れみたいね!

だけど!

負けはしない!

見えた!

そこっ!

 

「こんにゃろめーっ!」

 

バールのようなモノを、勢いよく突っ込んできた相手の頭部に突き刺す。

痛みのためか、敵が大きく口を開けた。

表情が見えないのだけど、ソレはまるで驚愕したようにも思えた。

 

「とどめよっ!」

 

主砲を無防備な口内に突っ込み、零距離砲撃する。

喰らえっ!

鉛弾のお味は如何?

とくとご賞味あれ。

すると。

ボフッ。

なにかに引火したような感じの音が聞こえてきて、内部から黒煙が上がった。

直後、黒い敵対者は完全に動かなくなる。

相手を蹴ると同時にバールのようなモノを引き抜き、安全圏まで距離を取る。

主砲を油断なく構え、相手の様子を見た。

動き出すそぶりは見せない。

やがて追跡者は力尽きたように目の光を失った後、煙を吐きつつ静かに沈んでいった。

周囲にもう敵はいない。

ほっとため息を吐いた。

よし、後はこの子たちを連れ帰るだけね。

二名の同胞と一緒に、北北西へ進路を取った。

 

 

無事帰投した私たちは夕食の準備をしていた提督からねぎらいの言葉を貰ったのだが、私の艤装を点検しだした彼は段々不機嫌な顔になっていった。

お腹がぷるぷる揺れている。

口数がどんどん減ってゆく。

この匂い、今夜は天婦羅ね。

悪くないわ。

真剣に艤装を見つめる提督。

その姿も悪くないわ。

歩くトドだけれども。

もっともっと痩せさせないとダメね。

前よりは痩せてきたけれど。

もっと激しい運動をさせなきゃ、ね。

更に更に頑張らないといけないわね。

彼はとうとう無言になった。

喋らない提督もアリかしら。

そして彼は私の顔をじっと見つめる。

不覚にも、少しばかりどきっとした。

彼は男前でもなんでもないのだけど。

エプロン姿の提督が重い口を開いた。

 

「おい、五十鈴。」

「どうしたの、私の尊敬する素晴らしき提督。」

「取って付けたようなことを言うんじゃない。」

「あら、本当にそう思っているのに。」

「……まあ、いい。なんだ、これは?」

 

頬をぴくぴく動かす提督は、私が先程まで使っていた機械を指差す。

 

「艤装よ。ところで、今夜の天婦羅がとっても楽しみだわ。」

「それは任せとけ。あのな、そういうことを聞いているんじゃない。お前、かなり無理をさせたな。」

「はて、なんのことやら。」

「ほら、よーく見てみろ。」

 

提督が焦げついた部分を見せた。

 

「お前の行動は基本的に間違っちゃいないぞ、五十鈴。」

「お褒めに預り、恐悦至極。」

「パーフェクトじゃないぞ、ウォルター。」

「人間だもの。」

「人間じゃないだろう、お前らは。……こら、話を逸らすな。」

「悪かったわ。」

「わかっているならいい。」

「どれくらいで直せるの?」

「妖精に要請して助力を得られたら、明日の夕方。」

「得られなかったら?」

「三日くらいかかる。」

「ダメじゃん!」

「おい、お前が無茶をしたのがいけないんだろう! なんだ、その言い方は!」

「これくらい、大手の鎮守府だったらあっという間に見事に直しちゃうわよ!」

「このアホウ! 明石や夕張が常駐しているような大手と比べるんじゃない!」

「大体、あんたが余計なことを言って左遷されたのがいけないんじゃないの!」

「じゃあ、なんでお前はその左遷されたような阿呆の提督に付いてきたんだ!」

「そ、それは……あ、哀れなあなたが見捨てられなかったからよ!」

「それはありがとう! いつもお前には大変感謝しているよ! だけど、だからといって、修理の時間が短くなるとは限らないからな!」

「じゃあ、提督お手製のスコーンとか羊羹でも妖精に進呈したらいいじゃない!」

「原材料が無い! 申請したが、却下された!」

「えええ。」

 

生ぬるい目で救助した子たちが私たちを見つめていた気もするけど、気のせいだわ。

ええ、きっとそうだわ。

 

天婦羅は衣がさくさくで、助けた子たちにも好評だった。

やるわね、提督。

ご飯もおいしい。

漬け物も煮物もよく出来ている。

この味、この舌触り、これこそが和食よ。

 

 

結局、修理には三日かかった。

電探はちょっと不調なままだ。

敵襲が無くて実に幸いだった。

その期間、助けた子たちが哨戒任務を肩代わりしてくれたので大いに助かった。

四日後。

眼帯を付けた軽巡洋艦が、彼女たちを引き取りにやって来た。

歴戦らしい彼女はやさしい声で救助した子たちに話しかけ、助けた駆逐艦たちは朗(ほが)らかな声でそれに受け答えしていた。

少しうらやましい。

 

 

そしてまた、一人と一名の生活に戻った。

 

 

数日後の午後。

快晴の秋晴れ。

風が少し強い。

哨戒任務を終えて、海辺で潮干狩りする。

潮汁や酒蒸しもいいわね。

ところで潮ちゃん、元気かしら?

曙や霞も元気に暴れているかな?

あそこは陽気な子が多かったわ。

あの喧騒が時にいとおしくなる。

ここは静かだ。

周辺にはお店も人の住む家も存在しない。

私たちの箱庭。

誰もいない海。

ちょっとばかり、ぼんやりした。

すると、あの人が近づいてくる。

ぼてぼてした彼が近づいてくる。

制服の似合わない、勇敢な提督。

だんだん気持ちが高まってきた。

しかしながら、彼にこのことをまだ知られてはいけない。

だって、恥ずかしいじゃない。

でも、やっぱりここに来て正解だったわ。

なんだかこんがらがる気持ちが加速する。

提督がはにかみながら、ぶっきらぼうに青い包装がされた小箱を差し出してきた。

はて、今日はなんの日だったかしら?

 

「五十鈴、いつもありがとうな。」

 

珍しく照れている。

ああ、そうか。

今日は私がこのセカイに顕現して彼に出会い、そのまま初期艦になった日だ。

流石に気分が高揚してきたわ。

あっ、これは加賀さんの口癖だったわね。

みんな、元気かしら?

なにもかも、みな懐かしい。

気持ちが寸時過去へ向かってゆく。

彼は変わらない。

あの日の気持ちから、揺るぎない。

ずっと真っ直ぐに生き続けている。

真っ直ぐ過ぎるのが難点だけれど。

変わらないから、一緒にいられるのかもしれない。

体重は変えなきゃいけないけれど。

 

「……嬉しいわ。開けてみていい?」

「お、おう。もちろんだ。」

 

青い包装紙に貼られた可愛い猫のマスキングテープをゆっくり剥がし、ゆるゆると開いた。

そこに現れたのは白い小箱。

するりと箱のふたを開ける。

 

「あら! 素敵な贈り物ね!」

 

中身を見て、思わず喜びの声を出した。

鮮やかな紅いリボンが二つ、きっちりと収められている。

私のために用意された素敵なリボン。

私だけに与えられた、彼の感謝の証。

 

「ありがとう、提督。ふふ。十分だわ。これでもっと戦える。」

 

やさしい一陣の風が、私たちの周りをさっと吹き抜けていった。




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