五十鈴生誕祭 リボン合同短編集 作:五十鈴合同
20XX年、世界は深海棲艦の攻撃につつまれた!!
深海棲艦の侵略によって海は赤く染まり、海を行き交う全ての船は沈んだ。
さらに街には砲撃が降り注ぎ、飛来する謎の飛行物体はあらゆる施設を爆撃。
手も足も出ない深海棲艦の侵略に、世界は終焉を迎えようとしていた。
だが、そんな中でも人類は死滅していなかった!
何故なら過去の軍艦の魂を宿した世界の守護者。
『艦娘』と呼ばれる少女たちが人類の味方となったからだ!!
彼女たちを率いることができる『提督』という適性を持った者たちと共に艦娘は戦う!!
戦え艦娘!! 戦え提督!! 世界と人類のために、明日を取り戻すのだ!!
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世界の平和?
そんなことより、五十鈴の魅力を説明できる言葉探しを手伝ってくれないか。
どんな言葉を並べてみても、彼女の素晴らしさを表現できなくて困ってるのだ。
なに? 『五十鈴』を知らない?
艦種が軽巡である、艦娘の五十鈴を?
それは深刻な問題だな……
いいだろう、少し時間をもらおう。
なに、すぐすむ。(氷の微笑スマイル)
順を追って説明しよう。
五十鈴は外面、内面ともに美しい。
内面については別の機会に語るとして、まず外面から。
最初に語るべきは目だ。
つり目がちな、大きく宝石のような目。
決して冷たいわけではなく、むしろ熱を帯びたその瞳。
そこから滲み出るのは自信、いや、生気とでもいうべきか。
その瞳に見つめられれば、途端に快感と熱が生まれる。
いまはまだだが、いずれ彼女の視線はあらゆる万病に効くと証明されるだろう。
そしてその目が収まる顔の造形も見事なのだ。
すっきりとした顎のライン、でありながらも柔らかそうな頬。
それらが合わさって、幼さを残しつつも大人びたようにも見える奇跡のようなバランス。
そういった一見相反する要素が、五十鈴には多数含まれている。
相反する、と言えば語らないわけにはいかない部分があるな。
そう、大変大きく、そして形のよい、素晴らしき胸部装甲だ。
よりわかりやすく言うなら胸、もしくはおっぱい、つまりオパーイ。
「結局それか、おっぱいに引かれた俗物が」
と言われれば、わたしは迷わず即答するだろう。
「そうだよ」と。
そしてそれと反するように、五十鈴はウエストは驚くほど細い。
腕も、足も、健康的な基準を満たしつつも、細い。
おそらくなにかの奇跡で五十鈴を抱きしめたのなら、わたしはきっと二つの感情を抱くだろう。
おっぱいが、胸板に、ああぁぁぁあああ。
なのに抱きしめた腰はこんなにも細くて、ああぁぁぁあああ。
が、混じり合った感情だ。
曲線美の極みである、五十鈴の身体。
そこに何一つとしてもう少しこうなら……と、不満を抱くことは皆無。
さて、長くなったが次が本題だ。
髪型だ、髪型なのだ。
五十鈴が好む普段の髪型は、ツインテールだ、ただのツインテールではない。
黒髪、正確には少し青みを帯びた不思議な色合いの黒髪ツインテールなのだ。
わかるか?
この、真っ直ぐなまなざしの元気ハツラツ系の要素。
それにクール美少女の要素が合わさった五十鈴が、ツインテールだという奇跡を!!
彼女の二房の髪を束ねる白いリボンが揺れるたびに、わたしの視線はゆらゆら揺れる。
もちろん心もゆーらゆらであるのだ。
彼女がツインテールである事実に!!
心そのものが!! 揺れるのだよ!!
■□■
「提督、救援が来るまでもう少しかかりそうです。ごめんなさい」
――いや、かまわん。
ハワイアンな水色花柄模様の水着を身につけた五十鈴が、頭を下げる。
普段は自信に満ちた、気負わない言葉遣いをする五十鈴。
だが自分の非がある場合は、きちんと礼を持った話し方に切り替える。
これもまた彼女の魅力だ。
いくら外面をツンで取り繕おうと、内面から溢れ出る丁寧さが垣間見えるのだ。
ああ、だから五十鈴、謝らないでくれ。
謝るくらいならいつもの勝ち気な表情で、ツンツンしておくれ。
でも謝ってくれる五十鈴も可愛い、ケッコンしたい。
おっと、わたしとしたことが、話を戻そう。
五十鈴がなぜ謝っているかというと、これには理由がある。
実は付近の視察のためにボートで鎮守府周辺を回っていたら、高波でボートが転覆した。
護衛のためにそばについていた五十鈴が、手を伸ばすも間に合わず。
波にさらわれて流れ着いたは、鎮守府から見える距離にある小さな島。
無論鎮守府に通ずる海域は、精鋭艦隊が常に警備している。
なので、ここに深海棲艦が襲ってくる心配は無い。
だが、連絡をつけるのに手間取ったせいもあり、いまこの島にいるのはわたしと五十鈴だけだ。
ビューティフル。
「ですが五十鈴がもっとしっかりしていれば、提督に怪我を負わせることもなかったのに……」
そうなのだ、転覆して流されたときに、なにかにぶつかったのか。
わたしの腕には、やや深い裂傷が走っていた。
思ったより深かったのか、派手に血が流れているのを見た五十鈴は、慌てて自らのリボンを使い止血してくれた。
艦娘は季節によって戦闘服が勝手に替わる、五十鈴の夏の戦闘服はこのハワイアンブルー花柄模様の水着だ、控えめに言ってケッコンしたいぐらい魅力的だ。
しかし五十鈴は、わたしを救出するために加速の邪魔になると、腰に巻いてあったパレオと呼ばれる布を脱ぎ捨てていた。
そのため、わたしの止血に使えるのは、彼女の髪を結んでいる二本のリボンしかなかったのだ。
つまり、だ。
いま五十鈴はツインテールではない。
黒髪ロングストレート状態なのである。
わたしの! せいで! 五十鈴が!
髪をほどいてしまったという事実。
それこそがいま、なによりも辛い。
――それについてもかまわん。
――むしろ五十鈴のリボンを汚してしまったことのほうが問題だな。
「……優しいわね、提督。バレバレの慰めでも嬉しいわ」
悲しそうな笑みを浮かべる五十鈴。
妖精さんに誓って本音なのだがね。
気持ちというものは、なかなか伝えるのは難しい。
というのも、わたしは表情筋が硬すぎるせいで、無表情である事が多い。
また普段からの冷静沈着演技を心がけていることもあり、まわりの評価は冷酷な指揮官である。
もっとも、その方が都合がいいのだが。
ほとんどの艦娘はその普段の様子からか、気軽にはわたしに近づかない。
結果、わたしは秘書艦として指名している五十鈴と二人きりの時間が多くとれる。
だがその代償として、五十鈴自身もわたしから少し距離をとっているようにも思う。
とても寂しい、ほんとはケッコンして24時間365日側にいたいのに。
ああ、先ほどからケッコンしたい願望があふれ出しているが。実際問題、わたしのような面白みの無い男と一緒になるのは、いくらなんでも五十鈴に気の毒だというのは承知している。
わかっている。上官と部下、その関係を維持できるだけでもわたしは幸せなのだ。
まぁ、ケッコンしたいけど。(願望流出)
――あまり気にするな。
――それにいい機会だ、たまにはゆっくりしよう。
立ちっぱなしも疲れるので、砂浜に腰を下ろす。
五十鈴は少し悩んだ素振りを見せたあと、わたしの隣に腰を下ろした。
普段とは違う髪型の五十鈴。
ツインテールの五十鈴は最高の最たる象徴だ。
だからといって髪を下ろした五十鈴が最高でないわけではない。
最高の別系統なのだ。
彼女のあらゆる仕草、姿はまるで進化の系統樹のように多岐にわたる最高の先端に繋がる。
その全てが、だ。
でもやっぱり五十鈴はツインテールが似合うと思う。
叶うならこのリボンをすぐに解いて、彼女の髪を結んであげたい。
だが、わたしの血で汚れたリボンで彼女の髪を結ぶなど、万死に値する所行だ。
そうだ、わたしはまだ死ぬわけにはいかない。
五十鈴が生まれてくれたという奇跡に報いるため。
五十鈴にしてあげたい恩返し、108式全てを達成するまでは。
いや、達成したとしても、そして例え死んでもわたしは五十鈴の側にいたい。
だから止まれ、時よ止まれ!!
あー! パレオを外した五十鈴の眩しい太ももが美しすぎる!!
ヤバイ! 五十鈴の太ももの日光の反射を浴びるだけで黄金に変わりそう!!
ISUZU! ISUZU!
それからしばらく。
わたしは五十鈴が水着姿ですぐ隣に座ってくれているという奇跡のシチュ。
そんな一秒一秒が永遠に感じるほどの、至福の時間を味わった。
■□■
あの島から帰ってきてしばらく、五十鈴の元気がない。
一目で分る。
だってツインテールにしてない。
提督ショック、ラブショック。
愛で空が落ちてきそう。
困り果ててしまったわたしは、工廠の主である明石を訪ねた。
「つまり提督は島から帰ってきてから、五十鈴さんの様子がおかしいのが気になると?」
明石の入れてくれたコーヒをーすすりながら、わたしはうなずく。
突然の訪問に嫌な顔一つせず相談に乗ってくれる、明石。
桃色の派手な髪に目が行きがちだが、その実、丁寧で誠実な修理やメンテナンスで艦隊を支えてくれる、鎮守府に無くてはなら無い艦娘の一人だ。
「そうですね……あくまで推測ですが、五十鈴さんが髪を下ろしている理由はなんとなく想像がつきます」
――詳しく。
「キャー! 提督ちか、近いですって!!」
ズズイと明石に詰め寄ると、顔を赤くした明石が慌ててわたしを押し返す。
「コホン、えっとですね。おそらく髪を結ばないのは、リボンに提督の血がついてしまったからだと思います。当然ですが“艤装ではないリボン”と、“艤装のリボン”では頑丈さに天と地ほどの差がありますので、例え装飾品であろうと民生品を戦闘用として使用することはできません。つまりリボンが使えないから髪を結べないんだと思います」
ぬ、確かにわたしの血に濡れたリボンなどさわりたくもないのかもしれない。
はて、だがそれなら入渠(傷や装備を回復する施設に入ること)して元に戻せばいいのでは?
わたしの疑問に明石はうなずきながら答えを返す。
「そうです、ご存じの通り私たちの衣服や装飾品は基本的に艤装扱いとされ、入渠すれば綺麗に復元します。ですが意識すればその部分を“復元しない”ということも出来るんですよ」
――つまり五十鈴は、わたしの血がついた状態のリボンを意図して復元しておらず、それゆえツインテールにしていないと?
「はい。実際のところ、五十鈴さんがどういう考えで髪を下ろしているのかは、ご本人しかわかりませんが……私が思うに、五十鈴さんがリボンを復元しないのは、自分のミスを忘れないための、彼女なりの戒めではないかと……あとは勿体ないからとか(ボソ」
――なるほど。
しかし反省をしているのであれば、まずツインテールにして欲しいのだが。
だが、それが彼女にとっての反省となるのであれば、わたしがどうこう言うことではないのかもしれない。
でも、できればツインテールにして欲しいのだが。
……
――明石、作って欲しいものがある。
「え? ―――はい、それならすぐ作れますけど―――わかりました、では今日中にでも」
明石と軽く打ち合わせをしてから、席を立つ。
が、工廠を出ようとしたところで、慌てた様子の明石がこちらに走ってきた。
「てててててて、提督! す、すみません。あ、あの、さっきのコーヒーに間違ってとんでもないものを入れてしまいました!!」
――とんでもないもの?
「その……自分の名前を言いながら、自分をどう思っているか聞かれると、その相手に対して思ってることを素直に答えてしまう薬を混ぜてしまったんです!!」
そのやたらピンポイントな効能って、内服薬でどうにか出来るものなの?
という疑問をひとまず飲み込み、なぜそんな物を作ったのかを聞き返す。
「えっと、実は……素直になれない一部の艦娘たちから依頼がありまして……その研究中にできてしまった副産物なんです……」
――心当たりがある、一部の駆逐艦か。
「あ、いえ、一部の空母や戦艦や重巡や軽巡や潜水艦やその他諸々からもです」
多いな、多いよ。
それはホントに一部と言って良いのか疑問だよ。
「提督、本当に申し訳ありません……」
――気にするな、そういう事情があったなら、次からは管理に気をつけてくれればいい。
――それよりも害の有無と、効果の持続時間を教えてくれ。
「えっと、基本的に人体に害はありません。効果時間は飲んだ時刻にかかわらず、0時になれば消失します」
――ふむ、時間が経てば消えるならまあかまわないだろう。
――なら次はテストだ。明石、試してみてくれ。
「ええ!? えっと、その、よろしいのですか?」
――ああ、効果を把握しておく必要がある。
――気にするな、かまわん、やれ。
「正直、私としては聞くのが怖いのですが……えっと、その……提督はこの……あ、明石のことをどう……思ってらっしゃいますか?」
――工廠や酒保の管理をになってくれている優秀な艦娘だ。
――本人はあまり海に出て戦闘を行わないことを負い目に感じてるようにも感じる。
――だが他の艦娘からすれば、明石にしかできないことがあるというのは羨望の的でもある。
――個人的にも信頼しているので、これからも自信を持ってこの鎮守府を支えて欲しい。
「ッ~~~!?」
なるほど、普段なら控えるような個人的な主観や願望も交ざった言葉が出てしまった。
でもこれ改良すれば取り調べや、尋問などが意味をなさなくなるのではなかろうか。
……いや、だがそれは別にいいだろう。(無関心)
「わ、私うれしいッ! 提督がそんなことを思ってくださってたなんて」
――冷血に思われてるかもしれんが、わたしとて人間だ。当然私情の交じった感情も持つ。
――ともかく、この事は誰にも言わないように。今日だけならそれほど影響も無いだろう。
「えへ、えへへへ、て、提督が私のことそんなに、えへ、えへへへ」
――明石?
「あっ! は、はい大丈夫です! 誰にもこの事は言いません!」
――ならいいのだが。
確認を終えると、明石はスキップして鼻歌を歌いながら、持ち場に戻る。
わたしはこの後なにも起きなければいいがと、一抹の不安を感じながら工廠を後にした。
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「……青葉、聞いちゃいましたァ」
■□■
「さあ提督! この長門のことをどう思っているのか聞かせてもらおう!!」
――連合艦隊の旗艦を任せることが多い、頼れる戦艦だ。
――改二で会得した特殊攻撃は唯一無二の価値がある。
――また、妹の陸奥共々、わたしが留守の時は鎮守府を任せられるほど信頼している。
――戦力としてでなく、改二になっても女性らしさを忘れないという信念。
――その心意気が、へそチラに垣間見えて好感が持てる。
「は、ははは! そ、そうか! そうだろうとも、なぜならこの長門はビッグセブンだからな!! なに、これからもこの長門に任せておけ!!」
恥ずかしそうにおへそを隠しながら、顔を赤くして部屋を出て行くビッグセブン。
その様子を見て、わたしと秘書艦である五十鈴は同時にため息をついた。
……どうしてこうなった。
おそらく、明石の工廠での件がどこかから漏れたのだろう。
先ほどからひっきりなしに執務室を訪れる配下の艦娘たち。
一人出て行ったかと思うと、すぐに次の艦娘がやってくる。
そしてまたしても勢いよく開かれる執務室の扉。
現れたのは長い金色の髪が映える、ドイツ生まれの高速戦艦。
大口径砲撃ができて魚雷も撃てる、みんな大好きビスマルク。
「さぁ提督! このビスマルクのことをどう思ってるのか言ってもいいのよ!」
――おっきい暁チャン。
「エッ!?」
その後も途切れることなくやってくる艦娘たち。
その結果わたしは
オリョクルの件は正直すまんかった。
一人も産んでないのに母親扱いされて少し不憫。
ねぇ休肝日って知ってる?
コロコロコロチャン。
陸軍なら反対してもしょうがない。
二番じゃダメなんですか?
等々、対外的な評価から個人的な評価まで。
個々の艦娘、その全てに思っていたことを口に出す羽目になってしまった。
「ねぇ提督……」
――頼む五十鈴、なにも聞かないでくれ。
「そうじゃなくて、この書類なんだけど」
――あ、ああ。すまない。
五十鈴の問いかけに早合点してしまう。
どうやら少し過敏になっていたようだ。
というのも他の艦娘はまだいい。
もし五十鈴に同じことを聞かれたら、滝のように言葉が溢れ出てしまうに違いない。
そうなったら、とても気まずいことになってしまうだろう。
一応事情については説明して、聞かないで欲しいとは言ってある。
当然よくできた秘書艦である五十鈴は、一言、了解したと答えただけだ。
以後、そのことについては一切触れようとしない。
さすが五十鈴、略してさすず。
「どもー! 青葉です! いやー、工廠ではおもしろいお話を聞かせて頂きました! 青葉思わず号外を刷ってしまいました! その後どうですか司令官、今の心境とこの青葉をどう思ってるかお聞かせください!」
――横顔が微妙にアザラシに似てる青葉。
――お前がこの騒動の元凶か……
どうやら鎮守府の記者を公言している重巡の艦娘、青葉。
彼女に聞かれていたのが、騒動の原因だったようだった。
余談だが、この後めちゃくちゃお説教した。
■□■
「必要な書類はこれで全部ね。今日はお疲れさま、提督」
――ああ、五十鈴もご苦労だった。
時計を見るとフタサンゴーゴー。
つまり23時55分。
例の騒動のせいで、仕事を終えるのがこんな時間になってしまった。
だがそれもあと5分の我慢だ。
幸い大事にはならなかったし、終わってみれば刺激的な一日だったとも言えよう。
「あの……提督……」
ロングヘア姿の五十鈴が、なにかを言いたそうにこちらを見ていた。
だが、なかなか言葉が出てこないのか、一言つぶやいては口を閉じる動作を繰り返す。
――む、なにか書類に不備でもあったか?
「いえ、そうではなくて、その……」
――なにか聞きづらいことか?
――わたしと五十鈴の仲だ、なんでも聞くといい。
「……何度も言ってはいるんだけど、あの日のことは本当にごめんなさい」
神妙な顔をして、長い髪を床にたらし、頭を下げる五十鈴。
わたしが思うよりも、彼女はずっと落ち込んでいたようだ。
――なら何度でも言おう、もうすんだことだ、気にするな。
「そうね……ごめんなさい。これは五十鈴のわがまま。何度も同じように謝って、楽になろうとしてるのかも……ほんと、自分が嫌になるわ。仕事に影響がないようにって思うんだけど、どうしても気持ちに整理がつけられなくて……」
――だから……髪を下ろしてるのか?
「気づいてたの?」
――さすがにな。
「そう……てっきり五十鈴や髪の事なんて、どうでもいいんだと思ってたわ」
――ははは、それはない。(断言)
――五十鈴、あの日のことはもういいんだ。
――わたしが望むのは、以前の五十鈴に戻ってくれることだけだよ。
「……了解したわ、提督」
五十鈴のことだ。
今回は少し長引いているが、きっと乗り越えていつもの姿に戻ってくれることだろう。
初めて会ったときから、このわたしを支え続けてくれていた、彼女の姿に。
席を立って、しょんぼりとうつむく五十鈴の頭を軽く撫でる。
五十鈴はビクッと一瞬身体をこわばらせたが、すぐに力を抜いて目を閉じた。
そして今更だが、しょんぼりしてる五十鈴もいいな。
最低だと思うが、このチャンスに彼女の髪を結えないものだろうか。
実は五十鈴にしてあげたい恩返し、108式の最上位は髪を結ってあげるである。
でもさすがにハードルが高い、焦るなわたし。
まずは五十鈴が元気になってからの話だ、うむ。
――しかし五十鈴もそういうことを気にするんだな?
「あたりまえよ。五十鈴だって提督にどう思われてるのか毎日知りたいって……あ」
それを聞いた、瞬間。
まるでマグマのように熱い物が胸にこみ上げる。
それは、薬によるわたしの身体に起こった反応。
こみ上げるのは、わたしの五十鈴に対する想い。
だが、それがあまりにも多く、重く、熱すぎるせいか。
わたしの五十鈴を想う言葉は、まるで口から出てこない。
気持ちが大きすぎる故に詰まってしまう。
そんなことが、実際にあるのだと、他人事のように頭をよぎる。
一方、膨らみ続けるその想いは、出口を求めて暴れ出す。
爆発しそうな胸を押さえる、頭が熱い、血液も身体も全て熱い。
早く、早く、この想いを外に。
言葉にして、口にしなければ……
だめだ。
五十鈴の美しさを表す言葉も。
五十鈴への愛を伝える言葉も。
世界のあらゆる文字、言語をもちいたとしても。
わたしには、それを表現することができない。
五十鈴が真っ青になってなにかを叫んでいる。
きっと、胸を押さえてうずくまるわたしを、心配してくれてるのだ。
なにか、なにか適当なことを口にして……
だめだ。
拒否反応が起こっているのがわかる。
本当の気持ちを、五十鈴に伝えなければならないと。
身体が、叫んでいる。
だというのに、やはり無理なのだ。
この気持ちを、言葉にすることはわたしにはできないんだ。
五十鈴の目に涙が浮かんでいる。
あわててどこかに連絡を入れようとする五十鈴。
おそらく明石にだろう。
電話を手にしようとする五十鈴の腕を掴む。
だが、安心させるための言葉も口にできそうにない。
五十鈴の動揺が手に伝わってくる。
わたしはこのまま身体を爆発させ、死ぬのだろうか?
だが五十鈴への想いが弾けて死ぬなら、それも本望。
ならせめて、なにか、なにかを言っておかないと。
必死に考える、五十鈴に、なにを言い残すべきなのか。
ああ……そうだ、そうだった。
これが最後なら、せめて死ぬ前に。
これだけは伝えなければなるまい。
誰がなん言おうと、世界中の誰もが否定しようと。
わたしは君に、これだけは伝えたい―――
「好きだ」
瞬間、五十鈴の身体がビクンと震えた。
いつも自信と生気に溢れている五十鈴のつり目が、丸くなってる。
それは初めて見る、五十鈴の表情。
ああ、そんな表情の君も素敵だ。
そしてそんな君が―――
「好きだ、五十鈴。
君が笑うところが好きだ。
君が怒るとことが好きだ。
君が泣くところが好きだ。
君が喜ぶところが好きだ。
戦う君が好きだ。
休む君も好きだ。
走る君が好きだ。
歩く君も好きだ。
私服姿の君が好きだ。
制服姿の君も好きだ。
水着姿の君は最高だ。
君の髪が好きだ。
君の目が好きだ。
君の顔が好きだ。
君の胸が好きだ。
君の腰が好きだ。
君の足が好きだ。
サクラの花びらの中に立つ君が好きだ。
梅雨の雨に濡れて髪を拭く君が好きだ。
夏の太陽を浴びてきらめく君が好きだ。
秋の味覚を口にして、笑う君が好きだ。
冬の銀世界で白い息を吐く君が好きだ。
365日、その全ての日々で。
この世界で輝く君が好きだ
初めて見たときから君が好きだったんだ。
気がつけば、君のことが好きだったんだ。
いいや、違う、それは些細なことなんだ。
始まりも終わりもない、ただ、ただ……
わたしは―――」
堰を切ったように、言葉が流れ落ちる。
こんなものではない、もっと、もっと君に伝えたい。
でも駄目なのだ。
こんな言葉を何億、何兆綴ったところで、君の美しさを。
そしてどれだけ君を想っているのか、わたしにはそれを伝えられない。
だが、それでも。
それでも、君に伝えたい。
「君のことが好きなんだ、五十鈴」
最後にその言葉を口にした途端。
すっと、先ほどまで暴れ回っていた衝動が消えた。
そして清々しく、楽になった気分に満たされる。
その反面、唐突に上官から好意を告げられた五十鈴。
彼女は微動だにせず、ポカンとした顔でわたしを見ていた。
こんな鉄仮面に好意を告げられては、困惑するのも当然だろう。
というか、わたしはとんでもないことをかなり口走った気がする。
普通ならドン引きだろう、いや、普通じゃなくてもドン引きだよ。
部屋は時間が止まったようになり、沈黙が流れる。
なにかを言うべきか、それともこのまま黙っているべきか。
息をするのも難しい状況。
だが、そんな静寂を打ち砕くような音が、突然響く。
それは0時を伝える時計の音。
その音を聞いてわたしは我に返る。返ってないけど、とんでもないカミングアウトをしてしまったのだ、返ってくるどころか宇宙の果てまで行ってしまっている感じだ。
けど、ああもう、どうしよう、ヤバイ、五十鈴に嫌われてしまうかもしれない、というか五十鈴ドン引きしてるよ絶対、ああ、不味い不味い不味い不味い。
……もうこうなったらヤケクソである。
わたしは仕事の合間を縫って明石から受け取った物を、引き出しから取り出す。
それは無理を言って明石に造ってもらった、五十鈴の装飾品の艤装。
彼女の髪を束ねる白いリボン。
五十鈴が普段身につけている物よりレース部分が多い、少し飾り気のあるリボン。
わたしはそれを手にし、五十鈴に声をかける。
――五十鈴、誕生日おめでとう。
「え、えっと、あの、提督? え、あ、ありがとう……え、でもさっきなんて……」
本来、わたしはプレゼント等の類いは、誰にもわたさないし、もらわない。
なぜなら何百人もいる艦娘全員を、平等に扱うのは不可能だからだ。
小さな事かもしれないが、そういった不満が蓄積するのは避けたい。
それについては皆や五十鈴も理解してくれてるのだが、今回は事情が事情だ。
いつかタイミングをみていつか渡そうと思ったが、そうも言ってられない。
五十鈴が我に返る前に渡してしまわないと、というかそれは多分、今しかない。
――あの島でのことは気にしなくていい、と、言っても君は気にするんだろうが。
――だからそれとは別に、日頃の感謝の印としてこれを送らせて欲しい。
五十鈴はわたしと手に持ったリボンに視線を行き来させる。
無理もない、あんなことを言われて混乱しているのだろう。
「え、え? それって……」
――そしてぶしつけなお願いなのだが、よければ君の髪を結わせてもらえないだろうか。
――わたしのせいで髪を下ろしたのなら、どうかわたしの手で元の髪型に戻させて欲しい。
「え、えええええ!?」
――お願いだ。
ぶっちゃけこれ、ヤケクソの倍プッシュである。
そして卑怯だとわかってはいるが、わたしはこのチャンスを逃したくない。
きっと混乱から立ち直れば、五十鈴はきっとはっきりと口にするだろう。
わたしのことは上官としてしか見られないと。
彼女から敬意や好意を感じることはある。
だが、それが男女のものである可能性はきっと低いだろう。
だから、せめてこの機会に彼女の髪に触れたい。
彼女の髪を結わせてもらい、一生の思い出としたい。
そんな気持ちで、混乱する五十鈴につけ込むような形でお願いする。
「い、いいけれど……」
五十鈴はうなずいてくれた。
……マジか、言ってみるものだな。
一瞬固まってしまったが、慌てて我に返って本懐を遂げるための行動を開始する。
――ありがとう。さぁ、そこにかけてくれ。
未だ混乱状態の五十鈴をソファーに座らせ、机の引き出しからブラシを取り出す。
そして彼女の後ろに立って、ゆっくりと、優しく、五十鈴の髪にブラシを通した。
流れるような美しい髪。
一生味わっていたい気分に駆られながら、わたしは五十鈴の髪の片方をリボンで結ぶ。
髪を半分により分けたため、五十鈴のうなじがあらわになる。
細い首、小さな肩、日々世界の海を守っている五十鈴の背中。
愛しい艦娘の背中。
まさか本当に、五十鈴の髪を結える日が来るとは。
五十鈴に会えるまではろくでもない人生で、何度も死のうと思ったりしたが。
生きていれば、いいことあるものだな。
やがて二房の髪を結い終え、わたしは五十鈴の肩に軽く触れ、できたよ、と、伝える。
その言葉を聞いて、五十鈴はいつの間にか閉じていた目をゆっくり開く。
ちょうど正面の壁に掛っていた鏡には、ツインテールになった五十鈴が映っていた。
我ながら良い出来だ。やはり五十鈴にはこの髪型がよく似合う。
――いつも本当にありがとう五十鈴。
――先ほどは益体のないことを言ってしまったが、どうか忘れてくれ。
――正直むずかしいだろうが、今まで通りに接してくれると助かる。
――そして叶うなら、どうかこれからも、その、なんだ、よろしく頼む。
未練は無くなったが、やはり未練はある。
やはりわたしは、これからも五十鈴と一緒にいたいのだ。
そんなこれまでの関係を続けられないかという思いも有り。
未練たらしい言訳を口にしてしまう。
「……ありがとう提督……わたしの方こそ、これからもよろしくお願いね。まぁ、あんなに情熱的な言葉を忘れるのは難しいけれど……それは、五十鈴のことが好きで好きでしょうがない提督の、これからのがんばり次第ってことにしとくわね……ふふっ」
混乱から立ち直ったのか、その言葉を聞いて軽く微笑む五十鈴。
あの島での事以来、久々に見た五十鈴の笑顔はやはり美しかった。
そしてどうやら、先ほどのことは水に流してくれるようだ。
一応、条件付きで、弱みを握られてしまった感じでもあるが。
――ぬぅ……努力しよう。
「ええ、期待してるわ。それにしても……女の髪の結い方なんてよく知ってたわね?」
――ああ、こんな事もあろうかとな、何人かにお願いして練習台になってもらったんだ。
「……は?」
いつか五十鈴の髪を結うという夢のため。
無礼を承知で何人かの艦娘にお願いしたのを思い出す。
最初はひどく驚いたり戸惑っていたが、最後は皆、快く協力してくれた。
――お礼に間宮の食事券を渡して……
「……誰なの?」
――ぬ?
「だ、れ、に……頼んだの?」
先ほどとは一転して、驚くほど低い声。
その迫力に、わたしは思わず全員の名を口にしてしまう。
――ぬぅ……武蔵に利根に三隈、えー、瑞鶴と蒼龍と龍驤。
――あとは……陽炎に阿武隈、ああ、プリンツとグラーフもだったかな?
「何人いるのよ!! というか全員!! 食事券もらったからって!! そう簡単にホイホイ髪をさわらせるようなやつらじゃないでしょおおおおおおおお!!」
突然立ち上がり、天を裂くような叫びを上げる五十鈴。
元気になったのは嬉しいが、なにをそんなに怒っているのか。
――ど、どうしたんだ五十鈴!?
「もう部屋に戻るわ!! ふんっ!!」
吐き捨てるようにそう言い残し、五十鈴は執務室から出て行った。
左右に結われた髪と白いリボンをゆらしながら。
……もしかしてわたしは、なにか五十鈴の気に障ることを言ってしまったのだろうか?
せっかく五十鈴に元気が戻り、再びツインテールにしてくれたというのに。
いったい、なにがいけなかったというのか。
答えは出ず、わたしは乱暴に閉められた執務室の扉を、呆然と見つめるしかできない。
バタン!!
と、その扉が派手に音を立てて開いた。
現れたのは、先ほど出て行ったはずの五十鈴。
「い、言い忘れてたわ!」
顔を真っ赤にしながら、五十鈴は腰に手を当てて大声を上げる。
先ほどに続き、さすがに苦情がきそうだとは思ったが、空気を読んで流すことにする。
――なんだ?
わたしが聞くと、五十鈴は三度ほど深呼吸をし、わたしをにらみつける。
「い、五十鈴も提督のこと、そ、その……だ、大好きよ!!」
肩で息をしながら、顔を真っ赤にしてそう叫ぶ我が最愛の艦娘。
わたしはどう答えればいいかわからず、ひとまずうなずく。
それを確認すると、五十鈴はさらに顔を赤くして再び部屋から出て行った。
……
壁に掛っていたカレンダーが目に入る。
今日は10月29日、五十鈴の誕生日。
ハッピバースデイ、五十鈴。
つまり、まぁなんだ。
やっぱり五十鈴は最高だな。