今日の魔女の仕事~魔女達が照らす明日~   作:ジョン5

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魔女と幻の実

「遅かったわ」

 

ギルドへの依頼が掲示されている、依頼掲示板の前でウォルタはうなだれていた。彼女はいつもならもっと朝早くにこの場所に来て、多数の依頼が書かれた紙の中から、自身の腕にあったものを選ぶ。しかしこの日は違った。

 

「あら、ウォルタ。珍しいわねこんな時間に」

 

掲示板前に突っ立たウォルタに、一人の茶色の長い髪をした少女が話しかけた。

 

「マリーね、おはよう」

 

「うん、おはよう。聞いたよ、ポカツリーを仕留めたんだってね」

 

「え、ええそうね」

 

ウォルタの返事は歯切れが悪かった。

 

「すごいよ! あんな高ランクの魔物、一人でやっつけちゃうなんて。一人でギルドの活動してるって聞いて心配してたけど、杞憂だったね」

 

ウォルタはキラキラしたマリーの視線から目をそらした。

 

「そ、それが一人じゃ……」

 

ウォルタがそう言いかけたとき。

 

「うおーい、ウォルタぁー!」

 

ウォルタの背後にフレイの大声が響いた。フレイはカバンを振り回しながら大急ぎで走ってきた。

 

「なんで、起こしてくんなかったんだよー。あと、置いてくなんてひどいじゃないか!」

 

ウォルタのそばに来て立ち止まったフレイは、息を切らしながら言った。

 

「……起こしたわよ。何十回と」

 

ウォルタは振り返って、フレイに心では笑っていない笑顔を見せた。

 

「ひっ! ご、ごめんなさい……」

 

フレイは一歩退いた。

 

「あのー、そちらは」

 

マリーがウォルタに尋ねた。

 

「うちのギルドの新しいメンバー、お寝坊のフレイよ」

 

「お寝坊は余計だ!」

 

フレイの抗議をウォルタは無視した。

 

「メンバーって……仲間! ウォルタ、仲間ができたのね!」

 

マリーはより一層、目を輝かせた。そして、フレイに近づき、その手を両手で握った。

 

「私はマリー、ウォルタは素直じゃないけど、根はやさしい子なの。一緒だと色々、手がかかると思うけどがんばって! お姉さん応援してるわ!」

 

「え、ああ、任せて!」

 

フレイはマリーに向けてサムズアップした右手を突き出した。そして、ウォルタの顔は真っ赤になった。

 

「ちょっと、マリー!あんた何言って……というかフレイ! 手がかかるのはあんたの方でしょうが!」

 

ウォルタは二人の間にはいってわめいた。

 

「ふふ、相変わらず素直じゃないんだから。二人ともそれじゃあね!」

 

ウォルタとフレイは、鼻歌を歌いながらスキップで去っていくマリーを見つめていた。

 

「ええっと、どなた」

 

フレイがウォルタに尋ねた。

 

「……私の一応、魔女の先輩よ。お節介の」

 

「へー先輩……って魔女なのか!」

 

「ええ、それよりフレイ、あなたが寝坊したおかげで今日の仕事はこれ一枚よ」

 

ウォルタは掲示板から、はがした紙を、フレイに見せた。フレイはそこに書かれた文字を読んだ。

 

「探せ! 幻の木の実!……って木の実ぃ⁉」

 

 

 

 

ウォルタとフレイの二人は、ポカの森からさらに東に位置する、ザワの森にやって来た。

 

「まさか記念すべき初仕事が、木の実探しなんて……」

 

フレイは落ち込んでいた。

 

「あんたが寝坊したせいでしょうが」

 

ウォルタは依頼書を眺めながら言った。

 

「今回の依頼は、この森の木になる希少な木の実、キランの実の採取。ここも前のポカの森ほどではないけど、危険な魔物が生息しているわ。油断しないことね」

 

「木の実採取かぁ。前回がでかい魔物退治だっただけに、簡単そうで気がぬけるなぁ」

 

この言葉をフレイは数分後に後悔することとなる。

 

 

 

 

「み、見つからない……」

 

フレイは木の根元に疲れ切って座りこんだ。

 

「何よ、もう限界? 簡単なんじゃなかったの?」

 

そうフレイをたしなめたウォルタも汗だくで息を切らしていた。

 

「我ながら、誤算だったわ。この木の実に関する情報が少なすぎて、どこを探したらいいのかわからないわ」

 

「そんなぁ、この森、全部探してたら、日が何回暮れるか分かったもんじゃないよ」

 

「一回、街に戻って情報を集めた方がいいかしら」

 

ウォルタがそうこぼしたとき

 

「あっ、あれは!」

 

フレイが何かを指さして叫んだ。

 

「見つけたの⁉」

 

ウォルタは勢いよくその方向に顔を向けた。フレイは叫んだ。

 

「宝箱だ!」

 

そこには無造作に置かれた厳重そうな一つの箱があった。

 

「……どうっでもいい! 木の実じゃないじゃない!」

 

「でも、すげーよ、大発見だ!」

 

フレイはその箱を持ち上げた。

 

「なんでこんなところに箱が、気持ち悪いから触るのやめなさい」

 

「開けてみよう!」

 

フレイはウォルタの言葉を無視して、宝箱をなんとか開けようとしたがそれは叶わなかった。

 

「はぁ、仕方ないわね。どいて、錠の部分を軽く銃で撃ってみるわ」

 

ウォルタはそう言うと、魔法銃を取り出し、箱の錠の部分を撃った。すると箱は開いた。

 

「中に何か入ってる……紙?」

 

フレイは箱の中から一枚の紙を取り出した。

 

「……なにか書いてあるわね、地図?」

 

ウォルタもその紙を覗き込んだ。ウォルタは紙に書いてある文字を読んだ。

 

「この地図の場所に幻の木の実、キランの実あり…………はぁあ?!」

 

「……何だよ、これ。ウチらにとっての宝の地図じゃん!」

 

フレイはさっきまでの疲れはどこへやら、その場に立ち上がりガッツポーズをした。

 

「いや、いや、どう考えてもおかしいわ! なんでこんなところにある謎の箱の中に、しかも探してる実のありかを記した地図が入っているのよ!」

 

ウォルタは目の前で起きた不可解な現象に、後ずさりをした。

 

「きっと、前にこの森に来た誰かが、こっそり地図を残しといてくれたんだよ。いやぁ、ありがたいなぁ」

 

「随分とポジティブな解釈するわね。こんなの怪しさのかたまりじゃない!」

 

「でも他に手がかりもないし、とりあえずこの場所に行くだけ行ってみようよ。ついでに面白そうだしさ!」

 

そう言うフレイの目は好奇心に満ち溢れていた。

 

「……なんかの罠だったらどうするのよ」

 

「例え、どんなことが待ち受けていようと、ウチら二人の敵じゃないよ」

 

フレイはウォルタに右こぶしを向けた。

 

「……いや、責任もって、そんときは一人でなんとかして」

 

ウォルタはフレイを無視して歩き出した。

 

「おい、そこはノってくれよぉ!」

 

二人は地図に示された場所に向かった。

 

 

 

 

「嘘でしょ……」

 

ウォルタはある木を見上げて、絶句した。

 

「……や、やった!」

 

フレイも同じくその木を見上げていた。そこには朱色に光沢をおびた木の実、キランの実が一つなっていた。

 

「間違いないよ、キランの実だ!」

 

フレイが頭上の木の実を指さして言った。

 

「まさかホントにあるなんて……この地図、いったい何なの?」

 

ウォルタは木の実を発見した喜びよりも、呆れのほうが勝っていた。

 

「何でもいいじゃん。とにかく実は見つかったんだ、早く採って持って帰ろう!」

 

フレイはそう言うと、木によじ登り、実を採ろうとした。

 

「なんか、釈然としないわ、何かあるんじゃ……」

 

ウォルタの勘は当たっていた。フレイが木の実をその手に掴んだ瞬間、木の上から小さな毛虫のような生物が数十匹落ちてきたのだった。

 

「わっ⁉ 何だこいつら!」

 

「フレイ、魔物よ!早く降りなさい!」

 

フレイは木の実を右手で握りしめたまま、木から飛び降りた。すると、毛虫型の魔物たちはフレイに向かって襲い掛かった。

 

「うわっ! 何なんだよ!」

 

「フレイ! 伏せて!」

 

ウォルタの魔法銃から放たれた弾丸が、フレイに向かってきた魔物たちを貫いた。

 

「サンキュ、助かった!」

 

「まだ、安心できないわ」

 

ウォルタの言葉通り、再び木の上から数十匹の毛虫型の魔物が降りてきた。そしてそれらは、逃げ場を閉ざすように、二人を囲った。

 

「どうやら、こいつらを倒さないと採取できないから、幻の木の実ってことらしいわね」

 

ウォルタは銃を構えて魔力を込めた。

 

「何だよ、ウチ一人でなんとかするんじゃなかったのか?」

 

フレイはウォルタに笑みを向けた。

 

「ふん、成り行きよ。行くわよ!」

 

「ああ!」

 

 

 

 

「くっ!」

 

魔物の一体の体当たりが、ウォルタの右肩をかすめた。

 

「ウォルタ! 大丈夫か!」

 

「ええ、平気よ。ちょっと木の実探しの疲れが出てきただけだわ」

 

ウォルタは左腕で肩を押さえながら言った。

 

「しかし、こう小さくて、数が多いんじゃ中々弾が当たらないわね」

 

「でも、さっきウチを助けてくれたときは命中したじゃん」

 

「……もしかして」

 

ウォルタはそう言うと、とっさにフレイのそばを離れた。すると今までウォルタと対峙していた魔物たちがフレイの方に体を向け、襲い掛かった。

 

「うわっ! 何だよ急に!」

 

フレイは突如、自分に襲い掛かった、魔物たちにひるんだ。しかしその魔物たちは、青い閃光によって、次々と貫かれていった。

 

「……やっぱり、その魔物、木の実の近くにいるものを優先的に攻撃するようね。移動する地点が分かれば、簡単に当てられるわ」

 

「そ、そうか! ……って急に離れるなよ、びっくりしたじゃんか! 一言ぐらい言えよ!」

 

フレイは口をとがらせて、地団太を踏んだ。

 

「悪かったわね。けどフレイ、攻撃は私に任せて、そのまま囮役お願いできる? 辺りの魔物ども全部一か所に引き付けて頂戴!」

 

「やれやれ、分かったよ!」

 

そう言うとフレイは周囲の魔物たちを誘導するように駆け回った。そして魔物たちは皆フレイの方目掛けて、移動した。

 

「ウォルタ! いいぞ!」

 

フレイは叫んだ。

 

「ええ!」

 

ウォルタの魔法銃から繰り出された銃弾は魔物たちを次々に貫いた。その魔物たちは消滅し、フレイの周囲に光の粒子が舞った。そして、フレイは片手で剣を構えて、魔力を込めた。

 

「最後くらい決めさせてもらうよ!」

 

「ご自由に」

 

フレイはの放った斬撃が、魔物の最後の一体を仕留めた。

 

 

 

 

「ふう……数こそ多かったけど、前のポカツリーに比べりゃ楽勝だったな」

 

そう言うフレイの体は土誇りまみれだった。

 

「そんな体でよく言うわ」

 

ウォルタは呆れた表情を見せた。

 

「言っただろ、ウチら二人の敵じゃないって」

 

フレイはウォルタに右こぶしを向けた。

 

「……そうね」

 

ウォルタも右こぶしをフレイに向け、フレイのこぶしと合わせた。

 

「さて、色々、疑問は残るけど、取り敢えずキランの実の採取は成功ね」

 

「やっぱり、前に来た誰かが、ここの魔物たちを倒せなくて、場所だけ書いた地図を残してくれたんだよ」

 

「はぁ……そういうことにしときましょ」

 

目的を果たし森を後にする二人。しかし、その二人の姿を遠くの木の陰から覗くものがいた。

 

「ふふ、流石私が見込んだウォルタ様、鮮やかな仕事でしたわ」

 

ザワの森は日が暮れた。

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