今日の魔女の仕事~魔女達が照らす明日~   作:ジョン5

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魔女と双子1

「やってしまったわ……」

 

この日の朝、ウォルタは依頼掲示板の前で、膝に両手を着きながら、肩で息をしていた。

 

「はぁ、はぁ……ダメだったか」

 

珍しくウォルタと一緒に掲示板の前にやって来たフレイも、息を切らしながら言った。

 

「……ほとんど取られちゃってるわね。まったく、私らしくないわ、寝坊するなんて」

 

ウォルタはほとんどの依頼書をはがされた掲示板を見渡しながら言った。

 

「ほんとだよ。珍しいよな、いつも早起きのウォルタが寝坊するなんて」

 

フレイも掲示板を見渡しながら言った。

 

「ここの前に来るあなたも相当珍しいわよ」

 

ウォルタがため息混じりにそう言った。

 

「へへ、ウォルタが掲示板に来る時間は、いつもならウチは夢の中だからね」

 

フレイが笑いながらそう言った。

 

「まったく、笑い事じゃないわ。どうしましょう、今日の仕事は……」

 

ウォルタは掲示板を見渡したが、残っている依頼書は二枚だけだった。

 

「仕方ないわ、これにしましょう」

 

ウォルタは残りの二枚の依頼書の内の一枚をはがし取った。

 

「……何々、迷子の子猫の捜索ぅ⁉」

 

ウォルタの取った依頼書を覗き込んだフレイが、眉をひそめながら言った。

 

「仕事がないよりマシよ。さあ、行きましょう」

 

そう言って、ウォルタが掲示板前を後にしようとした時、遠くから掲示板に向かって、二人の少女が息を切らして走って来た。

 

「……まったく、お姉様が寝坊などなさるから、依頼書がもうなくなってますよ」

 

金髪のウェーブのかかったロングヘアーの少女が走りながら言った。

 

「なんで、私のせいなのよ! あなただって寝坊したじゃない!」

 

お姉様と呼ばれた、同じく金髪のショートヘアーの少女が走りながら言った。二人は掲示板の前につくと、膝に両手を着きながら、肩で息をした。

 

「今日の依頼書選択係はお姉様だったんですよ。故に私は寝坊オーケーだったんです」

 

ロングヘアーの少女言った。

 

「……何よそれ! ていうか残ってる依頼は!」

 

ショートヘアーの少女はそう言って掲示板を見回した。

 

(私たちと同じ寝坊組ね。残念ながら残っている依頼書は一枚だけよ)

 

ウォルタが心の中で二人に同情した次の瞬間、ウォルタの耳に不可解な言葉が響いた。

 

「残ってる依頼は子猫探しだけか、まあ、仕方ないわね」

 

(子猫探し?)

 

ウォルタは声のした方に振り向いた。声の主は残り一枚の依頼書を手にしたショートヘアーの少女だった。

 

「お姉様、これも立派な魔女の仕事です。残念がってはなりませんよ」

 

ロングヘアーの少女がそう言った。

 

「うるさいわね、分かってるわ」

 

ショートヘアーの少女が口を尖らせてそう言った。

 

(何で、子猫探しの依頼が二つも……まさか)

 

ウォルタは何かに気づくと、言い合いを続ける二人の少女に声を掛けた。

 

「あの、突然で悪いけど、あなたたちの依頼書、ちょっと見せてもらえない?」

 

「……何よあんた。依頼書? 別にいいけど」

 

そう言うとショートヘアーの少女はウォルタに依頼書を渡した。

 

「……やっぱり、この依頼書全く同じだわ。これは管理局のミスね」

 

ウォルタはそう言うと、二枚の依頼書をショートヘアーの少女に見せた。

 

「……本当だ。同じ依頼書を間違えて二枚掲示してしまったということね。珍しいこともあるもんだわ」

 

ショートヘアーの少女は目を丸くして言った。

 

「そうなんですか? ……なら、困りましたね。どちらがその依頼を受ければよいのでしょうか」

 

ロングヘアーの少女が首を傾げた。

 

「どちらって、そりゃあ先にこの依頼書を手にした、私達に決まってるじゃない」

 

ウォルタは眉をひそめながら答えた。

 

「待ちなさいよ! 依頼書を手にしたのは私たちも一緒よ。私たちにも、依頼を受ける権利はあるわ。ここはじゃんけんで決めましょう!」

 

ショートヘアーの少女がウォルタの前に歩み出て言った。

 

「はぁ⁉ 早い者勝ちがこの掲示板のルールでしょうが! 依頼は私たちのものよ!」

 

ウォルタはショートヘアーの少女に詰め寄った。

 

「そんなルール聞いたこともないわ! いいから、じゃんけんで決めるわよ!」

 

少女も負けじとウォルタに詰め寄った。二人は互いの目で火花を散らしあった。

 

「じゃあさ、四人で子猫を探そうよ」

 

二人の様子を見かねたフレイが提案をした。

 

「四人で? フレイ、どういうつもり?」

 

ウォルタが振り返って尋ねた。

 

「なぁに、簡単な勝負だよ。ウチとウォルタの二人と、そっちの二人の二チームに分かれて、どっちが先に子猫を探し出せるかで競争するんだよ。最終的に子猫を捕まえたチームが報酬を手に入れるってことでさ。どう?」

 

フレイは三人に尋ねた。

 

「まあ、それは面白そうですね! ぜひ、そうしましょう!」

 

ロングヘアーの少女が笑顔で同意した。

 

「……仕方ないわね、ここでいがみ合っても埒が明かないし、フレイの案に乗るわ。あなたは?」

 

ウォルタはショートヘアーの少女に尋ねた。

 

「ふん! 面白いじゃない。実力勝負って訳ね。受けて立つわ!」

 

ショートヘアーの少女はふふんと鼻を鳴らすと承諾した。

 

「よし、決まり! 猫探し勝負スタートだ!」

 

フレイは笑顔で右拳を振り上げた。

 

 

 

 

数分後、ウォルタ、フレイと二人の少女は子猫を探すため、都市の住宅街にやって来た。

 

「そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私達はギルド、ヴィネア。私がウォルタ、こっちがフレイよ」

 

ウォルタは二人に名乗った。

 

「私の名前はウラ、そして、こっちが妹のサラ。 ギルド名はアミーよ」

 

同じくショートヘアーの少女のウラも、ウォルタたちに名乗った。

 

「……にしても二人共、姉妹にしてはそっくりだよな。もしかして双子?」

 

フレイが二人の顔を見比べて尋ねた。

 

「ええ、そうですよ。性格は私の方がちょっとお姉さんですけど」

 

サラが笑顔でそう言った。

 

「サラ、あんたまた余計な事を……」

 

ウラはサラを睨みつけた。

 

「へえ、そうなんだ。じゃあやっぱり、以心伝心というか、互いの考えてることが分かったりすりのか!」

 

フレイが目を輝かせながら尋ねた。

 

「そ、そこまでいかないけど、私達の息はぴったりよ! だから、子猫の一匹くらい、私たち双子のコンビネーションで捕まえてやるわ!」

 

ウラは自慢げにそう言った。

 

「さっきの寝坊のコンビネーションを見る限り息がぴったりなのは本当のようね」

 

ウォルタが茶々を入れた。

 

「う、うるさいわね! そちだって寝坊したクセに!」

 

ウォルタとウラは再び互いの目で火花を散らした。

 

「ま、まあ二人共、程々にして、早速、子猫を探そうよ」

 

フレイがにらみ合う二人の間に入って言った。

 

「ふん、見てなさい、必ず私達が先に捕まえて、吠え面かかせてあげるわ! 行くわよ、サラ!」

 

「はい!」

 

そう言うと、ウラとサラの二人はウォルタたちから離れて歩き出した。。

 

「まったく、こっちのセリフよ……とは言え、子猫探しなんて初めてだわ。どうしたものかしら」

 

ウォルタは頬に手を当てながら言った。

 

「取り敢えず、こいつを使ってみるか」

 

そう言うと、フレイはバッグから何かを取り出した。

 

「何よそれ?」

 

ウォルタが尋ねた。

 

「じゃじゃーん、猫の餌ぁー! これを使って子猫を呼び出すんだ」

 

フレイは手にした猫の餌をウォルタに見せた。

 

「いつの間に、そんなもの……というか、そんなもので、都合よく目的の子猫が現れるとは思えないけど」

 

ウォルタは顔に冷や汗を浮かべた。

 

「まあまあ、物は試しだよ。猫の餌作戦開始!」

 

そう言うとフレイは猫の餌を持ったまま、近くの路地裏に入り込んだ。

 

「……駄目ね、とてもじゃないけど期待できないわ。何か他に言い案は……」

 

フレイを無視しそう考え込むウォルタの耳にフレイの悲鳴が響いた。

 

「ぎゃぁ! ウォルタぁ! 助けてくれぇ!」

 

「ちょっと! どうしたのよ、フレイ!」

 

ウォルタが急いで路地裏に駆け込むと、そこには、猫の大群に襲われているフレイの姿があった。

 

「……随分と楽しそうね、何してるのよ」

 

ウォルタは呆れ顔でそう言った。

 

「楽しくなぁい! 急に餌を目掛けて猫たちが飛び掛かって来たんだ! ……いてっ! コラ! ひっかくな!」

猫の攻撃を防ぎながらフレイが喚いた。

 

「とりあえず猫をおびき出すのは成功したみたいね。後は目的の子猫がいるかどうか……」

 

そう言って、猫たちを見回すウォルタは、路地裏の出口に一匹の子猫の姿があることに気づいた。

 

「あの、子猫……まさか!」

 

ウォルタは手元の依頼書の猫のイラストと目線の先の猫を見比べた。

 

「間違いない、あの子猫だわ。あっ、ちょっと待って!」

 

ウォルタの呼びかけを無視して、子猫は路地裏から姿を消した。

 

「追わなきゃ!」

 

そう言って、子猫を追いかけようとしたウォルタの背中に再びフレイの悲鳴が響いた。

 

「ぎゃあ!……何してんだウォルタぁ! 助けてくれよぉ!」

 

「……ああ、もう!」

 

ウォルタは子猫を追うのを諦め、フレイの助けに入った。

 

 

 

 

一方、ウラ達は、子猫の情報を集めるべく、住民達に聞き込みを行っていた。

 

「……はぁ、ダメか」

 

そう言って、ため息をついたウラのもとに、遠くからサラが駆け寄ってきた。

 

「お姉様、何か情報はつかめましたか?」

 

「全然。そっちは?」

 

「ダメです。子猫を見かけた方はいませんでした」

 

サラが顔を曇らせながら答えた。

 

「困ったわね、手掛かりなしか。大体、こんな広い都市の中から子猫一匹探し出すなんて、簡単じゃないわ」

 

ウラが口を尖らせて、愚痴をこぼした。

 

「どうします、いっそのこと、餌でも使って、手当たり次第に猫をおびき出しますか?」

 

「冗談でしょ」

 

「ええ、冗談です。本当にそんなことする人いませんってば」

 

サラが笑顔で言った。

 

「まったく冗談言ってる場合じゃないわよ……うん?」

 

そう言ったウラが路地に目を向けると、そこには、一匹の子猫の姿があった。

 

「嘘、あの子猫って……」

 

ウラが依頼書に目を向けた。

 

「間違いないです! 探してる子猫ですよ!」

 

サラが子猫を指さして言った。

 

「ビンゴ! とっとと捕まえるわよ!」

 

そう言うとウラは、駆け足で子猫に近づいた。それに気づいた子猫は、軽い身のこなしで近くの民家の屋根の上に移動した。

 

「あ、ちょっと! そんなところに行くなんて卑怯よ!」

 

ウラが屋根の上の子猫に向かって、叫んだ。

 

「お姉様、子猫に言っても仕方ありませんよ」

 

ウラが顔に冷や汗を浮かべた。一方、子猫はそんな二人を見下ろしてあくびをした。

 

「……完全に馬鹿にされているわね。こうなったら魔女の意地を見せてあげるわ!」

 

そう言うとウラは近くの街路樹に登り始めた。

 

「ちょっと、お姉様! はしたないですよ!」

 

そのサラの言葉を無視して、街路樹を登り切ったウラは、子猫のいる民家の屋根に飛び移った。

 

「どう、来てやったわ。今、捕まえてあげる!」

 

そう言って子猫に飛びかかららんとしたウラの背中に、民家の住人の怒号が響いた。

 

「コラぁ! あんた達、人様の家の屋根の上で何やってるのよ! 降りてきなさい!」

 

「え、いや、これには訳が……あ、ちょっと!」

 

ウラが目を離した隙に、子猫はどこかへ逃げてしまった。

 

「はぁ、お姉様ったら……」

 

サラは頭を抑えた。そして、この後、二人は住人にこっぴどく叱られたのだった。

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