今日の魔女の仕事~魔女達が照らす明日~   作:ジョン5

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魔女と決戦1

「フレイ、準備はいい?」

 

腰に魔法銃のホルスターを取り付けたウォルタが尋ねた。

 

「ああ、もちろんだ」

 

魔法剣を腰に取り付けたフレイが答えた。

 

「多分、これが彼女との最後の戦いになるわ。心して行くわよ」

 

「分かってるよ。決着をつけてやる!」

 

こうして二人は、自宅を後にした。

 

 

 

 

時間は昨日の早朝まで遡る。いつも通り、依頼を取りに掲示板前に赴いたウォルタは、目の前の光景に目を疑った。本来、その日の依頼書が掲示されているはずの掲示板には、依頼書は一枚もなく、代わりにその掲示板には大きな文字の書かれた、垂れ幕がかかっていた。垂れ幕にはこう書かれていた。

 

 

 

 

明日の昼、西のクリア神殿を我が魔物の軍団が襲撃させてもらう。魔女共よ、あなた達の力が本物ならば、これを防いでみせろ

 

 

 

 

「……安い挑発ね、ニール」

 

垂れ幕の文字を読んだウォルタが呟いた。垂れ幕の文字にあったクリア神殿と言う場所は、古来の魔女達の歴史が眠る、魔女にとっての聖域とも呼べる場所。そこを襲撃するということは、魔女たちへの、挑戦状と言う意味を持っていた。

 

「おいおい、なんだよこりゃあ」

 

「何かのイタズラかしら?」

 

「神殿を襲うとは言ってくれるじゃない」

 

同じく、掲示板前に集まった魔女たちが、垂れ幕の文字を見て各々の感想を口にした。

 

(神殿の襲撃。これがニールの言っていた大いなる計画なのかしら)

 

「その垂れ幕の文字、お読みになったそうですね」

 

そう考え込む、ウォルタの背中に聞き覚えのある声が響いた。

 

「あら、フウじゃない。久しぶりね」

 

ウォルタが振り返った先には、以前、共に湖に潜む魔物を退治した魔女、フウの姿があった。

 

「ええ、お久しぶりです、ウォルタさん。それにしても、大変なことになりましたね」

 

フウが掲示板の垂れ幕に目をやりながら言った。

 

「……フウ、私はこの垂れ幕を仕掛けた犯人に心当たりがあるの」

 

そう言うと、ウォルタはフウにニールの事を話した。

 

「……なるほど、以前にそんなことが。もし本当に彼女の仕業だとしたら、その前回の人質の手紙が事実だったということからも、この垂れ幕の文章も、本当のことを言っているのだとうかがえますね」

 

「ええ、これはイタズラでも脅しでもないわ。彼女は明日の昼、本当に神殿を襲うつもりよ」

 

「……そうですか、分かりました。わたくしもギルドの面々と明日、自分たちがどう行動するべきかを話し合うとしましょう」

 

そう言うとフウはウォルタと別れた。

 

(ニール、あなたの思い通りにはさせないわ!)

 

ウォルタも急いで、自宅へと戻り、掲示板前での出来事をフレイに伝えたのだった。

 

 

 

 

時間は戻り、自宅を出たウォルタとフレイの二人は、都市の西側に位置するクリア神殿、そのさらに西に広がる広大な草原の前に来ていた。そこには、数千人の魔女達の姿があった。

 

「……すげぇ、ここにいるのって全員、魔女なのか?」

 

辺りの魔女達を見渡してフレイが目を丸くした。

 

「……おそらくね。それにしてもすごい人数ね、ここにいる全員が垂れ幕の内容を信じたってことかしら」

 

「それもあるけど、都市から依頼があったのが大きな理由かも」

 

同じく目を丸くして驚くウォルタの背中に声が響いた。

 

「マリー、あなたも来ていたのね」

 

ウォルタの振り返った先にはマリーの姿があった。

 

「はぁい、ウォルタ、フレイ久しぶりね」

 

「おお、久しぶり!」

 

同じく振り返ったフレイが挨拶をした。

 

「それでマリー、どういうこと、都市からの依頼があったって?」

 

ウォルタが尋ねた。

 

「あら、聞いてない? 今回の神殿襲撃の予告を耳にした都市側は、その襲撃に使われる魔物の市街地への進行を恐れて、依頼管理局を通して、魔女たちに神殿の防衛を依頼してきたのよ。もちろん、実際の襲撃の有無に関わらず、多額の報酬金を支払うって条件もつけてね」

 

マリーが答えた。

 

「なるほど、そんなことが……ってことは、ここにいるほとんどはその報酬金目当てってこと? そんなんで大丈夫かしら」

 

ウォルタはため息混じりにそう言った。

 

「ふふ、大丈夫よ、報酬につられて来た魔女も、神殿を守るために来た魔女も、都市への魔物の進行を止めたくて来た魔女も、みんな目的は違っても同じ魔女だもの、いざってときはみんな闘志を震わせて魔物に立ち向かうわ」

 

マリーは笑顔でそう言った。

 

「だよな! それでマリーはどうしてここに来たんだ。まさか、お金の為とは思いたくないけど……」

 

フレイがマリーに尋ねた。

 

「それもちょっとあるけど、やっぱり都市の近くに魔物の大群が迫って来るかもしれないのを、黙って見過ごすことはできないからね。二人はどうしてここに来たの?」

 

「ウチらは……えっと」

 

「因縁を断ち切りに来たのよ」

 

フレイが言葉に詰まったのを見かねて、ウォルタが答えた。

 

「因縁?」

 

マリーが首を傾げた。

 

「ええ、そうよ。聞いてマリー私たちは……」

 

ウォルタがマリーにニールのことを話そうとした時、突如、草原の遥か向こうで大きな爆音と共に煙が上がった。

 

「うわっ、何だ、いきなり!」

 

驚いたフレイが言った。

 

「……あれは偵察に行った魔女からの魔物発見の信号よ。どうやら、襲撃は本当のようね」

 

マリーが眉をひそめながら言った。

 

「……させないわ、私達が止めてみせる!」

 

ウォルタは腰のホルスターから魔法銃を取り出した。

 

「へっ、来るなら来いってんだ!」

 

フレイも同じく魔法剣を構えた。

 

「二人共、その意気よ!」

 

マリーも同じくメイスを構えた。そして、その場にいた信号を見た魔女達も、一斉に目の色を変えて、各々の魔導具を構え、戦闘準備に入った。

 

それから程なくして、草原の遥か彼方で大量の土埃が舞いながら迫って来るのが確認された。大勢の魔物の軍勢が、神殿を目指して一直線に進行してきたのだ。

 

「来たわね……行くわよ!」

 

「おう!」

 

ウォルタとフレイの言葉と共に、魔女達の軍勢の後方で、戦闘開始のラッパの音が鳴り響いた。そして、その音に弾かれる様に、その場にいた魔女達は魔物の軍勢を迎え撃たんと進行を開始した。

 

 

 

 

戦闘開始から数分後、戦局は数で勝る魔物側を圧倒する、魔女側に偏っていた。

 

「何だ、でかでかと予告した割には大した数じゃないねぇ!」

 

「この程度で神殿を攻め落とそうとはなめられたもんだな!」

 

「一昨日きやがれでございますわ!」

 

あちこちで、魔女達の勝利を確信した言葉が飛び交った。

 

「やれやれ、肩透かしもいいところね……それにしても、思ってたより魔物の数が少ないわね」

 

辺りの魔物にメイスの一撃を食えながらマリーが言った。

 

(……おかしいわ、既に進行は始まっているのに、ニールの姿が見えない)

 

魔物と交戦しながら周囲を観察するウォルタであったが、中々その目にニールの姿を捉えることができなかった。

 

「ウォルタ! そっちはどうだ⁉」

 

同じく魔物と交戦するフレイが尋ねた。

 

「ダメよ! 見当たらないわ! ……おかしい、彼女は毎回、私達を誘い出した先に自らの姿を現していた。今回だけ、魔物を放つだけ放ってそれで終わりなんて釈然としないわ……まさか!」

 

そう言うとウォルタはフレイに近づき、何かを伝えた。

 

「……それ、本当かよ! だとしたら急がないと不味い!」

 

フレイが血相を変えて言った。

 

「二人共、動きが鈍いけどどうしたの! ケガでもした⁉」

 

マリーが二人に声を掛けた。

 

「いいえ、大丈夫よ! ……それよりマリー、突然だけど私達、この戦場を離れなくてはならなくなったの。後を任せられるかしら?」

 

ウォルタはマリーに尋ねた。

 

「戦場を離れる? どうしてよ?」

 

マリーが首を傾げて、尋ねた。

 

「ごめんなさい、詳しく話している時間はないの。身勝手なお願いかもしれないけど、頼むわ!」

 

ウォルタはマリーに懇願した。

 

「……分かったわ、ここは私が預かる。あなた達は行きなさい!」

 

マリーは笑顔でそう言った。

 

「すまない、マリー!」

 

フレイがマリーに礼を言った。

 

「ただし、何をする気か知らないけど、無茶だけはしないでね。お姉さんとの約束よ!」

 

マリーは二人に向けてウィンクを放った。

 

「ええ!」

 

「ああ!」

 

そう言うと二人は魔女達の波をかき分けて、戦場を後にしたのだった。

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