「ニール!」
広場にたどり着きそう叫んだウォルタの目の前には、ベンチに腰を掛けたニールの姿があった。
「……やっとですか、待ちくたびれましたよ」
そう言うとニールはベンチから腰を上げた。
「……ニール、これがあなたの言っていた大いなる計画なの?」
ボロボロに倒壊した辺りの建物を指さしてウォルタが言った。
「……まあ、これもその一部と言っていいでしょう」
ニールは涼しい顔でそう答えた。
「……一部だと? まだこんな事続けるつもりかよ! ふざけんな!」
フレイは奥歯を噛み締めた。
「話しなさい、ニール。あなたの目的はなに?」
ウォルタがニールに一歩近寄った。
「……何ってそりゃあ、世界の支配ですよ」
ニールは口元に笑みを浮かべた。
「……お二人はご存知ですか、魔女の始祖がかつて、この世界の支配を目論んでいたことを」
ニールは二人に尋ねた。
「魔女の始祖? 世界の支配ですって?」
ウォルタは眉をひそめた。
「……やはり、ご存知ないですか。あなた方魔女の始祖、この世で初めて魔力を手にした女性はその力を使って全人類の支配を企てていたのです」
「魔女が人類の支配だと? 嘘言ってんじゃねえ!」
眉間にしわを寄せたフレイが言った。
「……本当ですよ。まあ、信じる信じないは個人の自由ですが。話を戻しましょう。しかしながらその魔女の始祖の企てた世界の支配の計画は実行されずに終わりました。その理由は、至ってシンプル、彼女の持つ力が世界を支配するに至らない矮小な物だったからです」
ニールは話しを続けた。
「……ならば、その計画を実現する為の改善策とは何か、その答えも至ってシンプル、魔女の持つ魔力より強大な力を手に入れることです。そう、私と言う名のね」
そう言うと、ニールはどこからともなく一本の剣を取り出した。
「……お見せしましょう、幾度もの実験の上、遂に完成したあのお方の新たな力、“鬼女”の力を!」
その言葉と共にニールは手に握った剣を自身の胸に突き刺した。
「嘘?! 自分に剣を⁉」
「何してんだお前⁉」
ウォルタとフレイは目を丸くして驚いた。すると、ニールの胸に刺さった剣は突如光の粒子となって消えた。そして、ニールは自身の体を震わせると、背中から対の漆黒の翼を、両腕からは獣の様な体毛と爪を、両脚からは巨大な鳥のかぎ爪を出現させ、人間とはかけ離れた姿へと変貌した。
「……これこそが魔女を上回る新たな力を持つ存在、その姿です!」
ニールは血管の浮き出た顔面に笑みを浮かべた
「……なるほど、今まで魔物に魔女からの盗った剣を突き刺して、新たな力を付与させていたのは、その力を得る為だったて訳」
「どういう意味だ?」
ウォルタの言葉にフレイが疑問を呈した。
「彼女は今まで、魔物に魔女の力与える実験、つまり異なる者に異なる力を与える実験をしていた。そして、今、彼女が行ったのはおそらくそれらの応用、人間に魔物の力を与えたのよ」
ウォルタが答えた。
「……流石、ウォルタさん、正解です。私が先程、手にしていたのは魔物のエネルギーをため込んだ特殊な剣。それを体に突き刺すことで私は魔物の力を取り込み、人とは異なる存在、鬼女となったのです」
ニールは背中の翼をはためかせ、空へと浮き上がった。
「私の実験体を何匹と葬ったあなた方二人の力は確かなものです。だからこそ、その力を私の実験の集大成であるこの力でねじ伏せることで、この力の証明とさせて頂きましょう!」
そう言うとニールは空から急降下し、ウォルタ目掛けて突進を繰り出した。ウォルタは間一髪、その突進を回避した。
「くっ、やるしかないってこと!」
ウォルタは手に持った銃を再び空中に戻ったニールに向けて構えた。しかし、ウォルタは引き金を引くことはできず、再び繰り出されたニールの突進をかわした。
「ウォルタ! 大丈夫か!」
フレイがウォルタのそばに駆け寄った。
「大丈夫じゃないでしょう、魔導具を構えても私に反撃することができないのですから」
空中に戻ったニールが言った。
「どういう意味だ!」
フレイが尋ねた。
「いくら私が魔物の力を取り込んだ存在になったとは言え、元々は人間。魔導具で人間を傷つけることができないあなたは、私に対して攻撃する事ができない。甘いですね、そんなこと言ってたら死んじゃいますよ」
ニールは二人に笑顔を向けた。
「野郎、ならウチが!」
そう言うとフレイはバッグから魔導石を取り出し、自らの握る魔法剣にスキャンした。
『ウェイブ』
魔導石から音声が鳴り、剣が斬撃発射可能になった。そして、フレイは空中のニールに向けて斬撃を放とうと剣を構えたのだが、フレイは剣を構えた腕を動かすことが出来なかった。
「フレイ?」
ウォルタが尋ねた。
「悪い、ウォルタ、ウチもダメだ。あいつは街を無茶苦茶にした許せない悪党だ……だけど、あいつは人間なんだ、人間は斬れねぇ」
そう言うとフレイは力なく剣を下した。
「……フフッ……フハハハハハ! 二人そろって情けないですねぇ、物足りないけどもういいです、仲良くお死になさい!」
そう言うとニールは再び急降下し、フレイに向けて突進を仕掛けた。
「フレイ!」
ウォルタはそう言うとフレイの腕を掴み、自らの方に引き寄せ、ニールの突進をかわさせた。
「……ちっ、ちょこまかと」
再び空中に戻ったニールがつぶやいた。
「す、すまない、ウォルタ」
体を起こしながら謝罪するフレイの肩をウォルタが掴んだ。
「何て顔してんのよ、あなた、まさかもう諦めた訳じゃないでしょうね!」
ウォルタはフレイの目をまっすぐ見て言った。
「私達はどんな困難な状況も二人の力で乗り越えてきたじゃない! 今回だってそれは同じはずよ!」
「分かってるけど、あいつには攻撃ができないんだ。どうすればいいんだ、ウォルタ」
「攻撃できないのは人間である彼女でしょ。だったら魔物である彼女なら攻撃できるはずよ」
「それって、まさか……」
「そう、翼よ。彼女の体から出現したあの翼、あそこには目に見えるほどの邪悪なオーラが確認できる、おそらくあの翼が彼女の力の塊そのもの。あれを破壊すれば彼女を無力化できるはずよ」
「……なるほど、分かった!」
そう言うと二人は各々の魔導具を構えて立ち上がった。