今日の魔女の仕事~魔女達が照らす明日~   作:ジョン5

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魔女と熱烈ファン2

翌日、ウォルタ、フレイ、アンの三人は、ザワの森の南に位置する、サラ川近辺に来ていた。

 

「今日の仕事はこの川の周辺にあるサラ石の収集よ。この辺りには、魔物の目撃情報はないから、気を付けるとしたら、ちょっと川の流れが強いことぐらいかしら」

 

「大丈夫ですわ。万が一ウォルタ様がお怪我をなされても、これがありますから」

 

アンは肩から小さなカバンをかけていた。

 

「なんだ、それ?」

 

フレイが尋ねた。

 

「救急バッグですわ。これでわたしくしが、ウォルタ様のお手当をして差し上げますの。あくまでウォルタ様のためですからね!」

 

「はい、はい」

 

フレイはこのやり取りに、もう慣れたと言わんばかりに流した。すると、ウォルタはフレイに近寄り、耳打ちをした。

 

「あんな態度取っているけど、小さな女の子なんだから、いざというときはたのんだわよ」

 

「心配すんなって、分かってるよウォルタ様!」

 

フレイはニヤニヤした顔で答えた。

 

「……次その呼び方したらはたくわよ」

 

三人は石探しに赴いた。

 

 

 

 

「あったわ。あれね」

 

ウォルタは川辺に堆積した数十個のサラ石を指さした。

 

「ウォルタ様、わたしくしがとってきてもよろしくて?」

 

「ええ、構わないわ。お願い」

 

ウォルタの了承を得るとアンは石のそばに近づいた。

 

「なんだよ、ウォルタの仕事を近くで見るんじゃなかったのか?」

 

「ふふ、地図の件といい、本当は私たちの力になりたいのかもね」

 

「ま、本人はウチらじゃなくて、あくまでウォルタのためと言うんだろけどね」

 

石を袋に詰めたアンが二人のところに戻ろうとしたとき、三人の頭上を大きな影が覆った。そして、その影の主は二人とアンを遮るように地上に降り立った。

 

「……魔物⁉ なんで、こんなとこに!」

 

ウォルタは目の前に降り立った、大きな鳥のような生物を目にして言った。

 

「なんでもいい! それよりアン! そこ動くなよ!」

 

そう叫ぶと、フレイは魔物の横から周り込みアンに駆け寄った。しかし、魔物は翼を大きく羽ばたかせた。それによって発生した突風に、アンは流れの急な川へ吹き飛ばされた。

 

「きゃあぁ!」

 

「アン!」

 

フレイは地面を蹴って跳躍し、川に落ちるアンを抱きかかえた。しかし、そのまま二人は川へと落ち、流されて、見えなくなった。

 

「嘘よ、そんな、なんで……」

 

一人、取り残されたウォルタは動揺を隠せなかった。しかし、ウォルタをよそに、魔物は再び大空へと舞い上がり、川下の方へと飛び立った。

 

「まさか二人を追う気?! させないわ!!」

 

ウォルタは銃を魔物に向けたが、魔物は驚異的なスピードで銃の射程距離から飛び出した。

 

「……なんてこと、私がアンに同行を許したばっかりに…………いや、今は二人を追わなきゃ!」

 

ウォルタは川下へと走り出した。

 

 

 

 

「……う、うーん…………はっ!」

 

「目が覚めたか?」

 

アンが目を覚ますと、そこには覗き込むフレイの顔があった。目覚めた場所は森の中だった。

 

「あの……わたくし!」

 

「大丈夫、落ち着けよ。ウチら二人とも生きてるよ。まあ、だいぶ流されちまったみたいだけどな」

 

フレイは動揺するアンに笑顔を向けた。

 

「は、はあ」

 

アンは呼吸を整えるとフレイに言った。

 

「フレイさん、その……助けて頂いて、ありがとうですわ」

 

今までのアンの態度からは想像できない言葉に、フレイは目を丸くした。

 

「な、なんですのその信じられないようなものを見る目は、わたくしがせっかくお礼を言って差し上げているというのに!」

 

「ごめん、ごめん、ちょっとびっくりしちゃってさ」

 

フレイはそう言うと、ひと呼吸おいてアンに尋ねた。

 

「なぁ、アンはどうしてウォルタのファンになったんだ?」

 

「……一か月ほど前、わたくしの村が魔物に襲われたとき、ちょうど仕事で村にいらしゃってたウォルタ様が、村で暴れていた魔物を一人で退治してくださったのですわ」

 

「へぇ、そんなことがあったんだ」

 

「ええ。そのとき、直接お会いはしなかったのですけど、魔物相手に立ち回るウォルタ様が麗しくて、気づいたらファンになっていましたの」

 

「わかる、わかる、ウォルタってかっこいいもんな」

 

「わかってくれますの?」

 

アンはフレイに尋ねた。

 

「もちろん、ウチさ、森で行き倒れているところを、ウォルタに助けられたんだ。見ず知らずのウチにサンドイッチ分けてくれてさ、そんとき思ったんだ、こんなこと平然とできる奴ってかっこいいなって」

 

フレイはウォルタと初めてであったことを思い出して言った。

 

「だからウチはウォルタのギルドに入った。あいつの力になりたいと思たんだ。今のアンと一緒でな」

 

フレイは笑顔でそう言った。

 

「ひ、人の気持ちを勝手に決めつけないでくれませんこと!」

 

アンは顔を真っ赤にして言った。

 

「ははは! ……さあ、いつまでもここにいてもあれだし、ウォルタと合流しないとな」

 

フレイがそう言ったとき、二人の上空を再び大きな影が覆った。

 

 

 

 

「アン、こっちだ!」

 

フレイとアンは密林の中を駆け抜けていた。先ほどの鳥型の魔物が、二人を追ってきたのだった。

 

「しつこい奴だな、こうなったら!」

 

フレイは剣を抜くと、それに魔力を込めた。そして、地面に向かって斬撃を放った。その衝撃により、辺り一面に土煙が舞い、一時的に魔物の視界から、二人の姿が消えた。

 

「今の内! 来い、アン!」

 

「はい!」

 

アンの手を引いてフレイが走り出そうとしたとき、フレイの右足に激痛が走り、フレイはその場に倒れ込んだ。

 

「フレイさん!」

 

アンは倒れたフレイの脚を見てぎょっとした。フレイの脚には、大きなアザができていた。

 

「お怪我を!」

 

「なぁに、これくらい……」

 

フレイは痛みをこらえ、立ち上がろうとするが立てなかった。すると、アンは肩にかけた救急バッグから、道具を取り出し、フレイの手当てをし始めた。

 

「……それ、ウォルタのためのモノじゃなかったのか?」

 

フレイは痛みをこらえて言った。

 

「勘違いしないでくださいまし!わたくしがウォルタ様なら、こうすると思っただけですわ!」

 

「へへ、そうだな」

 

フレイは笑みを浮かべた。そして手当てを受け終わると、アンに言った。

 

「鬼ごっこはもうやめだ。アン、なるべく遠くへ逃げろ、ウチは今からあいつを倒す!」

 

フレイは脚を引きずりながら、歩き出した。

 

「無茶ですわ! まだ、傷が!」

 

フレイはアンの方を振り向いて言った。

 

「あんなに上手い料理を作れる、器用なアンの手当てを受けたんだ。もう、全快だよ!」

 

アンにそう言い残すと、フレイは土煙を振り払い、魔物の前に姿を現した。

 

「やい! デカ鳥! そんなにウチが食いたきゃここまで来なよ!」

 

フレイが魔物にそう言い放つと、その挑発に乗るかのように、魔物はくちばしを大きく開けて、フレイに向けて突進してきた。

 

「……そう、いい子だ!」

 

フレイの振り下ろした炎の剣が、魔物を切り裂いた。

 

 

 

 

「アン! フレイ! 無事だったのね」

 

二人を見つけたウォルタは急いで駆け寄った。そして、アンを抱きしめると言った。

 

「ごめんなさい。危険な目に合わせてしまって」

 

突然抱きしめられたアンの顔は、蒸気を噴き出さんばかりに、赤くなり、その場に膝をついた。

 

「おいおい、ちょっとファンサービスが過激すぎるよ」

 

フレイが笑って茶化した。

 

「わ、私はただ心配で!」

 

ウォルタも顔を真っ赤にした。すると、呼吸を整えたアンが言った

 

「……ウォルタ様のせいではございませんわ。ご一緒させていただきたいとお願いしたのは、わたくしの方ですもの……それに、フレイさんが守ってくださいましたから大丈夫でしたわ」

 

アンはフレイと視線を合わせて笑い合った。

 

「そう、フレイ……ありがとうね」

 

「へへ、改まって礼を言われるとくすぐったいな。さあ、仕事はまだ終わってないんだ、とっとと済ませて帰ろう!」

 

「……そうね!」

 

「はいですわ!」

 

夕暮れの中、三人はサラ川を後にした。

 

 

 

 

数日後、食堂で食事中のウォルタの背中に、フレイの声が響いた。

 

「ウォルタぁ! 助けてくれぇ!」

 

「どうしたのよ?」

 

「それが……」

 

フレイの背中に声が響いた。

 

「フレイさん! 今日の分のサイン、おねがいしますわ!」

 

フレイが振り返ると、そこには色紙とペンを持ったアンが立っていた。

 

「ちょっとアン、サインはもう何枚と書いただろう! いい加減にしてくれ!」

 

「いいえ、フレイさんのサインも何枚あっても足りませんわ。是非ともお願いしますわ!」

 

アンはキラキラした目で、フレイに訴えった。

 

「そんな目されても、ウチは限界だ! ウォルタ、何とか言ってやってくれぇ!」

 

「好かれるってことはいいことなんでしょ、よかったじゃないファンができて」

 

「そんなぁ!」

 

「フレイさぁん!」

 

それからも、アンの熱烈なアピールは数日間続いた。

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