今日の魔女の仕事~魔女達が照らす明日~   作:ジョン5

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魔女と魔物釣り

「ついたわよ」

 

「おう」

 

ウォルタとフレイの二人は、サラ川の東にあるヒカ湖という大きな湖にやって来ていた。

 

「今日の仕事はこの湖に最近現れた、一匹の魚型の魔物、ギラフィッシュの退治よ」

 

ウォルタは湖を指さしながらフレイに言った。

 

「退治するのは分かったけど、どうやってそいつを見つけるんだ? まさか、潜って戦うのか?」

 

フレイは泳ぐジェスチャーをしながらウォルタに尋ねた。

 

「いいえ、わざわざ相手の得意とする領域には入らないわ。これを使うの」

 

そう言うと、ウォルタは担いでいた長い袋から、釣り竿の様なものを取り出した。

 

「なるほど、魔物を釣るってわけか!」

 

「正解。この釣り竿は対魔物用の特別製、餌も魔物が好む特別な物を使用するわ。これを使って、魔物を水中から引きずり出してから、倒すのよ」

 

そう言うと、ウォルタは道具を広げ、準備を始めた。

 

「普通の釣りは何度かしたことがあるけど、魔物釣りは初めてだ。楽しみだなぁ」

 

「言っとくけど、退治が目的なんだから、獲っても食べれないわよ」

 

「誰が、魔物なんか食べるか! 楽しみなのは、釣りそのものの事だよ!」

 

「そうです。釣りの醍醐味は釣りという行為そのものなのです!」

 

突如、二人の会話に何者かが割り込んだ。二人が振り返ると、そこには釣り竿を抱えた、一人の銀髪のポニーテールの女性が立っていた。

 

「……どちら様?」

 

ウォルタは眉間にしわを寄せながら、女性に尋ねた。

 

「突然失礼。わたくしの名はフウ。釣りが趣味の一人の魔女です。そちらの赤髪のお嬢さんの考えに同調して、思わず話しかけてしまいました」

 

フウはそう言うと、二人にお辞儀をした。

 

「別に構わないわ。私はウォルタ、こっちはフレイ。魔女ってことは、あなたも依頼を受けて、ここに来たってこと?」

 

ウォルタが尋ねた。

 

「いいえ、わたくしがここに来たのはプライベートです。この湖に魔物が出現してからというもの、他の魚たちが住めなくなってしまったと聞き、退治に参ったのです」

 

フウは答えた。

 

「それは殊勝なことだけど、正式な依頼を受けてここに来たのは私たちなの。悪いけど、魔物退治はこっちに任せてもらえない?」

 

ウォルタは申し訳なさそうにそう言った。

 

「そうですか、残念です。しかし、せっかく釣りを通じて出会えたのです。ここは一つ勝負と行きませんか」

 

「勝負ぅ?」

 

ウォルタは眉をひそめた。

 

「ええ、どちらがその魔物を釣り上げることができるかで勝負しましょう。勝負はあくまで釣り上げられるかどうか。退治そのものはそちらにお任せします。どうです?」

 

「へぇ、面白そうじゃん。ウォルタ、やろうよ!」

 

「はぁ、また面倒なことになったわね。まあ、いいけど」

 

「よっしゃ、フウ、その勝負乗った!」

 

二人とフウの釣り勝負が始まった。

 

 

 

 

ウォルタ、フレイ、フウの三人は魔物が出現すると言われるポイントに移動し、少し距離を置いて、各々、釣りを開始した。

 

「勝負と言っても、二対一でこっちの方が有利だけどいいのか?」

 

フレイがフウに尋ねた。

 

「構いませんよ。わたくしは初心者のあなたちより、キャリアが上です。ちょうどいいハンデってやつですよ」

 

「へぇ、言ってくれるじゃん。負けないよ!」

 

「ふふ、わたくしこそ手加減しませんよ!」

 

フレイとフウはお互いの目で火花を散らした。

 

「楽しそうでいいわね、あなたたち」

 

ウォルタは退屈そうに本を読みながらそう言った。魔物専用の餌を使っているとはいえ、この広大な湖から一匹の魚を釣り上げることは、容易ではないことを悟り、暇つぶしを持ってきたのだった。

 

「おい、ウォルタ。本なんか読んでたらせっかくのアタリを逃すかもしれないじゃんか」

 

フレイがウォルタに言った。

 

「別に大丈夫でしょ。魔物相手とは言え、釣りは釣りなんだから」

 

ウォルタは本から目を離し、フレイに言った。

 

「釣りだから、時間がかかるとは思わない方がいいですよ。来るときは意外と早く、そのときが来ますから」

 

「さすがフウ、分かってるな。お、ほら、ちょうどこんな風に……って、え!」

 

フレイの握る釣り竿が大きくしなった。

 

「嘘、もう⁉」

 

ウォルタはフレイのそばに駆け寄った。

 

「よっしゃあ!!」

 

そう叫ぶとフレイは、釣り竿を振り上げ、湖の中から何かが釣り上げられた。

 

「え、これって……」

 

フレイの目の前に現れたのは大きな椅子だった。フレイはその場でずっこけた。

 

「……魔物専用の餌で、家具を釣り上げるなんて、ある意味才能ね」

 

ウォルタが笑いを堪えながらそう言った。

 

「……湖のゴミを一つ取り除いたのですから、お手柄ですよ」

 

フウも苦笑いをしながら、フレイを慰めた。

 

「くそぅ、今度こそ!」

 

フレイは再び釣り竿を湖に振り下ろした。

 

 

 

 

「……全然、釣れない。ウチもなんか持ってくればよかった」

 

フレイが退屈そうに釣り竿を握りながら言った。三人が釣りを始めてから数時間が経過していた。

 

「あなた、最初に釣りが楽しい、どうこう言ってなかったけ?」

 

ウォルタが本を読みながら突っ込んだ。

 

「この時間を楽しめないようでは、フレイさんもまだまだですね」

 

フウは平然な顔をしてそう言った。

 

「そんなこと言っても、退屈なんだからしょうがないだろ。ホントに魔物なんているのかな?」

 

フレイがそうこぼしたとき、三人から少し離れた地点で、大きな水しぶきと共に、巨大な生物が水面から飛び出し、再び水中に潜っていった。

 

「今のって!」

 

フレイは目を丸くしてそう言った。

 

「ええ、間違いない、ギラフィッシュよ。ホントにいたようね」

 

ウォルタは本から目を離して言った。

 

「なるほど。もう少し、遠くを狙った方がいいですね」

 

三人はより遠くのポイントを目掛けて、釣り竿を振り直した。そしてしばらくして、フウの握る釣り竿が大きくしなった。

 

「かかりましたね!」

 

フウはしなやかに、釣り竿を振り上げた。それと共に湖に大きな水しぶきが発生し、釣り針の先には、先ほど姿を見せたギラフィッシュが食いついていた。

 

「しまった!」

 

フレイはそう叫んだ。

 

「ふふ、勝負は私の勝ちのようですね!」

 

フウは勝利を確信し、そう言った。

 

「いえ、まだのようよ!」

 

そう言ったウォルタの声にフレイとフウは振り向いた。見ると、ウォルタの釣り竿も大きくしなっていた。

 

「まさか!」

 

フウは驚いた。

 

「ええ、そのまさか……とは思いたくないけど!」

 

ウォルタが釣り竿を振り上げると、水中から、もう一匹のギラフィッシュが釣り針をくわえながら、姿を現した。

 

「二匹目?!」

 

フレイはそう叫んだ。

 

「馬鹿な、ギラフィッシュは一匹という情報だったはず……これは参りましたね」

 

流石のフウもこの光景に身じろぎした。

 

「約束通り、退治は私たちに任せてもらう……」

 

ウォルタがそう言いかけたとき、その横をフレイが勢いよく通り過ぎた。

 

「ウチが仕留める!」

 

フレイは炎をまとった剣を振り上げながら、ギラフィッシュ目掛けて跳躍し、その体に斬撃を浴びせた。しかし、剣から放たれた火炎は、ギラフィッシュに当たる直前で、鎮火し、フレイはギラフィッシュの硬い体表によって剣もろともはじき返され、水中に落下した。

 

「なんでぇ?!」

 

「なにやってんのよ! 相手は水属性の魔物なのよ。炎のあなたじゃ不利に決まってるでしょうが!」

 

ウォルタは水中から顔を出した、フレイをしかりつけた。そして、地上に戻ってきたフレイに釣り竿を預けて言った。

 

「はい、あんたは釣り竿係よ。今回の戦闘、あなたの出る幕はないわ」

 

「ガーン!」

 

フレイは釣り竿を持ちながら、その場に崩れ落ちた。

 

「私は同じ水属性だから、奴とは純粋な力比べとなるわね。あの硬い体表を打ち抜けるかどうか……」

 

ウォルタは釣り糸の先のギラフィッシュに向けて銃を構えると。魔法の弾を発射した。しかし、その弾はギラフィッシュの体表によって、はじかれた。

 

「なんだよ、ウォルタも出る幕ないじゃん」

 

フレイが口を尖らせてウォルタに言った。

 

「うるさいわね! これから攻略法を考えるのよ!」

 

ウォルタは顔を真っ赤にしてそう返した。

 

「やれやれ、どうやら釣りだけでなく、魔女としてのキャリアもわたくしが上のようですね」

 

二人のやり取りを見かねた、フウが言った。

 

「申し訳ありませんがウォルタさん。わたくしが釣り上げた方のギラフィッシュ、わたくしが仕留めても構わないでしょうか?」

 

「……ええ、まかせるわ」

 

「では」

 

ウォルタの了承を得ると、フウは左手に釣り竿を持ち替え、右手のひらを広げた。そこには魔法陣が描かれており、その魔法陣が発光すると、手のひらの上に大型の槍が出現した。

 

「なんだ! 何もない所から武器が!」

 

フレイは釣り竿を支えながら驚いた。

 

「あれは、収納魔法陣。上級の魔女が魔導具を携帯するためのものよ。それを使えるなんて、フウ、あなた……」

 

「ええ、ただものではありませんよ、わたくし」

 

そう言いと、フウは槍に魔力を込めた。柄に刻まれた魔法陣が発光し、槍頭が小さくも勢いのある竜巻をまとった。

 

「湖に住む魚たちのために、消えてもらいます」

 

フウは左手で釣り竿を振り上げ、ギラフィッシュを槍の射程内まで引き寄せると、右手で構えた槍で、その眉間から胴体を貫いた。ギラフィッシュは一瞬で光の粒子となって消えた。

 

「す、すげー」

 

フレイは開いた口が塞がらなかった。

 

「ウォルタさん、これで分かりましたよね、ギラフィッシュの弱点」

 

フウがウォルタの方を振り向いて言った。

 

「ええ、眉間ってことね」

 

「正解です」

 

ウォルタは再び銃を構えてフレイに言った。

 

「フレイ! 確実に弱点を狙う為にも、もっと奴を引き寄せるのよ! いける?」

 

「ああ、フウみたいに片手だけでとはいかないけど!」

 

フレイは両手で釣り竿を思いっきり振り上げた。

 

「よし、この距離なら!」

 

ウォルタの構えた銃から放たれた閃光が、ギラフィッシュを貫いた。

 

 

 

 

「戦闘は一瞬だったけど、長い待機時間のせいで、無性につかれたわね」

 

ウォルタは腰に手をあてながらそう言った。

 

「まあ、戦闘がすぐ終わったのも、フウがヒントをくれたおかげだけどね」

 

フレイが言った。

 

「そうね、フウ、ありがとう。助かったわ」

 

ウォルタはフウに手を差し出した。

 

「礼には及びません。それより、勝負が引き分けで少し残念でしたが」

 

ウォルタの手を握り、フウはそう言った。

 

「なぁに、勝負ならまたしようよ。今度は普通の魚釣りでさ!」

 

フレイが笑顔でそう言った。

 

「それは面白いですね。いつでも受けて立ちますよ」

 

フウはフレイと握手をした。

 

「では、わたくしはこれで。今日はとても楽しかったです。お二人とも、またお会いしましょう!」

 

そう言うと、フウは二人に手を振って去っていった。二人もその背中に手を振り返した。

 

「また会えるといいな」

 

「会えるわよ、同じ魔女なんだし」

 

「へへ、そうだな……なあ、ウォルタ」

 

「何よ?」

 

「釣り上げた椅子、持って帰って、家に置いてもいいか?」

 

「……ちゃんと洗うのよ」

 

二人はヒカ湖を後にした。

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