「ふんふんふーん!」
ある朝、ウォルタは自宅である一枚の依頼書を見て、小躍りしていた。
「おはよー……どうしたんだウォルタ、今日はご機嫌じゃないか?」
ウォルタは小躍りをやめてフレイに近寄った。
「いつもは不機嫌みたいな言い方は止めて。それよりこれを見なさい!」
ウォルタはフレイの目の前に依頼書を掲げた。
「何々……魔導石・調査依頼?」
「どう、すごいでしょ! 滅多に見つからないあの魔導石の調査依頼よ! 朝一番で掲示板から取って来たんだから!」
ウォルタは目を輝かせながら、そう言った。
「……魔導石ってなんだ?」
ウォルタはその場でずっこけた。
「……あのねぇ、魔導石っていうのは、簡単に言えば、魔導具を強化するためのアイテムのことよ。手のひらに収まる程の小さな石版だけど、古代文明のパワーが秘められているの。それを手に入れれば、魔女としてのパワーアップが果たせるってわけ!」
ウォルタはフレイに早口でそう説明した。
「強化アイテム! それは面白そう! ……だけど調査依頼ってことは、誰かに探すよう頼まれたってことだよな。ウチらは見つけても使えないんじゃないか?」
「ちっちっち、そこがこの依頼の醍醐味よ。一度、依頼者の専門家に渡して、石の解析が済んだら、なんと、その石は発見者の魔女に付与されるのよ!」
ウォルタはいつにないテンションでそう言った。
「それはすごいな!」
フレイも同調した。
「でしょー! ……ってなんか初めてあなたとテンションが一致した気がするけど……まあ、いいわ。魔導石探しに出発よ!」
「おぅ!……朝飯のあとでね」
「……そ、そうね」
ウォルタとフレイは朝食を済ませ。都市ドマンナカから北にある、デコ山へと向かった。
「でっかい山だなぁ!」
デコ山のふもとでフレイは言った。
「なぁ、こんなでかい山の中から、石一個どうやって探すんだ?」
フレイはウォルタに尋ねた。
「これを使うのよ」
そう言ってウォルタはカバンの中から小さな石版らしきものを取り出し、フレイに見せた。
「これは、魔導石の在処を探知できる道具よ。持ち主が魔導石に近づくと音が鳴る仕組みで、魔導石に近づけば近づくほど、その音が大きくなるわ」
「なるほど、やるな、ウォルタ!」
「当然よ。いつかの木の実探しと同じ轍は踏まないわ」
ウォルタはフフンと鼻を鳴らすと、探知機を起動した。すると、探知機は小さな音を発した。
「どうやら、そう遠くない場所にあるらしいわね」
「待ってろよ、魔導石!」
二人は探知機の音を頼りに山の中を進んだ。そして、探知機の音は、二人をとある洞窟の前へと導いた。
「……この洞窟の中ってことか」
フレイは真っ暗闇の洞窟を見てそう言った。
「…………そのようね」
ここに来てウォルタのテンションはガクッと下がっていた。
「よし、行こう! ……ウォルタ?」
洞窟へと脚を向けたフレイとは対照的に、ウォルタはその場で立ち止まっていた。
「……ええ、行きましょう」
ウォルタは苦笑いを浮かべたまま、そう言いながらもその場から動こうとしなかった。
「……ウォルタ、もしかして」
「……何よ?」
「暗いの苦手?」
フレイが苦笑いを浮かべながらそう言った。
「そ、そんなわけ! …………あるわ」
ウォルタはその場に膝を着いた。
「……しょうがないなぁ」
そう言うと、フレイはバッグからライトを取り出して、ウォルタに渡した。
「なんかの役に立つかと思って持って来たんだ。これさえあれば平気だろ?」
フレイは笑顔でそう言った。
「……やるじゃない、フレイ」
ウォルタはライトを握ると立ち上がった。二人は洞窟の中へと足を踏み入れた。
「しかし、暗いわね。ライトがあるとはいえ、ずっといたら気がどうにかなりそうだわ」
洞窟内部をライトで照らしながら、歩くウォルタが言った。
「ホントに苦手なんだなぁ。でも確かに、こんな暗い所で石探しをしなきゃならないのは大変だな」
フレイもウォルタに同調した。
「まったくなんでよりによってこんな場所に……」
ウォルタは歩きながらぶつぶつと文句を垂らした。
「文句言ったってしょうがないじゃん…………ん?」
ウォルタをなだめるフレイが何かに感づいた。
「どうかした?」
「……なんか、空気の流れが変わった?」
「あなた、そんなことわかるの?」
「分かんないけど、なんとなく。とにかく進んでみよう」
二人は足早に洞窟内を進んだ。そして大きく開けた場所に出た。
「随分と広い所にでたわね」
辺りをライトで照らしながらウォルタは言った。
「ああ、まるで何かの住処みたいだな」
フレイが笑いながらそう言った。
「ちょっと変なこと言わないでよ。こんな暗い所で魔物なんかに出られたら……」
ウォルタがそう言いかけたとき、二人の背後で何かが動く音がした。
「まさか……」
ウォルタは振り返って、音がした箇所にライトの光を向けた。そこには岩石でできた、巨人が立っていた。
「……なぁんでこうなるわけ」
ウォルタはへっぴり腰でそう言った。魔物はウォルタに向けて拳を振ってきた。
「ええい! しょうがないわね!」
ウォルタはそう言いながら、魔物の拳をかわし、腰のホルスターから魔法銃を引き抜くと、魔物目掛けて、魔法の銃弾をお見舞いした。しかし、その銃弾は魔物の強固な体の前にかき消された。
「……何か最近、私の攻撃、全然効かないわね。ますます、魔導石が欲しくなってきたわ」
ウォルタは若干、涙目でそう言った。
「おーい、ウォルタ! ライトで魔物を照らしてくれ、ウチがやってみる!」
フレイの言葉に従い、ウォルタは魔物にライトの光を向けた。そして、フレイは助走をつけて魔物に駆け寄ると、炎をまとった剣で魔物を切りつけた。しかし、やはりその強固な体の前に攻撃ははじかれた。
「ダメだぁ! 全然、食らってないよ!」
魔物から距離を取ったフレイが言った。
「不味いわね、分が悪すぎるわ。魔導石が気になるけど、ここは一時撤退よ!」
「分かった!」
そう言うと二人は魔物に背を向けて全速力で走り出した。しかし、この後、二人を思いもよらぬ事態が襲った。突然、二人の足場にひびが入り、地面が割れた。二人はそのまま、崩壊した足場の下へと、落ちてしまったのだった。
「…………いてて、なんなんだよ」
フレイが頭を押さえながらそう言った。
「まったく、この洞窟どうなっているのよ!」
ウォルタも腰をさすりながらそう言った。すると、ここに来て、探知機が今までにない大きさの音を発した。
「ウォルタ、これってもしかして!」
「ええ、この状況、ぜひそうあってほしいものね」
そう言うとウォルタは周囲をライトでくまなく照らした。すると。岩と岩の間に、形の整った円盤状の石を見つけた。
「あったわ! これね、魔導石!」
ウォルタは岩と岩の間から魔導石を抜き出し、手で握りしめた。
「後はこれを持ち帰るだけだけど……」
ウォルタは自らが落ちてきた足場を見上げた。上では魔物が大きな雄たけびを発していた。
「あれを倒さないことには戻れそうにないわね。フレイ、ロープある?」
「ああ、もちろん!」
フレイはバッグから、かぎ爪付のロープを取り出してそう言った。
「なら、とっとと上がりましょう。この魔導石を使って、リベンジよ!」
「おう!」
二人は顔を見合わせてそう言った。
「待たせたわね!」
穴から這い上がったウォルタが魔物に向けて言った。そして先に上がっていたフレイに、ライトを預けた。
「じゃ、作戦通りによろしくね」
「任せて!」
そう言うとフレイは、左手で持ったライトの光を魔物に向け、右手で剣を構え、魔物に向けて駆け寄り、斬撃を食らわした。
「岩人形! ウチが相手だ!」
一方、ウォルタは左手で魔導石を握った状態で、腰のホルスターから、右手で魔法銃を取り出した。
「フレイが魔物を引き付けている間に、準備を完了させないとね」
そうつぶやくとウォルタは魔法銃に軽く魔力を込め、銃に刻まれた魔法陣を発光させた。そして左手に握った魔導石に刻まれた魔法陣を、銃の魔法陣と合わせた。
『デュアル』
ウォルタの握った魔導石が音声を発した。
「石がしゃべったぁ⁉」
魔物と交戦中のフレイは思わず驚いた。
「魔導石に埋め込まれた、古代の音声記録装置よ。これが鳴ったてことは、魔導具に新たな力が加わった証拠だわ。それに『デュアル』ってことは……」
ウォルタは魔法銃を強く握り、再び魔力を込めた。すると魔法銃全体が光に包まれ、その光の中から、
もう一丁の同型の魔法銃が出現した。
「なるほど、こういう効果ね!」
ウォルタは二丁の魔法銃を両手で握ると、笑みを浮かべた。
「ウォルタ、行けそうか?」
魔物から距離を取ったフレイが叫んだ。
「ええ! 単純計算で威力は二倍、これなら!」
ウォルタは二丁の銃を、フレイがライトで照らしだした魔物に向けて構えた。そして、両方の銃の引き金を同時に引いた。二丁の銃から放たれた二本の閃光は、魔物の胴体の一点に収束し、貫いた。魔物は怒号とともに光の粒子となって消えた。
「やっと、闇から解放されたわぁ!」
洞窟から脱出したウォルタは、憑き物が落ちたような顔で言った。
「しかし、銃が増えるなんて、魔導石ってすごいな」
ウォルタの握る魔導石をジロジロ見ながらフレイは言った。
「この程度で驚いてもらっちゃ困るわ。魔導石が魔導具に与える効果の種類は未知数、まだまだ様々な効果を持った魔導石が、世界には眠っているんだもの!」
ウォルタは目を輝かせてそう言った。
「へぇ、それは楽しみだな……それよりウォルタ」
「何、フレイ?」
ウォルタは笑顔で振り向いた。
「その石、依頼者に渡す前に、勝手に使っちゃってよかったのか?」
「……あっ」
ウォルタはその場で石のように固まった。
数日後、無事、解析の終わった魔導石が、ウォルタの元に送られてきた。その時の魔導石を手にしたウォルタのテンションの上がりっぷりは、言うまでもないものだった。