「ウォルタ、水晶の様子は?」
魔物を振り切り、再び捜索を開始したフレイはウォルタに尋ねた。
「……まだ、変化はないわ」
ウォルタは手元の水晶を見て答えた。
「しかし、こんなに魔物が多いなんて、ルリは大丈夫かな。ますます心配になって来たよ」
そうこぼしたフレイの表情には焦りが見えていた。
「フレイ、心配するのは結構だけど、焦っては駄目。それに、ルリも私たちと同じ魔女。そう簡単にはやられはしないはずよ」
ウォルタはフレイに希望を持たせるかのようにそう言った。
「……そうだな」
フレイが何とか落ち着きを取り戻したとき、すぐそばの木の上から、数十匹の魔物が飛び降り二人の前に着地した。
「またまた、お出ましね」
ウォルタは水晶を懐にしまい、魔法銃を手に持とうとした。
「いや、ここはウチに任せてくれ」
フレイがウォルタの前に剣を構えて歩み出た。
「どうにも今のウチは、ルリが心配で焦っちまう。ここは冷静なウォルタが捜索の続きをしてくれ」
フレイは振り返るとそう言った。
「……あなたにしては、適切な状況判断ね」
ウォルタは笑みを浮かべて答えた。
「へへ、そうだろ。さあ、先に行ってくれ! 片付いたらすぐに後を追うから!」
「分かったわ。そんなやつら、とっとと倒して追いつきなさい!」
そう言うとウォルタはフレイと別れた。その直後、水晶が微かながら光を発した。
「光った! もう、すぐそこってことね」
ウォルタは光の導きに足早で従った。
「ルリ! ルリ! いたら返事して!」
ウォルタは辺りを見回しながら叫んだ。手の中の水晶は大きく光を発していた。
「おかしいわね、もうずいぶんと近づいたはずだけど……」
ウォルタがそう言いかけたとき、近くの茂みが微かに動いた。そして、茂みの中から一人の緑髪の少女が現れた。
「……私が……ルリ……です」
そう答えた少女は酷く衰弱した様子だった。
「よかった! 無事だったのね!」
ウォルタはそう言って彼女の元へ駆け寄った。
「私はギルド、ヴィネアのウォルタ。あなたの捜索依頼を受けてここに来たの。もう大丈夫よ。私と一緒に街に戻りましょう」
ウォルタは震える彼女の肩を掴んでそう言った。
「……げて」
ルリが何かをつぶやいた。
「えっ?」
ウォルタは彼女と視線を合わせた。
「……逃げてください! ……奴が来ます!」
ルリが振り絞った声を出した次の瞬間、二人の目の前に巨大な火の玉の姿をした魔物が現れた。
「何、こいつ!」
ウォルタは目の前に突如現れた魔物の巨大さに圧倒され、一歩退いた。
「……私を……追ってきている……魔物です」
ルリが答えた。
「……随分とでかい……けど、火属性の魔物なら、私の相手じゃないわ」
ウォルタはそう言って自分を奮い立たせると、魔物に向けて魔法銃を構え、引き金を引いた。そして、銃から放たれた銃弾は魔物に命中するかと思われた。しかし、その銃弾は魔物の直前で、何かによって、はじかれた。
「……何よ、これ」
ウォルタはあっけにとられた。彼女の放った銃弾をはじいたのは、巨大な植物の蔓だった。しかし、それは別の魔物のものではなく、火の玉の魔物の本体から直接生えているものだった。
「……あれは、私の魔法です」
ルリがウォルタに言った。
「どういう、こ……」
ウォルタがそう言いかけたとき、魔物の蔓が二人を襲った。
「危ない!」
ウォルタはルリを抱きかかえて、魔物の攻撃をかわした。そして、二人は近くの大樹の陰に身を隠した。
「教えてもらえる。あれが、あなたの魔法ってどういうこと?」
ウォルタはルリに尋ねた。
「奴の体をよく見てください、剣が刺さっているはずです」
ウォルタは木の陰から顔を覗かせ、魔物を観察した。すると、魔物の体に一本の剣が刺さっていることを確認した。
「ええ、確かにあるわ。それで?」
「その剣、私のものなんです。私は二日前にギルドのみんなと、この森に魔物退治に来ました。そのとき、突然腰に着けていた剣が消えてしまって。どこかに落としたのだろうかと、探したんですけど見つからなかったんです。そして、魔物の退治が完了し、森を出ようとしたとき、あの火の玉の魔物に襲われたのですが……」
「なぜか、あの魔物の体にあなたの剣が刺さっていたと……」
「はい、そして私と同じ、植物を生み出す魔法を使ってきたんです」
この時ウォルタはフレイと初めて出会った日のことを思い出した。フレイの剣が何ものかによって盗まれたこと、その剣がポカツリーの体に刺さっていたこと、ポカツリーがフレイと同じ炎の魔法を使ってきたことを。
「……ウォルタさん?」
ルリは冷や汗を浮かべたウォルタの顔を覗き込んだ。
「……大丈夫、説明ありがとう」
ウォルタはそう笑顔で答えると、再び魔物の方を見た。そしてその姿に驚愕した。魔物は火の玉の体から、先ほどの巨大な蔓を何十本も辺り一面に伸ばしていたのだった。
(まさか、あの蔓で私たちを探知してる!)
ウォルタがそう思ったとき、背後でルリの声が響いた。
「きゃああ!」
「ルリ!」
ウォルタが振り返ると、ルリは魔物が伸ばした蔓の一本に縛られて捕っていた。魔物はそのまま捕獲したルリを本体の方へ引き寄せた。
「ルリ!」
ウォルタは大樹の陰から身を乗り出し、構えた魔法銃から銃弾を放った。しかし、それらは、他の蔓によって本体に到達する前にはたき落とされた。
「……ウォルタさん、逃げてください! こんな化け物一人で敵う相手ではありません!」
魔物に捕まったままのルリが叫んだ。
「……いえ、一人じゃないわ」
ウォルタがそう言ったとき、どこからともなく現れた炎の斬撃が、ルリを縛りあげていた蔓を焼き切った。
「待たせたな!」
二人の前に現れたフレイは蔓から解放されたルリを抱きかかえて、地面に着地した。
「大丈夫か?」
「は、はい」
フレイの問いかけに、ルリはポカンとした表情で答えた。
「悪い、ウォルタ、遅くなった!」
フレイはウォルタの方を振り向いて言った。
「ギリギリよ、フレイ」
ウォルタは顔に笑みを浮かべて言った。そして、フレイはルリを魔物から遠ざけると、ウォルタの隣に並び立った。
「あいつが例の魔物か。とんでもない見た目だな」
「本体に私の水魔法の弾丸を打ち込めば一発なんだけど、周りの蔓が邪魔で、それが叶わないわ」
「その蔓、全部、焼き切っちまえばいいんだな!」
「そういうこと」
ウォルタは銃を、フレイは剣を構えた。
「行くわよ!」
「ああ!」
二人は大地を蹴って疾走し、魔物との距離を詰めた。もちろん、その二人目掛けて魔物の蔓が襲い掛かる。
「食らえぇ!」
フレイの振る炎の剣が魔物の蔓を次々と切り倒していった。ウォルタも、フレイをカバーするように、水の弾丸を蔓に浴びせた。しかし、蔓の発生スピードは異常なほどで、いくら切られても、その本体から新しい蔓が発生し、二人に襲い掛かった。
「……やはり、あの蔓、魔法で発生しているだけあって、きりがないわね」
ウォルタが魔物の蔓をかわしながら言った。
「どうするんだよ?」
フレイが次々に発生する蔓を切り裂きながら尋ねた。
「奴の蔓の増殖スピードより早く、本体を丸坊主にするしかないわ。フレイ!」
そう言うとウォルタはフレイに何かを投げ渡した。
「……これは……魔導石か! よし!」
フレイは蔓から一旦距離を取ると、自らが握る魔法剣に刻みこまれた魔法陣に、魔導石の魔法陣を合わせた。
『デュアル』
魔導石から音声が流れ。剣が光に包まれると、光の中からもう一本の剣が現れた。
「二刀流か、これなら!」
フレイは両手に握った魔法剣に魔力を込め、それぞれの刀身に炎を灯すと、魔物目掛けて疾走し、襲い来る蔓を次々に焼き切った。そのスピードは蔓の増殖スピードをはるかに上回り、やがて、魔物本体はただの巨大な火の玉と化した。
「行けるか! ウォルタ!」
フレイは叫んだ。
「ええ!」
ウォルタの構えた魔法銃から放たれた閃光が、巨大な火の玉を貫き、光の粒子へと変えた。
ウォルタとフレイは、ルリを無事救出し、マリーたちと合流した後、森を出た。
「みなさん、本当にありがとうございました!」
ルリはガープの皆の手当てを受けながら、ウォルタたち全員に何度も礼を述べた。
「礼なんていいのよ。あなたが無事でよかったわ」
ウォルタはルリに向けて微笑んだ。
「だな!」
フレイも笑顔でそう言った。
「……あの、ウォルタさん」
ルリが自身のカバンから何かを取り出した。
「何?」
ウォルタは尋ねた。
「ウォルタさんって魔法銃使いでしたよね。これ、お礼ってわけでもないんですが……」
ルリはウォルタにカバンから取り出したものを見せた。
「……これ、魔導石じゃない!」
「はい、私のギルドが以前、見つけたものなのですが。その魔導石、どうやら魔法銃使いの方が一番効果を引き出せるようなものらしくて。私の仲間には銃使いはいないですし、よかったら、お使いください」
ルリはそう言って笑顔でウォルタに魔導石を渡した。
「ありがとう。大切に使わせていただくわ」
ウォルタは受け取った魔導石をバッグにしまった。そして一行は、グルの森を後にした。その帰り道、ウォルタはフレイに尋ねた。
「……ねぇ、フレイ、以前、ポカの森で戦ったポカツリーの事を覚えてる?」
「ああ、覚えてるよ。それが?」
ウォルタはルリから聞いたことを話した。ルリの剣がフレイと同じように何ものかによって盗まれたこと、その剣が同じく魔物の体に刺さっていたこと、同じく魔物が剣の持ち主と同じ魔法を使ってきたことを。
「……つまり、あの時、ウチの剣もルリの剣を盗んだ奴と、同じ奴に盗まれたってことか」
「ええ、間違いないわ。何が目的かは知らないけど」
「でも、意外だな、ルリの奴ああ見えて、森の中で居眠りするなんて」
「ルリは居眠りしてないわよ。森で居眠りするのはあなたぐらいよ」
「え、そうなのか?」
「そうよ」
ウォルタはため息混じりにそう答えた。そして、その二人の姿を遠くの木の上から眺める者がいた。
「……実験終了。ギルド……ヴィネアのウォルタ、フレイ……不安要素に確認……帰還する」
そう言うと、紫色のサイドテールの少女は姿を消した。