鬼呪の刃   作:斗穹 佳泉

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各キャラクターのしゃべり方手引書とかないですかね?





追記;一部誤字脱字の訂正


第一話

私が四回目の誕生日を迎えた頃からだろうか。

 

 

母は私に暴力を振るうようになった。

最初こそ、暴言や無視というかわいいもので、しかしその数か月後には殴る蹴るが当たり前となっていた。

 

プライドの高かった母は、父に捨てられたことを娘の私のせいだと思っていたのだろう。

私が産まれた年のひとつ前に、父は「仕事で数年ほど帰ってこれない」と言ったっきり、もう明日で六回目の誕生日になるが、帰ってきていない。

 

母は『柊家』という、代々占い術師を輩出してきた名家の分家筋だった。珍しく分家の中では占い術に素質があったが、本家の人たちには遠く及ばずといったところで。

 

 

それもまた、娘への虐待に拍車をかけていたのだろう。

プライドの高さ故捨てられることもなく、周りに音などが聞こえない、地下に作られた部屋でただ虐待を受ける日々。

 

それは誕生日だろうが変わりない。

六回目の誕生日を迎えたその夜に、やはり母は私を何度も棒で叩き、蹴り、暴言の嵐を巻き起こす。

少女は身を小さくし、ただ痛みに耐えようとする。

そう、いつも通りに。

 

 

 

 

 

いたい、やめて、怖い、助けて、どうして?なんで私ばっかり?

 

 

 

 

 

それは、私の心の声。

ボロボロになってもまだ叫ぶ、心の声だ。

 

しかし六回目の誕生日を迎えた夜の心の声は、いつもの声ではなかった。

 

 

 

 

『にゃはは、すごい、すごい欲望だよ。愛されたい愛したい大切にしたいされたい逃げたい。ようやく心の壁を下げてくれた。それとも、無意識のうちに心が僕の侵入を拒んでいたのかな?でも、安心して。僕は君の欲望を喰らうことで、力を貸せる。僕が君の心を、君を、救ってあげる。ほら、僕に身を任せて?君には、この地獄を抜け出す権利があるんだよ。誰かに助けを求めてもいいんだよ。僕が助けてあげるから』

 

 

 

 

その瞬間、泣くことを諦めた私の眼は大きな雫を零し、助けを諦めた心の壁は崩壊した。

その、いつも通りでない娘の姿を見た母は、より一層暴力を振るう。

 

 

ずっと誰かに救ってほしかった。

母から父から、人から、愛されたかった。

 

 

身体が熱くなる。幼い小さな心臓は激しく脈打ち、母譲りの眼は朱色に染まっていく。

異変を感じ取ったのか、遂に母の暴力を振るう手が止まる。そして、分家とはいえそれなりの占い術を行使できる母は、一瞬で己が未来を悟ったのだろう。

 

 

「ゆ、許しておくれ!ゆるしておくれ!夜永(よな)、どうか許しておくれ!」

 

 

そう言いながら土下座する母に、少女は自然とため息と乾いた笑いを吐く。

 

 

「あはは……母上。私はただ、愛されたかった。父にも母にも愛されたかった、愛したかった。でも私には父上などいなかった、母上だけだった。……母上、父上を愛しておられなかったのですか?父上との間にできた私を、愛してはくれなかったのですか?」

「あ、あなたも、あの人も、愛していた!私は、私は愛していたのに!なのにあの――」

 

 

母の言い訳は途中から聞こえなくなった。

刃が走る音が室内に響く。

いつのまにか私が手にしていたのは、暗い、昏い紅に光る刀。

ドクンドクンと脈打つような刀は、妙に手に馴染んだ。

次いで響いた音は、ゴトっという、重い音。そして、噴水のような水の音。

その様子を私は、ひどく客観的に、まるで誰かの眼を通しているように見ていた。

 

『にゃははっ、どう?ねぇどう?楽しいでしょっ?すっきりしたでしょっ?自分を散々虐めてきた相手の頸を落とすのっ!愛など向けずに、ただ自分しか愛してなかった相手の頸を落とすのはっ!』

「あはは、えぇ、そうね。だけど……だ、げど……どう、じて、こんなに、涙が出てぐるのかなぁ……」

 

 

愛しい母だったモノを抱えて、六つになって初めての夜を、少女は泣き通した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母を亡くしたあの夜のことを、今でも思い出す。

実際に母を失ったのは、もっと前だったかもしれないが。

 

 

「……おい、柊」

「……あ、ひゃい!?な、なんでしたっけ?冨岡さん」

 

 

 

物思いに耽るのは私の悪い癖だ、しゃきっとしなきゃ。

今は水柱の冨岡さんとの任務中である。これからは柱も連携して戦う機会があるかもしれないから、と最近は柱同士で任務にあたることが多くなっているのだ。

 

 

「出た」

「……え!?いや、あの、ですから、言葉が足りていないんですってば!なんですか出たって!そんなんだから他の柱の人達から嫌われるんですよ?えぇっと……“鬼が北の山に出たから急いで向かうぞ”ですか?」

「……俺は嫌われていない」

 

 

冨岡さんは一瞬、どうして俺の言ったことが理解できたのかと驚きの表情を見せたけど、すぐさま真顔になって嫌われていることを否定した。

残念ながら嫌われているというか、距離を置かれているのは事実なんだけど、いつ気づくのでしょうかこの人は。

 

まったく、もう何回目の合同任務だと思っているんですか。

仮にも私は占い術師を輩出してきた柊家だった者ですよ、人の表情や癖を見抜けないとでも?

『でも夜永(よな)はちょいちょいドジだから、人のこと言えないんじゃない?』

「う、うるさいですよ『輝夜(カガヤ)』!私はドジじゃありませんっ!……あっ」

 

ゆっくりと横を見ると、富岡さんの可哀想なものを見る目と目が合う。

ま、またやってしまった……。

 

『輝夜』との対話は夜永の心の中で行われるため、傍から見れば、突然独り言を話し始めたように見えるのだ。

 

「あ、いや、ええと、今のはですね富岡さん」

「……わかっている」

「絶対わかってませんよね!?何が“お前にもきっと何かあるのだろう。聞くのがまずいというのはわかっている”ですか!?私何度も話しましたよねぇ!?」

 

そう、私は何度も柱の人達に私の心に棲む鬼『輝夜(カガヤ)』について話しているのだ。

初めてそれを話した柱合会議の時の、柱全員からの可哀想な人を見る目ときたら!

その時十五の私が泣き崩れるのは仕方ないことですよね!?

それからというもの、私が独り言(輝夜との対話を口に出してしまったとき)を吐いてしまうと、「架空の人物を創らねば心がもたなかったのだろう」と慈愛や可哀想な目が向けられるのが常となっている。

ちなみに、よく甘露寺さんにはカフェーに引っ張り回され、悲鳴嶼さんには常に念仏と言葉をかけてもらっている。

 

 

まったくもう!なんでこんなことに……とは思いながらも、足を動かし翔ける。

六つの時に母を斬って家を飛び出して以来、私の腰は黒い鞘を持つ刀を差している。

私がもういいよ、と念じたら消え、おいでと念じたら現れる刀であり、私の心に棲む鬼『輝夜』が私に貸してくれた力である。

魔術師(まじしゃん)でもないのに刀を出したり消したりすれば目立つからと、憲兵隊に絡まれそうな時以外は常に出しているのだ。

 

『いっそ魔術師(まじしゃん)として名を挙げてもよかったんじゃない?むしろその方がお父さんを探しやすかったと思うけどなぁ』

『私、なんとなく鬼殺隊にいる方が父に会える気がするの。私に流れる柊家の血がそう言っているの。まぁ根拠はないから勘だよりなんだけどねぇ』

『夜永の勘は当たるからねぇ。ま、とにかく今は任務でしょ?僕が力貸そうか?』

 

『輝夜』は私の欲望を喰らって力をくれる。欲望に忠実になればなるほど、その力は大きくなり、制御もまた効かなくなっていくのだが。

 

『必要ないよ、今回は簡単な鬼だからね。それに、ほいほい『輝夜』に力借りるために欲望を浮かべてたら、乗っ取っちゃうでしょ?』

『もっちろん!だって夜永の欲望おいしいんだもんっ!まぁでもその心配はあまりしなくてもいいと思うよ。君の心の壁は高くて分厚い。唯一崩壊したのはあの時だけで、それ以降崩れたことはないよ。そのおかげで僕はお預け状態継続だよまったく』

 

あはは、と『輝夜』の文句を苦笑いでかわし、さすがに意識を集中する。

もう結構な距離を走ってきている。

そろそろ鬼が現れてもいい頃だろう。

 

ふぅー、と呼吸を整える。

全集中・常中は普段行っている。

私がこれから行う呼吸は、私オリジナルだ。

 

「さぁてじゃ、始めましょうか。『鬼の呼吸・全集中・戦中』!」

 

 

 

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