鬼呪の刃   作:斗穹 佳泉

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ルビの振り方を初めて知りました。




第二話

「ちょっと!聞いているんですか冨岡さん!なんのための合同任務だと思っているんですか!?」

「……大丈夫だ」

「“俺が単独行動したせいで罰が下るような事があれば、俺だけに罰を与えるよう頼むから大丈夫だ”?寝ぼけてるんですかあなたはっ!?急にいなくなったから、鬼の血鬼術にはまったのかと思って構えてたんですよ!?」

「……聞いたことないな」

「だ!か!ら!ちゃんと思ってること全部声に出してくださいよ!?そんな血鬼術を持った鬼の話をしているわけじゃないんですよ話をすり替えないでください!ていうか鬼はちゃんと倒したんでしょうね!?」

 

ズレている会話にイライラを覚えながらも、夜永(よな)は早口で捲し立てる。

『全集中・戦中』はちょっと疲れるんですよ!?

胡蝶さんほどではないけど非力の私が頸を斬るにはこれしなきゃいけないんですよ!?

まったく、冨岡さんが単独行動して鬼を倒したなんで。

なんでこう、この人は独りで突っ走りたがるんでしょうか。

 

「……あぁ、問題ない」

「……今、冨岡さんの言っていることが読み取れませんでした。今回は裏に潜む言葉はないということなのかな」

 

冨岡さんの言葉の奥を読み取れない、ということは、たまにあることだ。

微妙に表情が読めなかったり、声音が変にブレていたりしてよくわからないときがある。

これまでの経験からすると、言葉に裏がない、本当にただそれだけをしゃべっているのだろう。

 

一瞬冨岡さんはビクッと体を震わせた気がしたけど、気のせいだろう。

 

 

この時、冨岡が単独行動していたときに何をしていたかを夜永が知るのは、それから二年と少し経ってからだったりする。

 

 

 

 

柊 夜永(ひいらぎ よな)。俺はこの娘が不思議でならない。十六にして柱となったからには、腕は確かであり、それも間近で何度か見てきた。

時折、というか毎回俺が話したことに対し適切に言葉を補足しては反応を返してくれる観察眼には驚かされるばかりだ。

可哀想な一面(独り言)もあり、より一層彼女を不思議と表現せざるを得ない。

彼女の羽織も独特だ。甘露寺や胡蝶のような細かい作りがなされているのもではなく、黄色の生地に赤い彼岸花と白い彼岸花というシンプルなもの。

暗い紫でなはく、明るい紫の髪を腰付近まで伸ばし、朱色に染まった瞳には、おぞましい何かを感じる。普段柱や隊士と話すときはゆらりとした口調や態度で、そんなおぞましさなど感じるはずもないのだが……。肌が常人に比べ白いからだろうか?

鬼滅隊士の中でも美人、と呼ばれる部類に入るのだろう。甘露寺のそれとはまた違う方向性だとは思うが。

 

未だにわーきゃー叫ぶ年下の同僚を横目に、冨岡はそんなことを考えていた。

 

そこへ五月蝿く鳴きながら、鴉が舞い降りる。

 

「カカァ!東ィ!ここより三つ先の街で人が惨殺される事件ありィ!鬼柱・柊夜永は直ちに向かうべし!水柱・冨岡義勇は報告のため帰投すべし!」

 

カカァカカァ喚く鴉にうんざりしながらも、わかったとばかりに顔を顰めながら夜永は手を出すと、鴉はふわっと手に停まる。

一般的な鴉の黒に比べて赤黒い羽を持つこの子は、『輝夜(カガヤ)』の刀を似てて愛着が湧くのだが、頭に響くこの鳴き声はどうにかならないものだろうか……。

 

「それじゃあ、私は新しい任務に向かいますね。お館様への報告はよろしくお願いします」

「……わかった。気をつけ……行ってしまったか」

 

 

夜永は、冨岡のわかったの部分だけ聞いて、東へ走り出す。

 

途中の街で休憩を挟み、馬車で一日の距離を四刻で走り切る。その距離をその速さで駆け抜けたにも関わらず、夜永(よな)の息は上がっていなかった。

 

『ん~、やっぱりおかしいんだよなぁ。ねぇ夜永、君って普通の人間?って聞きたくなるタイミングが今までもいくらかあったんだけど。さすがにこれだけあの速さで走って息が上がらないのはおかしいでしょ』

「ん~、そうなのかなぁ?そういう体質なのかもよ?甘露寺さんみたいな。それか、私って稀血なんでしょ?それのせいかも」

 

 

確かに彼女は稀血であり、軽い傷ならすぐに閉じて気づいた頃には綺麗になくなってしまう、という特殊体質である。

その体質故に、虐待を受けても傷が塞がるばかりで、誰にも助けられず、信じてもらえず、助けを求めることができなかったのだから。

その体質も『輝夜』が心に棲んでいるからなったのではなく。

『輝夜』曰く、遺伝性のものらしい。

母は占い術の家系だ、そんな体質ではなかった。

……では、父が?

 

という風に、自分と母に関することを突き詰めていくと、必ず父にぶちあたる。

だからこそ、夜永は父を探しているのだ。

 

『(体質、ね。治りが早すぎることは置いておいても、夜永のオリジナルと言っている『鬼の呼吸』も本当は、僕が夜永の心に棲んでいるからできた訳じゃない。あれは稀血であることを考慮しても、人ができる呼吸法じゃない)』

 

そんな心に棲まう鬼の内心など知る由もなく、ゆらりゆらりと夜永が足を進めていると、件の家に着く。

未だに血の跡がくっきりと残る現場に、思わず顔をしかめる。血のにおいも、まだどんより残っていた。

 

「うっ……やっぱり人の血のにおいは慣れないなぁ。気分が悪くなっちゃうし、身体が変に熱くなっちゃう」

 

懐から布を取り出しマスクの代わりにする。

さすがに死体は憲兵によって片付けられているためここにはないが、血の飛び散り方からその鬼の戦闘スタイルを知れる。

 

「……爪、かな?これ。……ん?このにおい、どこかで嗅いだことあるかも。どこだったかな……?」

 

ふと鼻をついたにおいを脳内で検索するも、結果は芳しくない。

ともかく、ここですることはもう終わった。あとは街を歩き回ったりして情報収集するしかない。

ん~、なんとなく西から回ろうかな。

 

 

と、いうことで聞き込みを初めてはや半刻後、甘味屋を発見。甘いにおいにつられてきゅるると胃が音を鳴らす。一時歩き回るのは中断しよう。お腹が空いてはなんとやらというやつである。

好物のみたらし団子、三色団子と抹茶を注文し、少し休憩することにした。ついでに情報収集も忘れない。

 

「最近、この街で何かあったって聞いたんですけど、何があったのか知ってますか?」

「お嬢さんは知らないのかい?この辺では中の良い夫婦で有名だった夫妻の妻の方が一昨日、死体で発見されたんだって。しかし出稼ぎに出てる夫は可哀想にねぇ。ついこの間、仕事で何年か帰れないと言ってたからねぇ」

 

甘味屋のおばちゃんの話を聞いた瞬間、夜永の身体がビクッと反応を示す。

いやいや、落ち着こう私。そんな、数年出稼ぎに行く夫なんてこの時代当たり前。そうだよ、何を慌ててるんだ私。

私情を抑え、ひとまず頭の中にメモをする。夫がいると聞いて真っ先に浮かんだのは、夫が鬼になり妻を襲ったという推測だが、少し前に街を離れているならその可能性は低い。

 

「その夫の方について教えていただくことって出来ますか?」

「えぇいいわよ。肌はかなり白い人だったわね。そういえば、お嬢さんも肌は普通の人に比べて白いわね、いいところのお嬢様だったりするのかしら?」

「そ、そんなところです……ちょっと色々あってですね、お察しください」

「あら、失礼なことを聞いちゃったわね……。身長はあったから筋肉はそれなりについていたんだろうけど、肉体労働はしてなさそうだったわ。あのやわらかい笑顔と来たら、私でさえ惚れてしまいそうだったよ。そういえばいつもシャキっとした洋服を着ていたね。あぁそれと、可哀想なことに、子宝には恵まれなかったようでね。妻の方がうちの常連さんだったから、相談にのったりしたこともあったね」

 

他はそうだねぇ、そうそう、二人でうちの和菓子を食べに来てくれた時はね、とこれ以上は思い出話になりそうだったのでそそくさ団子とお茶を頂いた。

任務とは関係なさそうだが、私にとって重要な情報だった。私の父と同じ様な境遇にあった人の情報。あまりにも、私の父の当時の状況に似ている。そして私の肌のように、その夫の肌は白いと言う。こんな偶然があるだろうか?

仮に私となんの関係がなかったとしても、父につながるかもしれない情報だ。

情報はしっかりと彼女の頭の中に、重要事項としてメモされた。

 

ごちそうさまでした~、と甘味屋を出る。なんだかんだ美味しくて、おかわりを三回ほど話の中でしていたのは内緒のお話。

 

 

 

父に近づくための情報が偶然手に入ったので心はウキウキだっが、まだ父のこととは決まっていないと自分を戒め、任務中であることを思い出し気を引き締める。

 

その後聞き込みを続けても、結果的に鬼に関係するような情報は得られなかった。

夫の方は先ほど話に出たように、少し前からこ街を離れているため、夫が鬼になり妻を殺したとは考えにくい。

となると、やはり野良の鬼ということになるのだが、ただの野良鬼が人間一人だけを襲うだろうか?

しかも、食べる訳ではない。それなのに、殺しをする必要があったのか?

 

「とにかく、向かうは西かなぁ。来た道になっちゃうけど」

 

鬼は太陽光を受けると灰になってしまうため、無意識下、本能的に西に足を運ぶことが報告されている。

今回みたいに野良鬼が関わっていると疑われるときには、西を調査するのが基本となっていた。

 

「冨岡さんとの任務ですごい肩透かしを受けたから、今回こそは鬼を相手にするよ!まだ二日しかたっていないなら、見つけるのは簡単だろうからねっ」

 

もうすぐ陽が沈む。これからが鬼が活動し始める時間帯だ。

鬼殺の字が刻まれた隊服の上に着た彼岸花の羽織を翻して、少女は早足で街道を通り抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、事件の当日。

 

件の家の中で、今し方殺した女を見下ろして、一人の男が苛立ちを含めた声を吐きだした。

 

「今回も子は為せなかったか。やはり稀血と私の鬼の血は相容れない性質なのだろうか」

 

今より十年と少し前にも同じ実験を行ったが、今回も同じ結果に終わってしまった。

前回は、妻が夫である私から愛情を感じきれなかったからなのではいかと推測し、今回はそうならぬ様振舞ってきたが。

 

「やはり段階がまだだったか。しかし、一般の民の子が鬼の血の力に耐えられるとは考えにくい。こちらから先に実験すべきか」

 

真っ白な肌に紅い目をした男は憎々しげに妻だったものを見る。前回の時もこうして始末するつもりが、当時は野良鬼が付近で暴れまわったおかげで、鬼殺隊がぞろぞろと付近に集まっていたため、面倒を避けるため殺さなかったのだ。

実験をする以上、下調べは入念に行っている。プライドの高いあの人間なら何も漏らすまいという確証があったという理由もあるが。

 

ここら一帯の野良鬼は予め排除しておいたため、邪魔される等ということはない。

 

「とはいえ、この街では姿を見せすぎた。次は時間を空け遠い街で探そう。鳴女」

 

そう彼が呟くと、琵琶の澄んだ音が、一音響く。

 

次の瞬間には、男の姿は跡形もなく家から消えていた。

 

 

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