鬼呪の刃   作:斗穹 佳泉

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柱の方々との人間関係をどうしようか悩む日々。



第四話

「……あれ、知ってる天井だ。……これすごく不味くない?またお説教を受けなきゃじゃない?」

 

目覚めてからの開口一番これである。

もそもそと布団から起き上がろうとするも、右手が何故か動かないため、苦戦する。

なんとか起き上がり布団を捲って見えた自分の惨状に、わぁお、と驚きの声を上げてしまった。

右腕は包帯で覆われ、若干きつく巻かれた胸元の包帯。

右手が動かない理由は包帯のせいではなく、本当に動かない、ということがなんとなくわかった。

自分の身体を確認した後、夜永(よな)はこれから起こる事に溜め息を吐き、その時を待った。

 

ちなみに事というのは、ドッタドッタ足音を響かせながら近づいてくる同期の彼女からの、お説教だ。

 

 

「夜永!起きたんですね!一体何があったんですか!?朝、門を開けたら夜永が血塗れで倒れているのを発見した私の気持ちわかります!?えぇわかりませんよね!?以前も一回ありましたよね門の前で血塗れで倒れてるの!あの時は心臓が口から飛び出るかと思ったんですよ!?なんでまた同じ体験させるんですか!?」

 

障子を突き破らんばかりの勢いで入ってきた彼女に抱きしめられながら夜永は、あー、これ今回はどうやって切り抜けようと思いつつその後もお説教を受け続けた。

 

四半刻ほどお説教が続いた後、ようやくしゃべることを許された夜永は、これまでの経緯を布団の隣に座るアオイに覚えている分話し始める。

 

「えと、あのですね、アオイさん。かくかくしかじかで、今この状態です」

「あのですね、夜永さん。かくかくしかじかでこれまでの経緯が伝わるのはお話しの中だけですからね。じっくりお話しを聞きましょうか」

 

 

呆れた眼でお説教主の彼女、アオイは、包帯だらけで布団に寝かせた同期を見る。

こうして夜永の手当てをするのはもう何回目だろう。

最終選別で夜永が私を庇った時の傷を手当てしたのが最初だったかな。

……最近は怪我の度合いがすごいことになってきているけど。

夜永のせいで(おかげさまで)私の医術力がだいぶ上がってきて、蝶屋敷での治療を任せられることもしばしば。さすがに内臓のことまでは、まだよくわからないけど、外傷なら一人でもなんとかできるようになった。

 

今回、特にひどいのは右腕だ。脆い木の棒を思いっきり振り抜き、急に止めると勢いで棒は折れて吹っ飛んでいってしまう。夜永の腕はそんな棒のような状況だった。繋がっているのが不思議なくらいの怪我の仕方だ。一体何があったんだろう、こんな怪我をするなんて……。

心臓はしのぶ様に診てもらったところ動きが鈍っているらしく、激しい運動をすると血液が身体に回らなくなり、即ぶっ倒れるから動かさないようにと言われてますし。

 

不思議なくらい早く傷が治る夜永の身体といえども、無理はさせられない。

今日はやめにしときますか、と一つ息を吐き、アオイは今の夜永の容態を伝える。

 

「……いえ、詳しく聞くのはまた今度にしておきましょう。大体把握してると思いますが、右腕は、そうですね、一ヶ月は安静にしておくように。いいですか?絶対安静ですからね?破ったら薬湯たらふく飲ませるので。それと、しのぶさんからですが、心臓の動きが鈍いらしいので、激しい運動は控えるようにとのことです。それでは、私は別の仕事があるので」

 

アオイはそう言うと立ち上がり障子に手をかける。

ふと振り返り、

 

「……またね、早く元気になってね。無事でよかった、おかえり」

 

さっきまでの怒った表情とは全然違う、やわらかい笑顔でアオイは親友に言った。

 

「うん。ただいま」

 

その親友の笑顔に夜永も笑顔で返す。

トットットと、先程より軽い足音を響かせて、彼女は仕事へと戻っていった。

 

お説教が終わると、いつもおかえりを言ってくれる。

家族がいたらこんな感じだったんだろうなぁと思いながら、親友の可愛い場面を見れてつい頬がゆるんでしまう。

 

 

「アオイは心配性ですものね。でもあの娘、あなたのおかげで良い医術師になりつつあるんですよ。今やネガティヴな思考もどこへやらです」

「そうですね。いつも私は助けてもらってばっかり……!?気配消して部屋に入ってこないでください胡蝶さん!びっくりするじゃないですか!?」

 

いつの間にか部屋にいた彼女に、夜永は驚きの声をあげる。

驚きで心臓が痛くなったのはまた別のお話である。

 

彼女は、無事で良かったです、と笑みを零し、わざとらしく「あれれ~?」と付け加えてすっとぼけた。

 

「胡蝶さん?誰ですかその怪我人の部屋に気配を消して侵入する非常識な方は」

「あなたのことなんですけど、胡ちょ、あ、えと、しのぶさん」

「しのぶさん?また知らない名前ですねぇ」

「……しのぶ姉さん」

 

端から見ると、この上なくめんどくさい部類に入るであろう会話の相手は、蝶屋敷の持ち主である胡蝶カナエの妹、胡蝶しのぶである。

年が一個上のこの人は、何かと私といるときお姉ちゃんぶる。

ちなみにカナオとは全然違う接し方で、私に対してだけめんどk……失礼、かまってちゃんなのだ。

もちろん、これにお返しするのが私の日課でもあるのだけど。

ほら、あれだね。普段奥手な姉のために、甘露寺さんではないけど恋路を応援してあげなくちゃねっ。

というか、姉さんが私の身体診断したくせに驚かせるのはどうなのよ。

 

「しのぶ姉さん、いつになったら冨岡さんに告白するんですか?」

 

夜永が言った瞬間、空気が変わる。

ピシッと凍りついた笑みを浮かべて、しのぶは全集中・常中のまま息を深く吸うと

 

「あは、何を言ってるんですか妹といえどそういう発言は看過できませんね何を根拠に私が冨岡さん好いているなんて言っているんでしょうねこの娘は私は別にあの嫌われ体質なのに嫌われていないって言い張る冨岡さんの姿を可愛いだなんて思ってませんよ口下手なのは自分がしゃべると空気を壊してしまうだろうからという配慮からくるものだとどうして私が理解できると思うんですかしかも実は動物が好きとか言うギャップに萌えたなんて思ってるわけないじゃないですかしかも一番好きなのは兎ですよ兎冨岡さんが兎ってもう可愛い以外表現の仕方ないですよねこの前冨岡さんの後をこっそりと尾けていたら笑顔で兎撫でてたんですよその時キャメラがあったら絶対写真に残していたのにあの冨岡さんの笑顔なんて見る機会ほとんどないのに!」

 

 

などと申しております、同士『輝夜(カガヤ)』。

『なるほど、ラブコメ送りだ』

 

 

 

表情の一切を凍りつかせて一息で義勇への想いをぶちまけるしのぶ。

彼女は普段から冨岡にドジだの天然だの物申していたが、当の本人もこれである。

 

普段の奥手な姿は何なのかという疑問で夜永は今一度頭を悩ませる。

いつものように飄々と冨岡さんにくっつき、一言告げるだけで簡単に落ちそうなものなのに。

 

それはさておき、と。

 

「心臓、どれくらいでよくなりそうなの?」

 

そう聞くと、しのぶ姉さんの顔は凍りついた笑みを崩し、医者の顔になって、真面目に話しだす。

 

「そうですね、はっきりとはわからないけど、一ヶ月は診た方がいいわ。右手と同様に絶対安静ですからね。運動しているとこを見かけたら、私特製の『栄養ドリンク』を飲ませるので、そのつもりで」

「し、しのぶ姉さん特製の栄養ドリンク……。気をつけさせていただきます」

 

若干青褪めながら夜永はしのぶの”命令”に頷いた。

 

しのぶ姉さんの薬湯はただでさえ苦く嫌な味なのに、それの遥か上位互換の様な物など飲めるわけがない。しかも、姉さん特製という言葉、絶対いけないやつだ。

 

療養期間中、夜永(よな)は決して運動はしまいと心に誓った。

 

しのぶが去った後夜永は、やはりしのぶさんの相手は疲れる、と布団に倒れ込み独り言を吐き始める。

 

「『輝夜(カガヤ)』、ありがと。あなたがいなかったら危なかったんでしょう?助けてくれてありがと」

『まったく、君の精神と心が切り離されている状態はどうにかならないものかな。夜永の悪いとこだよそれ。それに君が注意を怠った結果、危うく右t、じゃなかった、肺に血が大量に入って運動能力低下するところだったぞ』

 

ありがとうに文句で返す鬼に思わず苦笑を漏らす。

……ん?今右手って

夜永の思考を遮るように『輝夜』は続けた。

 

『心臓を完璧に治してもよかったんだけど、それすると体力がなくなって一ヶ月はあの林で寝てたからな。夜永は欲望も喰えないから力も出せないし。それでなんとか動けるまで回復させて、屋敷まで来た』

「うん、それはそうと、さっき右手って」

「右手は絶対安静ですよ?」

「そりゃもちろんわかってるけど……え?」

 

自然に会話に入ってきたその声は心の中からではなく、障子からひょこっと顔だけだして微笑む彼女から発せられたものだった。大人びた座敷童みたいだと思ったのはここだけのお話し。

 

「あらあら、しのぶが嬉しそうに歩いていたと思ったら、夜永起きていたのね。無事で良かったわ。また心の鬼と話していたの?」

「心配おかけしました、カナエさん。この通り、もう大丈夫です。カナエさんは鬼と仲良くするのが夢ですもんね。正直、一人でも信じてくれる人がいてくれて嬉しいです」

 

言葉とともに苦笑いをこぼす。

今日は何回苦笑いをするのだろう。

苦笑いカウンターとか設置してみようか。

その考えにもやはり、苦笑いをした。

 

そんな苦笑いを繰り返す私を見て、無理をしていると思ったのか、カナエは微笑むと

 

「ごめんなさいね、夜永。まだ本調子には程遠いだろうに、押しかけてきて。ゆっくり話すのはまた今度にするわ」

 

そう言ってカナエは部屋を出ていった。

その足取りは非常に軽く、鼻歌まで聞こえてきそうだった。

 

 

これでゆっくり、とわいかず、カナエと入れ替わりでカナヲが部屋に入ってくる。

もしかして今日はお見舞いパレードの日なのかもしれない。

……何言ってんだ私。

 

「やっほ、カナヲ。元気してた?」

 

右手をあげようとして動かせないんだったと思い出し、左手を上げて挨拶をした。

相も変わらずコクンと頷き、もじもじと声を出そうとしては引っ込めるカナヲを、可愛いなぁなんて思いながら言葉を待つ。

私に家族がいて、妹がいたならば、こんな感じだったのかな、なんて思ってみたりもする。

 

「……え、えと、だいじょうぶ?」

「うん、もう大丈夫だよ。まぁ右手はこれだけどね。そうだ、胸元の包帯巻き直してくれるかな?アオイ、私の方が大きいからってきつく巻いてあるの」

「ふふっ、わかった」

 

クスリと笑い、カナヲは服を脱がすのを手伝う。

十三の彼女にとって女の嫉妬などまだわかるわけもない。

 

それからなんだかんだ話をしていると、遠くからカナエさんがカナヲを呼ぶ声が聞こえてくる。

 

カナヲはハッとした表情を見せると、次の瞬間には顔をダラダラと汗が流れ始める。

……修行を抜け出して来てくれたんだね。

 

「ありがと、カナヲ。もう大丈夫だから、行っておいで」

 

コクンコクンと二回頷き、カナヲは脱兎のごとく部屋を後にした。

今剣術をカナエさんに教わってるんだっけ。

二年後にはカナヲも入隊試験を受ける予定となっているため、それの修行を今行っているのだ。

呼吸は普段からそれとなく胡蝶姉妹が教えていたのか、ひどく荒いが、一応常中は出来始めてる。

最終試験も余裕で突破するだろう。

 

さて次は可愛子三姉妹かな?

 

とは思ってみたものの、今日はそれ以降来客はなかった。

あの三人のことだ、何人も押しかけて疲れさせていると思って遠慮しているのだろう。

そしてそれはいつもなら遠慮しなくていいよとか言うのだが、さすがに疲れはまだまだ身体に残っているようで、天井をただ見上げているだけで視界がぼやけてきた。

 

 

 

今日はアオイに説教されて、しのぶさんに惚気話聞かされて、カナエさんやカナヲと談笑して……あれ、なんか怪我人のスケジュールじゃないよ?

 

しかし、何か忘れているような……まぁいっか。

 

 

夜永はそのまま意識を手放す。

 

心の中で『輝夜』が、「なんとかなった」とか安心しているのは、別のお話しである。

 

 

 

ちなみに後日、可愛子三姉妹は私の大好きな和菓子とお茶セットを持ってお見舞いに来てくれた。

 

 




次回、キング・クリムゾンな予感。
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