鬼呪の刃   作:斗穹 佳泉

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PCを使う暇がなくスマホのみでの執筆なので、ここ文脈おかしくね、とか読みづらくね?があると思われる。

思いつきで書き始めたこの作品がお気に入り50を突破したことに驚きと感謝感謝。


決してポケモンに忙しかったり、CODMWやAPEXをやっていたりして暇がなかった訳ではない


第五話

「やっと君を見つけたよ。来てくれて良かった」

 

それは夜の最も永い日のことだった。

当時はまだ耀哉の病はそこまで進行しておらず、軽く屋敷周りを散歩するのは可能であった。

そんな彼は、月が明るく光る時間に、屋敷と隊士達が眠る墓地との間にある大きな藤の木の根元で、彼女を待っていた。

ゆっくりと歩いてくる、赤黒い羽を持つ鴉を肩に乗せた彼女に耀哉は微笑み、言った。

 

黒い刀の鞘と明るい紫の髪が月明かりを反射し、朱色の瞳をいっそう輝かせる彼女は応える。

 

「私をこんな山奥まで呼んだのは何故ですか?あなたは、誰ですか?この、しゃべる鴉も、なんなのですか?それに藤の木と花のにおい、私あまり好きではないのですが」

 

耀哉は警戒心を解かせるように、にっこり微笑んで話を始めた。

 

「私は産屋敷耀哉。鬼殺隊九十七代目当主であり、柊 夜永、君をここへ呼んだのは、鬼殺隊に入隊してほしいからだ。この子達は鎹鴉と言ってね、とても頭がいい子達なんだよ。藤の木は鬼に対して毒性を持っているんだ、我慢してもらうしかない。すまないね」

 

指に鴉を乗せ、その背をゆっくり撫でながら全ての問いに耀哉は答える。

 

夜永(よな)はその声音と表情、しぐさを注意深く観察した。

 

そう、警戒心をもって話を聞いていたはずだったのだが。

 

「……私は、何をすればいいの?鬼殺隊というくらいなら、これまでみたいに鬼を殺せばいいのかな?」

 

初対面のこの人を、何故か信頼できると感じてしまった。

この人は、大丈夫。何が大丈夫かわかんないけど、なんか大丈夫な気がする。

それに、どこか暖かい、優しい雰囲気が、この人の言葉には籠もっている。

耀哉は満足そうに微笑み頷くと、

 

「立ち話もなんだからね、私の屋敷へ行こうか」

 

手を彼女に差し伸べる。

 

ビクッと震え、恐る恐る手を伸ばす彼女の手を取り、耀哉はゆっくりと歩き始める。

 

 

夜永はこの時、初めて人の手をとった。

 

やわらかく包み込むような優しい手と彼の雰囲気は、心の底から安心できた。

母からの虐待で人を信じることをやめたはずの夜永の心を、耀哉は簡単に打ち砕いたのだ。

 

 

 

夜永が耀哉(お館様)を敬うのは、出会いの経緯と、その後の二年間によるものが大きい。

 

ちなみに余談だが、夜永の後見人は、産屋敷耀哉である。

 

 

 

 

 

屋敷へつくと、夜永は客間へ通された。

 

 

「夜永、まず君にはきちんとした呼吸を覚えてもらう。君はすでに、呼吸を使っているね?」

「呼吸ってなに…?」

 

知らない言葉、いや、知っている言葉なのだが、それとは違う意味だと夜永は気づく。

 

「呼吸は人が鬼と戦うために編み出した技術のことだよ。君は転々と場所を移しては鬼を狩っているだろう?その時に使っているはずだ」

「……この子達は本当に頭がいいんですね」

 

鴉を撫でて苦笑いしながら、精一杯の皮肉を込めて夜永は言った。

安心できる。安心できるんだけど、なんだろう、こう、全て見透かされてるみたいでなんかやだ。

 

それに気づいているのか、耀哉の表情はにこやかなまま変わらない。

 

「そうだろう?その鎹鴉は君のパートナーだよ。大事にするようにね。そうか、夜永は無意識のうちに呼吸を行っていたのか」

「はい、私の心には鬼『輝夜(カガヤ)』が棲んでるので、鬼と戦う時はいつも力を少し借りてましたから」

 

しかし、ここで耀哉はにこやかな表情を崩す。

耀哉の驚き100%の顔を見たのは、夜永が最初で最後だっただろう。

驚きのあまり急に立ち上がったことでめまいがしたのか、ふらふらしているところを夜永に支えられ、椅子にゆっくり腰掛けなおす。

ありがとう、と耀哉は彼女に礼をし息を整える。

その後すぐに立ち上がり、書棚から本を一冊取り出すと、質問した。

 

「心に、鬼が、いるのかい?」

 

そんな話は耀哉自身聞いたことがなかった。九十七代続いてきた産屋敷家の資料にすら、そんなことは書かれていなかった。

心に鬼を宿した人間など、存在は確認されていなかった。

そんな思考に気づくはずもなく、夜永はあっけらかんと言い放つ。

 

「え、あ、はい。覚えてはいないですが、産まれた時から心にいたそうですよ、『輝夜』の話だと。この刀も、『輝夜』に借りた力の一つですし」

 

 

鬼と共存できている。しかもその鬼は鬼狩りのために力を貸しているという。そんなことが有り得るのか。

確かに日輪刀特有の、太陽光に長年当てられたら鉄の雰囲気はその刀からはしていない。

 

 

これは柱には共有しておくべき話題だろう。しかし、ありのままを話してはほぼ全員が、心が鬼に棲むことによるなんらかの影響を考慮し、何も起こらないうちに殺すべきだと言うだろう。

だが、彼女は人を鬼から守るため戦っていた。その昔、人に味方した鬼のように。

 

当時の当主は彼女とその家族を救えなかった。いつかその親族もしくは鬼側に組みしていた者が鬼殺隊に入隊した場合、どうか守ってやってくれという思いは代々受け継がれている。

 

彼女の剣技は、速度こそ早いものの、型や呼吸に合わせて使われておらず、彼女のいう『輝夜』という鬼に力を借りることで鬼と戦っていたのだろう。

剣の師は必要だ。

口が堅く信任できる柱が適当だろう。

カナエに頼むのがいいかもしれない。

 

「夜永、あまり一般の隊士の前ではその話はしないようにね。鬼殺隊の隊士は鬼に身内を喰われたりした人もいるから。話すなら、柱になってから、柱の人達にだけにしなさい」

「わかりました、『輝夜』の話はしないようにします。……ところでさっきから持ってるその本は、何の本ですか?すごく古そうですけど」

「この本はね、いくつも前の当主と、当時柱だった"人"が書いた書物なんだ。夜永の呼吸の師になるだろう。夜永がこれから修める、"鬼の呼吸"のね」

「"気の呼吸"?ですか?」

 

 

 

 

その本にはこうある。

鬼の呼吸とは、鬼女である鈴鹿御前が編み出した呼吸法である。

 

壱の型 牛鬼

 

弐の型 鬼女

 

参の型 善鬼羅刹

 

四の型 金鬼夜叉

 

伍の型 羅生門

 

陸の型 鈴鹿御前

 

以上六つの型を有し、鬼の力をより増大させるための型と、次の一撃で鬼の頸を斬る型がほとんどであり、当時は愛柱と共闘し、その猛威を振るった。

 

 

 

この本によると、信頼できる相棒や、チームに所属する隊士にはかなり有用な呼吸法とされたが、ついぞ鬼女の鈴鹿御前の他に使える者は現れなかったとある。

そもそもが人が編み出した呼吸法ではないため、習得が不可であるかもしれないが。

 

「いいかい、夜永。この本の内容は誰にも教えてはいけない。君にはこれを扱える才能があるかもしれない。今となってはもう誰も使い手がおらず、歴史に埋もれた呼吸だけど、それでも、他の隊士に訝しまれることは避けるべきだと思う。それを忘れてはいけないよ」

 

 

 

それから二年かけて夜永が身に付けたのが、『()の呼吸』であり、新しく生み出された『()の呼吸』である。

 

まったく新しい呼吸であるが故に、その名には気をつけなければならない。

 

その点については、夜永が『鬼の呼吸』から編み出した『気の呼吸』は幸運だった。

 

もちろん、産屋敷家の書物には、この呼吸に関して厳重に記録されることになる。

隊士には気の呼吸内容についてのみ公表し、呼吸の出生については秘匿された。

 

 

 

気の呼吸

 

鬼の呼吸を元に、人が扱えるように呼吸の仕方を人間の肺に合わせた呼吸法である。

気の呼吸自体に強い殺傷力があるのではなく、パートナーやチームと戦闘を行うことが前提の、連携に特化した呼吸法でもある。

 

壱の型 牛気

 

弐の型 気女

 

参の型 善気羅刹

 

四の型 金気夜叉

 

伍の型 纏

 

以上五つの型を有し、基本的に男性隊士に比べ、身体構造上腕力の劣る女性隊士の方が才能及び修得可能性を秘めている。

 

 

 

柱の名前は通常、呼吸の名称によって決まるが、夜永は例外である。

気の呼吸という、柱をつけるとなんとも語呂が悪くなってしまう名称のため、気→鬼と変換して気柱と書いて『おにばしら』と呼ばれることになった。

鎹鴉達にとっては柱の名など、自分達が理解し、主人にきちんと情報を伝えることができるならば何でもいいというのが総意であり、鴉によっては気柱(おにばしら)だったり鬼柱(おにばしら)だったりする。

 

ちなみに発案者は夜永の心に鬼が棲んでいることを真に受けた胡蝶カナエである。

 

 

図らずも元になった呼吸を言い当てたカナエに、お館様はかなりの汗をかいたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「気の呼吸、壱の型・牛気!」

 

 

模型に対して、久しぶりの愛刀を右手に身体を動かす。

 

牛気(牛鬼)は踏み込みと溜めを浅くすることで、威力を引き換えに速度を重視した、[雷の呼吸・壱の型]を模した型だ。

私の場合、気の呼吸の時は骨まで。鬼の呼吸の場合はギリギリ斬りとばすまでの力になる。

 

模型の半分と少しまで斬撃が届いたことに、よしと頷く。

これで問題なしかな、腕の痛みもなくなったし、ちゃんと動くようになったしね。

 

『よくこの三ヶ月、満足な運動してなかったのに動けるね。一般人なら身体バキバキいってる頃だと思うよ』

『すみなほきよちゃんや、カナエさん達のおかげだよ。あ、そうだ、見てた?しのぶ姉さんが薬湯かけの訓練で私に負けたところ。顔真っ赤だったよね!』

『その後ボコボコに負けてたけどね、夜永は』

『え、えと……そ、それはほら、私病み上がりだから!』

 

 

輝夜は、へぇ~と半眼で夜永を見返す。

この三ヶ月、暇で暇で仕方なかった(元はと言えば力加減を考えなかった自業自得)ので、鬱憤が貯まっているのだ。

 

どのくらい弄ってやろうかと思案していると、誰かが近付いてくる気配を『輝夜』は感じ取り、チッと舌打ちする。

 

ガラッと戸を開けてやってきたのは、この蝶屋敷の主人である。

入ってきた瞬間、目が合った気がした。

こいつ、実は僕のことまで見えてるんじゃないかと思うほど目が合う。

 

 

「夜永、腕の調子はどうですか?」

「おかげさまで、もう十分動かせるようになりました。何故か蝶屋敷での療養期間が延びていたことについては触れないでおきますね、カナエさん」

「あらあら、夜永は私が無理やり療養期間を延ばさせたとでも思っているのですか?ふふっ、私"だけ"のせいじゃありませんよ」

 

だけを強調するあたり、さすが長女である。

しのぶやアオイならば、確実に誰かのせいにしてしらばっくれただろう。

 

「お館様から鴉が来ていたわ。報告はあなたの鴉から聞いたみたいだけど、直接口からも聞きたいとのことよ」

「わかりました。すぐに向かいますね。またお世話になるかもしれないのでその時はよろしくお願いしますっ」

 

お館様がお呼びならばと、超特急で準備しないとと、猛スピードで訓練場から駆け抜けていく夜永を見送り、ぽつりとカナエは呟く。

 

「やっぱり、どこか他人行儀というか、距離を置かれてる感じがするのよね。……絶対いつか心からの笑顔を見せてもらうわ」

それからそれから、あの綺麗な明るい紫の髪を丁寧に手入れして、ほっぺすりすりして、満足するまで抱きしめて、添い寝して以下略。

 

うふふふと、妖しげな笑いが訓練場に木霊した。

 

 

 

 

 

 

部屋に戻り羽織を着ようとしていた夜永は、身震いしてくしゃみをしていた。

 

『どうした?夜永、風邪か?』

『う、ううん。なんだろ、突然謎の寒気が。そだ、ありがと。もういいよ』

 

もういいよ、の言葉でフッと昏く紅い刀が消える。

刀を携えてると走りにくいからね。

 

彼岸花の羽織をきちっと羽織り、蝶屋敷を出て産屋敷邸へと向かった。

 




次回こそキングクリムゾン&時飛ばし!
この調子で炭次郎の修行間の話を書いていたらとても原作に入れないと思われ

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