鬼殺の隊士はとにかくモテたい   作:KEA

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11話

 

「しのぶ! 変なこと言ったからって殴るなんて……命の恩人なのよ?」

 

「突然服を脱げなんて言われたら仕方ないでしょ!? それにそんな強くは――ああ、ごめんなさい!」

 

「前が見えねェ」

 

うん、これは俺に非があるわ。言ってからやべって思ったもん。

鼻を押さえつつ、特に問題がない事を手振りでアピールする。

大丈夫? 俺の鼻曲がってない?

 

「言葉が足りなかったというか言い間違えたわ。どっちか着替えよう」

 

「着替え……ですか?」

 

「うん。隊服の上に着れるんならそれが一番良いんだけど……」

 

鎹鴉の言葉を信じるのなら、恐らく喰い殺されているのは美しい女の子。

それなら、囮を一人用意して鬼を誘い出そうという魂胆だ。

鬼殺隊を見るや否や即座に逃げ出すような鬼だって時折存在するし。

 

残念ながら俺たちには鬼の居場所を突き止めるような能力は持ってない。

それなら囮を用意して誘き出してしまえばあとは簡単だ。

 

「結構危険だけど、鬼狩りしてる時点で危険だしな」

 

「――それなら、私が引き受けます」

 

「姉さん!?」

 

キリッとした表情で囮になる事を宣言をしたカナエちゃんにしのぶちゃんは声を上げた。

 

「今回はしのぶの刀に不備がないかを調べるためでもあるし……ね、大丈夫。

何かあっても泡沫さんが守ってくれますよね?」

 

「ああ。もちろん」

 

これで怪我とか負わせたりとか嫌だし。

本音は女の子を危険に晒すような真似はしたくないんだけどな。

 

「でも、この時間に空いてる店なんてないですよ」

 

そう言って周りを見渡すしのぶちゃん。

確かにこの時間帯は最早人っ子一人いない。

多分、人が消えるという噂が広まっているというのもあるのだろう。

 

「なら開けてもらうしかない」

 

閉まっている服屋をドンドンと勢いよく叩く。

 

「夜分遅く申し訳ない。どうか開けてはくれないだろうか」

 

「――なんだい、こんな夜遅く……非常識にも程があるよ……」

 

欠伸をしながら店を開けた年配の女性に頭を下げて謝罪をする。

いやほんとにすいません。事態は一刻を争うんすよ。

 

「突然だが、この子に――」

 

着物を見立ててくれないか、と続けようとした俺に電流が走った。

ここで一人だけ着物を買うのは何だか可哀そうじゃないか?

それが原因で喧嘩とかになったら嫌だしなあ……。

まあお金には滅茶苦茶余裕あるし? 二人分くらい屁でもないよ?

 

「――この二人に着物を見立ててほしい」

 

「あら?」

 

「え、私も?」

 

二人がきょとんと俺を見た。

店主は何か怪しいものを見るような目で見ている。

 

「ほら、このご時世だ……何があるか分からないだろ? 奇麗な着物くらい買ってあげたくてな」

 

「そのお嬢さん方がとても大事って事かい?」

 

「あぁ。(鬼殺隊の仲間として)代えがたい存在だ」

 

「――よし、任せな。二人に似合う着物を仕立ててやるよ。ほら、こっち来な」

 

店主はそういうと店の中へと二人を引っ張っていく。

ズルズルとなすが儘に引っ張られていく二人を見送って、俺は外で待つ。

 

 

 

 

 

大体一時間ほど経っただろうか。

 

流石に待ち草臥れたころ、漸く店から二人が揃って出てくる。

カナエちゃんはピンクを主体、花の柄が映える着物。

しのぶちゃんは紫を主体に、蝶の柄が映える着物。

 

はえー、すっごい美人……もうそれで食っていけるんじゃない?

 

「見て、泡沫さん。似合いますか?」

 

「姉さん、そんなに回らないの」

 

くるくる回って着物を見せるカナエちゃんを諫めるしのぶちゃん。

……なんだろう。このまま二人で仲良くしててくれないだろうか。

その光景を眺めているだけで疲れが吹き飛びそうですよ。

 

店主にめちゃくちゃ感謝してお金を払う。

 

さてと、漸くこれから任務を開始できるわけだが。

 

二人ともどうもぎこちない様子だった。

まあ着物じゃ歩きづらいよなあ……そこらへん考えてなかったかもしれん。

頻りに足元を見たりしてるし。いやゴメンね。

 

「――さてと、それじゃあ俺は少し離れるよ」

 

俺は隊服着たまんまだしな。羽織で多少は見えないだろうけど、それでも分かる奴には分かる。

とりあえず遠くから様子を伺おうとして――それを辞めた。

 

濃い血の匂い。

 

「――オイオイ、こんな夜更けに出歩いてちゃあ危ないぞォ……?」

 

前方からゆっくりと歩いてくる人影。

ぶちぶちと何かを噛み千切るような音と共にソイツは現れた。

殺したのであろう誰かの腕を喰いながら、下品な笑みを浮かべながら。

 

「……着物を買った意味は無かったようだ」

 

いやあったわ。あんな可愛い姿見れただけでも十分報酬になったわ。

 

「やっぱり男の肉は硬くて不味い……女の肉が一番だヨなぁ?」

 

抱えていた死体をこちらへと放り投げる。

苦悶の表情を浮かべたまま死んでいる其れは、鬼殺隊の一人だった。

 

「ヒヒ、旨そうな女二人に……お前は知ってるぞォ? 水色の羽織に狐の面!

あのお方が言っていた特徴と一致するなァ……」

 

「へぇ。無惨が俺の事を知ってんのか」

 

「あのお方の名を馴れ馴れしく呼ぶなァ!」

 

貪っていた腕を地面に叩きつけ、人を殺せそうな形相で俺をにらみつける。

 

「あのお方が仰った……お前を喰えば上弦に入れてくださると!!」

 

月明かりに照らされた鬼の瞳に文字が刻まれている。

 

――右目に下肆。

 

下弦の肆。十二鬼月の一体。

 

「はッ、また下弦か……良く補充される」

 

その数字を見て俺は嗤う。

奴の精神を逆なでするように。意識を俺に向けさせるために。

まだこの二人が相手にしていい敵ではない。

手振りで二人に逃げるように指示を出し、俺は肆から目を離さない。

後方から駆ける音がし、遠ざかっていく。よし、うまく伝わったようだ。

 

「お前を殺してからその女二人を喰らってやろう!」

 

――よし、食いついた。

 

鬼の膂力で大きく跳躍した鬼は、一直線に俺へと突き進む。

 

「――はっ、其れで惑わせているつもりか?」

 

こちとら透け透けでお前の行動なんて手に取るように分かるんだよ。

 

奴の血鬼術が分かった。

分身のようなものを作り出し、本体を隠す能力だ。

一直線に飛んでくるコレは偽物。

 

本物は――。

 

「――こっちだ」

 

分身を空高く飛ばすことで意識をそっちに向けて

本体は地を走り、俺の顔面を貫こうと手刀を繰り出そうとしている。

 

呼吸を行い、型を行使しようとした所で遠方から刀が飛んでくる。

それは見事に本体の体を掠めた。

其れだけで、奴の動きに変化が起こる。

 

「ぐっ!?」

 

刀の勢いに押されて体勢を崩す肆の鬼。

分身が消え、本体が藻搔き苦しんでいる。

 

見れば、掠った箇所である左腕から毒のような何かがジワリと広がっていく。

肆の鬼は急いでその部分を切断し、大きく後退した。

 

「なん、だコレは……!? 術が維持、出来んッ……!」

 

即死、という訳ではなかったようだが。それでも動きは大きく鈍っていた。

 

「――姉さん! 今!」

 

しのぶちゃんの声に呼応するように、カナエちゃんが刀を鬼の頸目掛けて刃を振るう。

 

「くっ……!」

 

だが、頸を断ち切るには至らなかった。

半分ほど断ち切った所でそれ以上進まない。

 

「ぎ、ヒヒ……女も鬼殺隊、だったか……だが、女如きの腕力で、俺の頸は斬れ――」

 

カナエちゃんの刃に俺も続き、寸分違わず刃を叩き込む。

何とか押し切ろうとするカナエちゃんの刃を、グッとさらに押し込んだ。

 

――それだけで、あっさりと肆の鬼の頭が吹き飛んでいった。

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