鬼殺の隊士はとにかくモテたい   作:KEA

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15話

その日は、少なくとも胡蝶カナエにとってはいつも通りの日常だった。

ちょうど休みだったカナエは、任務に赴く知人を見送って床につく。

最初の頃はしのぶの任務に常に同行していたが、いまはそうでは無い。

毒が鬼に効くことも証明された今、しのぶ一人でも任務は遂行できた。

 

日付が変わって数時間経った頃だろうか、慌ただしく屋敷を走り回る音で目が覚めた。

 

どうしてこうも騒がしくしているのか。

未だに道具を撒き散らすような音が響いている。

任務が終わった時、足音を立てずに帰ってくるのがしのぶだ。

 

しのぶの部屋を訪れようと寝巻きのまま廊下を歩くと、一人の少女が慌ただしく走ってきた。

 

「しのぶ、どうしたの?」

 

しのぶだった。

任務を終えて帰って来たはずの妹が、何故が隊服に身を包んでいる。

それに加えて日輪刀、医療箱も見える。

一日に何回も任務をさせる程鬼殺隊も鬼では無い。

何か異常事態が起きている、という事は寝起きのカナエでも良くわかった。

 

「ごめん! 姉さん、今話してる時間ないの!

詳しくはアオイに聞いて、後から来て!」

 

カナエの問いかけに振り返ることも無く、しのぶはそのまま屋敷を飛び出して行った。

後から来て、とはどう言う事だろうか。

何か嫌な予感がした。

此処まで慌てているしのぶを見た事が無かった。

 

「カナエ様!」

 

少女の声に振り返れば、そこに居たのはアオイだった。

 

神崎アオイ。

鬼殺隊に入隊したは良いものの、鬼の恐怖に負けてしまった少女。

前線で戦うことが出来なくなってしまった彼女は、いまはこの蝶屋敷で毎日忙しく働いていた。

 

「……アオイ、こんな時間に慌ててどうしたの?」

 

「つい先ほど、泡沫様の鎹烏が伝達に来て……」

 

がらりと一つの襖が開いた。

幼い少女が、カナエの隊服と日輪刀を引き摺って持って来ている。

アオイが今にも泣きそうな顔で言葉を続けた。

 

「泡沫様が上弦の鬼と交戦、との事です」

 

カタンと泡沫から貰った、ぶら下がっていた着物が落ちた音がした。

 

これまで続けていた常中が、初めて止まった。

 

泡沫が、上弦の鬼と戦っている。

 

その言葉を数秒おいて漸く理解出来たカナエは、少女――栗花落(つゆり)カナヲが用意してくれた二つを受け取り、即座に着替えて屋敷を飛び出した。

飛び出した時、鎹烏が声を張り上げる。

 

「カァー! 泡沫夕凪、十二鬼月、上弦(じょうげん)(さん)ト交戦中!

冨岡義勇、胡蝶シノブ、胡蝶カナエ、直チニ迎エ!」

 

言われるまでも無かった。

付近にいる柱と、実力であるしのぶ。

そして泡沫を合わせた四人ならば、勝機は確実にある。

 

上弦の鬼。

此処数百年退治に成功した事がない、正に異次元の強さを誇る鬼。

上弦を倒したという文献でも、内容は非常に悲惨な物だった。

柱二人を同時に相手取り殺し、後から駆けつけた柱一人と相打つ形で討伐に成功している。

 

合計柱三人を犠牲にして、漸く上弦の鬼一体を討伐しているのだ。

確かに泡沫は強い。柱となってもおかしくない実力の持ち主である。

本来、欠いた柱に泡沫が推薦されていたくらいだ。

水柱が二人になるだろう、と本人は拒否し現在の階級になっている。

 

だが、柱級が一人で上弦と戦っている。

以前亡くなった柱は恐らく上弦と交戦し、そして死んでいる。

鬼との戦いは人間に不利な事ばかりだ。

基本夜な為視界が悪く、相手は異能を使い、無尽蔵な持久力。

戦う時間が長引けば長引くほど人間が勝つ見込みは低くなる。

 

だが、三人が間に合えばまだ助かる見込みも、勝つことだってきっと。

最悪の事態から目を背けて、カナエは全力で走り続けた。

 

 

 

 

 

時は半刻ほど遡る。

 

街外れの森の中。

数人の男が行方不明となっている、という情報を訊いた泡沫は

夜中、森の中を探索していた。

 

光は月明かりのみ、更に木々が生い茂り視界が非常に悪い。

流石に溜息だってこぼれてしまう。

こんな状況で鬼とは戦いたくはない。

せめて開けた場所に、と考えるのが自然だった。

 

とはいえ、都合よく森の中にそんな戦いやすい場所がある訳もないだろうと。そう思っていた。

 

泡沫の予想に反して、突如視界が開ける。

それなりの大きさの円がそこには存在した。

木々は尽く薙ぎ倒され、まるで一つの闘技場のように思える。

 

……ふと、視線を感じた。

誰かが泡沫を見つめている。

こんな時間に出歩くのは、ただの一般人ではないだろう。

見上げれば、一本の木の頂きに誰かがいる。

 

考えるまでもない。

鬼だ。

 

月明かりに照らされたその鬼と視線が交差する。

ニィ、と鬼は交戦的な笑みを浮かべた。

 

「…………」

 

コイツから逃げろ、と警笛が鳴り響いていた。

感が告げている。今まで倒した鬼とは比べ物にならない。

木の頂きから飛び降りた鬼は、難なく地面に着地した。

 

紅梅色の短髪に、上半身は袖の無い羽織一枚。

全身に線の紋様が浮かんでいる鬼だった。

黄色い瞳に文字が刻まれている。

右眼に上弦。そして左眼には――参。

 

上弦の参。

 

僅かに震える手を抑える。

覚悟していたことだ。柱を殺せる鬼など、上弦しか考えられない。

それでも、参という数字が重く圧し掛かった。

 

「水色の羽織に狐の面……そして頬に痣。お前だろう?」

 

「……何の話だ」

 

相手が無駄話をしてくれるのは正直有難かった。

既に手振りで鎹鴉は飛ばしている。

増援が来るまで、夜明けが訪れるまでコイツを此処に留めなければならない。

逃げる、なんてことは考えていなかった。

 

一般人や他の隊士を殺させないためにも、今ここで殺さなければ。

それに、人より圧倒的に身体能力が高い鬼からはまず逃げられないだろう。

 

「お前を殺せと命を受けているが……名は?」

 

「……泡沫夕凪」

 

「俺は猗窩座(あかざ)……夕凪。お前のような男を殺すのは惜しい」

 

鬼は既に泡沫を殺せる、といった雰囲気だった。

飄々としながら、猗窩座は一つの提案を口にした。

 

「――お前も鬼にならないか?」

 

「…………は?」

 

泡沫には意味が分からなかった。

動揺も気にせず、猗窩座は言葉を続ける。

 

「お前の強さは見れば分かる。至高の領域に近いな。

柱でも其処まで練り上げられている闘気は見た事がない」

 

「はぁ」

 

「だが人間では限界がある。何れは寿命が訪れ、至高の領域に辿り着くことは出来ないだろう。

だから夕凪、鬼になろう。そうすれば何十年、何百年と鍛錬が続けられる」

 

「……これは良くある話なんだが」

 

「うん?」

 

「人から化け物だとか、不老不死だとか……そういう異形の存在になった奴ってのは

大体最期は後悔するんだ。悪いけど、俺はそうはなりたくはない」

 

目を細めてそう言い放った泡沫に猗窩座は目を見張った。

 

「それに、俺を待ってくれてる人がいるんだ。男なら約束を破るわけにはいかないだろ?」

 

――さっきまで溢れ出していた闘気が消え失せた。

どういうことだ。闘気というものは生きる者全てが持ち合わせているものだ。

それが消えるなどあり得る訳がない。

 

それに、なんだ。

奴の言葉に何か身体が勝手に反応した。

何か抉られたような気が。

 

 

 

術式展開(じゅつしきてんかい) 破壊殺(はかいさつ)羅針(らしん)

 

 

咄嗟に構えを取って猗窩座は血鬼術を発動させた。

足元を中心に、雪の結晶を模した陣が形成される。

 

「なにをした?」

 

「……何の話だ」

 

猗窩座は驚異的な膂力で一気に泡沫へと迫る。

 

(ほむら)の呼吸、壱の型」

 

上弦の鬼に手を抜くなどと出来るわけがない。

泡沫は出し惜しみをせずに戦うつもりだった。

 

真正面まで一瞬で迫った猗窩座は拳を強く握りしめ、放つ。

 

破壊殺・乱式

 

拳による乱打。単純な技だが、繰り出される一つ一つが一撃必殺に等しい。

それら全てが泡沫に当たることは無い。

全てを避け、受け流していく。

 

「――」

 

円を描くように振るわれた其れは、猗窩座の胴を半分程度切り裂いた。

更に迫りくる斬撃を避け、猗窩座は後方に飛び下がる。

瞬きの間に傷は癒え、元の状態へと戻った。

だが、今の攻撃ではっきりしたことがある。

 

奴の攻撃に羅針盤が反応しない。

だが、問題はない。羅針盤に頼らずとも戦える。

 

それにしても、焔の呼吸とは訊いた事が無かった。

数百年、数多の柱や呼吸使いを屠ってきたが、焔は知らない。

コイツだけの独自の、もしくは……。其処まで考えて猗窩座は首を振る。

 

戦闘中に考えることではない。

ただコイツが日の呼吸の使い手ではない、という事が分かっただけでも十分。

 

 

――様子見はいいだろう。

 

 

「さァ、宴を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第一魔晄炉爆破ミッションに参加してくるだなも

名前間違えるとか風上にも置かないですね申し訳ありません。

今後の投稿について

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