鬼殺の隊士はとにかくモテたい   作:KEA

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「劇場版「鬼滅の刃」無限列車編」見ました。
皆も見よう!!!


18話

「――うし、完全復活!」

 

巻かれた包帯を外して、腕を軽く回す。

傷跡が少しだけ残っているが痛みはない。

今日からは任務にも復帰出来るだろう。

もしかしたら今日くらいは安静にしろと言われるかもしれないが。

 

――少なくとも、柱合会議に参加して話をしなければならない。

 

「嫌だなあ、会議に召集されんの」

 

本来、柱合会議とは柱とお館様達だけで行われる。

どれほど実力があろうと、他の隊士が会議に参加することはない。

まあ、今回は特別だから仕方がない。何せ上弦と戦って生き残ったのだから。

柱達も上弦の情報を直ぐに知りたかっただろうに、俺が回復するまで待ってくれたのだ。

多少はしのぶからも聞いてはいるだろうが、やはり戦った本人から聞きたいのだろう。

 

「……やーだなぁ……」

 

会議に参加するのは嫌なんだよなぁ。

誰が好き好んで全員上司で俺だけ平社員な会議に出なくちゃならんのだ。

根掘り葉掘り聞かれるんだろうなぁ。

事情聴取みたいな感じで聞かれる未来が見える。

……まあ、グチグチ言っていても仕方がない。

腹を括って、柱合会議へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――うげ、俺が最後かよ」

 

がら、と襖を開ければ中にいた全員の視線が俺を突き刺す。

既に全ての柱が揃っていた。

会議の時間にはまだ早かったはずだけどな。

 

「何突っ立ってんだ。さっさと入れ」

 

そう言って手招きする音柱の宇随天元。

彼は一番端っこを指さした。

其処で座って待っていろ、という事だろう。

柱達の顔を見つつ、違和感に気が付いた。

 

「杏寿郎じゃん。どったの?」

 

「うむ! 父が会議に出ないという事で、今回も柱合会議に参加させて頂いている!」

 

「ふうん、そっか」

 

家族の事情にあまり頭を突っ込むのはよくない。

それ以上は追及せず、そのまま杏寿郎の隣に座る。

杏寿郎が此処にいることにあまり違和感はない。

周りの様子を見るに、これが初めてというわけでもないのだろう。

 

 

後はお館様が来るのを待つだけだ。

 

「――夕凪。どうだった? 上弦の参は」

 

「お館様が来たら説明するよ。同じことを二度言うのは面倒臭い」

 

天元の問いにそっけなく返す。

他の柱もちらちらと俺のことを見ている事から、全員が気になっているのだろう。

 

まあ少しくらい、所感ぐらいならボソッと言ってもいいか。

 

「正直、柱級が二人でもキツイ……そんな感じだと思う」

 

誰に言うわけでもなく、呟いた。

現に俺はしのぶが来てなければ死んでいたわけだし。

夜明けよりももっと早い時間で戦っていたなら、俺は此処にはいない。

任務中に行方不明となってそれで終わっていただろう。

 

「――やあ、待たせたね」

 

襖を開けて現れたのは、鬼殺隊を統べる者。

彼の子供に手を引かれての登場だった。

 

お館様の顔を見て、言葉を失った。

それは俺だけではない。基本、お館様への挨拶は誰がいち早く言うか競争らしい。

焼け爛れたような痕が、とうとう両目にまで及んでしまっている。

以前はまだ自分一人で歩けていたというのに、子供に手を引かれているという事はそう言うことだ。

 

「私の目は気にしなくて構わないよ。柱合会議を始めようか」

 

そういわれても、といった空気が場を支配していた。

とは言えお館様がそう仰るのならそれに従うしかない。

 

「では、私から――上弦の参の情報についてですが」

 

柱を差し置いて仕切るのはどうかと思ったが、正直さっさと話してこの場を離れたい。

 

中、近距離の戦いを主にしているという事。

肉弾戦ばかりで血鬼術の正体を掴むことが出来なかったという事。

そして恐るべきことはその再生力で、頸を斬った程度では死に至らなかった、という事。

 

「これは俺の想像ですが、頸を斬るだけでは切断面をくっ付けて再生を図るのでしょう。

なので頸を斬り即座に頭を微塵切りにするか、身体を遠ざけるなどすれば可能かと」

 

柱級が二人いれば、恐らくは勝てる。

もしくは朝までの持久戦に持ち込むかだが、鬼相手に持久戦は得策ではない。

正直、俺が戦い始めた時間がもっとも此方に有利だった。

……あの時、倒せていれば。

上弦を倒せていれば、鬼の被害はきっと大きく減ったはずなんだ。

 

「――よく生きて帰ってきてくれたね、夕凪」

 

「いえ……参を討ち取れず、生き恥を曝しました。命に代えてでも奴を殺すべきでした」

 

天照一閃で確実に頸を斬っていた。

あそこから蹴り飛ばすぐらいだって出来たはずなんだ。

疲れていた、なんてのは言い訳にもならない。

 

「私の話はこれまでです。それでは」

 

そう言ってその場を――柱合会議を後にする。

奴とはもう二度と会いたくはないが、仮に出会ったらその時は――。

 

「――確実に、その頸刎ねてやる。猗窩座」

 

身体が、熱く燃えているような気分だった。

 

 

 

 

 

なんて、決意しても上弦に出会うなんてことは無いわけで。

いつも通りの日常が過ぎていく。

不死川実弥という少年が風柱になったりだとか。

杏寿郎が炎柱になったりと色々変化が起きている。

 

下弦の鬼と出くわしても、やはり上弦の参と戦ったという経験が大きい。

苦戦することもなく下弦の頸を撥ねている。

実力的に見ても俺は柱級に至っている、と思いたい。

それでも、猗窩座と戦って勝てる未来が見えなかった。

奴に勝つために、血反吐を吐くほど鍛錬を繰り返す。

手が空いている柱には鍛錬として打ち合ったりもしているし、焔の呼吸だって

もう完璧に物にした。殆どの任務で焔を主体にしているくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、吐く息が白くなるほど寒い日だった。

何時ものように任務を終えて、後は帰るだけ。

 

『皆でお鍋にしましょうか』

 

カナエが微笑みながら言っていたことを思い出す。

空いている人を誘って蝶屋敷で鍋をつつこう、と。

今は寒い時期だし、ちょうどいいだろうと楽しみにしていた。

 

「――花柱胡蝶カナエ、上弦ノ弐ト交戦! 付近ノ隊士ハ応援二迎エ!!」

 

彼女の鎹鴉が、泣きながら大声で伝令を飛ばしてきた。

――日常が音を立てて崩れていくのを感じた。

 

どうしてお前たちはいつも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、花の呼吸の柱っていうのは珍しいね。今まで殺した中にはいなかった気がするなあ。女の子の柱っていうのがそもそも珍しいかな?」

 

 

 

――頭から血を被ったような鬼だった。

 

ニコニコと屈託のない笑みを浮かべて、穏やかに、優しく喋る。

 

洋風の着物を着た青年の鬼で、虹色の瞳が特徴的だった。

邂逅したその瞬間、今までの鬼の中で一番強いと気配で分かった。

今生きているのも鬼の気まぐれに過ぎない。

 

「もう型はないのかい? あるのなら使ってごらんよ、頸を斬れるかもしれないよ?」

 

戦いの最中に鬼が放った言葉だ。

全ての手札を切らしてから殺そう、とそういう考えらしい。

戦いの直後に本気を出されたら、きっととっくに死んでいる。

血鬼術すら使わず、此方の攻撃を無防備に喰らったりもしている。

 

そして今、最後の型も頸を斬るには至らなかった。

 

「あれ、もう終わり? 結局俺の頸を斬る事は出来なかったね」

 

斬撃が当たっても、瞬く間に傷が癒える。

死んだとしても、情報を。彼のように情報を手に入れてみせる。

 

力強く日輪刀を握りしめて、上弦の弐――童磨――を睨みつける。

 

「――それじゃあ、終わりにしようか」

 

そう言って振るわれた扇に咄嗟に反応できたのは、奇跡に等しかった。

反射的に振るった日輪刀に、扇が当たる。

パキンと音を立てて刀が折れた。

 

「っ……!」

 

「折れちゃったね、もうそれで俺の頸を斬るのは難しいんじゃない?

もう諦めて、さ。俺と共に永遠に生き続けよう」

 

そう言って、血鬼術が振るわれる。

 

「――血鬼術 蓮葉氷(はすはごおり)

 

「花の呼吸、弐ノ型 御影梅(みかげうめ)

 

振るわれた扇から、蓮の花のような氷が降り注ぐ。

それらをカナエは御影梅で相殺する。

 

「氷の血鬼術……」

 

「そう。俺の血鬼術は氷。情報を集めようとしてるのかな? でももう終わりだよ」

 

その言葉と共にごほ、とカナエが咳き込んだ。

 

折れた刀で相殺出来るほど、上弦は優しくはない。

僅かに身体を傷つけたが、血を吐くほどの怪我は負ってはいない筈だった。

 

「粉凍りを周りに散布してたからね。このままだと肺が凍り付いて壊死しちゃうよ」

 

日輪刀を持っていない逆の手を胸に当てる。

何度も咳き込んで、血を吐いた。

そうか、既に近づいた時点で術中に……。

 

「ああ……可哀そうに。痛いよね、苦しいよね。今楽にしてあげるからね」

 

咳き込んで隙だらけなところに、無造作に扇が振るわれる。

避けられない。刀すらも斬り落とすほどの切れ味だ。

人の身体なんてあっさりと両断するだろう。

 

ごめんね、しのぶ。私は……此処までみたい。

迫りくる扇に目を瞑る。

 

瞼の裏で、あの人の姿が浮かんだ。

私としのぶを救ってくれたあの人の姿が。

 

――いや、違う。違うでしょう、カナエ。

 

絶対に生きて帰る。皆のもとに。

しのぶにもカナヲにも、蝶屋敷の皆に悲しい思いはもう……させたくはない。

 

肺が凍り付きそうな今、全集中の呼吸も型も放てそうにない。

それでも、生きるためにも刃を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――焔の呼吸 一ノ型・改 天照一閃(てんしょういっせん)

 

勢いよく地面を踏み抜ける音が、遅れてやってきた。

次いで上弦の弐の腕が宙を舞う。ぐい、と大きく引っ張られる間隔。

 

「……あぁ」

 

抱き抱えられている。

上弦の弐と相対して、死にかけていたのに……もう安心している自分がいた。

彼の体温が私に伝わってくる。

ついさっきまで、芯から冷え切っていた身体がじんわりと温かくなる。

 

上弦の弐から大きく距離をとった彼が、優しく私に微笑んだ。

あの鬼も優しそうな笑みを浮かべていたが、彼のそれとは違う。

 

「また、助けられてしまいましたね」

 

「ごめんな、遅くなって」

 

私の頬に付いた血を拭いながら、そっと地面に横たえる。

 

「氷の血鬼術を、使います。近くで呼吸を行うと、氷の粉を吸い込んで……」

 

そこまで言って、また咳き込む。

血鬼術の範囲から離れたとはいえ、体内をまだ蝕んでいるのだろう。

 

「――十分だ、今はゆっくり休んでいるといい」

 

頭を優しく撫でて、彼は立ち上がった。

私に背を向けて歩き始める。

 

「後は任せろ」

 

赫く染まった日輪刀を構えながら、童磨を力強く睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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