鬼殺の隊士はとにかくモテたい   作:KEA

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20話

「――お前また派手にやらかして帰ってきたな」

 

緊急で行われた柱合会議。

本来半年に一回の頻度で行われる柱合会議だが、今回は半年を待たずして行われた。

それもそのはず、上弦の弐が討伐されたという情報が届いたからだ。

始まって早々に音柱が口を開いた。

 

「なんなんだろうね、ほんと。何でこうも上弦と戦ってんだろ俺」

 

柱全員が捲し立てる泡沫を見つめていた。

柱合会議に召集された一般隊士は口調をそれなりに改めるのが普通だが

そんなことを考える余裕が泡沫にはなかった。

 

何故こうも上弦と交戦しなければならないのか。

柱でもないんだぞ俺は、と内心で愚痴を零す。

そう考えるとやはり柱は駄目だ、責任と死ぬ危険性が高すぎる。

 

以前は上弦の参と単身戦い、大怪我を負いつつも撃退に成功。

しのぶが来ていなければ殺されていた事から敗北と考えてもいい。

 

だが今回は?

 

隊士三名で上弦の弐と交戦。

合流前にカナエが戦闘不能に追い込まれ、しのぶは援護に徹していた。

実質一人で弐の攻撃を凌いでいたはずだ。

結果泡沫としのぶは無傷。

 

負傷一名死者ゼロ名というとんでもない成果である。

鬼殺隊始まって以来の大勝利と言えるかもしれない。

だからこそ柱達の見る目がやばい。

 

――当の本人はそんなこと考えてもいないようだったが。

 

「……言いたいことは山ほどあるけど、とりあえず上弦の弐の話をさせてもらう」

 

色々と言葉を飲み込んで、改めて上弦についての話をする。

 

「正直な話、上弦の参よりは凄まじく弱かった。カナエから血鬼術について少し聞けたから対処法が思いついたってのもある」

 

「氷の血鬼術だったか? 呼吸を封じてくる」

 

義勇の問いに泡沫は頷いた。

 

「そ、情報が無かったら俺も普通に呼吸してただろうし負けてたかもしれない。でもそれ以上にあの上弦、すっげえ手加減してきた」

 

あの後カナエからも聞いたが、時折反撃はしてくるものの殺す気のない攻撃だった。

技や型を全て出し尽くさせてから殺そうとしていた、と。

 

「死なせないように、この攻撃なら避けれるだろうって考えて攻撃してたんだろうな、あれ。

全力で戦ってたら生きて帰れなかった可能性すらある」

 

それに接近戦においては参より弱かった。

総合的に見れば弐の方が強いのかもしれない。

だが、接近戦だけを比べれば参の方が圧倒的に強い。

それだけは断言できた。

 

「無惨の話は聞けたのか?」

 

悲鳴嶼の問いに頸を左右に振って答える。

 

「特に話、は――」

 

多少話はしたが、有益そうな話は何も……。

記憶を遡って、奴の言葉を泡沫は思い出した。

無惨の話ではないが、泡沫自身とっては途轍もなく重要な言葉を奴は放っていなかったか?

 

『君と出会ったら確実に殺してこいって上弦全員言われてるんだよねえ』

 

あの時はあまり考える余裕がなかったが、今考えるとヤバくないだろうか。

 

「上弦が俺を殺そうとしてるらしい」

 

何が無惨の怒りに触れたかは分からないが、どうしてか殺そうとしているらしい。

なぜ柱ではなく、たかが隊士一人を上弦を使ってまで殺そうとしてくるのか。

 

「なんで?」

 

泡沫の問いに答える者はいない。

 

そりゃあ上弦撃退して下弦悉く殺してるからじゃねぇかァ?

 

そう考えた風柱――不死川実弥だが口にはしない。

何かしら口にして矛先がこちらに向くのは面倒くさいからだ。

少なくとも、今回の上弦を殺したという一件でさらに狙われる可能性もある。

柱の中でそれを言葉にして泡沫を落ち込ませようとする者はいない。

 

「上弦を殺したことから、より一層狙われるだろうな」

 

いた。

義勇が無表情で全員が思っていることを口にした。

 

――なんでテメェはこういう時喋るんだよ馬鹿野郎。

 

実弥が心の中で罵倒している中、泡沫は深々と溜息をついた。

これからはより一層鍛錬をしなければならない。

切り替えよう。狙われるという事は出会いやすいという事だ。

お館様の代で全てを終わらせる。それくらいの気持ちでいこう。

 

……上弦にモテても何一つも嬉しくはない。

 

泡沫はモテるのは若干諦めていた。でも上弦にモテたいなんて一言も言ってない。

モテなくていい、モテなくていいからせめて彼女くらい望んでもいいだろうか。

 

「――夕凪」

 

穏やかな笑みを浮かべて会議を聞いていたお館様が口を開いた。

全員の視線がお館様へと向かう。

 

「百年もの間変わらなかった状況が、君のお陰で変わった」

 

「いえ、俺だけの力じゃありません。カナエが情報を、しのぶが力を貸してくれました」

 

「そうだね。鬼と違い、力を合わせることが出来るのが人間だ。これからもどうか力を貸してくれるかい?」

 

「勿論です。無惨を倒して、鬼が存在しなくなるまで……俺は隊士としてあり続けますよ」

 

というか上弦に狙われている今鬼殺隊を抜けたら死ぬ。

そのせいで引退なんてできなくなってしまった。

許すまじ無惨。絶対に許さない。お前絶対殺してやるからな。

 

闘志を燃やす泡沫に、お館様は笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、夕凪。これからも鬼殺隊を支える柱として、お願いするよ」

 

「はい、勿論で……ん?」

 

お館様の言葉に頸を傾げる泡沫。

今なんて言ったんだろう。柱として支えてとか言っただろうか。

ああ、階級の柱とかではなく、言葉通りの柱という意味だろうか。

え、どういう意味ですか? と聞き返せるような空気ではない。

めちゃくちゃニコニコしているお館様に、曖昧な笑みで泡沫は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、泡沫さん。会議はどうでしたか?」

 

「適当に報告して終わり。上弦の話したら俺は先に会議から抜けた」

 

柱合会議を終えた泡沫は、蝶屋敷を訪れていた。

カナエのお見舞いである。

相変わらずベットの上で暇そうにしているカナエに、適当に果物を詰めた籠を渡す。

 

「わ、色々入ってますね……ありがとうございます」

 

嬉しそうに受け取るカナエを横目に、椅子に腰かけた。

 

「体の具合は?」

 

「普通に出歩くくらいは出来るんですけど、しのぶが『姉さんは安静にしてて!』って」

 

「誰だってそう言うだろ。休みだと思ってゆっくりしとけ。俺なんて休みないぞ」

 

「ふふ、そうですね。お休みだと思って……」

 

小さく笑うカナエに釣られて泡沫も笑った。

 

「――本当に、ありがとうございました」

 

ペコリと、彼女は大きく頭を下げた。

彼が来てくれなければ、自分があの時死んでいたことは確実だった。

 

「いや、気にしなくていいよ。後輩を守るのは先輩の役目だからな」

 

泡沫の言葉に、カナエは少し嬉しく思った。

柱となって下の者を庇ったり助けることが多くなった今、そんな台詞を自分に言われるとは思わなかった。

 

「――それで、復帰は出来そうか?」

 

「今すぐは厳しいかもしれません。

普通に生活する分には問題はなさそうなんですけれど、呼吸を使おうとすると……」

 

全集中の呼吸を使おうとして、カナエは大きく咳き込んだ。

椅子から立ち上がった泡沫はゆっくりとカナエの背中をさする。

 

「ま、カナエくらいいなくったって大丈夫。穴埋めくらいはしてやるから。

だから元気になった姿を見せてくれ」

 

カナエが少し前線を離れたくらいじゃ鬼殺隊は潰れたりはしない。

そう安心させるように言う。

 

「私の、代わりに?」

 

「ああ。代わりに……いや、代わりじゃないな。カナエの分も俺が戦う」

 

「……私の分もですか。それは大変ですね」

 

「いいや? 軽いくらいだ。まだ数人分働いてやったっていい」

 

何せ上弦を倒した俺だからな、と冗談交じりにそういう泡沫に噴出した。

 

「元気そうで安心した。あんまり騒ぐとしのぶに怒られそうだし、そろそろ帰るよ」

 

「……あ」

 

立ち上がった泡沫をカナエは悲しそうに見上げた。

口を開いては閉じる、を幾度となく繰り返すカナエに泡沫は頸を傾げる。

 

「どした。何か要求とかあんなら遠慮なく」

 

「あの、少しの間でいいんです。手を、握っててくれませんか」

 

療養中、心が弱くなるというのはカナエにも当てはまるらしかった。

多分、一人ぼっちになるのが寂しいのだろう。

そう解釈した泡沫は椅子に座りなおした。

 

「――ああ。(眠るまで)ずっと握ってる」

 

「……はい。(これからも)ずっと握っててくださいね、夕凪さん」

 

それから間もなく、カナエは眠りに落ちる。

寝息を立てているカナエを少し眺めて、起こさないようにゆっくりと立ち上がる。

そして握られた手を放そうとした。

 

「いやつっっっっっよ。強く握りすぎ。離れねえんだけど」

 

え、もしかして起きてる? そう思ってカナエを見ても彼女はぐっすりと眠っている。

絶対に離さないという強い意志を感じる。

可哀そうだが強引に振りほどいて病室を後にする。

 

「――やっぱり此処にいやがったか」

 

「ん? 何、俺探してた?」

 

声にする方に振り向けば、そこには宇随天元がのしのしと歩いてきた。

ニヤニヤとしながら豪快に泡沫の背中をバンバンと叩く。

 

「痛い痛い。なにさ、音柱様がなんの御用ですかァー?」

 

気だるげにそう言って尚も叩く腕を振り払う。

 

「同じ柱なんだ。そんな敬語も必要ねえだろ?」

 

「…………寝言は寝てから言えって。天元」

 

「撃退したってだけでもこれまでのお前の戦果を考えれば柱になっても可笑しくねえ。

上弦殺したってなればそりゃあカナエの代わりに選ばれるわな」

 

慰めるように肩をポンポンと叩かれる。

 

「え、いやウソでしょ? マジで言ってんの?」

 

「マジだ。花柱が暫く休むってんでお前がその代わりだ。

これからも派手によろしくな? 焔柱(ほむらばしら)

 

因みに殆どの柱の推薦もあるから拒否も出来ないから、と言葉が続く。

これまでなんやかんやで有耶無耶にしてきた付けが回ってきてしまった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

間もなく蝶屋敷に絶叫が響き渡り、しのぶに死ぬほど怒られたのは言うまでもない。

 

 

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