鬼殺の隊士はとにかくモテたい   作:KEA

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ネモもゴッホも来ませんでした


21話

――異空間、無限城。

 

鬼舞辻無惨の根城である其処で、鬼が琵琶を鳴らした。

べん、べべんと音が鳴るたびに鬼が増えていく。それが合計五回。

其れを最後に鬼――鳴女(なきめ)は演奏を止める。

 

全員それぞれが片目に上弦、そしてもう片目に数字が振られている。

弐を除いた壱から陸――十二鬼月の上弦全てが無限城へと招かれていた。

 

上弦の参である猗窩座は周りの鬼に視線を巡らせた。

此処に呼ばれる事は滅多にない。

無惨からの命令は直接頭の中に叩き込まれるし、態々此処に呼ぶ必要などもない。

猗窩座には特別な任務も言い渡されているのもあって、滅多に此処には来ない。

約百年ほど前に上弦が全て此処に呼ばれたことがあった。

その時は――。

 

其処まで思考を巡らせたところで、途轍もない威圧感を放って一人の人物が現れた。

現れたというより、最初から其処にいたかのような錯覚を受ける。

黒い洋服に、真っ白な帽子を被った男――鬼舞辻無惨が其処にいた。

 

眉間に皺を寄せながら鬼舞辻無惨が口を開く。

 

「――童磨が死んだ。それも、柱ですらない隊士に殺された」

 

全員が黙って鬼舞辻無惨を見つめる。

震えて這いつくばっている者はいるが、一言も発する鬼はいない。

こういった時、童磨などが多少は口を挟んでいただろうが当の本人は殺されている。

 

「さっさと殺していればあの柱から血鬼術の情報が漏れることはなかった。

漏れていなければあの男も童磨の血鬼術で殺せていただろう」

 

猗窩座があの男と戦っていた時は気にも留めていなかった。

たかが柱でもない隊士如きの戦闘など一々じっくりと見などしない。

最後のお互いの一撃らしき場面はちらりと見たが、猗窩座の攻撃があっさり躱されたのを見て視界の共有を打ち切った。その後は殺せなかった事を叱責した。

 

 

そして今回。童磨があの男と戦っていると分かってからは童磨の視界を介して見ている。

童磨がどのように戦っていたか、今でも無惨は鮮明に覚えていた。

 

「そうだ、あの男――日の呼吸に類似した呼吸を使うあの男」

 

忌々しい記憶が蘇る。

当時の配下の鬼をたった一人で殲滅した化け物。

無惨を、上弦の壱をたった一人で殺す寸前まで追い詰めた化け物。

痣者(あざもの)になりながら二十五を超えて生きた正真正銘の化け物だ。

 

奴が死に、日の呼吸に関りがある者、書物は全て無惨と上弦の壱が葬っていた。

それでも素質の問題なのか、何百年毎に素質を持つ者が生まれるときがある。

奴と同じように黒曜石のような漆黒の日輪刀を持つ隊士が。

 

日の呼吸の情報が無いからか、適正を持っていても日の呼吸を使う者はいなかった。

適正に合わない他の呼吸を無理やり使って鬼と戦っていた。

だから始末は簡単だった。

 

――だが、あの上弦の弐を殺した男。

 

奴は此れまでの適正持ちの隊士とは真逆の存在だ。

日の呼吸の適正を持たないことは奴の日輪刀の色を見ればわかる。

なのに奴が扱ってきたあの焔の呼吸、あれは日の呼吸に非常に酷似している。

童磨の視界を介して見て、奴が炎のような痣を浮かびあがらせ赫刀を振りかぶる姿を見て――あの化け物を幻視した。

 

幻視して無惨は直感した。あの焔の呼吸は、日の呼吸ではないにしても其れに近しい。

過去、猗窩座との戦いを見ていればあの時に気づけていただろう。

そもそもあの時猗窩座が報告をしっかりしていれば……。

ちらりと猗窩座に視線を向ければ、床を見つめたまま何も考えずに膝を付いていた。

 

今責めても状況が変わることはない。

 

これまでにも黒刀を持っていて、赫刀になど到底至らない雑魚を見てきた。

日の呼吸の適正を持っていても至ることのできない境地に奴は至っているとでもいうのか?

そして独自で日の呼吸に似た呼吸を編み出す?

 

そんなことなどあってたまるか、と無惨は下唇を噛んだ。

黒刀を持つ者が試行錯誤して漸くたどり着いた、というのであればまだ理解は出来る。

だがあの男の刀は水色だ。己の適正が水の呼吸だと分かりきっているのに、なぜ自分で呼吸を創り出した? もしや焔の呼吸などと名前を偽ることで、日の呼吸だという事を誤魔化していた?

 

「――額に痣を持ち、白雲に水色の羽織を着ている者を見つけたら確実に殺せ。童磨のように手加減などせずに」

 

これ以上は考えても答えは見つからないと思考を打ち切り、命令をする。

童磨も最初から本気で戦っていればこのようなことにはならなかった。

 

「……これ以上私を幻滅させるな」

 

その言葉を最後に、琵琶が五度鳴り響いた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――ふふ……似合ってますよ、焔柱(ほむらばしら)様?」

 

「辞めてくれ」

 

水色と赤色の市松模様の羽織を受け取った俺を、しのぶがニコニコと褒めてくる。

 

「というか焔柱とか炎柱と属性被っちゃってるし……」

 

まるで二番煎じだ、とガックリと肩を落とす。

焔の呼吸なんて名前を付けるんじゃなかった、とめちゃくちゃ後悔した。

まあこの市松模様は確かに俺のことを現していると思う。

水と焔の二つの呼吸を使えるってことを端的に表しているし、ちょうどいいだろう。

せめて羽織はオリジナリティを出したかった。羽織も被ってたらマジで泣いてたと思う。

 

羽織と共に新たな日輪刀を支給される。

刀に『悪鬼滅殺(あっきめっさつ)』と刻まれた柱専用の刀だ。

とはいえこの二代目はまだ使う予定はない。

 

なんか勿体ないし……別に絶対この柱専用を使わないといけないって訳じゃないし。

とりあえず刀袋に入れたまんまで放置している。

カナエのを借りた時に二刀流紛いの事をやったけど、流石に同じ長さで二刀流をするほど馬鹿ではない。とはいえ二刀流の有用性も分かったしいざという時の為にも、刀身が短い俗にいう脇差の作成を頼んだ。

 

柱ともなれば大体の要望は叶えてくれるし、このあたりは柱になって良かったと思える。

 

にしても最近は俺の屋敷ではなくこの蝶屋敷を利用している時間のほうが多い。

流石に寝たりするときは自分の屋敷だが、飯だとか空いた時間は殆ど蝶屋敷を利用している。

だって一人ぼっちは寂しいし、カナエとかも暇そうにしてるし? 話し相手も出来てお互いウィンウィンだろ。

 

「……さて、それじゃあ俺はそろそろ行くよ」

 

「もうそんな時間なんですね」

 

「結構距離あるし、速めに出ないと」

 

本当は休みなんて使う気もなかったが、錆兎真菰義勇の三人に鱗滝先生に報告してこいとめちゃくちゃ言われた。ぶっちゃけ行く気なんてなかった。手紙で近況報告して最後の最後に

 

――追伸・柱になりました。

 

っていう一言で済ませるつもりだった。

そう言ったらあの三人に死ぬほど怒られた。

もうビビるくらいに怒られた。

此処まで来れたのもあの人のお陰なんだから、と正論を言われてしまった。

それは言い返せないよ……。

 

まあ柱になって速攻休暇なんて認められないでしょ、なんて思ったらあっさり許してくれたし。

お館様も「私も感謝していると伝えてくれるかい?」なんて言う始末だし。

鱗滝先生も元柱だし、お世話になったんだろう。

 

というわけで久々に狭霧山へと帰ることになってしまった。

正直帰りたくない。

教わった呼吸も今はあまり使ってないし、お守りの厄除の面はぶっ壊したし、お揃いの羽織も変えてしまった。もう三振しちゃってるでしょこれ。合わせる顔がないんですけど。

 

師匠不幸者過ぎないだろうか俺。帰った瞬間ビンタとかされないだろうか。

もうお前は弟子ではない、とか言われたら俺泣いちゃうよ?

いや、言われても仕方がないかもしれないけどさ。

行きたくないな!

 

「早めに出ないとって言って座ったまま百面相しないでください、ほら!」

 

刀袋も持たされ、ぐいぐいとしのぶに背中を押されてそのまま玄関まで追い立てられる。

 

「――それじゃあ、気を付けて行ってらっしゃい」

 

「ん、行ってきます」

 

しのぶの見送りを受けて、俺は重い足取りで狭霧山を目指した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

その日は、いつも通りの日常だった。

町まで炭を売りに行き、人々の頼まれごとを少し手伝って帰路に付く。

少しずつ寒くなってきて、もう少ししたら炭ももっと売れるようになる。

そうしたら家族皆にたらふく美味しい物を食べさせてやれる。

 

――早く帰ってご飯の手伝いをしないと……。

 

竈門炭治郎(かまどたんじろう)は白い息を吐きながら、足を速める。

足元に気を付けながら林の中を駆け抜けて――足が止まった。

 

すん、と匂いを嗅げば獣の匂い――炭治郎の少し先に熊が歩いているのが見えた。

冬眠の時期はもう少し先だ。見つかったら確実に追ってくるだろう。

 

今は武器になるようなものは何一つ持っていなかった。

仮に持っていたとしても、精々が斧くらいだ。

 

(どうする……?)

 

熊が何処かに行くまで身を潜めるか、踵を返して町まで戻るか。

じり、と足を動かして――折れた枝を踏んでしまった。

パキン、と枝が音を立てて割れる。

 

「――っ!」

 

熊と炭治郎が同時に走り出す。

 

距離はあるものの、熊の方が早いに決まっている。

このままでは確実に追いつかれて襲われるだろう。

せめて家から遠ざけるように炭治郎は走った。

 

背負っていた炭を入れる籠も外して駆け抜ける。

身体が僅かに軽くはなったものの、焼け石に水だった。

熊が遠吠えをあげ、更に速度を上げた。

後ろを振り返らずともどんどんと匂いが近づいてくる事から、追いつかれそうな事がわかる。

 

「ギャンッ!」

 

突然熊が悲鳴をあげた。

僅かに振り返れば、熊の鼻に何かがぶつかった。

それはクルクルと円を描きながら炭治郎の傍に落ちてくる。

 

細長い、黒い袋が地面に突き刺さった。

 

「――少年! ソイツを使え!」

 

何処かから声が響いた。

反射的にその袋を手に取り、中身を取り出す。

其処には、所持が禁じられている刀が入っていた。

それを鞘から引き抜いて構える。

 

炭治郎に剣術の心得はない。

全身をガチガチに固まらせながらも熊を見据える。

ゴオオ、と何かが焼けるような音が炭治郎には聞こえた。

 

熊の後ろから、誰かが跳躍していた。

熊を易々と越えて、頸目掛けて刀を振るう。

厚い皮や骨、肉をアッサリと両断してその頭を跳ね飛ばした。

 

――同じ一松模様の羽織を着た一人の少年が、地面へと着地する。

顔にある痣が特徴的な少年だった。

少年といっても、炭治郎よりは確実に年上だろう。

彼は刀を鞘に納めて、炭治郎の元へと歩み寄ってきた。

 

「君が使うまでもなかったな」

 

いつの間にか握っていた刀は消え、刀は鞘に納められて刀袋に仕舞われていた。

あっという間の出来事に呆然としていたものの、炭治郎は勢いよく頭を下げる。

 

「ありがとうございました! お陰で助かりました!」

 

「いや、気にしなくていいよ。あー、刀を持ってるって警察に言わないでくれるか?」

 

彼からは優しくて、温かい匂いが漂っている。

自身を助けてくれたのも善意によるものだと理解できた。

だから彼の事を信じて、炭治郎は笑顔で頷く。

少なくともこの人はいい人だ。

 

「大したお礼も出来ませんが、俺の家に寄っていきませんか?」

 

「いや、大丈夫。もう少しで日も暮れるし君も早く帰るようにな」

 

そういうや否、姿が消えたと錯覚させるほどの速度で走り去ってしまった。

命の恩人に名前を聞く暇もなかったことを少し残念に思いながらも、いい土産話が出来たかもしれない、と炭治郎は家へと向かって歩き始めた。

勿論熊に襲われたことは家族全員に心配されて叱られてしまった。




ぶっちゃけ早く原作入りたい

今後の投稿について

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