薪を集め終え、帰路についていた鱗滝は懐かしい匂いに足を止めた。
目を凝らして見れば、遥か彼方に駆けてくる少年が見える。
水と赤の市松模様の羽織という中々に奇抜な其れは遠くからでもよく見えた。
わきに抱えていた薪をそっと地面に置いて彼の方向へと向かって歩き出す。
それから徐々に速度を上げて彼のもとへ。
常日頃から足音を隠している鱗滝だが、今回はそんなことも忘れて走った。
「――お久しぶりです、鱗滝先生!」
そういって笑顔を向ける彼は、以前とまったく変わらない。
顔には痣のようなものがあるが、それ以外に目立った傷もない。
手紙では近況報告は時折受けていたが、やはりこの目で見るに越したことはない。
お互い両手を広げて抱き合いながら、久々の再開を喜んだ。
「元気そうだな」
「ええ、毎日大変ですけどね」
「寒かっただろう。中に入れ」
「ありがとうございます」
夕凪を中に招き入れ、適当なところに座らせる。
「お前は連絡も寄越さず、顔も見せに来ない。他の三人ですら時折顔を見せに来るというのに」
「うっ」
座って開口そういえば、夕凪は胸を抑えて顔を曇らせた。
「だが、お前の活躍は人づてに聞いているぞ」
「え、誰です? お館様からですか?」
そう言って茶を口に含む夕凪に、鱗滝は頸を振った。
「お前に救われた人々からだ。胡蝶カナエと胡蝶しのぶという二人の少女が一番多いが……望みは叶ったな?」
「ぶふぁっ!?」
盛大にお茶を噴出しながら何度も咳き込む夕凪。
天狗のお面の内側でニヤニヤと笑いながらその様子を眺める。
「望みって、なんのことですかね。というかそんな関係でもないですよ」
涙目になりながらも必死に弁明する夕凪に鱗滝は溜息を一つ。
「お前が異性に好かれたいという思いを持っていたのを知らなかったとでも思うか?」
「バレとる!!!」
両手で顔を覆って天井を仰ぎ見る夕凪。
こんなに感情を剥き出しにして慌てる夕凪を鱗滝は始めてみた。
最初から知っていた。
彼が刀を手に取り戦う、という思いとは別に異性に好かれたいという思いもあったこと。
とはいえその程度で幻滅などはしない。年頃の子なら少なからずそういう思いもあるだろう。
此れが他者に暴行を振るって、無理やりなどと考えていたら弟子としてなど取るつもりはなかった。
夕凪は相思相愛を望んでいる事がわかっていたから、鱗滝は何も言わなかった。
なんなら金の為に鬼を殺す、よりは断然こっちの理由のほうが安心できる。
そして、こうして彼を慕うらしい子達から手紙が届いている。
「胡蝶姉妹は何度か命救ってますから、間接的に鱗滝先生も助けたって事になります。
だからそうしてお礼の手紙とか送ってるんじゃないですかね」
汗を大量に流しながら自身の望みから話を遠ざけようとしている夕凪。
もう少し突いて遊んでもいいが、絶叫してしまいそうな勢いだった。
……今まで一度も顔を見せていなかった事を何も思わなかった訳ではないが、これで許してやろう。
「そういった内容の手紙だった。儂がお前を育て、入隊させていなければ私達は死んでいただろう、と」
「なんというか、義理堅いというかなんというか……」
「お前が生まれたことに感謝したいから是非とも親の住所を教えてほしいとも書いてあったな」
「どんだけですか」
「それほどお前に感謝しているのだろう」
そういうと、夕凪は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「――上弦の撃退、及び討伐に成功したと聞いた」
「はい……それも胡蝶から?」
「ああ。そうして柱になったと」
彼が傍に置いていた日輪刀の隣、刀袋に目を向ける。
それに気づいたのか、夕凪は刀袋からもう一振りの日輪刀を取り出した。
鞘から僅かに抜けば、其処には『悪鬼滅殺』の四文字が刻まれている。
「下弦の討伐ならまだしも、上弦の討伐など儂でも成しえなかった」
「…………」
刀を鞘に納めて、夕凪は鱗滝の話を聞く。
鱗滝の身体は僅かに震えていた。
「お前は――いや、お前たちは儂の誇りだ。だから、あまり儂に心配をかけさせるな」
上弦と戦い、意識が戻らないと聞いたときは気が気ではなかった。
無事に目を覚ました、と聞いてどれだけ安心したか。
「それは、はい……心配かけてすいません」
そういって頭を下げる夕凪。
その頭を鱗滝は優しく撫でた。
「お前の身を案じている者は多くいる。そのことを忘れるな……。
儂から言うことは何もない。お前の信じる道を進むといい」
「――はい」
「……黙っていたが、その刀の色変わってなかったか?」
「へ?」
改めて鞘から日輪刀を引き抜いて掲げる。
夜も遅く、屋内ということもあって少し色が見づらいが確かに色が変わっていた。
「ああ、今触ったから……ん、あれ?」
今触ったのであれば、日輪刀は水色へと変化を遂げているはずだ。
ジッと目を凝らして見れば、それは水色ではなかった。
「……黒いな」
「黒いですね」
お互い同時に頸を傾げる。
「適正が途中で変わるとかって聞いたことあります?」
「いや、ない……お前以外に触った者は?」
「鬼殺隊関係者に触った人はいません。常に持ち歩いてましたし」
「前例がないだけで、お前の適正が変わったのかもしれんな」
「おー……前例がない」
黒とか凄いカッコいい、なんて夕凪は暢気に考えていた。
水色とか他の隊士でも見かけるし、なんなら水柱である義勇とモロ被りだし。
今後はこっちを主体に使っていこうか、と。
まあ黒でも水でもどうせ戦ってるときは赤くなるけど。
最後の最後に謎を残しながら、近況報告は幕を閉じた。
――――――――――――――――――――
鱗滝に近況報告をして、鬼殺隊本部へと帰還を果たした俺。
最早我が家のように蝶屋敷へと入る。
其処で一人の少女の後ろ姿が目に映る。
「――あれ、しのぶその羽織どしたの」
「あ、う……夕凪さん。お帰りなさい」
「……? うん、ただいま」
僅かに動揺したような、慌てたような様子だった。
目を合わせようとしない。その様子に頸を傾げつつも、特に追及はしなかった。
「姉さんったら、また勝手に歩き回ってるみたいで……」
「あぁ、そうなの。まあ元気そうでいいんだけど――で、その羽織は?」
「きょ、今日の晩御飯はどうします? 何か食べたいものとかあります?」
「そうだなあ、魚とかかな……で、その羽織は? カナエと同じ奴だけど」
ぷるぷると震えているしのぶがマジでわからない。
何だってそんなに話したがらないのだろう。
「柱に選ばれました」
「お? おお、おめでとう……何でそんな嫌そうな顔してんの?」
「……柱です」
「ん?」
「蟲柱です」
「……蟲かぁー」
女の子に蟲柱って付けるのはどうなんだろう。
其処はせめてカナエみたいに花柱にしてあげようよ。
いや、蟲の呼吸なんて付けたの自分なんだし自業自得感あるわ。
「なんつーか、うん。慣れるよ」
「慣れたくないですね」
「これから頑張ってくれ、蟲柱様」
「……荷が重いです」
はあ、とため息を漏らすしのぶの頭を無造作に撫でる。
「最初っから何でも出来る人なんていないし、どんどん頼っていいから」
髪をボサボサにしたまま、じっと俺を見つめるしのぶに眉を顰める。
てっきり髪が乱れるからやめてください、とか言うもんだと思ったけど。
「……なにさ」
「兄がいたらこんな感じなのかなーって思いまして」
「なんなら兄さんって呼んでもいいぞ」
「義兄さん!?」
「突然大声あげるなよ、冗談だよ」
「冗談ですか……安心したというか、何というか」
……大丈夫かな。柱に選ばれて疲れているのかもしれない。
しっかり休むように言っておこう。
「柱も結構増えたな?」
「そうですね。私に、夕凪さん。悲鳴嶼さん、不死川さん、富岡さん、宇随さん、煉獄さん、伊黒さん。
後は休養中の姉さん……で九人ですね」
あれ、俺がいない間に知らない名前が増えてる。
「伊黒も柱になったの?」
「聞いてませんでした? 蛇柱になりましたよ」
「聞いてないわ」
伊黒かー、アイツも結構戦闘能力高かったから納得の人選ではある。
蛇の呼吸とかいう超独特な呼吸使うし。
しかもアイツオッドアイなんだよな……カッコよすぎでは?
包帯で口元隠してミステリアス感も出てるし……俺も真似するべきか?
「夕凪さんは今のままでいいですよ」
「俺何も言ってないよね。口に出してなかったよな?」
「考えてることくらいわかります。夕凪さんは威厳とかとは無縁でいいんです」
「ねえ、馬鹿にしてる? 威厳の一かけらも無いって言ってる?」
「それじゃあ御飯にしましょうか……姉さんを捕まえてきてください」
「さては答える気ないなコイツ……しょうがない、カナエひっ捕らえてくるわ」
明日からはまた任務を再開するだろうし、今日は英気を養わせてもらおう。
夜勤週はマジで書く時間がない。
短くてごめんなさいね!
本当は一話平均5000くらい書きたいんだけどなあ
今後の投稿について
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1話事短いが投稿が早い
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1話事長いが投稿が遅い