鬼殺の隊士はとにかくモテたい   作:KEA

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短いけどお許しください



3話

最終選別は藤襲山で行われる。

其処で七日間生き残れば晴れて鬼殺隊の一員として認められる。

なーんだ。七日間サバイバルしつつ鬼と戦えばいいのね!

 

……無理では?

 

いや待て、鬼と戦えとは言われていない。

生き延びればいいのだ。生き恥を晒しても生き残れば隊士として認められる!

それが一番いいに決まってる。逃げるだけならまだ何とかなるだろ。

藤襲山にいる鬼も、強い鬼はいないらしいしいけるいける。

 

だが、無様に逃げまくって合格してもそれはそれでダサくない?

そんなんモテる?

 

「知ってる? あの人七日間鬼から逃げまくって鬼殺隊に入ったのよ?」

 

「えー、恰好わるーい。何のために鬼殺隊入ったの? 馬鹿なの?」

 

こうなる未来が想像できる。出来てしまう。じゃあやるしかないじゃない!

視界に入った鬼は全て頸を斬らせてもらおう。

そういう覚悟でこの藤襲山に訪れたわけなのですが、すっげー奇麗なの。

藤の花がすっげー咲き乱れててさ、奇麗だなって思いつつ集合場所へと向かったわけだが。

 

……全然女の子いねえのな。殆ど野郎なんだけど。

あーあ! やる気なくなっちまうなァ! 

まあ分かってたけども。逆に女の子多かったらびっくりするわ。

大体三十人前後だろうか。其々の育手に鍛えられた子供達。

 

何人生き残るのだろう。果たして俺は生き残れるのだろうか。

選別を直前に、俺は怯えている? そりゃあそうだ。

これから命を賭けた殺し合いが始まるっつーのにビビらない訳が無い。

大丈夫。訓練通りに動くことが出来ればきっと大丈夫。

 

「――皆様。今宵は、鬼殺隊最終選別にお集まりくださってありがとうございます」

 

真っ白な髪の奇麗な女の人が口を開く。

あの人も鬼殺隊に関係のある人物なのだろう。

どうみても戦闘が行えるようには見えないが……お偉いさんかな。

 

その人から最終選別の説明を受ける。

先生が言っていたのと同じことだ。

七日間、この山の中で生き残らなければならない。そこには鬼殺隊が捕らえた鬼共がいる。

だが、この山にいる鬼達は至極弱いらしい。数人喰った程度の鬼しかいない。

鬼の強さは基本人を喰った数で決まる。数人程度なら特異な術――血鬼術――を使うような鬼もいない。

まだ鬼殺隊にすら入っていない子供の俺たちに何十人と喰ってるような鬼を殺させようとはしないだろう。

 

逆に言えば、この山の鬼の頸を斬れないようではこれから先やっていけないとも言えるが。

 

「それでは皆様、行ってらっしゃいませ」

 

その言葉を合図にぞろぞろと子供たちが山の中へと入っていく。

 

……大丈夫。ずっと全集中の呼吸は維持してる。

常に神経を張り巡らせて、一瞬も油断をするな。

 

覚悟を決めて俺も山の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああああ!」

 

悲鳴が山中に響き渡る。だが最終選別が始まった今、それは普通の事だった。

鬼が倒れ伏した子供を殺そうとしたその瞬間、俺は刀を振るう。

 

――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り

 

肉を貪れる、と歓喜の顔をしていたまま頭が地に落ちた。

刀を軽く振るって血を払い、そのまま鞘に納める――事はしない。

まだいる。今か今かと俺たちに飛び掛からんとしている奴が。

 

「あ、ありがとう……助かった」

 

「落ち着いて、呼吸が乱れてる。そんなんじゃあっという間に死んでしまうぞ」

 

尻もちをついていた子は俺の言葉に深呼吸を繰り返して呼吸を整えていた。

どんなに強くても呼吸が上手く出来なければあっさりと死ぬ。

 

「肉喰わせろォ!」

 

草木を掻き分けて突撃してきたもう一体の鬼。コイツが俺たちを狙っていたのだろう。

刀で俺を斬り裂こうとした爪を受けとめ、男の子に視線を向ける。

男の子は頷いて刀を構えて……姿が消えた。

 

瞬間鬼の頸が断ち切られ、頭が跳ね飛んだ。

 

ええ……。強すぎない? なんでさっきそんなに慌ててたのよ。

落ち着いてやれば問題ないじゃん。

 

「その調子でお互い頑張ろうな」

 

「……ああ! 絶対に生き残ろう!」

 

鬼の頸を斬れたことで自信が持てたのだろう、男の子は怯えた表情とは違ってやる気に満ち溢れていた。

そんな男の子を見送って俺はため息をつく。

 

さっきのような出来事は一度や二度じゃない。

本来の実力が発揮出来ればこの最終選別を生き残るのは正直簡単だろう。

程度の差はあれど、それぞれ育手の元で厳しい鍛錬を積んでいるのだから。

だが、初めての鬼との戦いに体が強張り、呼吸が乱れて上手く刀を振るえない子が多い。

……まあ俺も初戦はそんな感じだったからあんまり強くは言えないけど、それでも尻もちをつきはしなかった。

この試験方法、もう少し見直すべきじゃあなかろうか。それこそ鬼殺隊の数人をこの山に配置させるとかさ。

 

実力を発揮できず無残に殺されてしまってはあまりに可哀そうだ。

全員それなりにキツイ訓練を乗り越えて此処にいるというのに……。

 

今度こそ刀を鞘に納め、空を見上げる。

夜が明けるには、まだまだかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぶはーーーっ!! 無理だ! いったん休憩!」

 

規則正しく行われていた呼吸を辞めて喘ぐ。

臓器がバクバクと音を鳴らしていて凄まじく痛い。

どっか破裂してたりしないだろうか。大丈夫か? 鼓膜敗れてたりしない?

 

常に周囲に注意を巡らせ、鬼と殺し合う。

死の危険がずっと付き纏う中で全集中の呼吸を常時行う、というのは至極難しかった。

日常生活を送る中で常に呼吸を維持するのとは難易度が段違いすぎる。

 

始まって今日で六日目。

この夜を凌げばこの最終選別も終わる。

 

三十一体。

 

俺が鬼を殺した数。

ここにいる鬼はやはり其処まで強いわけではない。

殆どが飢餓状態で攻撃が直線的だし、不意打ちを受けても反射的に対応すら出来る。

寝ている時が一番の危険だが、そこは時折他の人間と協力したりもした。

 

基本的に寝れるのは太陽が昇っている時――つまり日中だ。

昼は川で魚を捕まえたり、藤の花のバリケード作ってそこで寝て、夜は駆けずり回る。お陰様で完璧昼夜逆転してしまった。

……というか藤の花のバリケード内でジッとしてていいのでは?

 

現にそうしている子だっていたし。

負傷して戦えそうもないような子はそこに避難したりもしている。

 

俺もそこでジッとするってのも良かったんだけど、藤の花のバリケードも完璧という訳ではない。

近寄りがたいというだけで近づけはするのだ。

なら怪我で戦えない子達に近づかせない為に鬼を屠ろう。

 

さて、そんなこんなで試験に終わりが近づいてきたころ、ソイツはやってきた。

 

「――ヒヒ、見つけたぞ。可愛い可愛い俺の狐小僧」

 

のっしのっしと現れたのは、異形の鬼。

多数の触腕で全身をグルグル巻きにした緑色の巨体な鬼。

――今まで倒してきたヤツを束にしても、コイツほど苦戦はしないだろう。

そう思えるほどの圧倒的な存在感を放つ鬼だった。

 

何でもコイツは鱗滝先生の弟子を十人食い殺しているらしい。

……コイツは今ここで排除しなければ。錆兎と義勇が危ない。

少なくとも最終選別にお前は相応しくない。

 

其処からは死闘だった。

迫りくる触腕を全て紙一重で躱し、何とか隙を見つけることに集中する。

触腕を叩き切る事も考えたが、これだけ切れば内部の骨に当たっただけで刀が折れてしまう可能性もある。

多分、前世と今を含めてコレ以上集中したことはないと思えるほど精神を研ぎ澄ませていた時、それは訪れた。

 

全てがスローモーションになり、触腕全ての動きが分かる。

奴が何をしようとしてくるか何故か手に取るように分かった。

 

次いで、ボンヤリと奴の身体がうっすら透けてみる。

どのような骨格をしているかがわかる。

其処で俺は危機感を覚えた。

 

――スタンドだッ! 俺は今、スタンド攻撃を受けているッ!!

 

やべェ! スケスケだ! 確かこんな風に内部透けて見えるスタンドあったよなあ!!

何だっけ!? 闘争本能を高まらせて死ぬまで戦わせるとかそんな感じのスタンド!!

鱗滝先生ェ!! スタンド使いに襲われた時の対処方法を教えてください!

 

確か人同士でも争っちゃうから組織とかじゃ使えない弱いスタンドとか言われてなかったっけ!?

クソが、確かに何か闘争心が芽生えてきているかもしれない!(プラシーボ効果)

 

はッ! このスケスケで女の子見れたりしないか!?

都合よく服だけ透けて見えたりしないのか!?

 

なんてことを考えつつ鬼の頸を撥ねれば、スケスケ状態は元に戻ってしまった。

クソッタレェ……。

 

でもなんだ今のスケスケの視界は?

あれなの? 新手のスタンド使いでも何処かにいるの? ここはジョジョの世界なの?

 

ここで三つの可能性が浮かぶ。

一つ。俺が何かしらの魔眼的な特殊能力に目覚めた。

二つ。単純に血鬼術によるもの。

三つ。スタンド使い。

 

この三つである。

 

一つ目はどうだろう。そんなのあんのかな? でもスケスケになるだけとかそんな魔眼いらないんですけど。

頼むから服だけを透けさせてくれ。

二つ目は分からん。分らんから鬼どもを全滅させるしかねえ。

 

三つ目……つーかよく考えたけどあのスタンドに似てるけど微妙に違うわ。

闘争心全然でないし。

 

つまり俺の魔眼か血鬼術。

 

さっきの手グルグル鬼みたいに隠れて食い殺し続けてきたような鬼が存在するのかもしれない。

それならそれでぶち殺さなければいかん。

あの二人が選別を受ける時にはこんな難易度詐欺の鬼がいないようにしなければなァ!

 

今宵の俺の刀は血に飢えておるぞ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼を全滅させたっぽいけど、結局俺の特殊能力なのか血鬼術なのか判断付かなかったわ。まあいっかぁ! 他の子達も守れたっぽいし!




仕事なんてやめてずっと小説書いてたい……

2020/2/22
しのぶさんと同期でイチャイチャする世界線を消失させることで
物語の統合性を図ります。

主人公「どうして……」



社畜の呼吸 終ノ型 休日夜勤

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