鬼殺の隊士はとにかくモテたい   作:KEA

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4話

「ふんふんふーん、ふふふのふーんっと」

 

鼻歌を歌いつつ藤の花の通路を歩く。

七日間生き延びれたし、鬼共に襲われるとビクビクすることもなく歩けていた。

いやー、朝日が眩しいね。こんなに朝日に感謝するとは思わなかったぜ。

 

さて、初日に説明を受けた場所に来れば既に全員が揃っているようだった。

軽く見渡しても大きな怪我を負っている様子もなく、全員が元気そうに会話をしていた。

 

「――あっ! 来たぞ!」

 

俺の足音に気づいたのか、一人の男の子が俺の事を指さした。

その瞬間全員が会話を辞めて俺へと視線を向ける。

 

こわっ。全員一斉にギュルンってこっち向いたぞ。

えっ、なになに? 何かあったの?

全員こっち見るんじゃないよ、怖いよ。

 

「君のお陰で無事に生き残れたよ、ありがとう!」

 

「オレもお前に礼を言いたかったんだ。あの時は助かった」

 

「異形の鬼と戦ってる所を見ました――」

 

ぞろぞろと俺の周りに集まってくる男共に俺は頬を引き攣らせる事しか出来なかった。

やめてよね。男に言い寄られて嬉しいわけねえだろうが。

別に礼求めて助けたわけじゃないし気にすんなって。

 

なんて言ってもテンションが上がった彼らが止まることは無かった。

 

いやいや、ほんと気にすんなって。お互い様お互い様って感じでさ。

 

おいおい、そんな引っ張んなってわかったわかったって。

やめ……やめろォ!! お前らいい加減離れろ!

せめて女の子になってから俺に近づいてくれ!!

 

俺に近づけんのは可愛い子だけなンだよ!

オラどけどけ! 

そこのお偉いさん!! 助けてェ!!

 

もみくちゃにされている最中、俺に電流が走った。

 

――試すなら此処しかねえ!

 

うおおおおお集中しろ集中しろ!

透けろ透けろ透けろ透けろ透けろ!

異性の裸体が見てみたい年ごろなんじゃよ俺ぁ!

 

全力で集中しろ! あの人を見つめ続けろ!!

っしゃあ! 透けてきたぞ! そのままあの女性の体を見せろ!

透け――すぎだ馬鹿! 良いんだよ骨とか筋肉とか見せなくて!!

 

服だけ! 服だけ透けてくれ! 頼む!

くそっ! あれか、気合が入りすぎて透け過ぎちゃうのか?

 

100%集中してみる→服どころか骨見える。

50%集中してみる→服だけ透ける。

 

みたいな感じか!?

 

くっ、今の俺にそんな絶妙な力加減は難しいぞ……!

だけどあんな美人の裸が見れるかもってなると俺めっちゃ興奮してきたぞ!

心臓バクバクしてきたし体も火照るぜこんなのはよ……! 見てろよ……!!

 

そんなこんなでわちゃわちゃと騒いでいたが、白髪の女性が口を開いた事で辺りは静かになった。よし、お前らそのまま静かにしてろよ、俺はちょっと透けさせる事に集中してっからよ。

 

「――皆様、お疲れさまでした。これにて今回の最終選別は終了となります」

 

一人一人の顔をゆっくりと眺めていき、女性は優しく微笑む。

そしてこれからの説明を受けた。

 

くそ、流石に服だけを透けさせる絶妙な力加減は俺にはまだ無理みてえだ……。

落ち着いてきたところで説明をちゃんと聞くことにしよう。

 

隊服を作る為に寸法を測り、階級を刻む。

それぞれに連絡用の鎹鴉が支給される。

そして自分の刀を作るための玉鋼を選んで今日は解散となる。

 

いやもう全身が疲れたって悲鳴あげてるわ。

刀が出来るまではゆっくり休めるといいなあ。

いや待てよ、刀が出来上がるまでに俺もこのスケスケを完璧にしてやるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

産屋敷あまねはもみくちゃになりながら騒いでいる子供たちを嬉しそうに眺めていた。

 

本来この最終選別で生き残る者は非常に少ない。

基本は片手で数えられる程度の人数しか此処には帰ってこない。

須らく鬼共に喰い殺されてしまうからだ。

 

そして、生き残った子達も全身ボロボロで死んだような眼をしていることが多い。

生き残っても隊士を諦めて隠となることを望んだり、その隠すら諦めることだってある。

選別を生き残った事を喜び合う事すらせず黙って帰っていく様を長年眺めていた。

 

だが、今回はそうではなかった。

誰一人欠けること無く、目立った傷も負わずに帰ってくるなど本来あり得ないのだ。

なのに今はどうだ。全員が自信に満ち溢れており、生き生きとした表情をしている。

 

「……きっと、あの子のお陰なのですね」

 

中心の男の子――泡沫夕凪――は、騒ぎ立てる子達を苦笑しつつなすが儘にされていた。そして、助けを求めるようにあまねの方をじっと見ている。

 

いい加減大変そうだ。

このあたりで静かにさせた方が良いかもしれない。

そう思って口を開こうとして――あまねは目を見開いた。

 

――彼の頬に、何かが浮かんでいる。

 

それは波打つように形を変えている。

薄ぼんやりとしか見えないが、其れは痣のような物だった。

 

だが見えたのはほんの数秒で瞬きをした次の瞬間には何もない奇麗な頬が

あまねの視界に映る。

 

……今のは決して見間違いなどではないと確信が持てた。

歴代の柱でも極一部の者がたどり着いた領域に彼は既に踏み込んでいる……?

 

彼の名前と顔を、あまねはしっかりと頭に刻み付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はぁっ!!」

 

「……ふっ!!」

 

木刀を打ち合う音と威勢のいい声が狭霧山に響き渡る。

その音に耳を傾けながら鱗滝は薪を集めていた。

 

「……そろそろ帰って来ても良い時間だが」

 

そろそろ日が暮れる。

丁度一週間前に彼を見送って、鱗滝は不安そうに顔を歪めた。

弟子を見送り、一週間経ったときは必ず不安に襲われる。

 

それから三日、四日と過ぎ……そして一週間経った頃に悟る。弟子は選別で死んでしまったのだ、と。

嫌な思考を振り払うように頭を振ったその時、全ての音が止んだことに気づく。

そして――嗅ぎ慣れた匂いがした。

 

錆兎と義勇は木刀を放り投げ、一直線に駆ける。

その先には、多少ボロボロになりながらも元気にこちらに向かって走ってきている泡沫の姿があった。

二人に遅れて泡沫の傍に来た鱗滝は、三人纏めて抱きしめた。

 

「よく生きて帰ってきた……!」

 

「――はい。ただいま戻りました、錆兎、義勇……鱗滝先生」

 

そういって泡沫はニッコリと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやぁマジで疲れた。

小屋の中で最終選別の事も話し終わって、俺はゆっくりしていた。

とはいえ特に話すことは無い。

普通に七日間戦いつつ生き残りましたよーで終わりだ。

 

あー、何かスケスケになったことは話した方が良かっただろうか。

でもあれ結局わかんないんだよなぁ。

もうちょっとわかってから話すようにした方が良いかな?

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