鬼殺の隊士はとにかくモテたい   作:KEA

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7話

鬼殺隊の本部で、怒声が響き渡った。

 

「――どう考えても可笑しいだろう」

 

「……」

 

「と言われても……我々にもどうすることも出来ないんですよ」

 

二人の少年が隠にとある事を問い詰めていた。

その二人――錆兎と義勇は苛立った様子で紙の束を隠に突きつける。

 

「これも、これも、これも……全てあの人が討伐したはずだ。

なのにどうして俺たちや他の隊士が討伐したことになっている?」

 

「――其処からは私が説明するよ。錆兎、義勇」

 

隠と二人の前に現れたのは、鬼殺隊の頭であるお館様。産屋敷輝哉だった。

額から右目にかけて火傷のような傷痕が広がっており、その傷痕は徐々に左目も

覆いつくさんとしているようだった。

 

「お館様!?」

 

お館様の登場に驚きの声をあげたのは錆兎。

 

二人は私の部屋においで。そういって踵を返すお館様の後を慌てて追う二人。

そうして訪れた部屋の机の上には多数の紙束が置かれており、さっきまで何か作業をしていたことが窺えた。そしてそれ以上に目を引くものが其処には存在していた。

 

 

「何故鎹鴉がお館様の部屋に……?」

 

義勇が小さく呟いた一言に錆兎も内心で首を傾げる。

鎹鴉は必死に小さな茶碗の中に入った水を飲んでいた。

ここまで疲労困憊になっている鎹鴉を見るのは珍しかった。

 

「この鎹鴉は夕凪の子でね。任務の報告に来てくれたんだ。

二人とも楽にして構わないよ」

 

よいしょ、と座って机の上に存在する紙を手に取り、何かを書き込んでいくお館様。

二人は正座した状態でお館様の作業が終わるのも待ち続ける。

 

「さて、報告をお願いしてもいいかな」

 

「カァ―……泡沫夕凪、恐ラク鬼ヲ二体討伐」

 

「君に伝えてあった任務の数は幾つかな」

 

「五件!」

 

「うん、ありがとう。それじゃあ任務を伝えに行くのは少し待ってくれるかな」

 

鎹鴉は話を終えると何処かへと飛び去ってしまった。

鎹鴉から聞いた事を紙に書き終えると、改めてお館様は二人に向き直る。

 

「夕凪は君たちの兄弟子だったね」

 

「……はい」

 

「彼の待遇に意見があって隠の子に話をしていた、であっているかな」

 

再度頷く二人に、お館様は困ったように微笑んだ。

 

「――君達は、鎹鴉が認識をする前に鬼の頸を斬る事は出来るかい?」

 

「認識をする前に……?」

 

「うん。認識をする前に」

 

そう聞かれて場面を想像する。

どんなに早くても鎹鴉に気づかせずに鬼の頸を斬る。

……どうあっても無理だろう。確実に気づかれる。

 

二人の表情で答えを察したのか、お館様が口を開く。

 

「鎹鴉が気づかない速度で頸を斬るなんていう事は柱でも難しいだろう」

 

何せ鎹鴉はそういった事を見て伝えることに特化しているのだから、でき無きれば意味がない。

 

「鎹鴉が鬼を退治している所が目撃出来ていなくてね。夕凪の実績が事実と異なってしまっているんだ」

 

全ての討伐報告がしっかり為されていれば少なくとも階級はもっと上になっていただろう。

 

「そこで鎹鴉に、夕凪本人に鬼を何体討伐したのか訊くようにしたのだけれど……夕凪は何故か嘘を吐いているようでね」

 

今回の報告も嘘が混じっていた。

彼の鎹鴉に伝えた任務の件数は五件。

 

任務が終わった時、疲労や怪我が少ないようであれば鎹鴉は次の任務を直ぐに伝える。

鎹鴉が戻ってきたということは五件の任務を全て伝え終わっている事になる。

そこでまた任務を受けてまた戻っていくのだが……。

 

五件全て終わっているのなら最低でも五体の鬼を討伐しているはずだ。

それなのに討伐した報告は二体。

 

「此れが逆だったのならまだ話は分かるんだけどね」

 

討伐数を盛ったというのならば分かる。

だが何故彼は数を下げて報告してきたのだろうか。

 

「彼は何か……階級を上げたくはないのかな?」

 

それこそ柱に欠員が出来れば、直ぐにでも甲にして柱になってほしい。

そう思える程にお館様は彼の事を信用していた。

だが本人にその意思がないというのであれば無理強いはしたくはない。

 

痣者には出来る限り好きなように行動をしてほしいという思いもある。

総じて痣者は寿命が短いのだから。

 

「とはいえ働きぶりに相応しい報酬は出さないといけない。

そこで妥協案として彼の給料を甲と同等にしようと思っているんだ」

 

他に彼が好きなものはあるかな? という問いに錆兎と義勇は顔を見合わせた。

一緒に鱗滝さんの元で訓練をしていた時もあまりそういった話は聞かなかった。

あまり娯楽といった物に興味がない、という雰囲気だ。

 

「……以前、甘味処に行っているのを目撃しました」

 

そこで初めて義勇が口を開いた。

 

「……甘味処か。そういった物も彼に手渡すように手配しておこう」

 

戦闘力は化け物だが、案外可愛いところもあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――時は鎹鴉が五件目の任務を泡沫に伝えたときにまで遡る。

 

「カァ―! コノ付近デ行方不明者多数! 鬼ノ可能性アリ!」

 

「りょーかい、ちちゃっと終わらせるよ!」

 

何時でも振り抜けるように柄に手をかけたまま森の中を駆け抜ける。

 

草木を掻き分けて進む中、血の匂いが濃くなっていく。

鬼がいるであろう方向に進めば、死体を貪り食っている一体の鬼が其処に存在した。

 

「――あぁ? 此処は俺の縄張り……」

 

「――の呼吸、壱ノ型」

 

鬼の姿を捉えた瞬間、泡沫の姿がブレる。

気づいた時には刀は振り抜かれており、鬼の頸が飛んでいた。

 

「ギリギリ! ギリギリ見エタァ!」

 

やったー! とバサバサ飛び回る鎹鴉に泡沫は微笑ましそうな表情で眺めていた。

 

「さてと、これで俺が討伐した数は五体かな」

 

「……エ、合計二体ジャナイノ……?」

 

「――二体だった! なんでもない! いやーちゃんと数えられて偉いなあお前はよォ!」

 

「ヘヘヘ!!」

 

泡沫は鎹鴉を抱きしめて頭を撫でる。

鎹鴉は一通りそれを堪能した後、任務報告の為に帰っていく。

 

鎹鴉が飛び去って行くのを見送りながら泡沫はため息を吐いた。

 

「……あんな目されたら間違ってるなんて言えないよなあ」

 

会話できるし、鴉に懐かれるなんていうのも滅多にない経験だ。

なんていうかペットを飼ってるような感覚になってしまう。

……つい甘やかしちゃうんだよなあ。

 

はっきりと違う! って訂正してあげたらいいんだけど。

あんな可愛い顔してたら多少差異が出ちゃうくらい許してやるさ。

 

「……さてと、戻ってくるまで甘味処でも行ってこようかな」

 

ぶっちゃけこの時代の娯楽って俺にとっちゃ娯楽じゃないんだよね。

俺にとっての娯楽ってのはよ、ゲームだとかテレビ見たりとか漫画読んだりとかなのよ。

 

……ねえんだよ、この時代。

 

精々甘いもの食べるくらいしか娯楽がねえ。

それにしか給料も使ってないし貯まる一方なんだよなあ。

こう、もっと使う道があればいいんだけど。

 

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