本当の自分ってなんだっけ。
私は私のことがわからない。
本当の自分を探しに、記憶の海に身を沈める。
そして思い出す。
今を生きていて、ふと思いを馳せる。
本当の自分を探しに、過去の自分を思い描く。
そして思い出す。理想と現実と後悔を。
暗い…
辛い…
息苦しい…
何も見えない…
気づけば、そこは奥深くで。
暗く何も見えない海の中。
ここは頭の中に広がる記憶の海だった。
息を思い切り吸いこむ。
目を見開き、一心に潜る。
ほんの少し頭上を仰ぎ、目を閉じる。
眠るように沈む。
深く深く沈む。
潜れば潜るほどに苦しい。
でも耐える。
ひたすら巡り巡る。
長い時間をかけ、果ては同じところをぐるぐると。
過去の記憶を巡り、後悔を見つけては、感情を揺らす。
なんの為に潜っていたんだっけ。
想いは後悔に塗りつぶされる。
解決するはずもなかった。
過去と比べて、また同じことをやっていると。
そんな、今の不甲斐なさを呪ってしまうばかりだ。
辛い、息が持たない。
浮上する。
すべてを忘れる。
だが、それも一時的なこと。
思い出す。
避けては通れない。
なんとかしなくては、私はこの先を生きてはいけない。
考える。
考えて考えて考えて考えて、思考の渦に飲み込まれる。
身動きが取れない。
激流が後悔となって次々とフラッシュバックする。
私の心を苛む。
心が崩れてゆく。
形が維持できない。
意識が薄れる。
身体が重くなる。
気づけば、海底に横たわる。
私は何をしていたんだっけ。
私ってなんだっけ。
心が溶けてゆく。
自己が失われる。
底に溜まる後悔、嫉妬、憤慨、激情の泥に身を沈める。
なぜだろう、心地良い。
一眠りしよう。
陽の光が、僅かに底を明るくする。
私を呼ぶ声が聞こえる。
そんな気がした…。
幻想でも、奇跡でも、なんでもいい。
起きなくては。陽の元に出なくては。
そう自然と思えた。
あぁ、あぁ。でもダメなんだ。
でも、でもでもでも、私には心がない。
ないんだ。何も。
心は溶けて海の一部となってしまった。
あるのは、底に溜まり続けた激情の泥。
迷惑をかけないよう我慢して、そして抑え込んだ。
求められていないから、不必要なものだから。
そう思っていた感情。
それが普通なんだ。
普通って何なんだ。
本当の自分って何なんだ。
感情の発露を押し込む私の殻
いつしか感情は生れてこなくなり
残ったのは空っぽの殻だけ。
作らなくては。
満たさなくては。
かき集める。
忘れていた感情を。
底に溜まった泥を。
集め、押し固め、無理矢理に心を形作る。
手が痺れ、時折、顔を出す破片に身を傷つける。
できた。
この心は歪だが安心する。
抑え込んで沈めて溜まった感情の泥。
醜い感情を押し固め、本当の心を形作る。
本心を携え浮上する。
自分探しは終わった。
今日も生きる。
通勤時の電車で考えました。
経験のない方もいるのかもしれませんが、
憂鬱な時って何を考えても、
気づけば同じことをずっと考えていたりして、
解決しない思考のループを繰り返していますよね。
そういった思考を巡らせることを
記憶を司る海馬の海になぞらえて構想を得ました。
こういう時って、意外と周囲からのアドバイスで
案外すぐに解決してしまうんですよね。
人間関係でも、
自分の本心と、周りの迷惑を天秤にかけて、
気持ちを抑え込んでしまったりしますよね。
今回の主人公は、
今まで抑え込んで忘れてしまっていた
本心を見つけに行く話でした。