この街にはこんなウワサがある。
「街外れにある祠で一番大切なものを捧げると願いが叶う」
そんなありきたりでどこにでもありそうなウワサ。
どこから流れたのかは知らないが、そんなウワサを俺はバカバカしいと思っていた。
でも、占いやおまじないといったものが好きな女子やちょっとした興味から街はずれまで行くクラスメイトはそれなりにいた。
特に最近はその話題で持ち切りでクラスを騒がせていた。
(高校生にもなってなにやってんだか………)
心の中で悪態をつきながら、愛用のベースとカバンを手に放課後の教室をあとにした。
校門を出て、スマホを取りだしイヤホンを耳へ当てる。そして流すのはいつも聴いている「LOUDER」という曲だ。歌うのは俺がまだ子どもだったときにデビューしたロックバンドだが、いつの間にか解散してしまったようだ。
ある日、姉貴の部屋を掃除していたときにたまたま目についたので聴いてみたところ、どハマリしてしまいベースを初めたきっかけにもなった。
今では就職した姉貴も中学までベースをやっていたが、いつの日か辞めてしまった。そのため姉貴が使用していたベースをそのまま俺が使わせてもらっている。
いつも通りスタジオに入り、愛用のベースの弦を鳴らす。音を確かめながらチューニングした後、早速「LOUDER」を流し、曲に合わせてベースを奏でる。
(やっぱ最高だな!この曲は!)
そうして夢中でベースを弾いてるうちにすっかり日も暮れて、あっという間に終了時間になってしまった。
慌てて機材を撤収し、スタジオから退出し帰路についた。家に着く頃にはかなり暗くなっていた。
「ただいま〜」
「おかえり〜遅かったね」
家のドアを開けると玄関で私服でこれから家を出る様子の姉貴と鉢合わせた。
「どっか行くの?」
「うん、ちょっとね」
「男か?」
「違うわ」
そんな短いやりとりをして姉貴はさっさと出て行ってしまった。特に気にすることもなく自分の部屋へ行き、楽器ケースを置いたところである事に気づいた。
「やっば、カバン忘れた………」
曲に夢中になりすぎていつも以上に浸って弾いてたせいか、そんな大ポカをしていた。
さすがに教科書も持たずに明日学校に行くわけにもいかないので、スタジオに取りに行くことにした。
スタッフに事情を話すと、見慣れたカバンをカウンターの下から取り出してくれた。どうやら預かってくれていたようだ。
「ふぅ………」
安心しながら再び帰路についてしばらくしたところで、街外れの方へ向かっていく姉貴の後ろ姿を見かけた。
(なにやってんだ姉貴。あんな方に向かって)
もうかなり遅い時間になっている上に、姉貴が向かう方向の道路は街灯が少ないため、心配になりそのまま彼女のあとを追った。
姉はウワサの祠で立ち止まった。そして両手を合わせて何か祈っているようだった。
(姉貴もあんなウワサ信じてたのか………)
少し意外だった。占いやおまじないといった類の話を彼女から聞いた事がなかったからだ。
「……………………」
およそ30分もの長い間、姉貴は祠の前で祈っていた。何かを呟いてるようでもあったがここからでは聞き取れない。途中で声をかけるべきか悩んだが、あまりに真剣な雰囲気だったためかけることができず、俺はただ後ろから見ていることしかできなかった。