激おこぷんぷんトミー・ポッターくん   作:ぼんびー

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冷えた朝の空気が心地よかったので初投稿です。
ドリーに関するなにがしのような別視点です。
(番外編なので読み飛ばしても問題は)ないです。


かわいい飼い犬

 

 

 

トミー・ポッターのことはどのようにでも表現出来る。

 

生き残った双子の片割れ。

闇の帝王を倒した魔法界の有名人。

アーニー・ポッターの双子の弟。

くしゃくしゃの黒い髪をした細身の少年。

いつもひたむきなあどけない笑顔の少年。

いつもどこか遠くを見ているような不思議な少年。

 

でもわたしにとってはいつだって…かわいい飼い犬のトミーだった。

 

 

 

 

 

1 毒蛇と子犬

 

その男の子がスリザリンに選ばれたとき、大広間はすこし異様な空気だった。直前に組み分けをした双子の姉のアーニーがグリフィンドールだったこともあって、彼らは当然に弟も赤獅子に行くものだと思っていたからだ。

 

先ほどまで楽しそうにしていたアーニーは、まるで腕でも切り落とされたみたいに怒気を発しながら帽子を睨み付ける。でも、その男の子はどこ吹く風と言ったようすで帽子を椅子に置く。その温度差にみんなは困惑していた。

 

もちろんわたしも驚きがあったのだけど…しかしそれと同時に喜びもあった。男の子がざわめきのなかを悠々と歩いてわたしのとなりに座ったから。わたしは神様に感謝をしたくらいだ。かの英雄様とお近づきになれる好機をくれて…獲物を口もとに運んできてくれて感謝します。我ながら信心深い蛇だ。

 

さて、いったいどう料理してくれようか。

つとめて平静をよそおいながら、わたしは男の子に声をかけた。

 

「ねえ、有名人さん」

 

男の子はわたしに気がつかない。食べものを一心不乱にかきこんで涙を流しそうなくらいに喜んでいる。

わたしを無視するとはいい度胸。プライドがむくりと持ち上がる。

 

「ちょっと…聞きなさい」

 

こんどは強めに声をかける。それでも男の子は気がつかない。“うん”と生返事をしながら食事を続けている。その無礼を叱ってやろうと思ったのだけど、そのようすがあんまりに幸せそうなものだから…まるで誰かにとられるんじゃないかとでも思っていそうなものだから邪魔するのもだんだん気が引けてきてしまって。

 

「……なんなのかしら、この子」

 

なんだかわたしは疲れてしまったので、男の子が食べ終わるのをおとなしく待つことにした。

 

 

 

 

 

しばらくして男の子がようやっと一息をついたので、わたしははやる心を抑えながら声をかける。

 

「食事はようやく終わり? ロクなものを食べてないのかしらね」

 

男の子は不思議そうにこちらを見た。

そのときの何とも言えない気の抜けた顔ときたらない。口元にはクリームをつけたままきょとんとして、そのくせハシバミ色の瞳はわたしの内側を見透かすかのようにのぞき込んでくる。

 

その男の子のようすがいかにもあどけなくて、噂の英雄にはふさわしくなくて。なにも苦労なんてしないで生きてきましたとでも言いたげだったので、わたしは苛立つ。

 

「わたしはマルフォイ…ドリー・マルフォイよ。その様子じゃ、何にも知らなさそうね。しかたがないから教えてあげるわ。よく聞きなさい、いいわね」

 

“え…え? マルフォ…え? どういうこと?”

 

「聞・き・な・さ・い」

 

“は、はい”

 

それからわたしは説明する。魔法界がどういうところなのか。ホグワーツがどういうところなのか。スリザリンがどういう寮なのか。何が尊ばれているのか。純血主義とはなんなのか。その正当性とすばらしさ。そして本題の、純血のマルフォイ家がどれだけすごいのかということ…ひいては、その一人娘のわたしがどれだけすごいのかということ。

 

言い含めるように、たしなめるように、叱りつけるように…困惑したままの男の子をきにもせずまくしたてる。

 

「さて、いまどういう状況にいるのかわかったかしら、トミー・ポッターくん? そのうえで…あなたがどうしてもといって頭をさげるなら、わたしがお友達になってあげてもいいのよ」

 

わたしは男の子を見下しながら笑う。ここまでわたしのすごさをおしえてやったのだから、まさか断りはしないだろう。…が、もし断ったらいじめてやろう。

 

どうせこの子は半純血。そしてスリザリンでの後ろ盾なんてありはしない。なら後は赤子の手をひねるよりも簡単だ。わたしが周りにはたらきかければ、あっというまに孤立する。泣くまでたっぷり追いつめて、弱ったところで丸のみにしてしまおう。そして小間使いのように扱ってやるのだ。

 

(闇の帝王を倒して有名になって…生まれたときからちやほやされてきたんでしょう? みんなから褒められて認められて…気にいらないわ)

 

わたしのなかの毒がつきうごかす。いつからかわたしの内側からわきたつようになった毒。いつも他人を傷つけて――わたしから人を離れさせる毒。わたしをむしばむ嫌な毒。

 

なのに――

 

“いろいろ教えてくれてありがとう、ドリー! 君ってほんとうにすごい人なんだね。僕はトミー・ポッター! 魔法界のことはなんにもわからないけど…それでもよかったらよろしくね”

 

そう言って目の前の男の子は、口もとにクリームのついた顔でわたしに笑いかけた。ハシバミ色の瞳がきらきらと輝いていて、ほんとうに嬉しそうにわたしのことをみつめていた。

 

なんておばかな子なんだろう。人の内面をうたがうことを知らないのだろうか? 開かれた蛇の口の目の前で、おなかを見せて転げ回る。こっちの気なんて知らないで、毒をあっさり飲み込んで…無邪気に尻尾をふっている。

 

なんだかばからしくなってしまって。

毒気はすっかり消え去ってしまったので。

 

「…ええ、よろしくねトミー。…とりあえず口元をぬぐいなさいな」

 

“わーお…こりゃ失礼”

 

 

わたしは思わず世話をやいてしまったのだ。

 

 

 

2 飼い主の苦労

 

つかれはてた身体にむち打って勉強机のランプをともす。窓の外はすっかり暗くなっていて、同室の子はすでに寝てしまっている。うらやましい。わたしもいますぐ眠りたい。そう思う程度には、疲れている。

 

お姫様扱いを期待していたわけではなかった。しかし、それを抜きにしてももう少し手心を加えて欲しいと言いたくなるくらいにクィディッチの練習は厳しいものだった。もちろん、シーカーは試合の鍵をにぎる重要なポジションだからと、必要性は理解しているのだけれど…それにしたって限度があるだろうと言いたくなる。

 

(とはいえトミーの前で弱音を吐くわけにもいかないし…勉強もおろそかには出来ない。トミーは変身術の授業がちょっと苦手みたいだから、私が教えてあげないと)

 

ぽん。と音を立てて、デフォルメされたトミーが頭の中に現われる。机を前にしてうんうんと悩み、マクゴナガル先生に質問され、涙目になりながらこちらにすがる。わたしはたっぷりとじらした後に、さも常識であるかのようにそれを教えてあげる。すると…

 

(まあ、ほんとうに嬉しそうに笑ってくれること)

 

おもわず微笑みが漏れる。ついでにあくびも漏れかけたので、かみ殺す。とりあえずは課題を終わらせなくては話にならない。

 

羽ペンを動かしながら、今日の練習はほんとうに厳しかったなと思い返す。初めての試合が近くなってきたからなのだろうが…トミーは大丈夫だろうか。ずいぶんと先輩方から可愛がられている…というのは、わたしも知っている。

 

(トミーが箒の才能があるから…だけじゃないわよね。やっかみのせいか、半純血のせいか、それともアーニーのせいか…ああもう、ほんとうに目障りね。もうわたしのものだと何回言えば分かるのかしら、あの女も周りの奴らも…)

 

ぽん。と音を立てて、デフォルメされたアーニーが頭の中に現われる。いひひと意地悪く笑いながら、アーニーはトミーの首根っこをひっつかんで連れ去ろうとする。カチンときたので箒を空想のなかに作り出し、空に向かってアーニーをたたき出してやった。ざまあみろ。

 

 

課題が終わり、次は予習だ。人に教えるためには何より自分が理解しなくてはいけない。

 

(トミーはもう眠ったかしら。いや…あの子に限ってそれはないか。がんばりすぎなくらいだもの)

 

トミーはずいぶんとわたしに献身的だ。わたしの頼みはなんでも聞くし、わたしの助けになろうといつも努力しているし、疲れていればどこからか甘い物や飲み物をとりだしてくるし…それに、わたしが何をしてもついてきてくれる。

 

今日だってそうだ。練習がおわっておたがいクタクタになっていたのに、荷物をもってくれたり片付けを手伝ってくれたり…先輩たちののぞきをたたき出していたり(たぶん彼らなりのコミュニケーションなのだろう。…わたしに失礼ではないだろうか?)。正直言って不思議だ。

 

(なぜトミーはわたしにここまでしてくれるのかしら)

 

普通なら…そう、普通なら。わたしにつきあってくれたりはしないだろう。もとよりクィディッチを始めるきっかけになったのはわたしだし、チームに入りたがっていたのもわたしだ。トミーはたぶん、そこまでやりたいと思ってはいないだろう。やめたいと思っていても驚かない。練習はきついし風当たりはつよいし危ないし…なぜ?

 

理由はいろいろと考えられなくもないが…妥当性を感じるのは、やっぱりわたしのためだ。

 

(となると、わたしのことが好きなのかしらね。まあ…あの様子じゃ、色恋というよりかはもっと純粋な好意に近いんでしょうけど…嬉しいような、残念なような。飼い主をこんな気分にさせるとは生意気だこと)

 

自然に口元がゆるむ。胸のうちにやわらかな気持ちが広がっている。庭先ではしゃぐ飼い犬を眺めているような、そんな気分。柔らかな日差しと、おだやかな風と、楽しそうな笑い声と…。トミーのことを考えると、いつもそんな気分になる。

 

(……わたし、こんな女の子だったかしら)

 

トミーのことを考えていると、まるでわたしがいい人になった気分になる。自分の中の毒がすっかりなくなったように思える。飢えや憎しみや妬みがすっかりと鳴りをひそめて、牙が抜け落ちたようにおだやかになる。

 

…それだけではいけないともわかっているし、昔はもっと嫌な女の子だったはずなのだけど、飼い犬の前ではどうにもままならない。もっと頼って欲しいと思うし、もっと笑って欲しいとも思う。わたしは飼い犬に報いてやりたいのだ。もらった分だけは少なくとも返してあげたい。じゃないと……いや、やめておこう。

 

予習は区切りがついた。これで飼い犬が頼ってきてもなんとか面目は保てそうだ。ようやっと眠れると目をもんで、わたしは布団に潜り込んだ。

 

 

3 飼い主の苦悩

 

 

マルフォイという家名の重さを感じ始めたのはいつからだったか。わたしではその名に不足なのではないかと疑い始めたのはいつからだったか。いいや、忘れてなどいないとも。あれは6歳のクリスマスパーティーのこと。純血主義のつながりをもつ家々があつまっていた、社交場でのこと。

 

家同士の繋がりが深かった二人の男の子がいた。クラップとゴイル…ああ、憎たらしい名前だこと。わたしは当時、ずいぶんと甘やかされていたものだからわがままだった。周りはわたしの言うことを聞いて当然だ。だってわたしは純血の名家マルフォイ家の一人娘、跡継ぎだから。わたしは無邪気にそれを信じていた。しかし――

 

こいつがマルフォイの跡継ぎなんて信じられない。

なぜこんな小娘に媚びへつらわなければいけないのか。

女のとりまきなんてやってられない。

 

そう言い放ち、彼らは笑いながら去って行った。

 

わたしは怒ってお父様に言いつけた。彼らがこんなことを言ったんだと、とても失礼で信じられないと、お父様から叱りつけてやってと、わたしはお父様に頼み込んだ。

 

そしてお父様は苦笑して……困った娘だと笑いながらわたしの頭をなでた。

 

違うわと、わたしがだだをこねる。

 

「ふさわしくないと言われたの。わたしは彼らに怒って欲しいのよ、お父様。わたしはマルフォイ家の一人娘で――ちゃんとした跡継ぎで――敬うべき相手なんだって、彼らに怒って欲しいのよ。どうしてわかってくれないの!」

 

わたしは涙目で怒りながら、お父様にしがみつく。こうすればいつもお父様は言うことを聞いてくれた。だから今度も――

 

(なんて、思ってたのよね)

 

お父様は…周りの大人達に謝った。

「仕方のない娘でどうにも…」と、謝った。

 

きっとそれがわたしの毒の始まりだろう。

 

お父様はわたしを認めていない。

みんなもわたしを認めていない。

わたしがただそのままでマルフォイであることを、みんなは認めていない。

 

それは幼いわたしにとっては不意打ちのようで…今となっては理解できるのだけれど、景色を変えるには十分すぎる衝撃だった。そしてわたしは――

 

 

(嫌な女の子になった)

 

 

ハロウィンパーティーの日に…ハーマイオニー・グレンジャーをなじりながら、わたしは思い出していた。口は驚くほど自然に回る。相手をいためつけ、追いつめ、苦しめる言葉が次々とわきでてくる。何を言われたら嫌なのかが手に取るようにわかる。やっぱり性根はかわっていない。

 

(あらら泣き虫のお嬢さん。もうすぐ我慢の限界ね…)

 

そしてわたしは言い放つ。口をぐわりと大きく開けて、牙を突き立てて毒を流す。

 

「不細工な面を見せるな、穢れた血め。あなたはホグワーツにふさわしくない」

 

ほら、泣き出した。走り去っていくハーマイオニーの背中を見送りながら、わたしはふとため息をこぼす。

 

(やはりわたしは何も変わっていない。嫌な女の子のままね)

 

そしてトミーに向き直る。かわいい飼い犬は顔を真っ白にして、ハーマイオニーの走り去っていく様子を眺めていた。……嫌な気分になる。ハーマイオニーとトミーが近づいていたことも…それに気がつかなかった自分も…許してあげられない自分の欲深さも、全てが私をいらだたせる。

 

わたしはそれを覆い隠しながらトミーに声をかけた。

 

「あまりふらふらしてはだめよ。立場をわきまえなさい」

 

危ないからわたしから離れたらいけないよとでもいいたげに…あなたのためよとごまかしながら。

胸の内のいらだちを善意でつつんでごまかしながら。

しかしトミーの返事は…わたしの望んでいたものではなかった。

 

 

“ごめん、ドリー。僕、行かなくちゃ”

 

 

それだけ言い残すと、トミーは走り去っていく。

 

行かせないと、喉元まで出かかった声を押し殺す。

 

毒がわたしをむしばんでいる。

トミーに噛みつけとさわぎたてる。

脅してしまえ。縛りつけろ。わたしの言うことに従えと噛みついてしまえ。

そして身動きをとれなくして、ずっと手元に置いくのだ。

おまえはわたしのものなんだ。

毒がわきたつ。

 

(そうしたいわよ、わたしだって)

 

いつまでも騙していられるとは思っていない。

自分の本性が変わるとも思っていない。

わたしはこういう女の子だとわかっている。

でも…トミーにそれをしたくないと、いい人のわたしがささやくのだ。

 

(帰ってくる。わたしの飼い犬は帰ってくる。わたしのもとへ…必ず)

 

だから今だけは行かせてあげると、わたしは毒を呑み込――

 

 

 

 

 

“緑蛇の純血主義者トミー・ポッター、赤獅子マグル生まれの才女に公開告白? 禁じられた愛の始まりか!?”

 

 

 

 

 

しっかりしつけないとダメだ。

 

 

 

 

4 飼い主と…

 

 

ハロウィンの後トミーは(紆余曲折はあったものの)前と同じようにわたしのもとへと帰ってきた。…まったく歓迎できない噂話とともに。おかげでトミーはスリザリンのなかで針のむしろもいいところだ。まったく、あの泥棒猫は大層な嫌がらせをしてくれて…おかげさまで忙しくてしょうがない。

 

(ほんとうに忌々しいわ、あの泣き虫…今度あったらどれだけ泣こうが痛めつけてやる…二度とトミーに話しかけられないくらいなぶってやる…わたしのものなのよ、忌々しい…)

 

トミーはなぜあんな子に構うのだろうか。言ってはなんだけど…わたしには外聞通りの人物にしか見えない。頭でっかちで口うるさくて成績を鼻にかけるムカつく女。そのくせ教師にだけは気に入られていて…それは陰口も言われるだろう。やっぱりわからない。

 

まさかとは思うが…万が一にも、ありえないとは思うが…天地がひっくり返っても無いとは思うが…もしトミーがあの女のことを好きなんだとしたら…趣味が悪いと叱りつけて引き離してやるのが愛情というものだ。

 

(最近は周りもうるさいし…いいかげんにイライラしてくるわね。どうしたら納得するのかしら。あいつらもアーニーも…あの女も…なにかが必要なのよね、みんなにトミーがわたしのものだと納得させられるなにかが。もう手出しできなくなるようななにかが…)

 

スリザリンの生徒たちの考えはわかっている。魔法界の英雄ポッターを自分たちのものにしたい。純血主義になびかせて、自分たちの体現者にさせたいともくろんでいる。控えめな恭順などでは足りないと…わたしの側にいるだけでは我慢できないとせっついてくる。その理由はもちろん――

 

(アーニー・ポッター……あの子のせい。グリフィンドールの人気者…スリザリンの敵対者。自分の名声を分かっていない愚か者…わがままでごうつくばりの分からずや。憎たらしい…)

 

アーニーさえいなければトミーはこんな風に苦しまないのにと、何度思ったことか。何故突っかかってくるのかまるでわからない。トミーの立場を弱くしてそんなに嬉しいのだろうか? 権威や立場のことを気にしないで思うがままに振る舞って周りの目を気にもしない。

 

トミーも言えばいいのだ。わからずやの姉に、うっとうしいからやめろと一言くらい。…まあ、人にそういうことを言える性格じゃ無い事はわかっているから許してあげよう。わたしもつくづく飼い犬に甘い。

 

(でもしかたがないのよ。だって…なんでも言うことを聞くし…いちいちかわいらしいし…そのくせ頼りになる一面もあって…わたしがどんなわがままをいっても離れていかないし…やっぱりそうさせるのはトミーよ。だからわたしが特別甘いというわけではない…ないわね、うん)

 

だからこそ、反動が強い。

…毒が抑えられなくなってきている。自分でもはっきりとわかる。トミーを束縛しようと…思いどおりにしようとしてしまう。あのふざけた噂のせいで…浮き足立つ周囲のせいで…わからずやのアーニーのせいで…どうしようもなく苛立って不安になる。だから…毒があばれだす。

 

(わたしたくない。トミーを他のだれにもわたしたくない。アーニーになんて返さない。ハーマイオニーなんてもってのほか。わたしのとなり、トミーがいるべきなのはそこ。トミーもきっとそれを望んで…)

 

ハッと我に返る。

毒。わたしの毒。わたしをむしばむ嫌な毒が、トミーを噛めと囁いてくる。

いやよと言い返す。でも、毒はささやき続ける。

飲み込んで腹の中へしまい込めば…誰も手出しなど出来ない。

他の誰も…。

 

(もし…もしそれをやったなら…トミーは何を思うのかしら)

 

わたしを無防備に信じきり…尻尾をふり甘えてくるかわいい飼い犬に…口の中に入れと言ったなら…飼い犬はどうするだろう? そんなことはわかっている。

 

(子犬は入る。蛇が“命令”してしまったなら…きっと)

 

それはとても嬉しいことで――同時にとても恐ろしいことだった。

毒を抑えなければならない。

 

 

わたしはいい人でいたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

“親愛なる僕の飼い主ドリー様へ メリークリスマス! 喜んでくれると嬉しいな! かわいい飼い犬トミーより”

 

 

 

 

 

 

やっぱり飼い犬にしよう。

 

 

 

 




でもトミーくんわりと下心満載ってそれマジ?
マジです。

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