最近エイプリルフールでしたけど嘘の加減は考えたほうがいいってそれ一番言われてるから。
えー朝日というものはですね、どれだけ僕が嫌だといったところでのぼってきてしまうものでございます。たとえ校内がグリフィンドールVSスリザリンの、半ば地獄めいた火薬庫になっていたとしても、たとえ原因が僕にあったとしてもですよ、時間はとまってくれないんですよねぇ…。
まあ僕は大層に健気でありますので? 弱音を吐いたりもせず今日も一日頑張っていこうと暖かな布団から抜け出すわけなんですよ。気持ちを!切り替えてね!! ね!!!
無理すわ(笑)。あーつら。もうなんか…つらいわ。言えたじゃねえかって言ってくれる誰かもいねぇよ僕にはよぉ。
あれからドリーはずうっとイライラしてるしさぁ。
ぎゃーぎゃー騒ぐグリフィンドール生徒が憎いでーす。でも、ハーミーはもーっと憎いですってな具合で、視界に入ると親の仇かってくらい睨みつけるし、時折びっくりするような悪口がとびだすんだよね…。今までは嫌味やら皮肉やら自慢ですんでたんだけどにゃあ…とか、僕はもうしんどくてしんどくてだよ。
それでさぁー…そんな僕を見てさ、ドリーがすごく気まずそうに…ちょっと悲しそうにするんだよね。なにいったらいいかもうわかんないわつら…。スリザリン生徒たちも死ぬほどピリピリしてるしさー。僕のことガン見してくんのやめてくれない?? え? 誘拐されないか見張ってる? 流石にされないよ誘拐とか。…されないよね? ハハハ…。
ハーミーはどこ吹く風ってかんじだからよかったな~ってわけでもないんだよね。なんかあれから人気が出ちゃったみたいでさぁ…周りのグリフィンドール生徒がハーミーに馴れ馴れしく話しかけたり持ち上げてんのよ。なんという滑らかな手のひら返し。僕だったらオエーッってげろ吐きそう。あとハーミーと気兼ねなく話せるのうらやましすぎる。狂いそう嫉妬で。僕が話しかけに行けるわけないけどさ今の状況で。そんなことした瞬間スリザリン生活終わるナリ…。あーうらやましいなクソッ!! 人気がでてうれしいなくそぉ……。これがうわさ話パワーなのか…。
ハーマイオニー・グレンジャーは明晰な頭脳と愛で邪知暴虐のドリー・マルフォイから僕を救っただのうんぬんかんぬんなーんてね! 予想通りのうわさが赤獅子生徒によって今日も言いふらされているわけなんすわ! イキりすぎだろマジでよぉ!! てか前回と立場入れ替わったとかでキャッキャしてんじゃねえよ僕はピーチ姫じゃねぇんだよ!! ハーミーが赤い配管工みたいになるじゃねぇかやめろや!
頭痛ぇ~…悩みの種をあげれば山のように出てくるよぉ。僕の現状どうなっちゃってんだよほんとにさぁ。あぁ~時間止まらないかなぁ!!! 明日とか来ないでほしい…次の厄介ごとはどこから襲ってくるんだ…こんな状況が続くわけがないってのはスタンドなくても予知できるんだよなぁ!
グリフィンドールが調子乗りまくってスリザリン生徒のフラストレーションがマッハでヤバイし、原因っちゃ原因の僕へのあたりも強いし、ドリーの機嫌はどんどん悪くなるし……部屋に帰っていい?あ、だめ?そう…。
おかしい…僕はドリーに尻尾振ってきゃんきゃん媚びたいだけなのに…ハーミーとたわいのない話して癒されたいだけなのに…アーニーにニコニコしててほしいだけなのにどうしてこんなことになってしまうのか。やっぱり愛の妙薬のせいとはいえ校内でアヘ顔さらすのはまずかったか。いつの時代も変態は罰されるってそれ一番言われてるから。
でもなー!
僕は嬉しかったんだけどなー!だってあれってふたりに…すきぴとすきぴに取り合ってもらえたってことですよね? 最高じゃん…夢じゃんそれはさ~!!嬉しいはずなんだよな~どうかんがえても。なのになんか憂鬱なんだけど?? バグに決まってるよななんかの。もう自分をだましていくしかない…!いや僕だってもう精一杯なんだよ(迫真)! いっぱいがおっぱいなんだよ!! ほらな!?
ところでぇ…そんな限界ギリギリの弟くんにとどめを刺そうとするお姉ちゃんが…いるらしいっすよ。
いったい何ーニーなんだ…。
そう、実は今回の件で一番あたまにキているのは、僕でもドリーでもハーミーでもない!
我が愛しい姉! いとしいアーニゃだったのさ!
大広間で騒ぎがあったころ、ドリーの根回しによりスリザリン生徒に足止めされていたアーニーは見事に蚊帳の外だった。もっとも、目の前であんなことが起きたら真っ先にぶん殴りにくるだろうから残念でもないし当然の処置だったんだろう緑蛇としては。
そう! 自分の知らないところで僕らがなんやかんやしてたと知り、アーニーはそれはもう大激怒しているのである。え? どれくらいかって?
な、中庭で他寮の生徒を含めて扇動するくらいかな…(震え声)。
やめるんだ!! これ以上僕の平穏を破壊することは許されないんだ…!!
やめなさーい!!違法な集会はやめなさーい!!
先生に許可とかとったんですかぁ? 何が生徒の転寮に対する合理的で正当な要望じゃい! どう見ても合法拉致計画じゃねぇかよ僕のよぉ! 即刻解散しろ…!! 事情を脚色しまくって正当性主張しやがってよぉ! 人の正義感をもてあそんでたのしいんですか…? もうちょっと手段選んでくれてもいいと思います弟くんは!!
はい道開けてください通りまーす! 弟くん通りまーすおいどけって言ってんだろうがコラァ!!
息も絶え絶えに人込みを抜けてアーニーを見つけたとたん、我がいとしの姉は目に涙をためて僕に駆け寄り、ぎゅうと僕を抱きしめた。
はたから見たらさぞかし感動的な再開に見えるのかもしれないが、僕にはわかる。
め…めちゃくちゃ噓泣きしてる…!
演技が達者でいらっしゃいますね。周りが感動してしまってますよ? 行き過ぎた感情は武器になるんだよ? もう新手のヘイトスピーチだろこれもうさぁ。 お姉ちゃん? こんなことどこで覚えたの?? 21世紀ではいけないことなんだよやめようね…!!
僕が戸惑っている間に、とても自然な、それでいて芝居がかった声色でアーニーが演出をはじめた。
「トミー! ほんとうに…ほんとうに会いたかったよ。気が付いてあげれなくて、お姉ちゃんが止めてあげられなくて怖かったよね!」
あっこれ止めないと終わるわ…。
“ううん、大丈夫だよ。この通りケロッとしてる。だからこんな風に大騒ぎはさ--”
うぐぉっ…!! アーニーが抱きしめる力を強くする。
子供の成長って早いね…。ところでこの年頃って女の子のほうが背も高いし力も強い傾向があるんですけど今この状況に関係すると思いますかね。僕は思いますというか実感してます!!
ははは、引きはがせな~い!!泣きそう~!!お姉ちゃんお願いはなしてほしいなって…。
“ちょっとくるしいかもね…”
「やめてほしい?」
“うん…”
「じゃあ私の足にキスしたら考えてあげる」
“はぇ…?”
びっくりしてアーニーを見る。くすくすとアーニーは笑って、冗談だよと言った。
けれど、その目はまるで笑ってなかった。
アーニーはゆっくりと、名残惜しそうに体を離すと、物わかりの悪い子供に諭すように優しく笑いかけてくる。
「もちろん、私は冗談で言ってるよ。でもね、トミー。こんなことを本当に…本気で考えそうなやつらのそばに、トミーはいるんだってことを教えたくて」
僕が何か言おうとするよりも早く、アーニーが口を開く。
「何も言わなくていいよ。…どうせ嘘しかでてこないし」
そう言うと、アーニーは猫被りの笑顔をあっさりと脱ぎ去った。母親譲りの可愛らしく凛々しい顔が僕のことを見ている。なんかお腹のあたりがひゅってした…。
もしかして過去一怒っていらっしゃいます…? もしかして死ぬほど怒っていらっしゃいます!?
アーニーがずかずかと詰め寄ってくる。後ずさりする間もなく胸ぐらをつかまれて、締め上げられるみたいに顔を近づけられる。ぐ、ぐええぇっ……!
荒げてもいないのに、不思議と通る声でアーニが話し出す。
「ねえトミー…言ったよね。私ががまんしてあげられるのはもうすこしだけだよって」
“アーニャ、く…苦しいって…”
手に込められた力がどんどん強くなる。太陽のようにギラギラと、奥底に隠れていた怒りが目に宿って僕を照らす。
僕はその時になってようやく、アーニーが心の底から怒っていることを理解した。
アーニーは本当に怒っているんだ。ドリーにも、そして僕にも!
「言ったはずよね。自分で何とかできるから大丈夫だよって、私が心配することなんてないって! お姉ちゃんに言ったわよね!!」
聞いたことのないような大きな声で、僕のことを串刺しにするみたいに見つめながら、アーニーは言う。
「私、わかってなかったよ。魔法使いってのは本当になんでもありってことを!
杖を振ってふしぎな呪文! ものを自在に変身させて、箒にのれば空も飛べる!
そして! 薬を使えば愛すら作れる!!
なんでもかんでも思いどおりってわけでしょ?
魔法ってほんとうに…ほんとうにすごいわね!!!
――――ふざけんなッての!!」
びくりと、その場にいた誰もが身を震わせた。
「ねぇトミー。私の大切な弟。お願いだから、よく聞いて。
私の気持ちがわかる? 私のたった一人の弟が、この世でたった一人の大切な弟が!
あのクソ女に薬漬けで支配されそうになったって聞いたとき、私がどれだけゾッとしたかわかる?
わかるよね? 同じことが私に起きたらどう思う? 言ってみてよ」
“………止めようとする”
「正解。よくできました」
“でもアーニャ。違うよ、ドリーは…”
「―――うるさいッ!!」
僕が反論しようとした途端、アーニーは叫んで力を強める。首元が締まり、息がくるしい。
言葉以上に雄弁に、いい加減にしろと、アーニーのきれいな緑色の瞳が叫んでいた。
「…違う? なにがちがうっていうの? なにがちがうって言うのよ!?
ハーマイオニーが止めてくれなかったら、自分がどうなったか教えてあげようか?
純血主義とかいう、クソのダーズリーの同類どもの集まりのなかで!
どっぷり頭までそれに浸かったクソ女に首輪はめさせられて!
バカになった頭でそいつらに尻尾ふらされる弟を見せつけられんのよ、私は!!
わぁ~素敵な首輪!よく似合ってるねとでも言ってあげようか!!
はッ!!
…それで!? なにが違うッてのよ!!
お姉ちゃんに言ってみなさいよ! ほらっ!」
アーニーが僕を突き飛ばす。体が酸素を求めて息をするけど、うまくいかない。
はいつくばって咳まじりになる僕を、日差しに隠れて、表情の見えないアーニーが見下ろしていた。
「そんなことになったら私は、どんな顔をすればいいのよ」
僕は思わず黙り込んでしまう。
全然気にしてなかったなー…! なんてのは嘘だけどさぁ。アーニーからどんなふうに見えてるのかとか、それがどれだけ負担なのか、僕はよくわかっていなかった。
確かにそういう見方もできなくはない…いや、むしろそう見える…? そうにしかみえない……? あれ? もしかして僕って今ヤバいことされてる風に見えるのか? 僕の内心でふられまくる尻尾をのぞいたら、他人からこんな風に見えちゃう説…ってコト!? お、オーディエンス! オーディエンスの皆さんはどう思います? あ、普通に有力説ですかそうですか。いやぁそんな同情のこもった目で見られましても…ご、誤解なんだよなぁ(震え声)。
僕たちは純愛をはぐくんでるだけです!! うそ…僕の反論、薄すぎ…!?
でも黙ってても仕方ないんだよなぁ…。
“…ドリーはそんなつもりじゃないよ”
「そう思ってるのはトミーだけだよ」
“あれはただのプレゼントで、僕に喜んでほしかっただけだ”
「もういいって…」
“アーニャ、聞いてよ”
「もういいッ!! 黙って!! 喋んないでよ!!!」
僕は息が止まりそうになった。
アーニーは、今にも泣きだしそうだった。
「そうやって嘘つくたびにわからなくなるんだよ…。
お姉ちゃんのこと信じて打ち明けてくれないから!
どんどん、どんどんトミーのことが信じられなくなるんだよっ!
それが私はイヤなの!!
信じてあげたいのに、もう信じられないんだよ!!
どうしてそんなこともわかってくれないの…!」
「アーニャ! …ほんとうに違うんだ」
「知らないよ…わかんないよ!私は! トミーが言ってくれないんだからさ!」
アーニーは僕から目をそらし、つぶやくように言った。
「もう話してくれなくてもいいからね。
トミーが何を考えてるとか、嘘つく理由とか、わかんないから。
私が全部なんとかしてから、ゆっくり聞く!」
がまんするのは、もううんざり。
そう言い残すと、アーニーはどこかに行ってしまった。
当初の目論見通り、集会は自然と解散したわけだけど…異様な空気がそこに満ちていた。
もう僕の意志なんて関係ないぞと、我がいとしい姉は我慢の限界。ドリーとそれはもうひどく争うだろうし、厄介ごとにも飛び込んでいくのだろう。そのときはハーミーと一緒かもね? これがハーレムってやつかにゃ? 夢は夢のままがいいってそれ一番いわれてるから。あーあ。
かくして僕は立派なトロフィーになったわけだ。
吐き出した息はまだ白かった。
僕は思わず空を見上げたけど、それはもう綺麗な青色が広がるだけだった。
うーん、しんどい!
…ふーっ。よし、スネイプ先生にでも愚痴るか。
え? ダメ? 忙しい?? えぇ…。
おこおこアーニーになっちゃったってそれマジ?
マジです。