クィディッチってさぁ…あぶない…あぶなくない?
そんなこんなで誰もかれもがフラストレーションをためながらながら時は立ち申して。ついに発散の機会、待ちに待ったクィディッチの試合がやってきたのだ!
うおおおおおお!!!
グリフィンドール対スリザリンだぁ!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
そして僕は選手だ…。
どおして…どぼしてなんだよぉおおおおおおお!!
いやだぁぁぁぁ……もう終わりだぁ! あんなことがあった後に殺人スポーツなんてやりたくないって! どうあがいても平和に終わる未来が見えねぇんだよ無理だってやだよぉぉぉぉ!!
見てくれよこのチームメイトのやる気むんむんの顔をよぉ! 作戦会議用の黒板に書かれたノルマ二人の文字と骸骨のマークをよぉ! 殺る気満々じゃねえか! スポーツマンシップはどこにいったんだよ…教えはどうなってんだ教えは!!!
なに? 駄々をこねるなお前の姉を叩き落してこい? 腕の一二本は折れ?できるか超えちゃいけないライン考えろよ!! やだやだやだやーだー!!
もともと僕は乗り気じゃないんだい! ドリーとアーニーが心配だからやってるだけなんだい!!
やだやだやだやだやだ! いーーーやーーーーだーーーー!!!!
はい。
問答無用でクラブを持たされました、スリザリン期待のビーター、トミー・ポッターです。えー…今日はチームの皆さんのため、もといドリーのために全力を尽くそうと思いますよろしくお願いいたします。
いやー…いつか来るとは思ってましたけどね。タイミングってもんがね。あると思うんですけどね。この世の終わりだよ気分は。はぁぁん…。
もう気をそらして何とかするしかないので、申し訳程度に監督感をかもしだしているスネイプ先生に試合前のあいさつをしに行く。…めちゃくちゃ適当に返事された。寝不足なんですかぁ??
ほんとにクィディッチ興味なさそうだね…いや別にいいけど。この後めっちゃ忙しくなるだろうから寝ないでがんばってね…。
そんなこんなで憐れみをこめてスネイプ先生を眺めていたら、試合時間が来てしまったのである。
心の準備とか一切できてないんですけどぉ…。キャプテン、開幕1秒目でタイムアウトしよう。 面白い冗談だって? マジなんだよなぁ…!
チームメイトにがっちり肩を組まれてコートに強制入場する。観客席から降りそそぐ声援のなんとうるさいことか。なんかちょっと物騒なワードが入ってない?
あーもうすんごい……スリザリンへのヘイトがすんごい! 赤、青、黄の三色連合できてるって! アーニーの人望があって僕は嬉しいなぁ嘘やっぱり嬉しくない泣きそう怖い。
一抹の望みをかけてキャプテンにいつもこうなの? 寮対抗の優勝がかかってるから例年ちょっぴりお下劣なワード飛び交うバトルフィールドが展開されてるの?と聞いてみる。 なに? そんなわけないだろって? グリフィンドールどもがイキりまくってるから? あとお前とお前の姉が悪い? じょ、冗談が上手いなあ、はっはっはっ!! あっ…ふーんマジなんだぁ…。
とまあ、キャプテンに小突かれながら足を進め、試合前の整列が行われる。
かたや勇気と騎士道を尊ぶ赤き獅子、グリフィンドール。
かたや狡猾と機智を尊ぶ深緑の蛇、スリザリン。
どちらが勝っても恨みっこありの真剣必殺一本勝負で、今最もホットにいがみ合ってるアーニーとドリーがシーカー…えーと、つまりエースポジションだ。わースポコンだなーすごいなー…。
ふたりはとても静かにお互いを見つめていた。というか睨み合っていた。大丈夫?
とるのはスニッチであって命じゃないよ? ねえちょっとぉ!!
僕は胃が痛くってしょうがない。あー飛びたくない、ほんっとやだ。
みんなイライラ全開でどうあがいてもラフプレー満載の試合。
なんかあっても不幸な事故だね! 誰が怪我したってハードラックとダンスっちまったで済むお話。絶好の機会じゃん…そりゃあいつも手出ししてくるってもんですわ。はっはっは。
…ところで魔法って地面と頭蓋骨がキスしても生き残れたりする?
ダメかぁ…。
ながーいため息をつきながら顔を上げれば、観客席にハーミーの姿があった。友人達と一緒にアーニーの応援してんだろーなー。元気そうでなによりだわ。
ハーミーはこちらの視線に気がついて、周りにばれないようにそっと手を振ってくれた。
あぁーめっちゃかわいい。さらってこっから逃げ出したい怖いシーカー二人に追いかけられそうだから無理だけど。てか駄目だわ、試合始まるわ。
おお、手が震える…マジで無理。ほんと無理。ぐううううう!
ビーターの相方は不敵に笑った。ちげーよ武者震いじゃねーよ普通に震えてんだよ!
審判が試合開始の用意をする。
ぴたりと歓声が止む。静寂の中、選手たちは一斉に箒にまたがると空を見る。
からりと乾いた口の中。早まる心臓の音。わずかに動く審判の腕!
そして杖から合図が打ちあがり、一斉に選手たちが空へと飛び出した!
コートで区切られた狭い空の上を、縦横無尽に選手達が飛び回りボールを奪い合う。先に仕掛けたのはスリザリン。激しい肉弾戦のさなか、ルールすれすれのラフプレーをしかけ強引にボールを奪い去りゴールを決めた!
大歓声がサポーターから沸き上がり、同時にもっと大きなブーイングが浴びせられる。声援に背を押されたグリフィンドールが、お返しとばかりに遠慮なしのタックルを仕掛けはじめる。
戦意を強める選手達に呼応し、観客たちも熱狂し、会場はまるで闘技場のような熱をはらんでいく。わーすごい勢いだなぁ…おうちかえりたいなぁ…。
とまあ他人事みたいに言ってますけど、僕のほうにも今日も元気にブラッジャーもとい腐れ鉄球くんの熱烈突進が来てるんですよ、ははは。なんかヘイト高くね? いやまあ、ポジション的には一切問題ないんですけどね。チームメイトをこれから守るのが僕の役目だってそれ一番言われてるから。
そういうわけなので、ていねいていね丁寧にブラッジャーをさばいていく。試合を終わらせるシーカーのように華やかではないが、ビーターはチームの護衛と妨害をこなす重要なポジションだ。
ここが腕負けしていればチーム全体に負荷がかかり、試合展開は間違いなく苦しくなる。いわゆる縁の下の力持ち的なやつだ。責任重大で涙がで、でますよ…。
グリフィンドールのビーター、ウィーズリーの双子はかなりのくせ者だと相手してて思う。
双子特有のエスパーじみたコンビネーションで一瞬の2対1を作りだしてくるのなんなん? 普通に強いのやめてほしい。いや別にいいけどさ。
だってほら…僕もうまいし…。
そう、いい機会なので声を大にして言いたい。僕はペーペーの一年坊のくせにスリザリンという強豪チームに身を置いているが…な、な、なんと! クィディッチがかなり上手い部類に入るのだ!
アーニーばっかり目立っているが、父親の箒の才能は僕にもしかと受け継がれているってはっきりわかんだね! もちろん裏ではたっぷりゲロ吐いて練習したけどね!!
そうとも! 僕をアヘ顔をさらすだけのただの一年坊と侮どってもらっては困るんだよなぁ…!
言ってて涙出てきた。風聞がわるすぎるっピ……。
そして僕らは曲芸師のように空を飛び回り、手を替え品を替え双子と鉄球の打ち合いに入る。
ウィーズリーの双子は侮りなどとっくに捨て去っていたのだろう。いつものにやけヅラはどこへやら、必死の形相で味方へと飛ぶブラッジャーに食らいついては、こちらへと打ち返してくる。
接戦のなかで指先にいたるまで感覚が研ぎ澄まされていく。これあれでしょ?死ぬ前にめっちゃ集中する類の…やっぱ退部届書こうかな。受理されるわけねーな!くそぉ…!
そんな中で、僕はちらりとアーニャとドリーのほうを盗み見た。
な、なんかめっちゃ怖い顔してるぅー。なんの話してんの?
お嬢さんがたや、きっと積もる話はいくらでもござるのでしょうが、僕としては早くスニッチを見つけて試合を終わらせてほしいにゃん。いやーっ! 僕も試合を楽しみたいのはやまやまなんですけどね! 相手が強いせいで疲れてきちゃってね! このままだとまずいことになっちゃうんだにゃん!!
なんて考えたそのときに、視界の端に金色の球体が入った。
僕は反射的にドリーの名を叫んだ。
“ドリーッ!”
ドリーはすぐさま振り向いて、僕の視線の先のスニッチを捉えて矢のようには急発進する。
意表を突かれたアーニャだったが、すぐさま追走にかかる。ぜんぜん遅れてないじゃん…反応速すぎん?
動き出したシーカー達に、歓声がいっそう大きくなる。視線が二人に集中していく。
あ、たぶん来るな。
突然に、ぐわりと箒が向きを変えた。吹き飛ばされそうになる身体。
事前に握りしめていた箒の柄。なんとか間に合った立て直し。
アーニャ狙いじゃないと、そう喜べたのもつかの間だった。
落ちたら間違いなくお別れの高度で、即席ロデオマシーンに早変わりしたマイ箒くんが暴れ出す。
あんなに一緒だったじゃないか、僕たち…! 僕は悲しいぞ!
その間にもブラッジャーが容赦なく僕に突進してきた。
あんなに一緒だったもんな、僕たち…! 僕は憎らしいぞ!
狙いをつける余裕なんてまるでなく、ブラッジャーを適当に弾き飛ばして、必死に箒にしがみつく。揺れる視界の中でクィレルを見てみれば、こちらをガン見しながらブツブツ言ってやがる。
あ~あ~目くらまし呪文を元気に唱えていらっしゃる。少しは迷いってものをお持ちじゃないんですか?? 人が死ぬねんで!!
もう許さねぇからな…!
とかなんとか言ったところで僕にはどうしようもないんですけどね(笑)。
あぁ~逝く。わり、死ぬ…てか死にそう! スネイプ先生?? 反対呪文の進捗は…いかがでしょうか? 時には殴って止めるとかいう原始的な手段も僕はいいと思いますよ。絶対そっちのほうが早いと思う。やっぱ物理なんだよ、物理。衝突死か落下死の二択を迫られてる僕が言うんだから間違いないって! あ? 世間体が終わるから無理? くそっ! これが文明社会か!!
考え事なんかしてるからってわけじゃないけど、なんか勝手に落ちそうになってるザコを見つけてブラッジャーくんは楽しそうにこっちに突っ込んできた。
打ち返そうとした瞬間に急制動をかけられて手元が狂う。
あっ。クラブがきれいに弾き飛ばされて、はるか真下のコートへと突き刺さった。
えへっ…武器、なくなっちゃった♡
それだけでは終わらない。
衝撃で手がしびれ握力が弱まったところで、畳みかけるように箒が暴れだす。
あーっいけません! いけませんよ!! 死んでしまいます、死んでしまいますぞ!! てかあいつマジでここで殺しに来てんじゃん! ちょっと走馬灯よぎってんだけど?
ホグワーツ君? 今年度2度目の命の危機なんだけどそこんとこどう? 素敵な学び舎で僕は嬉しいなぁ! あぁぁぁぁぁぁ落ちるってぇ!!! なんでこんなスポーツで死者が出たことないんですかぁ…?
僕の異変に気がついて、双子は打ち合いの手を鈍らせた。相方は僕をちらりと見やった後、双子に生じた隙をつくようにブラッジャーを叩き込む。そして、双子に2対1を挑むべく離れていく。
トゥンク…。こいつ…あの一瞬の視線の交錯で僕の意図を…!
そうともシーカーの二人がすぐに試合を終わらせてくれると信じるぜ僕は…!
生きて帰ったらなんか奢ろ…名前覚えてないけど。
一方、キャプテンは僕に指示だそうとしたら振り落とされかけててめちゃビビってた。
タイムアウトするなよ! 絶対タイムアウトするんじゃないぞフリじゃないからな!!
あの二人がスニッチとれば終わるんだよ、てか取らないと終わらないんだよ!
鬼気迫る目力で睨みつければ、キャプテンは力強くうなずいて試合へと戻っていった。
やだ…かっこいい…名前覚えてないけど。
僕が死にかけてても試合は白熱していく。スニッチを追いあうシーカー二人の一進一退の攻防を、観客は大歓声とともに見守っている。アーニャとドリーの白熱したチェイスから、誰もが目を離せない。
こんな熱狂の中で、僕の存在を気にかけるやつがいるだろうか? ふっ…いるさ!
ここに一人なっ!
だよねスネイプ先生ぇー! 先生ぇぇぇぇ!!! ほんとに見てるよねぇぇぇぇ!!!
助けてぇぇぇぇはやくううううう!! 死ぬうううううぅぅぅ!!!!
「トミー!」
そんななかで、ハーミーの僕を呼ぶ声が聞こえた。
“大丈夫っ!”
この期に及んで何言ってんだよ僕はよぉ!!
大丈夫じゃないが? 一ミリも大丈夫じゃないが??
ハーミーがスネイプ先生を冤罪で燃やさないなら!
スネイプ先生が反対呪文で抑え込めないなら!
僕が試合終了までがんばって粘るしかないってことだけど?
それってYO! もうどうしようもないってことだけどぉ!?
それでも僕の口からは、ぽろっとでちまっちゃうんですよね強がりが。この見栄っ張りめ!
しょうがねえだろそれでも大丈夫にすんだよ!
そしてアーニーとドリーのチェイスがクライマックスを迎え、歓声と熱狂が頂点に達そうとした瞬間、ブラッジャーは図ったように真正面から突っ込んで来た。
おまっ…お前ほんと…叩きまくったから怒ってんの? なんなの? 話し合おう。わかった謝るよ心の中でだけど許してくれもうしないって生まれ変わったらもう二度とこんなスポーツしないよ!
神に誓ってやらないといいます!!!
だから…だから…止まっ――――
避けようと身体をよじる努力も虚しく、鉄球は僕の胴体に直撃した。
強い衝撃、言葉は浮かばずただ息が止まる。手は箒から離れる。一瞬の浮遊感。
意識を刈り取られるわずかな間、落ちながら伸ばした手は空を切り……暗闇が僕を包み込んだ。
現実世界でもプレイされてるってそれマジ?
マジです。