レガシーも発売されてるし、みんなみとけよみとけよ~。
誰かが僕の手を優しく握っている。どうやら、僕はまだ生きているらしい。
目を開ければ夕日の差し込むベッドの上。診療所だ…天井で判別できるのなんかやだな。あれからどれだけたったのか、頭がぼうっとしていてよくわからない。
首を横に向けてみれば、すぐそばにハーミーが座っている。長い間そうしてくれていたのだろうか、うとうととしながら…。
身体を起こそうとすると胸のあたりがひどく痛んだ。人生で体験したことのない痛みじゃん…思わずうめき声おもらししちゃったよ。おかげでハーミーが起きちゃったし。どうしてくれるん? あと1時間は寝顔見るつもりだったんですよ僕はね。
そんなことを考えているなんてつゆ知らず。ハーミーは顔をくるくると変えたあと、僕を抱きよせた。
「すごく心配したのよ! 本当に心配したんだから!」
――――天使か。
なにこれ…夢かな? これもう僕死んでるだろ。幸せすぎる…。いや、やっぱり生きてるわすっげー痛いもん。めっちゃ胸痛いもんいろんな意味で。具体的にいうと物理的と精神的に痛いもん。
それでも僕は耐えるぞ。一秒でも長くこの時間を味わいたいって思ってましたごめんやっぱ痛いマジでほんと無理。
それとなく要望を伝えると、ハーミーは慌てて離れてくれた。さみしい…可能であれば一日に2時間はそうしててほしい…。人の夢と書いて儚い、はっきりわかんだね。
ふぅー…落ち着け僕。ゆっくりと深呼吸するんだ。ハーミーは純粋なお友達として心配してくれてるだけだから。ちょっと優しくしてくれるからって勘違すると地獄を見るんだ。いったい何人の男の子たちがそうして玉砕してきたと思う? くそっなんて悲しい生き物なんだ…!!
僕の内心も知らないで、ハーミーは嬉しそうに話しかける。ちょうどよかったので状況を聞いてみると、なんと僕は二日も意識がなかったらしい。なんで? 鉄球がぶつかって内臓がヤバになってたから? そらそうか…しゃーないかさすがに。
でもなんで僕生きてるんだろう。あの高さはもう無理でしょ。普通に死を覚悟したしなんなら辞世の句を詠んだんだけど。てか試合どうなったん? 聞きたいことが多すぎてこんがらがってきた…。そんな僕を見かねて、ハーミーが疑問に答えてくれた。
「試合はグリフィンドールが勝ったわ。
…ドリーがスニッチを追いかけるのをやめて、あなたを助けに行ったから」
どこか気まずそうに、ハーミーは言う。
僕が箒から振り落とされかけていたとき、アーニーとドリーのシーカー対決は決着を迎えようとしていた。実力で上回るアーニーに、ドリーが手段を選ばず食らいつく。二人は横並びで飛び続け、激しくぶつかり合いながらスニッチに手を伸ばす。
自分の努力を裏切らないために、実力を証明するために、二人は一歩も譲らずに前へ前へと進み続けた。けれど…二人のうちドリーだけが僕の異変に気がついてしまった。
ドリーは迷わなかった。すぐさまスニッチを諦めて、ブラッジャーに叩き落とされた僕を受け止めにむかった。そしてすんでのところで僕を抱きとめ、そのまま体勢を崩し地面を転がった。試合終了のホイッスルが高らかに鳴り響き、大歓声がコートをつつむ。アーニーはスニッチを掴んでいた。喜ぶのではなく、ただただ何が起きたのかわからないと、呆然としながら立ち尽くしていた。
なんかもう、胃がきゅうってなった。吐きそう。聞いてるだけでつらいんですけど?
しかも、二人はそのあとコートの上で言い争いをしたらしい。二人とも納得なんてできるわけないし、どうしたらいいかわからなくてさ。けど僕が血を吐くわ痙攣するわでそれどころじゃなくなったってわけらしい。
…そこに真っ先に駆けつけたの誰だと思う~?
クィレルだってさ!!
さぞ大げさに二人を脅しつけたんだろうな~! このままでは死んでしまいます~とか言ったんだろうな~! さぞ楽しかったんだろうなぁぁぁ……!
お前ほんと覚えとけよ。絶対この世から消すからな。
とかイキってるけど僕はあばら折れたり内臓がパァンとしてたりで意識なかったんだけどね! よっわ…(笑)。しゃーないだろうがよぉ僕ちゃん何歳? 11歳! そんなやわな子供の身体に鉄球突っ込んだんだから多少はね? これが日常茶飯事とかわけわかんねーよなこのスポーツ。マダム・ポンフリーとかマジ切れしてそうクィデッィチに。アーニーとドリーと一緒に辞めていいか? ダメか(笑)。
そして意識のない僕はスネイプ先生に付き添われながら診療所にたたき込まれたってわけね。これから一週間はベッドの上に磔にされてゲロ不味い薬を毎日飲まされる予定なのね! いろいろ言いたいけどそれだけで治るのも怖いわちくしょう!
きちぃ~…頭痛くなってきたわ…大爆死もいいとこだよ。思わず深いため息が出ちゃう。
僕は見事に死にかけて、アーニーもドリーも傷ついて、ハーミーにはこうして心配かける始末。試合にゃ負けるしな! とどめにクィレルは高笑いときたもんだ、はっはっは!! はあ~ぁ……!
泣きたくなるくらい惨敗だよなんもかんも。僕は無力だ…とほほ。
よわよわの雑魚ちゃんなんだってわからせされちゃったんだ…。
なーんて落ち込んでいたら、ハーミーが心配そうにこちらを眺めていた。やっべ。
僕はあわてて取り繕った笑顔を貼り付ける。飼い主ににて、僕も大概に見栄っぱりなんです。
でもハーミーはそんなことはとっくに見抜いているみたいで…僕の手をそっと握った。
「…大丈夫?」
ハーミーが僕を見つめる。彼女のまなざしはとてもあたたかい。
僕は暗がりから引きずりだされたような気持ち。
…はぁ~? 大丈夫ですけどぉ? な、泣いてないが??
けど優しくしないでもろていいすか?? 口に出すと涙声がばれちゃいそうなので表情でごまかすんだよぉ! ほらニコってして~? はい、せーのぉ! ニコニコにこちゃんっ! ほらなぁ!? 全然平気だが!? 楽勝だが!?
「無理しないでいいの。…ここには他に誰も居ないもの」
うーん…うんうん、降参。むり。そうともハーミー。
僕は今、死ぬほど惨めな気持ちでつらいんだ。
涙でてきたわ。とまんねー鼻水やとまんねーわ。顔がぶちゃ犬みたいになるわ。これ以上優しくされたら僕の命と尊厳が破壊されてしまう。マダム・ポンフリー帰ってこないかな、患者が死にそうなんですけど。涙とか…でちゃってるんですけど?
イメージが…頼りになる僕のイメージが粉砕されてしまう…!!
もう取り繕う余地ないだろって? それはそう。
「私に話してみない? 悩んでること、聞いてあげたいわ。
頭にこびりつくような嫌なことって、ひとりでもてあそぶにはつらすぎるから」
“君に聞かせたい話じゃないから…言いたくないぃ……”
「言いたくないかもしれないけど、あなたのことが心配なの。私を助けると思って…ね?」
“そういうのズルぃ……”
「女の子だもの。少しくらいズルくてもいいでしょ?」
そしてハーミーはくすくす笑う。夕日をうけてきらきらと。
ずるいよほんとに、かわいくってさ。僕はほんとまいっちゃうよ。
けど、好きな子にほど言えないことってあんだわ。
ほんとはね。言えたじゃねぇか…って言われたいんだよ僕も。
でもさぁ…わり…やっぱつれぇわ。
そうして僕がすんすん鼻をすすりながら黙っていると、ハーミーが頭をなでてくれる。
心臓が二度目の爆発を迎えそうになっちゃうね。キュン死は死因としてあまりにも間抜けすぎんか? けど、しかたないんだよね。
僕はほんとに君のことが好きなわけさ。
ハーミーの顔をみつめたら、まともにお話もできなくなっちゃうよ。
君が僕をかばってくれたあの日から。
もしも僕がもし言ったなら、君ははにかんで頷いてしまうって。
もしも僕が全てを打ち明けたとしても、君は難しい顔をして受けとめてくれるって。
君はとっても優しくて勇敢で、どんなに恐ろしくても、正しいことのために戦える、素敵な女の子だって。僕は君のことをすっかり信じ込んで、好きになってしまったんだからさ。
そんなの言えるわけないじゃんね。無理無理かたつむりだ。
僕は自分の口を縫い付けるよ。
だから、つまり、僕はハーミーの手をそっと払けてさ…赤くなった目を拭って! 鼻かんで!
僕は首を横に振って元気よく答えるしかないってことさ!
“ありがとう、でもぜんっぜん平気! 悩みがないのが僕の取り柄だからね!”
悲しそうにハーミーが笑う。
「困ったときはお互い様だって、言ってくれたじゃない」
胸が痛い。ズキズキする。
「ねぇ…アーニーが調べてる賢者の石と関係あるの?」
何を言われたか一瞬わからなくて。かわりに心臓が一瞬で悲鳴をあげた。
だから取り繕えもせず、反射的に答えてしまった。
“それに、もう関わらないで”
僕は今どんな顔をしてるんだろう。ハーミーを怯えさせたくなんかないのに。もっと楽しいことをしゃべりたいのに。そんなふうに…君を悲しませたくなんかないのに。やだなぁ、目をそらさなくちゃいけない。太陽は直に見たらいけないんだってさ。目が見えなくなっちゃうから。
「アーニーも、私も…あなたを心配してるの。一人でどこかに行ってしまうんじゃないかって」
“ごめん。でも、僕は大丈夫だからさ。それに…どこにも行けないよ”
気まずい沈黙が僕らを包んだ。何か言ってあげたいのにな。僕が言えることは何もない。
しばらくそうしていると、ハーミーは何かを決心したように口を開く。
「ねぇ、トミー。私ね、いますごく楽しいの。不思議な魔法がいっぱい学べて、素敵な友達がそばにいてくれる。もちろんトラブルもたまにあるけれど…でも楽しいのよ、トミー。わかる? 辛いことばかりで、もう学校なんてやめたいって思ってたのに。私いまね、学校が楽しいんだわ」
“それは…ほんとうに嬉しいや。それって、とってもすてきなことだ”
「ええ、とってもすてきなこと。どうしてそうなったかわかる? あなたが私を変えてくれたからよ。あなたが私に向き合ってくれて、外のことに目を向けて、勇気を出して人に向かって踏み出すことを教えてくれたから。助けてくれたからよ」
僕の手をしっかりと握り、まっすぐと目を見つめて、はっきりと。
どうやって気持ちを伝えればいいのか、僕に教えるように。
手のひらから伝わる熱があたたかくて、やさしく溶かされてしまいそう。
「だからあなたにも教えてあげたいの。もし今が嫌なことばかりで苦しくても、きっかけがあれば…いつか笑える日が来るってこと。私がそのきっかけになってあげたいってこと」
“ごめん、ハーミー…それでも僕は”
「ううん、焦らなくていい。それに…さみしいけれど、きっかけは私じゃなくてもいい。
私はあなたに伝えたいだけ。私を変えてくれたあなたなら、きっといつか…心から笑えるようになるって。
私はそう信じてるって、覚えておいてほしいの」
そう言って、ハーミーは優しく僕を抱き寄せた。壊れものをあつかうように、そっと。
僕は抱きしめ返したかった。けれど、手を宙にさまよわせてやめた。
胸が痛い。ズキズキする。
そして、ハーミーは少しだけ身体を離した。
「覚えておいてね。きっといつか…その日が来るから」
“うん…覚えておく。ありがとう”
「えっと…だから…」
ハーミーは笑いかけて、なぜかしどろもどろになった。
何かを悩んで、視線を宙にさまよわせて、それから僕を見て、すこしだけ赤くなった。
「…早くその日が来るおまじない、かけてあげる」
そしてハーミーは僕に顔を近づけて、くちびるに軽くキスをした。
かあっと僕の顔が熱くなる。突然のことで反応もできない。
何か言おうとぱくぱくと口を開いても、言葉はまるででてこない。
胸が痛い。ドキドキする。
たぶん今僕、全部わすれてる。嫌なこと全部。他のこと、全部!
ハーミーは赤い頬を隠しながらはにかんで、早口にまくしたてて席を立った。
「さてと、すっかり遅くなっちゃった! もう行かなきゃ。忙しい、忙しい! 学期末テストが近くなってきちゃって、実はやることがいっぱいなの!」
“だ、だよね! うん、えっと…うん!”
「…早く元気になってね、トミー。約束よ」
“いや…元気出たよ。もう元気になったって!”
「それはちょっと…早すぎよ」
僕らはくすりと笑いあった。そして
ふわふわハーミー。僕のハーミー!ハーマイオニー・グレンジャー!
ずるいや、君ってほんとにかわいくて!
瞼に焼きついた君の笑う顔が、いつになっても消えてくれそうにないや。
そしてハーミーは去っていく。一人残された僕は息が詰まる。
さよなら、僕の青い鳥。どうか幸せでありますように。
ママにならったおまじないでトミーくん瞬殺できるってマジ?
マジです。