学年末試験の最終日。頭の痛くなるようなテストを終えて、生徒たちは喜びに震えている。いやまあ、悲しんでいるかもしれないけどね。ははっ。
ホグワーツ内部から魔法相に届いた一通の手紙。
用務員が違法にドラゴンを飼育していた疑いあり。校長であるアルバス・ダンブルドアは魔法相に出頭し釈明せよ。
――そんな匿名の手紙に踊らされて、偉大なる魔法使いはホグワーツを離れた。これ幸いとクィレルは禁じられた廊下をぬけ、みぞの鏡の間へと向かう。
破られるとわかっている仕掛けたち。歌を聞けば眠ってしまう、かわいらしいケルベロス。灯りをともせば恥ずかしそうに隠れる悪魔の罠よ。羽虫にされた鍵たち、くだらないチェス、お遊戯のパズルよ。かつて心躍らせた仕掛けたち。僕はズルしてすり抜けた。そして――――
みぞの鏡から賢者の石を取り出そうとしているクィレルのもとに。
―――僕を怒らせる元凶にたどり着いた。
「やぁ、クィレル先生。探し物なら、時間の無駄だと思いますよ」
僕が陽気に声をかければ、ニンニクくさいターバン野郎がどもりながら返事をしようとする。けれどこそこそひそひそと、頭の裏のお友達と内緒話だ。
そしてターバンを脱ぎ捨てて、僕は夢にまで見たクソッたれとはじめましてだ。
「トミー・ポッター……やはり、仕組んだのは貴様か。あいつが気を利かせたのかと思ったが…そういうことか。貴様は知っているな…俺様が誰なのか、何を求めているのか」
「うん。全部知ってる。でも、お前も僕の望みがわかるだろ」
人の後頭部に住むしかない害虫が人の言葉をしゃべりながら、笑ってら。ハハッ、僕も笑えてきた。
醜い顔が嬉しそうにゆがませて、あいつは僕を見る。
「わかるとも…その目つきだ。その目つきを俺様はよく知っている。怒りに燃えるその目つきを」
そして、奴は叫んだ。
「殺したいんだろう、トミー・ポッター! 俺様が貴様を殺したいように!
―――この私の存在に、いつから気がついていたッ!」
「―――生まれた時からさ。改めてご機嫌よう、こんばんは。闇の帝王ヴォルデモート。両親の仇、僕らの敵よ、夢にまで見たはじめましてだね。
そしてさようなら」
死ねこのクソ野郎ッ!
バチバチと火花を散らしながら杖がうなりを上げ、紫色の輝きを迸らせる。もっとも原始的で野蛮な“殺意”という魔法が、黒い炎線へと姿を変えて踊り狂った。
僕の最大で最強の魔法。相手はもがき苦しんで死ぬ…んだけど正直ヴォルデモートに効くのかは不明。いや分霊箱システムとか知らんし…。まあでも、間違いなくクィレルは殺せるんじゃないかな当たれば。あ、くそっかわした。
「礼儀を知らんな、トミー! 魔法使いの決闘はまずお辞儀をするのだよ!!」
「知ったことかッ! 死ねッ!」
怯えた顔のクィレルとは対照的に、ヴォルデモートは心底愉快そうに笑う。
なんだぁ、てめぇ…!!いらいらさせやがって、余裕ぶっこきやがって!! そんなにお辞儀がしたいならあの世で僕にお辞儀し続けろってんだよぉ! ヴォルデモートォォォォッ!!!!
そして緑の光と黒い炎が宙を舞う。お互い一発当てれば即勝利、死の呪文の打ち合いが幕を開けたのである。たまらないねデスマッチだ! ははっ! それがどうして、どちらも死なないじゃないか! 僕は遊ばれているってわけだ。確実に当てれるタイミングをわざわざ避けているんだ。どこまでもふざけやがって。正面きった呪文の打ち合いで勝ち目なんかないってわけだ。
でも何故? 石を奪うためか? そこまで理性的なやつだとも思えないけどな。いたぶっている、いや、試されている? なぜそんなことをする? 何故――
まあそんなことはどうでもいいか。僕が容赦する理由にはかけらもならないわけだし。早く死ねよオラァ! 頭いてえんだよこっちは!!
「その年で闇の魔術を扱うとは大したものだ! 誰にその呪文を習った? 老いぼれのアルバス・ダンブルドアに尖兵にでも仕立て上げられたか!」
何発撃ったかもわからないタイミングで、杖が突如として焼き焦げる。気を取られた僕を赤い閃光が襲い、杖を弾き飛ばす。
すぐさまクィレルが距離をつめようとして――――
「避けろ!」
僕の指先から迸った黒い炎が、クィレルのローブをかすめた。あーあ。外した。一回きりの大チャンスだったんだけどな。そうとも、この魔法は杖なんか必要ない。杖は、負担を肩代わりしてくれる補助輪に過ぎないんだから。
心臓が痛い。息ができない。使いつぶしてごめんよ、僕の杖。こんな魔法しか使いこなせやしなくてさ。
「このっ…憎しみしか知らん哀れなガキめ! だがこれでもう打つ手はなくなったというわけだ」
忌々しそうにヴォルデモートは吐き捨てる。冷や汗でもかいたのか? それともオシッコ漏らしちまったか。ハッ、ざまあみろ。
「トミー・ポッター……よく聞け、お前はここで死ぬのだ。誰にも愛されず、誰からも助けられず、お前はここで死ぬのだ! 恐ろしいか? 悔しいかっ! そんな最後は嫌だろう!」
「はっ…それがなにさ! 僕にどうしろって?」
「私に跪くのだ、トミー・ポッター!! 私に忠誠を誓うのならば……命だけは助けてやる」
ああーー…なんだ、もしかしてこいつ僕に同情してるのか。
だとしたら心底笑えるな。その言葉はもうちょっと他の人物からいただきたかったんですけどね。
そもそもアーニーの両親を殺したのお前なんだよなぁ…!!
というわけでお誘いは殺意でお返しせてもらうゾ♡
あっさり避けられたゾ♡ クソが!
ほんとなめてたなクィレルのことこいつめっちゃ強いじゃんなんなんだよ。ワンパンですむ雑魚であってくれと祈ってきたのに。めっちゃ機敏に動くじゃん命かかってるから? そりゃそうか。
肝を冷やしたクィレルが、怒りのままに目くらましの呪文を放つ。魔法の反動で僕は避けられない。視界のなくなった一瞬のうちに足縛りの呪文が放たれて、僕は地べたにすってんころりん。あっというまに距離を詰められて、お腹をサッカーボールみたいに蹴りつけられた。うげぇ、汚いね。ゲロ吐いちゃった。
息をつく間もなく、したたかに顔を殴られる。一回、二回、三回。目の奥で火花が散る。見慣れた光景。なんてことない。
髪をひっつかんで引きずり起こされ、そのまま足をふみおられた。叫び声をきいてさぞ楽しそうだ。
涙のにじむ目を開かされ、瞳に唾を吐きかけられる。首を思いきりつかみ上げて、そして杖を突き付けられる。
あぁ、これあれでしょ? ほらなんだっけ……あーそう、あれだ。まさか自分が言うことになるとはね。
「くっ……殺せっ……!」
ヴォルデモートはもちろんオークではないから殺してくれるだろ。なんて、僕は思った。
「殺せ? お前はなんと哀れなんだ……。
――――助けてと言え! 無様に命乞いをしろ! トミー・ポッター!!
お前の両親は、俺様に泣いて許しを乞うたぞ! そして惨めに死んだ!!
…だがお前は助けてやってもいい。貴様には素質がある。闇の帝王としての素質がなッ!
さあ、言え! 俺様と手を組むのだ!
―――石のありかを言えッ!」
おいおいおいお墨付き出たよ。闇の帝王から100点満点だたまんねーぜ。生きて帰ったらDADAの先生でも目指すか。敵を知り己をうんぬんかんぬんだ。さぞ教えるの上手いだろうな。まあ、たぶん今から死ぬわけだけだからどうでもいいか。
だって僕の返答ろくでもないし。
「―――ダンブルドアのチンポコ舐めな、このホモ野郎!!」
ヴォルデモートの、クィレルの顔が怒りにゆがむ。首を絞める手に力が入る。死の呪文なんて撃たれるまでもなく首の骨が折れそうだ。ほらなスネイプ先生。やっぱ物理なんだよ。あーあ、負けだ。もう残ったカードは一枚だけだ。ちくしょう、嫌だな。死ぬのは嫌だ。けどもう僕にはこれしか残ってない。母親はどんな顔をするんだろうな。きっとお前も防げないだろ。だって僕だってできるかどうかわかんないし。けど、もう僕にはこれしか残ってない。だからやる。そうさ、あの世で見ているってのならいってくれ。やってみせろよって、言ってくれ。そしたらなんとでもなるはずだから。
護りの魔法の反対呪文。一度きりの死の呪文。たとえ分霊箱があったところで、どうなるか分からない。
ギリギリと肉がすれる。目玉が飛び出てしまいそうだ。意識が遠のく。ああ、ダメだ。僕は起きながら死ななければいけない。全てを憎みながら死ななければいけない!
「…わ……」
かすれた声が喉から洩れる。クィレルが締め上げる手を緩める。石のありかを吐かせるために。
だから僕は言葉をもらす。こいつに、ヴォルデモートに、僕を殺させるために。
「…嗤…え……情…けなど……おま…えには……に……にあ…わ…ない……」
お前は本当に律儀な奴だ、ヴォルデモート。目を見開いて、それから楽しそうに嗤いだす。
本当に、お前がクソ野郎でよかった。
「――このガキを殺せッ!」
そしてクィレルは両腕で僕の首を絞める。ああ、本当に悔しくてしょうがないよ。わかってたのに。わかっていたのに。腹の中でぐつぐつと怒りが煮えたぎる。何もかもが憎たらしくてしょうがない。ヴォルデモートの言うとおりじゃないか。そうとも、僕は勝てっこないなんて、わかってた。だから助けてくれって言ったのに。何とかしてくれって言ったのに。けっきょく僕はこうするしかなくなった。誰も助けちゃくれなかった。ああ、そうとも僕は――――僕は見捨てられたんだ。
臆病者のダンブルドア。独善をきどりのスネイプ。僕らを取り巻いた大人たち。クソッたれの庇護者ども!
ああ、そうとも僕はいつだって見捨てられてんだ! 僕は助けてくれって言ったのに!!
ああ! クソッたれ!! 畜生!! みんな嫌いだ、大嫌いだ!!! 全部僕らに押しつけて、全部僕らのせいにして、僕の大事なものを踏みにじる!! 恥知らずの偽善者のクソ野郎ども!! くたばれっ! 死ねっ!くそっ、クソっ、クソッ!!!! くたばれーッ!! お前らみんなクソ野郎だ、ダーズリどもと同じウジ虫だ!! みんな死んじまえ!! 僕の大切なものに触れるな! 僕が好きなのは3人だけだ! それ以外の奴なんて死んじまえ!! どいつもこいつも殺されればいい! 誰もかれもいなくなればいいッ!! 今すぐ死ね、くたばっちまえ!!! 僕は最初からわかってたのに! こうなるとわかってたのに!! だから助けてほしかったのに! 誰かに庇ってほしかったのに!!!
僕は最初から、わかってたのに……。
こんな風にアーニーが、僕を助けてしまう前に―――
誰かに助けてほしかったのに。
透明マントを脱ぎ捨てて、アーニーがクィレルの首につかみかかる。
クィレルの絶叫が響き渡り、どんどん体が焼けていく。愛が呪いを蝕んでいく。
やめてよ、アーニャ。お願いだ。
僕はそんなの許せないんだ。
僕のアーニー、いとしいアーニャ。
たった一人の僕のお姉ちゃん。
君が手を汚すなんて、
君が人を殺すなんて、
君が戦わなければならないなんて、
僕は耐えられやしないんだ。
でもきみは聞いてはくれないね。
ぼくもそうだからわかるんだ。
ぼくらとっても似たものどうし。
ほら、クィレルが燃え尽きた。
僕が怒っている理由がわかるかい?
きっとアーニーはわかってくれないね。
僕もアーニーが泣いている理由がわからない。
きっと僕はわかってあげられない。
ぼくたちとっても似たものどうし。
闇の帝王に気に入られちゃったとかそれマジ?
マジです。