とくに理由のある独占欲がトミーくんを襲う
7:ひこーくんれん
天気は快晴。箒をたずさえて校庭にならぶグリフィンドールとスリザリンの生徒たち。今日はたのしい飛行訓練! 股ぐらに箒をはさんで空飛んで、立派な魔法使いを目指しましょう! 指示を飛ばすのは鳥みたいな顔をしたフーチ先生。アニメーガスかなにかでいらっしゃる?
さておき地面に横たわるぼろい箒に手をかざし”あがれ”と声をかけたならば、箒はいきおいよく浮きあがって僕の手をはじきとばした。加減しろばかやろう。そんな具合にしていたら、ふくよかなネビル少年がテンパったあげくなんやかんやで手首を折り、わずか数十分のあいだにフーチ先生が退場した。
行くなーっ! 帰ってこいフーチぃ! そんな心の叫びもつうじるはずもないのだ。世の中はいつだって無情である。気がつけばアーニャとドリーがにらみ合いをはじめていた。こわっ…一昔前のスケバンみたいな絵面。戦いの火蓋になったのはネビルが落とした思いだし玉…ではなかった。ドリーはおもむろに僕をひっつかんで箒の後ろに乗せて地面を蹴った。なぁんで? そして空からアーニャを見下してたのしそうに笑う。アーニャが怒って叫ぶのが見える。
「私の弟返せ!」
「イヤよ。もうわたしのものだから。吠えてないで取り返しにくればいいんじゃない? あら、ごめんなさい…かよわいアーニーちゃんは怖くて飛べないのよね」
返事がわりにアーニャは箒をひっつかんだ。そしてハーマイオニーの制止を振り切って空中に飛び上がり、あっというまに追いついてきた。
「魔法使いは親に人の物をとったらいけないって教わらないのね」
「それをいうなら、マグル育ちは金庫には鍵をかけろって教わらないのかしら」
「叩き落とさなきゃそのムカつく性根は治らなさそうね、この盗っ人女!」
アーニャが弾丸のように突進し、ドリーがそれをかわした。そこから先はジェットコースターの始まりだ。空を上へ下へ左へ右へ、猛スピードで駆けまわる。僕が必死にしがみつきながら悲鳴を上げていると、ドリーにうるさいと怒られた。お、横暴! そうしてすさまじい空中戦を繰りひろげた二人だったが、さすがに重量差が応えたのかアーニャがドリーを捉えた。正確に言うならドリーにしがみついていた僕を捉えた。急に衝撃が僕を襲い、ぐるりと視界が回転したかと思えば、僕はいつの間にかアーニャに抱え込まれていた。えぇ…。
アーニャが息を切らしながらもドリーに向きなおり勝ち誇る。ドリーは忌々しげに顔をゆがめた。第二ラウンドが始まるかと思ったが、マクゴナガル先生が血相抱えて乱入し僕らを地上へと引きずり下ろした。ありがとう…ほんとうにありがとう…! 泣いてすがりつく僕を手で押しのけつつ、マクゴナガル先生はアーニャをシーカーにスカウトしていた。ドリーはそれを怒り心頭といった様子でながめると、自分もスリザリンのシーカーになると僕に宣言した。”がんばって!”と言うと、当然のように言い返された。
「トミーもやるに決まってるじゃない」
あ…はい。
8:決闘さわぎ(仮)
夜中にぃ~呼び出してぇ~決闘ぅ~! マジかよ。マジだわ(笑)。もはや日常茶飯事となったアーニャとドリーの口げんかは、消化不良で終わった飛行訓練でのケンカもあいまって売り言葉に買い言葉であれよあれよと決闘の約束をとりつけるに至ったのだ。そんなわけで校則をいろいろとぶち破り、深夜のトロフィー室にやってきた!
…まあ、ドリーは来てないんですけどね。高笑いしながらはしご外しを実行するドリーを見ていると、やっぱりフォイフォイなんだなあと安心する。何だかんだありながらもいとしい姉が心配な僕は、アーニャに早く帰るよう忠告しにきたのだ。…まあ、ついに誰も来なかったんですけどね!
むなしくなって帰る途中で、こっそりとトロフィー室に向かうハーマイオニーを見つける。なんとなく事情を察した。アーニャもまたドリーと同じく梯子外しを決行し、それを見たハーマイオニーは敵に塩を送らんとやってきたのだ。まじめか!
背後にしのびよって肩をたたくと、猫のように飛び上がって驚いていた。ほんとかわいい。口をぱくぱく開けてるハーマイオニーに、”トロフィー室には誰もいないから帰った方がいいよ”と忠告する。彼女は大きなため息をついて肩をおとした。え? あなたは何してるのって? …やめろよ質問してから自分で答えにたどり着くの。現状認識して傷つくだろ。
そうして僕たちは謎のシンパシーを感じつつ帰路につく。僕はハーミー(発音がうまく出来なかったので、愛称で呼ぶことになった)をグリフィンドールの寮塔まで送りとどけることにした。善意できてくれたハーミーが罰則をくらうのはちょっとね…申し訳ないよねって。他愛のない話をしながら管理人の飼っているぶちゃ猫をかわしつつ、なんとか無事に寮塔までたどり着く。ハーミーは照れくさそうに僕にお礼を言った。
「わざわざ送ってもらってありがとう。私、あなたのこと誤解してたと思う。あのドリー・マルフォイといつも一緒にいるから、もっと嫌な人だって決めつけてた」
”ドリーは身内にはほんと優しいから…ちょっと見栄っ張りなだけだから…”と震え声で返す。良い子なんだけどね、ご実家の主義がね…。それから少し立ち話をした後、手を振ってハーミーと別れた。そのまま寮には戻らずに、僕は四階へと続く階段へ足をかけた…。
9:にゅーちゃれんじゃー
グリフィンドールのクィディッチチームからお知らせだ! 新シーカーは100年ぶりの一年生! しかも闇の帝王を打ち倒した魔法界の英雄! 生き残った双子の姉の方アーニー・ポッターのエントリーだ!!
魔法界の大人気スポーツであるクィディッチはホグワーツでも一大行事として寮対抗で大会が行われる。故に、このニュースが熱狂を巻き起こすのは当然のことだった。大広間、教室、トイレの中に至るまで、話題はアーニャとグリフィンドールで持ちきりだった。
犬猿の仲であるスリザリンが面白くないのもまた当然である(もちろんドリーもだ)。なにか、なにかないだろうか? この心底腹立たしい空気をふきとばせるようななにか。そして彼らは思いついたのだ。目には目を、歯には歯を。一年生シーカーには一年生シーカーをぶつけんだよ! なんなら弟の方のトミー・ポッターをスリザリンチームのシーカーにすればいい! あのいけすかない赤獅子どもにいい顔をさせてたまるものか!!
…とまあそういった経緯でスリザリン生徒たちが僕を担ぎだそうとしている噂が耳に入る。まさかぁとうたがっていた僕を出迎えたのは、歴史と伝統と慣習でガチガチに固められたスリザリンの圧倒的縦社会体質だった。授業終わりに教室を出ると、クィディッチチームの上級生がスクラムを組んでお出迎え。廊下を歩けば露骨にクディッチの話題を振られ、食事時の大広間では彼らが僕の席を確保して手招きする。なんとか逃げ込んだ個室にはクディッチ雑誌と”トロールでもわかる! クィディッチ入門書!”が投げ込まれていた。こえーよパワハラだよ!
僕はクィディッチなんて死んでもやりたくない。いや、正確に言うならば死ぬからやりたくない。なんだあの殺人的スポーツは。鉄球がとびかう空の上で箒に乗って超高速サッカー&ラグビーもどきをやるとかなんなの? 死ぬわ! しかもチームメイトは高慢ちきの体育会系の差別主義者のむさくるしい男だけ(スリザリンチームは伝統的に男選手しかいないのだ)でしょ?何が楽しくてそんな場所に行かなければならないというのかこれがわからない。
そもそも事の発端はアーニャとドリーではないか! 僕はあのとき一ミリも自分で飛んでないぞどういうことだよ! 僕じゃなくてドリーでいいだろ本人の希望も適正もあるんだからさあ! たぶん二年生になったら腕前と金の力で伝統をねじ伏せて新シーカーに……とそこまで考えてふと気がついた。
”そんな地獄のような環境にドリーひとりを行かせて良いのだろうか?”
”というかそんなチームと対戦するであろうアーニャを放っておくのか?”
”ちょっとかっこいいところみせてキャアキャア言われたい…言われたくない?”
”監督スネイプ先生だし好感度あがる説ある…?”
その他もろもろの総合的な判断が繰り広げられ、スリザリンチームのキャップとの粘り強い交渉により、僕はドリーを新シーカーに据えることを条件にビーターとして地獄の体育会系部活に身をおくことになった。とほほ…。
実は現実世界でクィディッチがプレイされているってそれマジ?
マジです。