激おこぷんぷんトミー・ポッターくん   作:ぼんびー

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寒くなると人肌が恋しいので初投稿です。
金髪縦ロールお嬢様は正義。だがさらさらストレートも、ゆるふわウェーブもまた正義なのだ。



15:ドリーと飼い犬

15:ドリーと飼い犬

 

あーくそ、朝寒い。ドリーが根回しに尽力してくれたおかげで(どうやったかは教えてくれない)、なんとかスリザリンの疑惑の目はおさまりがついた。すれ違いざまの脅しが無くなってほんとに嬉しい…。が、それにはずいぶんと時間がかかってしまった。気がつけばホグワーツの冬休みが近づいていて、授業は確認テストが山盛りになるし、クィディッチの練習は凍えるほど寒いし、噂話はなかなか消えないでハーミーにも会えないしで大変だった。でもそれも明日でお終い! 明日からはクリスマス休暇! もうちょっとの辛抱だ! …でもあったかい布団から出たくないから二度寝しよ。

 

そして横を向くと、ドリーがかわいらしい寝顔のままに同じベッドで寝っていた。なにがなんだかわからない…。ついに無意識下でやってしまったのか? あんまりにもドリーに想いを募らせすぎて本能でやっちまったのか!? い、いや僕は無罪だ! だって…だって不可抗力だろう! 超いい匂いがする金髪美少女がずっとそばにいるんだぞ? 危険な環境のなかで守ってくれる上に、勉強から運動まで二人三脚で助けてくれるんだぞ! しかもご主人様なんだぞ! しつけと称していろいろ奉仕を要求されたりしてるんだぞ! もう半年もずっとそんな状態で…耐えられるわけないじゃない!   

 

“そうか…僕はついにやってしまったのか”

 

もういっそのこと開き直ってしまおうか。どうせ豚箱に行くなら思いっきり堪能してから悔いなく逝こう。あー寝ぼけて抱きついちゃったなー。はぁーっ柔らかい。うわぁーっいい匂いする。…ちょっといやらしくさわってしまおうか。しょうがないよー寝ぼけてるんだよー。うへへへへ、僕をこうさせたのはドリーだからなぁ! そーれふにっと……。

 

「んっ…」

…………。

 

「やっ…」

…………。

 

エッチじゃん。これもうエッチでしょ? エッチじゃん! 

し、静まれ僕の獣性よ! 耐えるのだ、その先はイスカリオテのユダだぞ…貴様は聖体を辱めることになるのだ! 信仰心! 信仰心を念じて耐えるんだ! うおおおドリーかわいいよいつもありがとう心の底から感謝してます毎朝毎晩祈りを捧げます守ってくれて感謝します生まれてきてくれてありがとう君こそこの世に舞い降りし聖女にして邪な僕の聖マリアどうかそのおみ足で踏みつけてくれ嘘つきな僕に罰をくださああああああい!!!

 

…ふう。これで安らかに逝けるな。

 

真面目になにやってんだろうドリー。なんか嫌なことでもあったのかな。貴族社会特有の罰ゲームかなにかでも食らった? だとしたらちょっとそいつとっちめにいくから相談してくれても良いんですよ? 僕はドリーを揺り起こして問いだしてみる。僕の女神様はそっぽ向きながら答えます。

 

「だって…明日になったらクリスマス休暇でしょう? わたしはもうすぐ帰ってしまうのに、最近は忙しくてあまり側にいられなかったし…それに昨日は……苦手なのよ、雷の夜。家ではお父様が…だから…その、いけなかったかしら?」

 

は? つまりこれは…あれか? さみしさと不安からついついパパのお布団もぐっちゃいましたムーブなのか? バカな、アレは伝説上の存在…あーダメだもう無理。限界。もうしらん構い倒す半径1メートルいないから出ない。

 

はー…そりゃ父親のルシウス氏も溺愛するよ。こんなおねだりかわせないでしょ。溢れる父性に心を破壊されてないですか大丈夫? そりゃ命かけても守るよなこんなにかわいいんだもんズルいですよ! かわいいはズルい! でも好き!!

 

というわけで今日は(も)ドリーちゃんのそばを絶対に離れる気は無いですよろしくお願いします。一緒に寒空の下でクィディッチデートでもしようか! はっはっは、なーんちゃってね。え、ほんとにやるの? またふたりで一緒の箒に乗りたい? はーぁぁドリー。はーーぁぁドリー! 

 

こんな女神をチームのゴリラどもに汚させてなるものか…練習終わりに毎回着替え覗こうとしやがってそんなに僕のクラブが欲しけりゃくれてやるよオラッ! 僕の飼い主様だぞなに見てんだオラッ! ドリーの飼い犬は僕一人で間に合ってんだよ奴隷上等だオラッ! なんで男の尻を棍棒で叩くことになれなきゃいけねえんだよオラッ! くそっ、思い出して腹立ってきた。やはり我がご主人様を守護らねばならぬ。僕はそう決心し直した。閑話休題。

 

 

雪がちらちらと降りしきるなか、僕たちは誰もいないコートに出て空を飛んでいた。最初に飛んだときと同じように、ドリーが前で僕が後ろ。意外とふわふわ浮くだけでも楽しいものだ。あー、冬の寒さが身にしみる。でもなんだかあったかいかもしれないね。なんでかは知らないんだけどさ。ドリーの側にいると嫌いな雪もそんなに気にならないし、ほんとに大きい傘みたい。……うう、やっぱ寒っ。

 

ふと、ドリーが言う。

 

「トミーもへんな人よね。いつもわたしにつきあってくれる」

”おかしいかな? 僕はむしろお礼をいいたいくらいだけど"

「そうね。普通は…はなれていくと思うけど」

 

離れるなんてとんでもない。ドリーがいなければ僕なんてあっという間に本当の孤立をしていただろう。そりゃ、いろいろと思うところもあるけれど、僕に比べたらねぇ。あとめちゃくちゃかわいいし…優しいし…しつけてくれるし。ち、ちょっとクセになってなんかないんだからね!

 

「振り回している自覚はあるもの。はじめてトミーに話しかけたときも、クィディッチを始めるときも、ハロウィンのあとも…ちょっとは不安だったのよ」

”ドリーって見栄っぱりなところあるものね”

「知ってたの? なんてかわいくない飼い犬だこと」

 

ドリーはくすりと笑った。ゆっくりとなめらかに空を旋回する。雪がドリーの髪にかかったので、そっと払いのけて僕は言う。

 

”やっぱりシーカーはドリーで正解だよ。こんなに箒の扱いがうまいんだもの! 文句を言う奴がいたら、僕がブラッジャーをたたきつけるからね。三回くらい”

「ふふ、そうかもね。ねえトミー…あなたのそういうところなのよ。わたしがあなたをあてにしてしまう理由は。いつもわたしのそばにいて、前向きな言葉をかけてくれる。それになんでもつきあってくれるでしょう? 雪の日に寒がりながら空を飛ぶなんてことにもね…。あとは目を離すとふらふらするのさえなければいいのだけれど」

”わ、わはは。やだなあ僕はいつでも君と一緒さ。なんせ君のかわいい飼い犬だからね。…あ、こら。笑わないでくれよ”

「はいはい…そろそろ降りましょうか。ちょっと雪が強くなってきちゃったから」

 

僕たちはコートに降り立つ。灰色の空からは雪がふりつづいている。空を見上げているドリーを眺めて、僕は”綺麗だなあ”とつぶやいた。

 

「ええ。わたしも雪は好きよ」

”ああ、いや…ドリーのこと”

「…………」

”雪の中にいるドリーが綺麗だなあって”

「…まあ、そのまま受け取っておいてあげるわ。あなたは意外と悪のりをするからわかりづらいったら、もう…」

”いいや、本気さ。…たぶん”

「あきれた! ほんとうにおかしいひとね、トミー」

 

ドリーは笑うけれど…冗談だと思っているけれど、僕は雪にろくな思い出がない(主にダーズリー家のせいで)。こんなもん寒いだけだ見たくもない。だから僕に雪が…雪を見る君が綺麗だなんて思わせたんだから、きっと本気さ。恥ずかしいから頼まれたってもう言わないけどね。

 

「ねえ。もしアーニーや…ハーマイオニーなんかを見るのはやめて…わたしだけに味方してとお願いしたら、どうする?」

 

ドリーはいたずらっぽく微笑んだ。それはとっても難しい質問だ。僕に米か味噌汁か焼き魚か、どれか選べというようなものだ。はっきりいって選べない…と言いたいけどね。

 

”やっぱり僕はアーニャの味方をするだろうね。なにせ、僕は姉によわいから。でも勘違いして欲しくないよ。ドリーは本当に大切な僕のご主人様さ。…あ、また笑ったな! ひどいじゃないか”

「いちいち大げさなんだもの。そうね、じゃあ…わたしだけに味方してって“命令”したら?」

“それなら簡単。僕は迷わず君の味方さ!”

「やっぱり、あなたはわたしのものになるべきよ」

 

なんて満足そうな顔だろう! 見ているだけで嬉しくなるね。元気よく返事をしたくなる! 雪の上をごろごろ転がり回って、おなかを見せて服従のポーズだ! うーワンワンきゃいんきゃいん。なんでもしますよご主人様! だから僕にお慈悲をくださいませ!  

 

なんて考えているあいだにドリーはゆっくりと近づいて、僕の頬にひんやりとした手を添える。雪景色に金色の髪が映える。輝くグレーの瞳が僕を捉える。僕の頬に触れた指がゆっくりと肌をなぞり、そして唇にふれた。

 

「ほら、目をつむりなさいな」

“えっ。あの…えっ?”

「はーやーく。これは命令よ」

 

つい視線がさまよい、ドリーの薄紅色のくちびるにとまってしまう。自分の頬が赤くなるのがわかった。いやいやいや困りますご主人様そんなお戯れを…あーっごめんなさいわかりましたすぐ閉じます! な、なんとなく顔が近づいているのがわかるぞ。うおおさらば今生のファーストキス! 僕はいま大人の階段を登るぞーーっ!!

 

 

こつん、と額がつつかれた。指で、こつんって。こ、こここ、こつんって。あんなに期待させていおいて、くちびるまで指でなぞっておいて、こつん! まさか…まさかこれは…バカな、なんだこの胸の高鳴りは。なんだこの切なさともどかしさと、甘酸っぱさが渦巻く胸の内は! まさか、まさか…この短期間で…僕はっ! 

 

「これからしっかりしつけてあげるから――ね」

”――調教されているっ!”

 

僕、もうダメかもしれない!

 

 

「とりあえず、わたしが帰ってくるまでいい子にしてなくちゃダメよ? これは命令で、わたしからのクリスマスプレゼント。ほんとに目を離すとなにをするかわからないんだから」

 

はーい、しますしますいい子にします! あなたの命令なら喜んで! ああ、君の家に行きたいなあ! 勝手に押しかけてしまいたいよ、君の家の子になりたいね! 今はパパが怖くていけないけどにゃ! なんにせよたっぷりと家で親孝行をして来てほしいものだ。マルフォイ家はいろいろやらかしてくれるけど、僕は嫌いじゃないぞ。愛のためにってね、わかるとも!

 

ああ、そうだ。興奮しすぎて忘れるところだった。

 

“じゃあステキなからかいのお返しに僕からもクリスマスプレゼント。飼い犬からの献上品。中身は手作りアクセサリー”

「あら…かわいいラッピングね。どんなデザインなのかしら」

“それは開けてのお楽しみ。でも、どうかクリスマスになるまで開けないで。きっとサンタが尻込みしてこなくなっちゃう”

「ふふ、期待しておくわ。…来年こそ家に招待させてね。わたし、思い出を持って帰るだけじゃ足りないわ」

“そうなると僕も嬉しいな。ご家族にもよろしくね、ドリー”

「ええ、お父様もきっと、トミーのことならきっと気にいるわ。…そろそろ戻りましょうか。ほら、校舎まで駆け足しなさい! 飼い犬トミー!」

“ううーワン!”

 

そうして僕は元気よく校庭を駆けていく。後ろでくすりとドリーが笑った。だめだなあ、僕は。どうしても好きになっちまいそうだ。心を殺すなんてきっといつになってもできっこない。言うことを聞いてくれない僕の心。居心地がよくて抜け出せない。こんなつもりじゃなかったのに。

 

ああドリー。ドリー・マルフォイ。綺麗で優しくて見栄っぱりな僕の飼い主、女神様。尻尾を振るよ。言うことを聞くよ。どこにだってついて行くよ。できるかぎりのことをするよ。君が望むならなんでもするよ。その代わりにひとつだけ、僕のお願いをきいてほしいんだ。これがどんなに不誠実か知ってるけど、それでもいつか言わなくちゃ。

 

どうか傘にいれておくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




好感度の上げすぎは時として死亡フラグになるってマジ?
マジです。

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