阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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100話目にして主人公が異変参加してる殆どの陣営にバカ呼ばわりされる話を書く作者がいるらしい()


三つ巴の乱入者

 霊夢は天子に呼び出される形で博麗神社を飛び出し、彼女から大まかな説明を受けていた。

 

「人里の住人が無気力化、ねえ……」

「全容は私たちも掴めてないけど、対処しなきゃ不味いってことで来たわけ。これは楓の頼みでもあるわ」

「あいつが言うなら間違いないか」

 

 天子の説明を聞いた限りでは半信半疑だったものの、楓の名前を出した途端に信じる姿勢を見せる霊夢に天子は肩をすくめた。

 

「大した信頼ですこと」

「あいつ、無駄なことはしないからね。確証もなしに私を呼んだりしないわ。で、楓は人里で何してるの?」

「…………」

「ちょっと、こっち見なさいよ」

 

 楓の行動を聞いただけなのに、天子は霊夢から顔をそらして無言になる。

 霊夢が半目になって天子を見つめ続けると、視線に耐え切れなかったのか天子が引きつった顔を向けてきた。

 

「…………」

「何があったのよ。あんたがそんなどうしようもないバカを見たような顔するなんて」

 

 付き合いは浅いが、彼女の力は知っているつもりだ。

 楓が頼り、霊夢と同等かそれ以上の信頼を寄せている時点でそれは察することができる。

 

「……どうしようもないバカを見つけたって言ったら笑うかしら?」

「……まさか、楓が無気力化の影響を受けてるの?」

 

 無意識のうちに彼を被害者から外していたが、考えてみれば異変は人里を中心に起こっていることだけがわかっていて、対象や法則もまだ不明なのだ。

 その可能性に思い至った霊夢は戦慄の冷や汗を背筋に流す。今回の異変は一筋縄では行かないかもしれない。

 

 しかしそんな霊夢の危惧は天子が首を横に振ることによって否定された。

 

「じゃあなんだってのよ」

「言葉以上の意味はないわ。あいつがどうしようもないバカになってるってだけ」

「…………?」

「詳細は人里の恥部になるから省くけど、今回の異変であいつはアテにしない方が良いわ。私は諦めた」

「何があったのよ本当に……」

 

 全く訳がわからない。霊夢は呆れた顔になりながら口を閉ざした天子の前に出る。

 

「楓は頼れないとして……人里に行きましょうか」

「理由は?」

「勘。だけど手がかりが少なすぎるから候補を絞る意味でも人里は見ておきたい」

「ん、了解。今回はそっちの指示に従うわ。今の楓はホントアテにできないし……」

「人里着いたら詳しい話しなさいよホント」

 

 本来なら楓と行動を共にしそうな天子がこちらに来るとは。

 珍しいこともあるものだと思いながら霊夢らは人里への道を飛んでいくのであった。

 

 

 

 霊夢たちは人里を訪れると、軽く上空から人々を見た後に稗田邸に足を伸ばしていた。

 阿求から何か話が聞けないかという確認と、楓が何かやらかす前に結界の補強をしておきたいと天子からの要望があったためである。

 結界の補強そのものはもともと天子がやっていたこともあり、霊夢が追加の札を一枚貼り付けることで終了していた。

 

「はい、これで結界は終わり。よっぽど強力な攻撃で吹っ飛ばそうとしなければ大丈夫」

「ご足労いただきありがとうございます、霊夢さん」

「礼なら天子に言ってあげて」

「天子さんもありがとうございます。いつもお兄ちゃんがお世話になって」

「今回はその言葉を受け取るわ……」

 

 頭痛をこらえる様子で阿求の感謝を受け取った天子に、霊夢と阿求は顔を見合わせて首を傾げた。

 場所を客間に移し、勝手知ったる様子で霊夢が三人分の茶を入れてから改めて話が始まる。

 

「――という異変が起きてるみたい。阿求の方で、というか楓の方から何か話は聞いてない?」

「私の方からは何も。お兄ちゃん、その日の出来事とかはちゃんと話してくれるので、前兆とかがあったらわかりますが……今回は思い当たりません」

「人里内で怪しい動きはなし。急に起こったってわけね」

「そうなります。動機がある人も私の知っている中にはいないかと」

「んー……やり口的に新参者だろうなとは思ってたけど、これで手がかりなしか……」

 

 求聞持の力は強大である。

 守護者となってからほぼ全ての異変に関わり、大小様々な事件に首を突っ込んでいる楓の報告を全て聞いているためだ。

 つまり幻想郷の勢力図がどうなっているか、最も精度の良い地図が彼女の頭に丸々入っていると言っても過言ではなかった。

 

 その彼女の頭脳をもってしても容疑者が絞れない。

 これは本格的に手がかりが潰えたと霊夢は難しい顔で腕を組む。

 

「あ、お兄ちゃんはどうしているんです? こういう時は私のところに来ると思っていたんですけど」

「今回は私用……というか別件で動いてるわ。多分どこかで交錯すると私も楓も睨んでる」

「根拠は? いや、普段から勘に頼る私が言えた台詞でもないけど」

「楓だから」

「あ、わかった。これ以上は良いわ」

 

 ためらう素振りもなく断言された内容に、阿求も霊夢も納得の吐息を漏らすしかなかった。

 しかし天子はそこから先も言わなければならないと思っていたらしく、苦み走った顔で話を続ける。

 

「……で、楓はさとりと組んで動いてるわ」

「さとり? さとりって言うと……あいつか」

「お兄ちゃんの眼がバレて大騒ぎになったけど、早苗さんの騒動の時には協力してもらってたという、あの?」

 

 二人の言葉にうなずく。

 霊夢はちゃんと出会って早々に人の心を読んで、好き放題言い散らかされた思い出があるため微妙に怖い顔だが、阿求は不思議そうに目を瞬かせていた。

 

「あれから継続的な付き合いを持ったらしくてね。今回も一緒に行動してる。してるんだけど……」

「楓、あいつのこと嫌ってなかった? 早苗の時にチラッと見た気がする」

「もうホント蛇蝎のごとく嫌ってるわ。だからなのか……子供みたいになるのよ」

 

 ここまで来たら洗いざらい吐いてしまおうと天子が見た楓たちの姿を話す。

 霊夢はそれを聞いて最初は信じられないという顔になっていたものの、すぐに腹を抱えて笑い始める。

 

「あ、あはははははっ! あ、あいつが人目もはばからず喧嘩とか、私だって見たことないわよ! ひーっ、笑い死ぬ!!」

「私だって目を疑ったわよ。でも事実なんだから仕方ないでしょう!?」

「ま、まあまあ。考えてみればお兄ちゃんも霊夢さんたちと同年代ですから……」

 

 涙すら浮かべて笑う霊夢を見て言う相手を間違えたかと思う天子だが、時間は戻せない。

 こうなったら楓には汚名を被ってもらおうと心に決め、立ち上がった。

 

「あいつら今回はアテにできないからこっちで動くしかないってわけ。まあ今までが楓に頼りすぎていたと考えましょう」

「ん、後でネタにするとしてこっちも動きますか。とりあえず怪しいやつぶっ飛ばせばいいでしょ!」

「吉報をお待ちしてます。あ、あとお兄ちゃんの様子もできれば見てきてください! 私に見せない姿って新鮮なので!!」

「阿求に見られたら自殺しかねないわよあれ……」

 

 武士の情けとして見ても黙っておこうと心に決める天子だが、霊夢は喜々として広める未来しか見えない。

 しかしそれも楓自身が撒いた種。これ以上天子が気を揉んだところでどうにもならないのだ。

 

「そろそろ行きましょ、天子」

「はいはい、了解――っと?」

 

 三人は障子を開き外へ視線を向けると、そこは綺羅びやかな美しい弾幕が空を彩っている光景が映る。

 

「誰だか知らないけどもう動いてるやつがいるってわけ。――上等、そいつら全員ぶっ飛ばすわよ、天子!!」

 

 

 

 

 

 時間を少し遡り、天子と霊夢が人里に向かっている頃。今回は役に立たないと評された楓とさとりの二人はどうしていたかというと――

 

「好きも嫌いも人それぞれ。相性の善し悪しは必ず存在します。それを抑えろとは言いません。ですがあなたは公人であり、我らからしたら人里の代表ですらあるのです。あのような子供じみた態度はですね――」

「うふふ気分爽快ですね。今どんな気持ちです?」

「あなたもです! 人を嫌うことは仕方ありませんが、目的は別にあるのでしょう? それを忘れて喧嘩しているとは何事ですか!」

 

 並んで正座して白蓮からの説教を受けているところだった。

 だが楓もさとりもそれが不満らしく、それぞれが口を開いて反論していく。

 

「確かに公人として見せる姿ではなかった。それは認めるし、反省しよう。しかしそれ以上にこいつの存在が不快なんだ」

「私も妹を探す崇高な使命があります。そしてそのためには不本意ながら彼の助力が大きい。なので私は吐き気を堪えて付き従っていたのですが、とうとう気持ち悪さに堪えきれず……」

『ぶっ殺す』

「喧嘩しちゃいけません!!」

 

 立ち上がって殴り合いに発展しそうになったところを、白蓮が頭上からの拳骨を落として強制的に黙らせた。魔法で強化された拳なので非常に痛い。

 頭を抱えて悶絶する二人に、白蓮は涙すら浮かべながら人と妖怪が仲良くできない現状を嘆く。

 

「どうしてここまで喧嘩しようとするのです……。人妖平等は無理な幻想なのですか……?」

『本能が受け付けない』

 

 白蓮の嘆きに楓とさとりは異口同音の言葉を発し、正座したままお互いに顔を見合わせてメンチを切る。

 

「俺が見てきた中で間違いなく一番性根が腐ってる女だ。近寄るだけで腐臭がする」

「人の真似事をしている犬が吠えますね。犬は犬らしくしていれば良いのに」

「覚り妖怪とは言うが、読み取った内容を最悪の言い回しで、最悪のタイミングで口にする性格の最悪な女はこいつ以外知らん」

「沈着冷静気取ってますけど、こいつほとんどの事情に心が動いてないだけですよ。どんな重い事情であってもふーん、それで? って気分で聞いてますから。最悪ですよねホント」

『…………!』

「ど、どうしましょう一輪……」

 

 困り果てた様子で助けを求める白蓮の視線を受けて、一輪はどうしたものかと後頭部をかく。

 これどう見ても一周回ってなんとやらというものでは? と一輪は思っているのだが、それを言って白蓮が納得するかわからない。あと二人が怒りそうで怖い。

 

 そして追及が緩んだのを好機と捉えたのだろう。楓とさとりが立ち上がって口を開く。

 

「俺たちのことはどうでも良いんだ。そっちに関わりのあることじゃない。二人はどうして人里に向かっているんだ」

「それもそうですね。むしろ私たちに関わって自分たちの目的を見失ってはいけないのでは?」

 

 そう言ってさとりは白蓮の心を読み取り、その内容にわずかな好奇心を覚える。

 

「……ほう? 希望が失われた人里に新たな希望をもたらすため、仏法の教えを授けに行く」

「なるほど、希望がないとはすなわち拠り所がないということ。そこに宗教をねじ込めば容易に信者を増やすことができる。考えたな」

 

 楓とさとりの二人は感心した様子で白蓮を見た。

 そこに非難の色はない。

 異変の黒幕であるなら倒す必要があるが、そうでないなら降って湧いた状況を利益にしようと動いているだけである。

 集団の長としての役割を果たしているだけだ。楓も逆の立場なら同じことをするので責めるつもりはなかった。

 

「なぜそこは疑わないのです!?」

「こいつが心を読む能力なのは知っているし、そこで疑ったら話が進まないだろ」

「私がこの場面で嘘を言う理由がありませんので」

 

 やはりこの二人、性格的な相性は非常に良いのではないか。

 話の輪から外れて眺めていた一輪はぼんやり思った。白蓮に続いて自分まで入ると収拾がつかなくなりそうだから言わないが。

 

「姐さん。この二人の関係性はさておきそろそろ動いた方が良いのは確かだよ。神霊廟の連中も動いているらしいし、ここで時間食ってたら本格的に出遅れる」

「むむむ……お二人とも! くれぐれも喧嘩はダメですからね!!」

 

 さすがに自分たちの都合を優先した白蓮は楓たちに念押しをした後、一輪と共に人里へ飛び去っていく。

 それを見送り、楓はさとりの方を見た。

 

「思いの外時間を取られてしまった。それもこれもお前が喧嘩を売ってくるからだ」

「私程度の煽りを真に受けて激高するなど女々しい男ですね。なに? 妹を探しているのに男を煽るのを優先するなんて最低の姉だ? よく言いましたその喧嘩買いましょう」

「まあ落ち着け。俺程度の煽りを真に受けては話が進まない。実際問題、お前の妹の居場所はどこなんだ」

 

 さとりが言ったことをそっくりそのまま言い返され、さとりは視線だけで人を殺せそうな表情を向けるものの楓は気にしない。

 

「後で殺します。……こいしは人里の方に戻ったみたいですね」

「無駄足か、使えない女だ」

「あの尼僧に怒られてる間に移動したんですよ!! あなたが大人しく私のサンドバッグになっていればこんなことにはならなかったんです!!」

 

 がぁ、と叫んでくるさとりへ楓は鬱陶しそうに手を振る。

 

「なんで好き好んでお前に殴られねばならんのだ。しかし人里か……お前の妹、行動の基準はないのか?」

「……ないに等しいです。というよりこいし自身も無意識の住人なので、自分で説明のつかない行動を取ることも多々あります」

「傾向も一切ないのか?」

「……お祭り好きなところがある子でした。そしておそらく、今の人里には宗教家たちが集まり、我こそはと覇を唱えているのでしょう」

「……そのようだな。見えるだけでも三つ巴だ」

 

 楓が千里眼を使って確認すると、すでに弾幕ごっこが始まっていたらしく人里の上空に弾幕の華が咲いていた。

 霊夢、天子の異変解決とあわよくば神社の復権を目論む二人。

 白蓮、一輪の人妖平等の仏法を広めんとする二人。

 そして神子、布都による道教の教えを広め、人々を次の位階へ押し上げようとする二人。

 

「後は他にも祭りの気配に乗じて現れた妖怪や魔法使いが少し、と言ったところか」

「守護者として問題なのではありませんか?」

「いや、むしろ好都合だ。人々も弾幕に気を取られて無気力化の影響が薄まっている。白蓮の言う通り、別の拠り所を与えてやれば時間稼ぎはできるようだ」

 

 それに彼女らも人里に被害を与えないよう、上空を意識している。

 今の時点で被害が出ていないのだから、楓が必要以上に目くじらを立てる必要もなかった。

 

「ふむ……こいしはお祭りが好きなので、まず間違いなく人里にいるでしょう」

「お前の言い分を信じるならそうだな」

「ですが人里と言っても広大。仮に弾幕ごっこをしている箇所に絞っても、大勢の人がいる中で無意識を歩くあの子を見つけるのは至難の業」

「使えない姉だ」

「うるさい黙りなさい。……ですがあの子は無意識とはいえ、活動しています。つまり――私があの子を見つけられるように、あの子も私を認識できる」

「なるほど。お前が目立てば向こうから見つけてくれる可能性があるということか」

 

 その通りという首肯がさとりより返ってくる。

 楓は顎に手を当ててどうするべきかを熟考していく。

 

「……霊夢と天子には好きにさせる。博麗の巫女の勘に従えば過程はどうあれ異変解決は無事に終わる」

「それはお願いですか?」

「守護者として必要なことだ」

「……私とてあなたの役目を邪魔したいわけではありません。いえそれであなたが苦しむ顔が見られるなら万々歳ですが、自発的にやろうとはしません」

「知っている」

 

 さとりは楓が大嫌いだが、彼自身の背負う役目への理解は示しており、その妨害まで積極的に行うつもりはなかった。

 それはそれとして人間の真似事を必死にやっている様が無性にムカつくので煽るだけで。

 対し楓もさとりが大嫌いだが、彼女の妖怪としての性質には言及しておらず、心を読むこと自体を咎めてはいなかった。

 ただそれを口にするタイミングが最悪なので、さとりの性根が腐っていると心の底から思っているだけで。閑話休題。

 

 ともあれ楓が出した結論はさとりと同じものであり、さとりは口元が緩みそうになるのを自覚してそれを止めるために苦虫を噛み潰した顔になる。

 お互い相手のことは心底気に食わないが――一種のやりやすさみたいなものを感じているのは事実だった。

 

「――霊夢たち以外を全員ぶっ飛ばして俺たち最強。これで目立つ」

「――乗りました。それでやりましょう」

「足引っ張ったら潰す」

「主目的は私が目立つことですので、あなたは適当なところで私の踏み台になってくださいね」

「は? 目立てば良いんだからお前がボロ雑巾になっても問題ないだろ」

「願い下げです。これだから自分のことしか考えない狂人は困ります」

「こんな状況でもなお俺を煽ろうとする姉とは。性格の悪い姉で妹もさぞ苦労したことだろう」

『…………!』

 

 楓とさとりは一触即発の空気でにらみ合うが、目的は一致しているので肩を怒らせたまま人里への道を戻り始めるのであった。

 

 

 

 

 

 人里では一進一退の攻防が行われていた。

 

「天子、前お願い!!」

「任せなさいっ!!」

 

 一輪の操る見越し入道――雲山が発する巨大な腕の薙ぎ払いを天子は緋想の剣で受け止め、その腕を蹴り上げて吹き飛ばす。

 しかし雲山の一撃は隠れ蓑。大振りな一撃の影に隠れる形で接近していた一輪が拳を振るう。

 

「良い腕だねお嬢さん!!」

「そっちこそ慣れてるわね!」

 

 一輪の動きには天子にも読み取れる、実戦への慣れというものが伺えた。

 だが天子はそれを全て見切って、緋想の剣と拳に連動する要石で防ぎ切る。

 反撃の弾幕を一輪の眼前に展開した要石より放つと、一輪は大きく飛び上がって仕切り直す。

 

「立て直す暇は与えないわよ!」

「私を忘れないでください!」

「っ!」

 

 下がった一輪へ追撃しようと霊夢の札が弾幕として放たれるが、弾幕の軌道上に飛び込んできた白蓮が全てを薙ぎ払い、霊夢へ一撃入れようと肉薄する。

 

「巫女ナメんなっ!」

「なんと!?」

 

 霊夢は白蓮の攻撃をお祓い棒でいなし、反撃の蹴りを白蓮に叩きつけたのだ。

 後方から弾幕に徹するかと思っていたがとんでもない。むしろ天子以上に体術は研ぎ澄まされている。

 これにはたまらぬと一輪と並んで距離を取った二人を見て、霊夢はやれやれと肩をすくめた。

 

「ったく、人里の新たな希望となるために私たちを下そうなんていい度胸してんじゃない。異変解決は博麗の巫女の役目。抹香臭い仏教徒たちは引っ込んでなさい」

「はいそうですかと譲れるならここにいませんよ。それに誰が異変を解決しても問題はない。違いますか?」

「大間違いね。新しい希望は私率いる神道よ!!」

「え、それ初耳なんだけど」

 

 そんなことを考えていたのかこの巫女は、と天子は呆れた顔になる。

 白蓮はそれを仲間割れと読み取ったのか、天子の方へ顔を向けてきた。

 

「天子様はどうでしょう。天人といえば六道の住人。我々の勝利に価値を見出してはいただけないでしょうか」

「理念に理解は示すわ。私の困った相方が変な野望を燃やしていることも認めましょう。けど――曲がりなりにも守護者の代理として、負けは許されないわ」

 

 楓はアテにできないし、と言うと白蓮の顔が同情に満ちたものに変わった。はて、どこかで会っているのだろうか。

 ともあれ会話も終わり、ここからはまた弾幕ごっこの再開――するかに思われた状況が第三者の介入によって再び変わる。

 

「控え控えぃ! ここにおられる者こそは人界の救世主! 豊聡耳神子様のお成りであるぞ!」

「さて、人里に手を出すつもりはありませんでしたが、事情が事情。人々を次の位階へ押し上げるのは我らの信奉する道教に他なりません」

 

 現れたのは独自の仙界――神霊廟を作り上げて暮らしている尸解仙の二人。

 派手な外套を羽織り、細身の宝剣と思しきものを携えた少女と、彼女を称えるように後ろへ控える烏帽子をかぶった少女が現れたのだ。

 

 面倒な相手が増えたと霊夢は舌打ちをし、神子の方へ口を開いた。

 

「あんた、阿求を怒らせたんじゃなかったっけ? 聞いてるわよ、神霊廟の尸解仙」

「実に恐ろしい出来事でした。もはやありもしない寿命が縮まる思いです。ですが我々に人里を害する意思はありません。むしろ人里を助けるつもりで来たのです」

「盗っ人猛々しいわね。どうせそこの連中と同じで新しい拠り所を自分のところにしようって魂胆でしょう」

「それは否定しませんが、別の目的もありますよ」

 

 そう言って意味深に笑う神子に霊夢と天子のみならず、白蓮たちも訝しげな視線を向けるが、彼女はそれ以上を語ることはなかった。

 

「ここに約束しましょう。我らの勝負で誰が勝っても、私は知っていることを全て話しましょう。我々も人里の異変をいち早く解決したい思いは同じです」

 

 無論、理想は我々の勝利ですが、と言った後は語ることもないと戦闘態勢を取る神子と布都。

 

「……構えなさい、天子。キツイ戦いになるわよ」

「言われずとも」

 

 状況は完全な三つ巴。そして命蓮寺の面々も、神霊廟の面々も決して侮れる力量ではない。

 まして霊夢一人だったら途中で霊力が尽きていただろう。

 この時ばかりは隣の天人が頼もしい。霊夢は感謝を顔に出すことなくお祓い棒を握り締める。

 

 そうして三者の間で緊張が高まり、弾けて勝負が始まる瞬間――白蓮と神子に襲いかかる二つの影があった。

 

「むっ!」

「きゃっ!」

 

 二人が攻撃を防ぐと、影は三者がにらみ合う中心に降り立つ。

 

「防がれたか。まあ目立つためには正面から降すのが一番だから本気でもないが」

「私たちなりの宣戦布告としておきましょう。一身上の都合により私たちもこの異変、参加します」

 

 誰あろう、その影とは先ほど人里を出ていった楓とさとりの二人組だった。

 拳を構える楓と、その後ろで意味ありげに微笑んで第三の目を持つさとりが並び立っている。

 

「なんで戻ってきたのよ!?」

「――目立つためだ」

「はぁ!?」

 

 悲鳴のような天子の叫びに大真面目な顔で応えたのは楓だった。

 そして発言の内容が信じられず、思わず全員が楓の顔をまじまじと見てしまう。

 しかし楓は正気かこいつ、という衆目の視線に全く怯むことなく話を続けていく。

 

「霊夢たちに手出しはしないから好きに動け。それで異変は終わるだろう」

「え? あ、うん、それは良いけど……いやあんた! 何してんのよ本当に!?」

「今言ったぞ。――目立つためだ」

 

 返す言葉もなく絶句する霊夢を気にせず、楓たちは自分たちの目的を語る。

 

「こいつの妹はかなり難儀な性質でな。千里眼をもってしても容易には見つけられない」

「なので私たちは考え、一つの結論に至りました。――私たちが目立って向こうに見つけてもらえば良い、と」

 

 そして相手もすでに決めている。

 楓は白蓮たちを。さとりは神子たちを指差して叫んだ。

 

 

 

「なので俺たちの目的のため、ここで倒されてくれ!」

「私たちの願いのため、ここで倒れてください!」

 

 

 

 大真面目な顔でアホみたいなことを叫んだ二人に、霊夢たちは異口同音にツッコミを入れるのであった。

 

 

 

 

 

こいつらバカだ――――――っ!?




今回の異変での主要キャラのスタンスはだいたいこんな感じです。

霊夢、天子組:結構真面目に異変解決に取り組んでる。神道云々もあわよくば程度。
白蓮、一輪組:ここで勝って仏教を広められる千載一遇のチャンスなので狙ってる。
神子、布都組:心綺楼異変の原因も解決策もわかっているので、楓たちが余計なことを知る前に解決してしまおうという魂胆。道教部分は他の組の言い分に合わせて使っているだけでさほど本気ではない。

楓、さとり組:霊夢に任せれば異変は解決すると思ってるのでこいし探しに注力中。しかしこいしを見つけるのは至難の業であり、発想を逆転してこっちが目立って向こうに見つけてもらえば良いんじゃね? という意見が一致し、上記三組に横殴り。頭の良いバカがタッグを組んでいる。なおこれでも異変の核心には一番近い。

こころ:あの二人騙しやがったな!! 見ろ、これが怒りの表情!!(鬼のお面を付けて人里爆走中)



次回はどうなるか? 察してください(^ρ^)
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