阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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いまだかつてない異変解決(大体ギャグ方面)

一番しょうもない理由で異変参加し、一番アホなこと言ってる組が一番強いという他の面々にとっての悪夢。

100話過ぎてから急速に私人としてのキャラを立て始める主人公がいるらしい。


いまだかつてない異変解決

 三つ巴の戦いの中心に乱入してきた楓とさとりの二人は、一斉にバカ呼ばわりされたことに心外な顔をする。

 

「これが最善では?」

「全くです。無意識を揺蕩うこいしを見つけるという点においてこれ以上の方法などないでしょう」

「この状況下でそれをやるのがバカだって言ってんのよ」

 

 霊夢のツッコミは二人とも聞き流す。

 そして衰えない戦意を持って白蓮と神子を見据えた。

 

「誰が、どんな目的で異変解決に参加しても問題ないんだ。こっちはこっちの事情で動く。それ以上の意味はない」

「その通り。そしてそちらもそちらの事情で動く。互いの事情がぶつかるのであれば潰すしかないでしょう?」

 

 なぜこんな時に限って息が合うのだ。

 楓とさとりの仲の悪さを多少なりとも見ていた天子と白蓮は頭痛を覚えるが、言っていることはあながち間違いでもない。

 結局、この場にいる面々とて各々の目的を叶えるために動いているのだ。

 楓たちもその例外ではない。ただ目的のための行動が思いの外バカっぽいだけで。

 

 そして一番厄介なことに――この場でどの組が最も強いのかを考えると、間違いなく楓とさとりの組になるのだ。

 人里で流血沙汰は不味いと思っているのか、楓に剣を抜く様子は見えないが素手でも十二分に脅威だろう。

 さとりは人の心を読んでトラウマを召喚し、時にそれらを己に憑依させることで遠近双方に対応した動きができる。

 

 状況を把握した神子は自分たちから視線を動かさない楓とさとりを前に相方の布都へ小声で話す。

 

「……布都、博麗の巫女たちをお願いできますか?」

「む、太子様? しかし彼らは――」

「私が命蓮寺の面々と手を組んで仕掛けます」

 

 白蓮と組んで戦えば戦いになる。それが神子の導き出した楓とさとりへの対処法だった。

 

「彼女らと手を組む!? し、しかしそれは――」

「問答する時間はありません。呉越同舟なのは理解していますが、そうでもしないと戦いにならない相手です。それは布都もわかっているでしょう?」

「むしろあやつがあの時と同じなら我ら全員総掛かりでも怪しいと思いますが……、敬愛する太子様のお言葉! 我が見事博麗の巫女を討ち果たしてみせましょうぞ!!」

 

 討っちゃ困りますよ? という言葉を言う前に布都は霊夢たちの方へ駆け出してしまう。

 そして白蓮たちも同じ結論に至ったのだろう。見越し入道の妖怪を操る少女が布都と一緒のタイミングで霊夢たちの方へ向かっていた。

 その光景を見て神子は小さく笑う。仕える信仰こそ違えど、至る結論が同じところは気が合いそうである。

 

「――聖白蓮、手を組みましょう」

「異論なく。まずは私たちで目の前の暴威を払うとしましょう」

 

 白蓮は神子の申し出を二つ返事で了承し、神子の前に立つと楓に向けて構えを取る。

 

「暴威呼ばわりされてしまった。こっちは真面目にやっているというのに」

「あなたの顔が悪いんじゃないです? 大体どんな時も無感情無表情。これで話す言葉にはちゃんと感情が乗るのですから度し難い。そんな男が淡々と潰すなんて言ってきたらどっちが悪役かわかったものじゃないぐはぁっ!?」

「お前から先に倒しても良いんだぞ。ああ、目立つことに関しては安心しろ。力尽きたお前を振り回して武器の代わりに使ってやる」

『この人を武器にして同列扱いは嫌なんですけど!?』

 

 人と話している時は黙っているよう言い聞かせていた椿も嫌なのか、悲鳴が上がるが楓にしか聞こえないので無視。

 楓以外に聞こえていないため当然さとりにも聞こえておらず、さとりは殴られた頬を押さえて涙目になりながら白蓮を睨む。

 

「――いつか殺す」

 

 無論、事あるごとに自分を殴ってくる憎き相手への殺意は忘れずに。

 楓も嫌いな相手に殺意を向けられたところで何も思うことはないため、軽く肩をすくめて拳を握り直す。

 

「お前は神子をやれ。あいつは十中八九俺へのトラウマがある。それを使えば楽に戦えるだろう」

「他人にトラウマ刻み過ぎでは?」

「彼女に関しては不可抗力だと思ってる。こっちは白蓮と戦う。一分で終わらせる」

「おや遅いですね私は三十秒で終わらせましょう。お手伝いがいりますか?」

「……少し余裕をもたせただけだ。十秒あれば片付く」

「おっと失礼私も余裕をもたせていました。五秒で余裕です」

「一秒でぶっ飛ばした後はお前だ」

「奇遇ですね私も一秒で倒した後そっちを狙おうと思ってましたよ」

 

 顔を突き合わせて威嚇こそしないものの、互いに青筋を額に浮かべて並び立つ二人に白蓮は頭痛、神子は困惑を露わにする。

 

「……ところで聖白蓮、彼らは一体どういう関係なんです?」

「犬猿の仲と言いましょうか、嫌い合っている割に息の合う二人と言いましょうか……」

 

 子供じみた喧嘩をしている二人を見て微妙に肩の力が抜けてしまうが、すぐに引き締める。

 彼らが最も強い組なのは間違いないのだ。それを忘れたら一瞬で刈り取られてしまう。

 白蓮と神子の空気が変わったことを察したのか、楓とさとりは瞬時に意識を切り替えて互いの相手を見据え、それぞれ宙を蹴るのであった。

 

「……霊夢、私たち蚊帳の外だけどどうする?」

「向かってくる奴ら倒したらお茶でも飲んでましょ。私の勘があいつら放置した方が良い感じに終わるって言ってるし」

「勘だけ?」

「正直この空気に付き合いたくない。踊る阿呆になんとやらとは言うけどこれは嫌」

「あー、うん。……相方って言ったのは私だし付き合ってあげる」

 

 なお、霊夢たちは向かってくる布都と一輪の相手をしつつ、それが終わったら全部楓に押し付けようと視線で会話を交わすのであった。

 

 

 

 

 

 拳と拳がぶつかる度に発生する轟音が連続し、観衆の耳目を震わせる。

 楓と白蓮は目にも留まらぬ速度で動き、右で聞こえた音が次の瞬間には左に移動しているほど。

 白蓮の魔法で強化された拳に対し、楓は半妖の身体能力に物を言わせた拳で対抗している。

 

「っ、素晴らしい体術ですね……!」

「そちらもな!!」

 

 楓は胴体を狙う拳を交差させた腕で受け止め、空中で体を垂直にひねり、反撃の踵落としを叩き込む。

 しかし足に返ってきた感触は防いだ腕のものではなく、より硬質な何かに弾かれる。

 それが魔力による膜を結界のようにして防いだものだと看破するが、すでに足が掴み取られていた。

 

「はぁっ!!」

「っと!」

 

 地面へ向かって叩きつけようとする白蓮だが、足が掴まれた瞬間に短距離の転移を発動し、楓は白蓮の手から逃れる。

 投げるために両手を使った白蓮の背後に現れた楓は背中に拳を叩き込むが、またも硬質な魔力に弾かれてしまう。

 事実、これまでは楓がほぼ一方的に打ち込んでいるにも関わらず、白蓮の体に目立った消耗はない。

 

「厄介な」

「守りを固めなければ一瞬で崩されそうですからね……!」

 

 刀を使えば白蓮の体ごと斬ることは容易だ。

 しかしそれを人里の上空でやってしまっては異変どころの話ではなくなってしまう。

 いくら彼女が魔女で、上半身と下半身にぶった切ったところで治ると言っても、それをやったら不味いのは楓にもわかっていた。

 けれどそうなると素手で戦わざるを得なくなり、素手だと彼女の防御を貫くのに手間がかかる。楓自身の決定打不足はどこまでもつきまとってくるらしい。

 

「来ないならこちらから行きます! いざ、南無三!!」

 

 どうしたものかという思案は一瞬だった。攻めあぐねた楓に好機を見た白蓮が猛攻を仕掛けてきたためである。

 魔力の白い燐光を漂わせ、何よりも当てることを重視した拳打の嵐。

 

(魔界で見た白蓮の攻撃は――当てた後に内部で魔力を破裂させるもの!)

 

 無策で受ければ半妖の肉体とて危ない。

 眼前に迫る拳を回避し、避けた先を予測したか吸い込まれるように放たれた胸めがけての蹴りを手にまとわせた風で軌道を変えて受け流す。

 

「なんのっ!」

 

 白蓮は怯むことなく魔力の塊を足元に作り、それを蹴って勢いをつけたサマーソルトが楓の顎を狙う。

 空中故に地上よりも体の動きで無理ができる。楓は僅かに目を見開いた後、自分の体を風で後ろに飛ばして攻撃を避けた。

 

「やはり体術だけではありませんね。術法も堪能とは」

「剣に比べれば余技だが、ある程度まではすぐに覚えられるから手札の拡充に便利でな」

「それは楓殿だけだと思いますよ……?」

 

 少なくとも大抵の人間は見様見真似ですぐに術を覚えたりしない。

 割と愉快な性格をしていると今日一日で思い知ったが、それはそれとして戦いの才能はピカイチだ。

 

「人に見せる戦いというのも今日が初めてになるし……そうだな。少し、見栄えというのを意識してみよう」

 

 楓がそう言うと同時、双手が炎に包まれる。

 

「ここからは少し大振りにやる。――直撃だけは避けろよ?」

「っ!?」

 

 軽く腕を振るった楓の動きに対し、白蓮が選んだのはその場からの移動だった。

 ただし後ろでも前でも左右でもない。地面ギリギリまで落ちることで半ば観衆に紛れるようにしたのだ。

 やや卑怯な考え方ではあるが、そうすれば広範囲の攻撃はできないと読んでのこと。

 それは一面で正しく、一面で間違いでもあった。

 白蓮は前に飛び、術を発動させる前の楓を攻撃すべきだったのだ。

 

 

 

 ――白蓮が地上から見上げた空はほんの僅かな間、楓の放った炎で埋め尽くされることになったのだから。

 

 

 

「な――」

 

 あれほどの広域に一瞬で炎を撃てるのか。そして何か悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが気のせいか。

 

「む、地上か」

 

 だが白蓮には驚愕する暇すら与えられない。地上に逃げたことをすぐに察知した楓が接近して白兵戦を仕掛けてくる。

 術による炎と風をまとわせ、まともに受けることすら敵わない連撃。

 白蓮は後ろに下がりつつ、魔力の消耗を度外視して全力の防御を行う。

 

(何が余技ですか! あの時も剣ばかり使っていたから誤認していた! この人、術を使わせても強い!)

 

 剣、拳、術、どれを取っても一流以上。当て方次第では白蓮をノックアウトすることも可能。

 もともと強い人だと思っていたが、ここまで強いのは想定外だった。

 無気力とはいえ、頭上で人を遥かに超えた力量の存在が暴れているのに、人里の住人が安心しているわけである。

 最終的には楓がどうにかする。そんな信頼が根底にあるのだろう。

 ……まあ今回は彼が率先して物事を混沌に叩き落としているのだが。

 チラホラと見える人里で無気力化の影響を受けていない若者たちはどこか納得した顔で楓を見ているので、付き合いの長い面々は彼の素についてある程度察していたのかもしれない。閑話休題。

 

「せぇ、のっ!!」

 

 地を割る踏み込みと同時に放たれた楓の双掌が魔力の壁を叩き、強引にひび割れを作る。

 僅かでも穴が開けばそれで良いとばかりに炎が生まれ、壁の向こうにいた白蓮に牙をむく。

 

「甘く、見ないでくださいっ!」

 

 白蓮が行ったのは防戦ではなく反撃。

 懐から取り出した独鈷杵に魔力を通し、光の刀身を作り上げて炎を薙ぎ払い、そのまま前に飛び出してくる。

 

「っ!」

「初見故いささか驚きはしましたが、対処は可能。魔道に堕ちたといえ――いえ、魔道に堕ちたからこそ得られた力もある。今からお見せしましょう!!」

 

 下からの切り上げを上空に飛んで回避し、間髪入れずに追いすがってくる白蓮を視界に収めながら楓はほんの少しだけ口元を緩める。

 これが実戦なら初手から剣を抜いてさっさと無力化していたが、遊びの形式にすることで相手の手札を存分に見ることができる。

 白蓮の体術と魔法を独自に組み合わせた戦い方は興味深く、学べることが多くある。

 たまには遊ぶのも悪くない。そう思いながら楓は光の剣を握る白蓮を迎え撃つのであった。

 

 

 

 

 

「さて、あなたの心は……なるほど、やんちゃな部下を持つと大変ですね?」

「かくいうあなたの欲は妹を探すことと、彼への嫌悪。……いえ、本当に嫌っていたんですね」

 

 妖怪らしく口元をいびつに歪めたさとりの言葉に対し、神子もまた欲の声を聞くものとしての返答をする。

 するとさとりは露骨に顔をしかめ、不愉快だと言わんばかりに息を吐く。

 

「は? 嫌い以外の何に見えたって言うんですか」

「いやあ、世の中には嫌よ嫌よも好きのうちという言葉があったりしてですね」

「普通に大嫌いですよ。あいつも同じです」

「ではどうして一緒にいるのですか?」

「能力は認めています。業腹極まりないですが、彼ほど幻想郷の情勢に詳しい輩はいないでしょう」

「相手が自分を嫌っていること。そして相手の能力を認めていることには疑いを持たず、と……」

「心を読むことは良いですが、読まれるのは思いの外腹が立ちますね。私を分析したいんです?」

「あはは、そう怒らないでください。まだこの能力自体、目覚めて間もないのです。かつては人間だったもので」

 

 神子の言葉にさとりは訝しげに眉をひそめるが、それ以上の思考はしなかった。

 ここで時間を潰して楓より遅く相手を倒した場合、何を言われるかわかったものじゃない。

 自分が楓より早かったら煽り倒すつもりだし、楓も同じだろう。

 

「もう問答にも飽きました。そろそろ始めましょうか」

「よろしい。強い者が正義と言うならば、話は簡単だ!」

「精一杯抗いなさい。まあ、無駄だと思いますがね?」

 

 さとりの言葉と同時、さとりの傍らに一人の幻が現れる。

 幻は刀を抜くことなく、しかし油断なく腰の刀に手を添えていつでも抜ける体勢で身構えていた。

 

「うふふ、あなたが見たあいつはさぞ恐ろしかったでしょう。私も骨身に沁みていますからね。だからこそ――この上ないトラウマとして機能します」

 

 さとりが指を一本動かすだけでトラウマとして形作られた楓の幻影は動き出し、神子へ向かって一直線に進む。

 

(一歩進んでくるだけで肌が粟立つ。本能が恐怖を訴える。細胞が死を覚悟する。なるほど、これがトラウマですか)

 

 神子はさとりの欲を読み取り、そこから自分に向かってくる楓の幻影の性質を割り出した。

 心の傷。彼女が最も恐れ、嫌悪したものをさとりは読み取り、形として襲わせている。

 だが欠点もある。さとりが再現したものはあくまで再現であり、実のところ再現度という点ではさほど高くない。

 本当にあの時の楓が再現されたなら、彼はこちらに歩み寄る素振りすら見せずにその場の抜刀だけで全て終わらせられる。

 つまり――勝負になる。そう結論づけた神子は笏で楓を指し、迎撃の姿勢を取った。

 

「良い機会です。為政者に弱みなどあってはならない。ここで乗り越えてみせましょう!!」

 

 眼前まで迫りきた楓の手が閃き、尸解仙の動体視力をもってしても目視できない速度の抜刀が迫る。

 神子は手が霞んだ瞬間に身を包む外套を身体の前に動かし、仙術で外套を強化する。

 すると布の外套は金剛石にも勝る強度を得て、幻の放った抜刀は滑るように外套の上を撫でるに留める。

 

 本人だったら問答無用で外套ごと斬られていた。それを確信した神子の顔に薄い笑みが浮かぶ。

 そして笏による反撃を見舞うと楓の幻影は防御する素振りも見せず直撃し、あっけなく体勢を崩す。

 

「好機!」

「私が許すとでもがああぁぁぁっ!?」

 

 追撃を行おうとしたところ、いつの間にか頭上に陣取っていたさとりが弾幕を浴びせようとする。

 外套を翻して当たるものだけを防ごうとしたところ、さとりのいた場所一帯を炎が薙ぎ払い、さとりはそれに飲み込まれてしまう。

 それ自体には驚いたものの、神子の身体は精妙に動き、精彩を欠いていく楓の幻影に連撃を浴びせていく。

 

「これで……!」

 

 体勢を崩したところにいくらかの攻撃を加えた後、大きく振りかぶった笏を思い切り叩きつける。

 幻影は攻撃した感触が薄いが、それでも大きく吹き飛ばされ、地上へ到達する前にはらりと消えてしまう。文字通り夢幻の如く。

 

 いささか焦げた様子のさとりは消えたトラウマを見下ろして、忌々しいと舌打ちを隠さず神子と同じ高度まで降りてくる。

 

「全く、実物もトラウマも役に立ちませんね。いえ、邪魔をしてくるので実物の方が邪魔なぐらいですが」

「……あれは彼がやったものなのです?」

「あいつ以外にいないでしょう」

 

 一切疑う様子のない断言に神子はまたも微妙な顔になるが、すぐに意識を切り替えて口を開く。

 

「トラウマは心の傷。つまり言い換えれば――私がトラウマを克服できればあなたの作り出すものに必ず勝利できる」

「……正解です。面白くありませんね。昔の人間たちは心の傷を暴くと脆く、どれほどの猪武者と恐れられた人物でさえ、胎児のように丸まって許しを請うたというのに」

「為政者は弱みを見せてはならない。心身ともに、です」

「……その覚悟にだけは敬意を評しましょう。トラウマを乗り越えられる人間は好きではありませんが、嫌いでもありません」

 

 さとりは少しだけ神子のことを認めた様子で目尻を下げ、しかし油断なく第三の目を妖しく光らせた。

 

「まだ勝利を譲る気はない、ということですか」

「ええまあ、確かにトラウマは乗り越えられ、私に読める心であなたを打倒できるものはなくなってしまった。ですが勘違いしないでいただきたい。私があいつを下すために編み出した力は別です」

 

 そう言ってさとりはもう一度トラウマを召喚する。

 それは神子の持つものと変わらず楓の幻影。しかしその迫力は先に見せたものとは比べ物にならない。

 

「……っ!」

「これは私のトラウマ(・・・・・・)。憎きあの男に痛めつけられた当時のもの」

「それではあなたはトラウマを克服できていない、と?」

 

 神子の言葉に返ってきたのは嘲笑だった。

 

「まさか。私があの男に屈することを良しとするわけないでしょう」

「ではなぜこれほどの力が……」

「あなたが語ったことですよ。あなたにとってその存在がどれほど強大か。それによって呼び出せるトラウマの強弱が決まる」

 

 神子が大したことないと思えば弱くなり、勝ち目がないと思えば強くなる。それがさとりの召喚するトラウマの本質。

 ではさとりが呼び出したさとり自身のトラウマについてはどうなのかと神子は欲の声に集中し、すぐに答えに到達する。

 

「――成程。この程度ではない(・・・・・・・・)と己が定めたのですか」

「やはり心を読まれるのは嫌いです。もう終わらせましょう」

 

 さとりは召喚したトラウマと自身を重ね合わせ、運動が苦手そうな少女の容貌からはとても考えられない堂に入った構えを取った。

 

「あまり長時間使いたい技ではないので、瞬殺されても恨まないでくださいね?」

「それを聞いては、是が非でも長期戦に持ち込ませたくなりますね……!」

 

 笏を構えた神子が瞬きした時、さとりの蹴りが神子の腹部に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 白蓮は守りを考えない猛攻を行うことで楓との攻防を成立させていた。

 光の刀身を振るい、時に独鈷杵を投げつけ、合間に当然のごとく拳打も差し込む。

 距離を取る選択はできない。そんなことをすれば術の餌食になるだけだ。

 

 しかし楓はそんな白蓮の猛攻すら涼しい顔で防ぎ、時に受け流し、時に風で強引に技の軌道を変えてしまう。

 何かを観察しているような戦い方であり、同時に己の何かを試している戦い方だった。

 その証拠に術の精度が天井知らずに向上している。

 最初は大雑把に軌道を変えることしかできなかった風が、今では彼の皮一枚をかすめて外し、大振りに避ける隙を極限まで削っていた。

 

「くぅっ!」

「――埒が明かないな」

 

 諦めることなく戦っていた白蓮に楓はひとりごち、光の刀身を後ろに飛んで避けると腰の刀に手を添える。

 

「っ!?」

 

 抜刀が来る。そう判断した白蓮は咄嗟に飛び上がる選択を選び、すぐにそれが下策であると悟る。

 楓の口元にはしてやったりといった笑みが浮かんでおり、すでに刀からは手を離していたのだ。

 

「吹っ飛べ!」

「きゃぁっ!?」

 

 叫びと同時、凄まじい突風が白蓮を襲う。ダメージを与えることではなく、単純に吹き飛ばすためのもの。

 これにどんな意図があるのか。白蓮は魔法で急制動をかけながらも後ろに飛ばされ――背中に衝撃が走る。

 

「えっ?」

「しまっ!?」

 

 思わず振り返ると、そこには白蓮と同じく驚愕に染まる神子の姿があり、二人は一つの場所に固められたのだと思い至る。

 そして地上では楓が。上空ではさとりが各々の両手に術を作っており――

 

『くたばれ!!』

 

 地上からは雷をもまとった炎雷が白蓮を飲み込まんと迫り、上空からはさとりのトラウマが生み出した無尽の斬撃が神子を食らい尽くさんと迫る。

 

「くぅっ!」

 

 二人はなりふり構わなかった。互いの足を同時に蹴り出すことで勢いを付け、強引に両者の術の範囲から逃れる。

 しかし二つの術は勢いを失うことなく互いの放ったものと絡み合い、拮抗する。

 拮抗する。言葉通り、楓とさとりの術が一進一退に寄せては返しているのだ。

 

 どうにか難を逃れた白蓮と神子は呆気にとられ、しかしここまでのやり取りでなんとなく想像できてしまった二人の関係性に頭を抱える。

 

「ぐ、うううぅぅぅ……!」

「狙っている、相手が違うでしょう……! 早く術を消しなさいバカ!!」

「お前が先に解除しろバカ!!」

「バカと言う方がバカなんですよそれにさっき私を燃やしたこと許してませんからね!!」

「見た覚えがない!!」

「千里眼持ちがそんなごまかし方できると思ったか!!」

「そもそも許されようと思ってない。お前が燃やされるのは爽快だった」

「ここで死ね」

 

 絶対に殺すという鋼の決意を感じさせるさとりの言葉を聞いて、白蓮と神子は顔を見合わせる。

 これひょっとして今のうちに横合いから殴れば勝てるのではないか? そんな気がしてきたのだ。

 特に言葉は必要なかった。どちらからともなくうなずき合うと二人はそれぞれの相手にそっと近づき――

 

 

 

「やっと見つけたぞ貴様らァ!! 見ろ! これは怒りを通り越した憤怒の感情!!」

 

 

 

 少女の甲高い、しかしドスの利いた声が周囲に響き渡った。

 白蓮と神子は弾かれるように。すでに布都、一輪との戦いを制し、しかしそこから暇だったので敗北から起き上がった布都たちも誘ってお茶を飲みながら観戦していた霊夢たちもそちらへ視線を向ける。

 

 楓とさとりも不審に思ったのだろう。示し合わせたのかと思うほど全く同時に術を解除すると、少女の方を見た。

 全員の視線の先には青白く光る薙刀を携え、鬼の仮面を付けた無表情な少女がぷんすかと地団駄を踏みながら楓たちに怒っている姿があった。

 

「私が招いてしまったことだからどうにかしようと頑張っているというのに、よくも嘘を教えたな貴様ら! お前が教えてくれた方向にはお墓があるだけじゃないか!!」

「……あの時のやつか」

 

 よりにもよってこのタイミングでバレるとは。やはり横着せず霊夢に押し付けていれば良かったかと楓は僅かに後悔する。

 そんな彼をよそに神子は興味深そうに少女を眺め、合点がいったと一人うなずく。

 

「あれには見覚えがあります。秦河勝への贈呈に私自らが作った仮面から変性した付喪神――面霊気の秦こころ。希望の面が失われたことと関連していますか」

「希望の面?」

「面霊気とはあらゆる感情を司るお面を使い、己を表現する付喪神。普段なら全ての感情が均衡を保ち、動かない妖怪なのですが、やはり急に活動を始めたことは無関係ではありませんね」

 

 神子が核心に近い情報を得ていたのはこれが原因である。

 自身の所有していた付喪神が突如活動を開始したのだ。何かが起きていると判断し、人里へ向かうことで無気力化――希望が失われていることも読み取っていた。

 しかしこころはそんなこと知ったこっちゃないと、ぐりんと首を動かして真っ直ぐに神子と白蓮を睨んだ。

 

「おいお前たち! 特にそこの笏もった女は私の製作者だな!!」

「は、はい?」

「手伝え!! あの二人をこてんぱんにしないと気が済まん!!」

「いえあの、私はおそらくあなたが希望の面を紛失したから今回の異変が起きて、あなたはそれを解決しようと希望の面を探す、ないし希望を集めて新しいお面を作るつもりだったと推測していたのですが」

そんなことはどうでもいい!!

「えぇ……」

 

 神子は引いた。あの二人、一体何をしたらここまでこころを怒らせることができるのか。

 好奇心を覚えた神子はこころの欲を聞いてみることにした。

 

(ふむふむ、紛失した希望の面を探して歩き、あわよくば自身が希望となれるよう最強の存在を目指していたが、一人ではどうにもできず途方に暮れていたところで、ようやく会えた人に藁にもすがる思いで聞いてみたら嘘を教えられた。……それは怒りたくもなりますね)

 

「……仕方がありません。聖白蓮、構えなさい」

「え、私もですか!?」

「手を組もうと言ったじゃありませんか。こういう時こそ力を貸してもらわないと」

「これに力を貸すのは少し違うのでは!?」

「まあまあそう言わず。それに――三人がかりなら勝てる可能性も上がるでしょう」

「それは……」

 

 気勢が削がれた白蓮に神子が畳み掛けていく。

 

「私たちだけでも厳しい戦いです。単独では良くて一割の半分、悪くて無理と言ったところ。しかし――私がこれを言うのもあれですが、負けるのは悔しくありませんか?」

「……ずるい言い方ですね、それは」

「為政者なので」

「全くもう。……今日だけは踊る阿呆として最後まで付き合いますよ!」

 

 神子、白蓮はこころの隣について再び戦意を燃やし始める。

 そして二人に挟まれたこころは高らかに薙刀を掲げると、楓とさとりを指す。

 

「――行くぞぉ! こいつらをぶっ飛ばせぇ!!」

 

 かくして、後に心綺楼異変と語られる異変最後の舞台がかつてないほどしょうもない理由で開かれるのであった。

 

 

 

 

 

「なんか敵が増えた」

「増えましたね。どうします?」

「返り討ちにした方が目立つ」

「そうしますか」

「そうしよう」

 

 なお、楓たちはまだ目立つことを目的としていた。




白蓮と神子戦でした。
どちらも他の大妖怪と比較しても劣らない実力はありますが、楓がもうその領域相手でも単体なら手加減して勝てる領域に至ってしまっています。

さとりんはトラウマ召喚して殴りかからせ、相手がトラウマを克服したら自分の持つトラウマを召喚して絶望に突き落とすスタイル。
特に自分のトラウマ(楓)はかなり高く評価しているので非常に強いです。
なんだかんだ相手の能力に対してはお互い評価しています。それ以外の全てが嫌いですが。

Q.楓のあの姿、人里的にどうなの?
A,楓はああいうところあるよ。第一次寺子屋戦争の時から同年代は大体知ってる(少年A、B)

第一次寺子屋戦争が何か? どこかのまえがきかあとがきでのせます()



次回はこころちゃんトリオとの戦闘とこいしちゃんがぼちぼち登場します。なお希望の面は誰がもっているか。
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