阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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夜への挑戦

「んぉ? 図書館の魔女様がいないなんて今日は雨どころか槍でも降るのかこりゃ?」

 

 霧雨魔理沙がいつものように半泣きの門番を飛び越え、紅魔館の図書館にやってきた時、彼女を出迎えたのはむっつりとした図書館の主の声ではなく、静かにページを捲る音だけだった。

 視線を動かしてもパチュリーの姿はない。ただ、これまで主が腰掛けていた場所に今は宝石の羽を持つ吸血鬼が佇んでいる。

 吸血鬼の少女――フランドールは本から顔を上げると魔理沙の来訪を確認し、その小さな口を開いた。

 

「今はパチュリーいないよ。特別なお散歩だって」

「散歩ぉ? あいつ、そんな殊勝なことやってたのか」

「病気持ちだもの。主治医の言うことはきちんと聞くようにしているんですって」

 

 フランドールが澄ました様子で言い放ち、それを聞きながら魔理沙は我が物顔で手近な椅子に座る。

 

「それでフランは何してんだ?」

「見ればわかるでしょう。本を読んでるの」

「何の本読んでんだよ」

「小説。人と人が出会って色々あって結ばれる本」

「へえ」

 

 それはつまり恋愛本と呼ばれる類のものであることに、魔理沙は目を瞬かせる。

 このフランドールという少女、落ち着いた性格と澄ました様子に違わず、読む本は魔理沙以上に高度な魔術書だったり、難解な哲学書を読んでいることが多いのだ。

 その彼女が軟派な恋愛本を読むとは珍しい。

 

「やっぱ今日は槍が降るかもな」

「なにか言った?」

「お前が普段は読まない本を読んでいるって言ったのさ。一体全体何でだ?」

「興味を持ったからよ。ねえ魔理沙――あなたは誰かを好きになったことってある?」

「へぇぁ!?」

 

 いきなり飛んできた質問に思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

 恋愛本を読んでいたフランドールからそんな質問が飛んできたので、話の流れからして気になる異性という意味で受け取ってしまったのだ。

 無論、魔理沙の知り合いに異性の友人はそう多くない。霖之助はどちらかと言えば家族の枠である。

 強いて挙げるなら寺子屋時代の友達や、人里の守護者である少年ぐらいだが――

 

「――ないな。誰かを男として気にしたことなんてないぜ」

 

 冷静になった。彼らが気の良い連中であることは否定しないが、それとこれは別問題だ。

 しかしフランドールの質問はそういった意図ではなかったらしく、きょとんとした後で口元を嫌らしく歪めた。

 

「私は家族としての好きも含めていたつもりだったのだけれど……あれ? 魔理沙、誰か別の人のことでも考えた?」

「そっちかよ。というかお子様が茶化すんじゃない。けど、そっちの意味ならまああるだろうな。親父とか、香霖とか、自警団の連中とか」

「その好きってどうやって表してるの? この本だとよくわからなくて」

 

 すっかり興味を失った様子でフランドールは持っていた本を放り投げる。

 地面に落ちるはずのそれはふわりと浮かび上がると、もともと入っていた書架に自ら納まっていく。図書館の主は本が床に落ちることも我慢ならないらしい。

 

「よくわからない?」

「キスとか、肌に触れることで表してるの。魔理沙はどう?」

「いやそれと一緒にされてもな……」

 

 だいぶ刺激の強い恋愛本を読んでいたようだ。思わず想像してしまった魔理沙はにわかに熱を持った頬を隠すようにとんがり帽子を目深にしながら、浮ついた心で言葉を選ぶ。

 

「まあ、普通に接するんじゃないか? 別に好き好きーって行動に示さなければいけない理由なんてないし。私は気にしたことなかったぜ」

「ふーん……魔理沙も人間なんだね」

「……どういう意味だ?」

 

 フランドールのつぶやいた意味深な言葉に魔理沙は思わず聞き返すが、フランドールは普段通りの紅い目で魔理沙を射抜く。

 

「私には魔理沙の語ることも、この本に書いてあることも、どれもピンと来ないの。――そんなまだるっこしいことをするより、もっと直接的に愛を表現する方法はあるでしょう?」

「ふーん、そりゃどんな?」

「わからない? これ(・・)

 

 そう言ってフランドールは己の口を引っ張り、魔理沙に見えるように犬歯をのぞかせる。

 そして次の瞬間、魔理沙の身体はフランドールに抱きすくめられ、首筋に彼女の顔が埋まっていた。

 

「な……」

「こうして、噛み付いて。私が血を送ればそれでもう、魔理沙は人間の道を外れて私たちの仲間入り。それって最高に素晴らしい愛情表現だと思わない?」

 

 フランドールは艶めかしい動きで舌を出し、魔理沙の首筋をぺろりと舐めるとその身体を離して椅子に戻る。

 

「ひゃっ!?」

「あはは、可愛い声を上げるのね、そそられちゃう。でもやらないわ。前お姉さまに聞いたらお顔を真っ赤にして否定されたもの」

「あ、あー……」

 

 魔理沙は微妙ないたたまれなさを覚えながらも、フランドールの質問に答えようと頭を回転させる。

 

「まああいつの方が外で長いからな。やっぱり吸血鬼の作法とかも知ってるんじゃないか?」

「どうだろう。私はお姉さま以外の吸血鬼ってほとんど知らないし、お姉さまも他の吸血鬼を知っているかは怪しいのよね」

「そうなのか?」

「外に同族はいないのか、って聞いたらはぐらかされたもの。まあ実際のところはどうでもいいんだけど」

「どうでもいいのかよ」

「でもまあ、吸血鬼をいたずらに増やしちゃいけないってのはなんとなくわかるわ。もしさっき魔理沙が吸血鬼になっていたら、霊夢は私を殺すでしょう?」

「だな。おまけに私もドカンだ」

 

 仮に霊夢を退けたとしても、次は楓が来るかあるいは肩を揃えてやってくるだろう。

 そうなればフランドールとレミリアが並んだところで勝ち目が薄い。今や両者の実力はそれだけの領域に達している。

 と、そこまで話したフランドールは細いため息をつくと、椅子から立ち上がる。

 

「まあ良いわ。その辺りの疑問も全部、お姉さまは今度教えてくれるって言ったし。魔理沙、弾幕ごっこしましょう?」

「本を借りに来ただけなんだがな……まっ、変なこと言われた腹いせだ! ぶっ飛ばしてやるぜ!!」

 

 魔理沙がフランドールにミニ八卦炉を向けると同時、フランドールは後ろに飛び上がって時計の長針の杖を構えて弾幕ごっこに興じていくのであった。

 

 

 

 

 

「……ここで暮らすなんてゴメンだけど、こうして訪ねる分には悪くないわね。何もないがある、といえば多少は美しいかしら」

「俺も暮らすのはお断りだな。歌と踊り、桃ぐらいしか娯楽のない場所で何より御阿礼の子がいない」

「あーはいはい」

 

 遮るものが何一つなく、雲の上にあるが故に雲すらない蒼穹から降り注ぐ陽光に日陰の魔女――パチュリーは再びやってきた天界に思いっきり眩しそうに顔をしかめるものの、機嫌は悪くなさそうな様子だった。

 先日、彼女より主治医の位置を授かった少年、楓も彼女と同行――というより今回の散歩は彼が提案したものだ――している。

 

「毎日ここに行けと言うつもりはないが、肺の調子が悪ければここに来れば良い。少なくとも空気の良さだけは保証しよう」

「それだけは実感しているわ。じゃあどこか本を読めそうな場所を案内して頂戴。私は持ってきた本を読むから」

「運動にもなるから歩け」

「じゃあめぼしいものを案内して」

「そんなものはない」

 

 千里眼で見ても踊っている天人や酒を飲む天人、桃をかじる天人がいるくらいで何一つとして面白いものがない。

 その辺りを説明するとパチュリーは露骨に面白くなさそうに顔を歪める。

 

「……じゃあ適当な桃の木まで歩く。そこで私は本を読む。それで良いかしら」

「……それで妥協しよう。見るものがここまでないのは俺にも予想外だった」

 

 だったら案内、と言わんばかりに指差されたため、楓は千里眼で手近な桃の木を探して歩き始めた。

 その後ろをとてとてとパチュリーもついて歩きながら、不服そうに頬を膨らませる。

 

「空気が清いのは認めるわ。でも明る過ぎるのと、見るものが何もないのは大減点。総合しても10点ぐらいね」

「手厳しい」

「あの竹林が私好み、と言った理由がわかるものね。あちらは日陰が多いのも含めて80点をあげるわ」

「それはどうも」

 

 こいつ喘息を治す気があるのだろうか、と呆れた半目になる楓だった。

 ともあれ手頃な桃の木に到着すると、パチュリーは早速木にもたれかかると持ってきていた分厚い本を読み始めてしまう。

 

「この桃は仙桃でな。食べれば身体が丈夫になる効果がある」

「手がベタつくから嫌」

「ええい切ってやるから食え! こいつに効果があるのは天子で証明済みだ!」

 

 風の術で桃の皮を向き、小さく切って、パチュリーの口にも押し込んでやる。

 こんな使い方ばかり習熟してしまう、と内心でため息が零れそうになるが、戦闘用と言われたわけでもなし。

 使いやすいものを活用するのは何も悪いことではない、と誰にでもなく言い訳する楓だった。

 

「もごごっ!?」

 

 無手で押し込まれた桃に目を白黒させるパチュリーだったが、桃の味を知るとかえって目を輝かせる。

 ここの桃は味も一級品らしい、と母の椛が語っていた内容を思い出し、楓も一つかじる。

 

「ふむ……瑞々しくて甘くて香りも芳醇。かといってくどい甘さでもなく、舌に残り続けるエグみもない。飽きも来づらい、良い桃だな」

「楓、残りも頂戴。あ、風でお願い」

 

 鳥の雛のように口を開けて残りを催促するパチュリーに楓は困ったように笑い、残りの桃もパチュリーに与えるのであった。

 どれだけ美味しいとしても食べる量は変わらない。一つを食べれば十分なのか、パチュリーはそのまま読書に没頭し始めてしまう。

 内容をちらりと千里眼で見たところ気の遠くなる気配が一瞬だけあったため、魔術書の類らしい。

 魔術書への耐性は魔術的防御をどれだけ備えているかと、純粋な精神力がものを言う。楓の場合は阿礼狂いとしての精神力のため、後者に該当する。

 ちなみに楓は図書館へ通い始めた当初から魔術書の精神汚染を受けたことは一度もなかった。生まれた時より阿礼狂いの呪縛を受けているのだ。これ以上の汚染が入る余地がない。

 

「……面白くないわね。私の本には興味ないわけ?」

「チラッと見たが、俺に関わりのある内容じゃないだろ。俺にとって魔法は実利であって、探求するものではない」

「魔理沙と違い、あなたには才能がある。おそらく、極めようと思えば私やアリス以上に魔法の深奥を垣間見ることもできるというのに」

 

 魔理沙の弾幕ごっこの才能は突出している。それこそ博麗霊夢と比較しても遜色ないほどだ。

 しかし魔法に関して言えば努力家であるため、秀才ではあるが天才ではない。それがパチュリーの魔理沙に対する評価だった。

 より魔法の神秘を求めるのであれば、捨虫の魔法によって人間をやめることが求められるだろう。今はまだ良いが、いずれそういった壁に当たるとパチュリーは睨んでいる。

 しかし楓はそんなパチュリーの指摘に肩をすくめるだけで、特に不安や心配はしていなかった。

 

「その手の壁を乗り越えるのは魔理沙の専売特許だ。無理とか不可能とか言われたことを可能にするのは俺の役目じゃない」

「買ってるのね、あの子を」

「今までの姿を見てきている」

 

 楓がそう言うとパチュリーは何も言わず、再び本に目を落としてしまう。

 これ以上話したい様子にも見えなかったので、楓は二つ目の桃をかじりながら何をするでもなく空を見上げる。

 パチュリーを散歩に誘ったのは楓だが、目的は別にあるのだ。

 などと考えていると、羽衣の力でふわふわと漂うように浮かぶ少女がこちらにやってくる。

 

「おや旦那様。このような場所でお見かけするとは珍しい。私と一緒でサボりですか?」

「お前と一緒にするな。……いや待て、サボってたのかお前」

「これは失言でした。桃をあげるので見逃してください」

「いらん」

 

 羽衣をまとった少女――永江衣玖は相変わらず本気か冗談か全く読めない顔で桃を楓に勧めてくる。

 パチュリーは予期せぬ来客に一瞬だけ顔を上げるものの、少女の目的が楓であることを理解すると興味をなくしたように本へ視線を戻した。

 

「で、実際のところはどうなんだ。お前には一応仕事を頼んでいたはずだが」

「そちらは総領娘様に押し付け――もとい、お願いしました。旦那様からのお願いだと言ったら快く引き受けてもらえましたよ」

「その分は天子の稼ぎにさせてもらうぞ」

「まあ冗談はさておき、仕事は終わらせてあります。おっと今回の私は言うなればスーパー衣玖。普段からこんな速度で仕事ができるとは思わないことです」

「お前の言葉はいつもどれが冗談でどれが本気なのかさっぱりわからん」

「私はいつでも真面目ですよ。なぜか理解を得られたことは一度もありませんが」

 

 これまた本当なのか判断のつかないことを言って、衣玖は楓の隣に寄ってきた。

 

「で、話を戻しますが今回は総領様――要するに総領娘様のお父上に呼ばれて急遽戻っていたわけです」

「ふむ」

「驚きませんね」

「もともと報告するようには言い含められていただろう。天子の様子から見るに関係が良好とは思えんが、俺が知っているのは天子の側だけだ」

 

 この手の関係性は両者の言い分を聞いて初めて見えるものもある。片方だけを鵜呑みにするのは危険である、と父親から聞かされている。

 ……その後でなんで自分がそんなことをしなければならないのか、という諦観のため息も一緒だったが、そんな父の気持ちが今になってわかってきた楓だった。

 楓の年齢に見合わない考え方に衣玖は僅かに目を丸くするが、すぐにパチパチと感情のこもっていない拍手をし始める。

 

「お見事です。先日の異変で結構愉快な動きをしていたと伺っていたのでおや? ひょっとしてあなた私の側では? と思ったのですが違いましたね」

「お前と一緒にされるのは果てしなく心外なんだが」

 

 あの憎い覚り妖怪と良い仲であると噂されることぐらい嫌だ、と楓は渋い顔になる。

 

「まあまあ、良いではありませんか。あ、今度一緒に仕事サボりません?」

「サボらない。で、その報告がどうなったんだ」

「旦那様に興味を示しておられましたね。総領娘様からの話では守護者の家に転がり込んでいる、としか言いませんでしたので。その詳しい話を私に求められた形です」

「どこまで話した?」

「包み隠さず大体は話しましたよ。隠すものでもないでしょう?」

「隠そうとしてこじれるよりマシだと言いたいだけだ。賢明な判断だ」

 

 衣玖の言う通りなので、むしろ下手に隠さなかったことを褒めておく。

 しかしそうするとすぐ調子に乗る女が衣玖である。

 

「じゃあお給料上げてください」

「困らない分は渡してるつもりだぞ。何か入用でもあるのか?」

「いえ別に。増えていく貯金を見てニヤニヤするぐらいです」

「経済を停滞させるな」

「旦那様は私の妄言に根気よくお付き合いくださるので好きですよ」

「バカなこと言ってないで……いや妄言の自覚はあったのかお前」

 

 衣玖との付き合いもそこそこ長くなってきたが、未だに彼女が何を考えているのかさっぱりわからない楓だった。

 

「それで、俺に興味を示したことが何なんだ?」

「いえ、遠からずお呼ばれするかもしれませんとだけ。その時は私が旦那様を天界に誘う形になりますね」

「断ったら?」

「天界からいわれのない雷が落ちます」

「本当にいわれがない……。とはいえ、娘を預かっている身だ。呼ばれたら行くしかないか」

 

 普通の親として考えるなら、どこの馬の骨とも知れない男の家に転がり込んでいるなど気が気でないだろう。

 天子をどうにかできる輩が人里にいるのかは考えないでおく。こういう時に大事なのは事実ではなく感情である。

 

「意外に前向きですね。もっと嫌がるかと思っていました」

「どこかで来るだろうとは思っていた。下界に追放して定期的に報告以外何の音沙汰もなし、で済まされるような家なら天子もあそこまで反発しないはずだ」

 

 そこまで淡白な間柄だったのなら、天子も割り切っているはず。

 それをしないということは、おそらく何らかの感情を父親に対して持っていることが読み取れていた。彼女が話に出さないので、楓からも聞いていなかっただけで。

 

「親から見た天子の姿を聞けるのも貴重だ。その時が来たら行くと伝えてくれ」

「貴様のような男に娘はやれん! とか言われたら?」

「え、そういう話なのか? だったら違うと答えて――」

「あの子に魅力がないのか! と言われたら?」

「知るかと殴り倒す」

 

 そこまで面倒な相手に合わせる義理はなかった。楓の忍耐にも許容範囲は存在する。

 

「…………」

「おい待て何だその同士を求めるような手は」

「いえやはり旦那様はこっち側だなと思いまして。私、今すごい親近感抱いてます」

「俺は今すごい怒りを抱いているぞ」

 

 衣玖の同類扱いされるなど甚だ心外である。

 しかしそんな楓の怒りを全く意に介さず、衣玖は話すことも終わったと天界から戻ろうとしていた。

 

「では報告も終わりましたので私は戻ります。ああ――私は今の生活、結構気に入ってますので旦那様の方から終わらせないとだけ信じておきます」

「……その信用には応えよう。お前たちのいない仕事なんて考えたくもない」

 

 天子には守護者としての役目を、衣玖には煩わしい事務作業をかなり肩代わりしてもらっているのだ。

 明日からそれがなくなるなど想像もしたくない。

 そのことを楓が伝えると衣玖は珍しく、本当に珍しく口元に無邪気で穏やかな笑みを浮かべ、楓に背を向けるのであった。

 

「……ところで私もあの女とあなたは同類のように思っているわよ」

「どの辺りが」

「実行する時は恐ろしく強引で相手の都合をまるで考えない辺りが」

 

 話には入ってこなかったが、しっかり話を聞いていたパチュリーにそんなことを言われてしまう一幕もあったが、まあ些細なことである。

 

 

 

 

 

 そうして天界での散歩を終えたパチュリーと楓は紅魔館に戻っていた。

 

「場所は以前と変わらず今ひとつだったけど、桃と空気は美味しかったわ。あの桃はまた食べたいわね」

「気が向いたら持っていこう」

「期待せず待っているわ。ああ、レミィに用があるんでしょう? 行きなさいな」

「……なぜわかった?」

「私、これでもあの子との付き合いは長いの。あの子は私に見えないものが見えているからね。なんとなく前兆ぐらいはわかるのよ」

 

 まああの子がわかっているかは疑問だけど、と言ってパチュリーは額に手を当てながら友人へのため息をつく。

 

「色々と面倒な子でも、私の友人だから。恋路ぐらいは応援してあげようって気になるわけ」

「恋路、ねえ……」

「吸血鬼のお話だもの。通り一遍の恋物語なんてつまらないでしょう?」

 

 言いたいことは全て言ったとパチュリーは楓に背を向け、振り返ることなく図書館の中へ消えていくのであった。

 そんな彼女を見送り、周囲に誰もいなくなった楓はそっと息を吐く。

 

「……緊張しているのがバレているのか」

『楓、意外とわかりやすいからね』

「そんなものか……いや、俺もレミリアとの付き合いは子供の頃からだ」

 

 父に稽古をつけてもらっている時から、ちょくちょくやってきては楓を殺そうとしてきたのだ。

 ただ、手加減を見誤ることだけはなかったので、当時の楓でもギリギリ反応できる一線は越えていなかった。

 だからなのか、父もレミリアの行いを知っていて黙認していたきらいがある。

 楓としても強くなれる一助だったのであまり気にしておらず、彼女の手にかかって死ぬ時が来たらそれはそれで自分の器がそれまでだったと諦めもつくだろうと思っていた。

 紅魔館の内部。咲夜の案内を受けながら楓は自問自答を行っていると、咲夜が不意に声をかけてくる。

 

「……楓」

「なんだ?」

「お嬢様から話は聞いているわ。近いうちに楓とお嬢様が本気で戦う時が来る、って」

「……わかっていたのか」

「運命、とやらを読んだのか、それともお嬢様の勘なのかはわからないけどね」

「前者の方が格好良いんじゃないか?」

「だったら後者の方がお嬢様らしいわ。何事も大雑把で適当で子供っぽくて、でも大事なところは決して外さない私のご主人さま」

「…………」

 

 主への確かな忠誠が伺える言葉を聞きながら、咲夜が扉を開けてレミリアの待つ部屋に入る。

 レミリアは椅子に座ることなく、立って腕を組んで楓を待ち構えていた。

 

「よく来たわね、楓。厳つい顔で、私を退治しに来たヴァンパイアハンターを思い出しちゃうわ」

「用件はわかっているのか」

「予感がずっとあったの。あなたが幼子の時からいつかずっと、こんな日が来るって予感が」

「…………」

「それは最近になって強くなっていた。その時でもないのに身体が疼いてしまうほどに」

 

 妖艶に微笑む彼女の口元に、ありもしないはずの血を幻視してしまう。

 楓は意識して丹田に力を込め、己の意思を維持しながら彼女の紡ぐ言葉を最後まで聞き届ける。

 

「…………」

「さぁ、聞かせて頂戴。そして最高の時間を一緒に過ごしましょう?」

「ああ、レミリア――」

 

 

 

 

 

「――次の満月の夜、お前に勝負を申し込む。俺が勝ったら俺に協力してくれ」

「受けましょう、素敵なお方。夜の女王の名にかけて、最高の夜を約束いたしますわ」

 

 

 

 

 

 まるで淑女のように優雅にスカートを広げ、レミリアは楓の挑戦を受けるのであった。




Q.衣玖さんってどんなキャラなの?
A.さあ……?

なんかこう……勝手に口が動く(適当)

ともあれ楓はおぜうに手袋を投げました。
勝負までに間にお話を挟むかもしれませんが、一、二話程度だと思います。
それが終わったらおぜうとの真剣勝負が始まります。ちなみに言っておきますがレミリアはノッブとの真剣勝負も経ているのであの時より強いです(無慈悲)





あと、私事ですが来週は二度目のワクチン接種があるため、投稿が遅れる可能性があります。ご了承ください。
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