「で、こいつが異変の元凶ってわけ」
霊夢は朱塗りの上等なお椀に座ってふんぞり返っている少女を気だるげに指差す。
楓が視線を落とすと、首を目一杯上げて見返してくる。
「こんなに小さい人間、初めて見たな。小人なのか?」
「由緒正しき小人族よ! 本当はもう少し大きいんだけど、色々あって小さくなったから霊夢に匿ってもらってるの」
「この大きさじゃ犬猫に襲われたらひとたまりもないからね。しばらくしたら戻るらしいわよ。それでもこれぐらいだけど」
そう言って霊夢がちゃぶ台の少し上ぐらいに手を持っていき、少女のサイズを表す。
それでも狐や狸といった獣に襲われたら大変そうだと内心で少女に同情しつつ、楓は腰を下ろして少女と目線を合わせた。
「あんたは関わらないでしょうけど、こいつは人里の守護者。私の世話役でもあるわ。食料とか持ってきてくれるし」
「ほほう、つまり私にとっても世話人に等しい人と?」
「霊夢」
「一国一城の主らしいわよ。輝針城っていう逆さのお城の」
「そういえばあの城はどうなったんだ?」
楓の質問に霊夢は鬱陶しそうに口を開きかけるが、説明がダルかったのか少女を指差した。
「面倒だからパス。針妙丸、説明しなさい」
「ええ、それで良いの霊夢……?」
「楓には良いのよ」
「ぐうたらな妹分だ。慣れている」
これみよがしにため息をついて、楓は少女の方を見る。
「自己紹介しておこう。俺の名は火継楓。霊夢が話した通り、守護者の役目と博麗の巫女の世話役を任されている」
「少名針妙丸だ。先の異変で人里は大丈夫だったのか?」
「大した問題はなかった。一応こっちでも輝針城を目指していたんだがな」
「予言してあげる。面倒事に巻き込まれまくって動けなかったんでしょう。違う?」
「…………人里の方は問題なかった。付喪神化もすぐ収まったし、後は――」
言葉を切った楓が虚空に目を向けると、背負っている長刀がひとりでに浮かび上がり、自己紹介をするように軽く縦に振られる。
「特殊な事情があって付喪神に成りかけていたやつはそのまま付喪神になっているくらいか」
「へえぇ、あんたが以前に話していた椿ってやつだっけ?」
「ああ。俺の目には相変わらず見えるし、今回の異変で背中の長刀だけなら干渉できるようになった」
「空想上のお友達じゃなかったのね」
「ぶっ飛ばすぞ」
楓の腕が振るわれるが、霊夢は首を動かして避けてしまう。
「とにかくこっちであった変化はそれぐらいだ。阿求様の使っていた道具や天子の持っている緋想の剣が動き出したことはあったが、俺が目で脅したら大人しくなった」
「あんたの目、つくづく人間じゃないやつには有効よね……」
「? どんな目なの?」
針妙丸に話す理由はなかったので、霊夢も楓も無視して話を続ける。
「ああ、付喪神で思い出した。今回の異変で付喪神だったやつが更に強力になって襲いかかってきたこともあったわ」
「ふむ、そんなことまであったのか」
霊夢が負けることは楓も考えていなかった。弾幕ごっこの領分で彼女が敗北する相手など想像もできない。
「今回の異変を契機に、依代を外の世界に移したみたい。楽器の付喪神なんだけど」
「なるほど、包括的な楽器の概念を依代にしたのか。よく考えることだ」
「細かい話はそいつらから直接聞いて。今後は人里でも活動するみたいだし」
「覚えておこう。異変については?」
「こいつが騙されて担ぎ上げられた。打ち出の小槌って知ってる?」
「一寸法師のおとぎ話のやつか?」
楓も耳にしたことのある有名なおとぎ話である。
そして一寸法師の名前を出した時、連鎖的に小人族と名乗った針妙丸の祖先にも思い至った。
「なるほど、小人族とは一寸法師の末裔か」
「そういうこと。で、打ち出の小槌には凄い魔力がこもっていたのよ。それこそ幻想郷の改変すら可能なくらい」
「でも、大きい力には代償が付き物なの。私の体がこんなに小さくなったのもそのせい!」
「なぜそんなことを?」
「唆されたのよ。弱者のための楽園を作るっていう」
「そのために弱い妖怪は強く、強い妖怪は弱くなるようにあべこべの空間を作ったの! 輝針城から中心になっちゃったから近い妖怪ほど影響を受けたはずよ」
自分の力が弱まっていたのはそのためらしい。あの当時を思い返してみて、確かに輝針城へ近づくほど体が重くなっていたのを思い出す。
「霊夢は大丈夫だったのか?」
「輝針城の内部は大変だったわよ。力は出しにくいし、方向感覚は上下逆になってめちゃくちゃになるしで。最終的に全部夢想天生使ってぶっ飛ばしたけど」
「あれ反則じゃない!? 私の法則まで無視するとか」
それが霊夢の強みなので、楓は何も言わなかった。
夢想天生を発動させられた場合、楓も基本は逃げるしかないのだ。
父は強引に突破する術を持っていた、と何かで聞いた覚えがあるが仮に可能だった場合、つくづく父は人間なのか疑問に思うところである。
しかしさすがの霊夢も疲れたらしく、ぐったりとした様子を隠さない。
「あんたは大丈夫だったの? 私でも結構キツかったんだけど」
「多少距離があったからか、術がほぼ使えなくなって体も重くなって思うように動けなくなる程度だった」
「……十分キツくない?」
「動けなくなるわけじゃないし、技術は失われなかった。戦う分にはどうとでもなる」
「実際のところどんくらい弱くなってた?」
「良いとこ平時の3割ぐらい。最近は術やら何やらに頼りすぎていたと反省した」
天子がいなければどうなっていたか。彼女の父親にも、藍にも勝てていたか怪しいものである。
霊夢はそれだけの弱体を受けても平然としている兄貴分にバカを見るような目を送った後、話を戻した。
「どこまで話したっけ……ああ、そうそう。それで弱者の楽園を作るって言う話だけど、こいつは別の妖怪に唆されたの」
「鬼人正邪っていう妖怪が私を騙したの! 力の代償も全部私が払っているのに!」
「災難だったな。そいつはどこに?」
「逃げたわよ。まあそれはこっちで追うわ」
「頼んだ」
「頼まれた。今回の異変は影響も大きかったから、あんたも少し注意しておいた方が良いわよ」
「気をつけよう」
楓は人里に害がなければ動く理由もない。
今回の異変も人里に大きな影響はなかったので、鬼人正邪とやらを積極的に捕まえる理由がないのだ。
「こいつは打ち出の小槌の魔力を使いすぎた代償で小さくなってるから、しばらくは置いてあげることにしたの。小さいから食費も大してかからないし。最悪ご飯粒でもいいし」
「ちゃんとした扱いを要求します!!」
「あと野菜くずでも入れれば良いのか」
「味方がいない!?」
「冗談はさておき、持っていく食料は少し増やそう。妖怪神社だから妖怪に頼むか?」
「それこそ冗談。あいつらなんて食うだけ食って何一つ持ってくることなんてないわよ」
「だと思った」
軽く笑い、楓は博麗神社に持っていく食料を増やすことを約束して立ち上がる。
「おおよその話は聞けたから戻る。今回は力になれず悪かったな」
「良いわよ。そっちはそっちで色々あったんでしょう? 私ばっかり話すのもあれだし聞かせなさいよ」
「ふむ、お前の話に比べれば面白いかはわからんが。まず最初にあったのが天子と一緒に行動していた時に天界から彼女の父君が現れてだな……」
「今の時点でだいぶ面白いわよそれ」
「そうか? よくあることだろ」
こいつの中で騒動の閾値はどうなっているのか。
霊夢と針妙丸の変な生物を見るような目に気づかないまま、楓は先日の異変が起きている中で自分が遭遇していた出来事について語っていくのであった。
「旦那さま旦那さま、あなた何やったんですか本当に」
火継の屋敷に戻ってきた楓を出迎えたのは、相変わらず何を考えているのかわからない無表情を貼り付けながらへんてこなことを言ってくる衣玖だった。
「話が見えん。仕事じゃないよな」
「そんなものほっぽり出しました」
「給料下げるぞお前」
「いえまあ、先ほど総領様――要するに天子様のお父君から連絡がありまして」
「ふむ」
僅かな驚きを返答の下に隠す。
あの御仁にそんな自発性があったことに驚いていたのだ。擦り切れ果てた人間性の果てに、岩のようになってしまった人間という印象だった。
「総領様から自発的な連絡が来たことも驚いたのですが、内容がなんと天子の追放が終わるまでは関与しないと来たんですよ」
「刑が重くなったと見るべきか?」
「温情だと思います。天子様は地上の方がイキイキしてらっしゃるので」
「そう考えるのが妥当だろうな。実を言うとこの前の異変で顔を合わせている」
「おや、うちの娘はやらんと言われたのですか?」
「およそ人間味を感じられない人だった。お役目という言葉が人の形を取ったような人間だと思った」
楓の素直な印象を語ると、衣玖も同意するようにうなずいた。
「私から見てもそんな人でした。天人になるのも大変ですよねえ。天子様は不良天人と笑われ、総領様はそんな評価を覆そうと黙々と天人の役目を行い続け、ついには擦り切れてしまわれた」
「天人社会もしがらみがありそうだ」
「本来なら天人は何物にも縛られず、享楽に浸っていられる種族なのですが、やはり総領様たちは経緯が経緯でしたので」
「俺の知っている天人があの二人だからな……」
実際、良いものではあるのだろう。
飢える心配も争う心配もなく、ただ遊んでいられるのだ。
御阿礼の子に健やかに過ごしてもらいたい楓としても、それは悪いとは言わない。
ただ、それ以外の変化がなければ人は飽きてしまう。
「あの二人は天人になろうと思ってなったわけじゃない。おこぼれをもらったとは言うが、半ば事故みたいなものだ」
「事故とは言いますね。実際、あの世相を鑑みれば天人になった当初は喜んだのでしょう」
「当時のことは知らんが、だと思う。しかし、千年は続かなかった」
「残念なものです。それでも天子様は悪くなかったと言うでしょうが」
「なぜ?」
「あなたに会えましたから」
「……まあ、地上で話して少しは変わったのだろう。父君も」
楓はそれとなく視線をそらし、話を切り上げようとする。
しかし衣玖はそれを見逃さずに回り込み、楓の顔を見上げてきた。
「おや、照れました?」
「照れてない」
「天子様は言いませんからね。私が代わりに言わないと」
「お前はあいつの何なんだ」
「従者ですよ、もちろん」
絶対違う、と従者の身分として断言できる楓だった。
「とにかく天子は親も認めて地上にいられるということだろう。後顧の憂いがなくなるのは良いことだ」
「お二人の関係も改善すると良いのですが。見ていて面白い関係ならともかく、以前のお二人は見ていて逃げ出したくなりましたから」
「逃げなかったのか」
「逃げましたが何か?」
衣玖のことだからそんなところだろうと思っていた。
楓は大きくため息をついて話を終わらせる。
「話は終わりだな」
「え、ムダ話します? 衣玖のムダ話百選をお聞かせしますけど」
「百もあるのか気にならなくもないが却下だ。異変が終わってすぐなんだ。仕事なんていくらでもある」
「ああん」
嘆いているのかもよくわからない衣玖の背中を押して屋敷に押し込んでおく。
さすがにごね続けることはなく静かに仕事に戻ったため、楓はもう一度ため息をつく。あの部下はいつになっても何を考えているのかわからない。
「……阿求様のところに戻ろう」
異変の概要は掴めたのだ。改めて取材を行うにしても、楓の方から報告を入れておくべきだろう。
屋敷に戻ってきたのも衣玖に仕事を押し付けるためだ。折よく衣玖と顔を合わせられたので話もしていただけである。
そうして稗田の屋敷に戻り、戸に指をかけたところで手を止める。
気づいた理由は半ば直感だが、この先の空間が違っていると思ったのだ。
空間が
楓は軽く一呼吸を置いて覚悟を決め、戸を開き――スキマの向こうへと入っていく。
内部は楓が警戒したスキマの瞳とリボンが蠢く空間ではなかった。
普通の屋敷と変わらない調度品が置かれ、廊下が続いているばかり。
そんな中、襖の一つから明かりが漏れているためそこへ向かって歩を進め、襖を開く。
そこには楓が予想した通りの人物――八雲紫が眠たげに目を細めながら待っていた。
「久しいわね、楓。息災なようで何より」
「そちらも最近は顔を見ていなかったが、壮健で何よりだ」
「いきなり呼び立てるような真似をしたことをまずは謝罪するわ。顔を合わせられる機会がなかなかなくってね」
「戻してくれるなら良い。呼び立てる用事があるのだろう」
「ええ。座って頂戴。話したいことは多くあるから」
そう言って紫がスキマを操ると、二人分のお茶がちゃぶ台の上に置かれる。
暖かく湯気を立てる緑茶をすすり、楓は紫の様子を見た。
「……ずいぶんと眠そうだが大丈夫か?」
「呼び立てたのもその話よ。これから先の冬、私は冬眠しなければならないの」
「……どの程度の期間になる?」
「春先まで目覚めることはないわ。スキマ妖怪として誕生してからずっとこうなの」
「その間は藍が?」
「彼女とも顔を合わせたようね。ええ、その間は彼女が私の代理を務めるわ」
「だったら言うことはない。今までその情報は知らずともなんとかなっていたんだ。そちらの努力あってこそだろうが、何か警戒することでもあるのか?」
「今は色々と騒がしい時期だから、私も念押ししておきたいのよ。それと気になることがあってね」
「気になること?」
スキマ妖怪が気にしているのだ。相応の何かがあるのだろう。
楓は眉をひそめて彼女の言葉を待つ。
「私が眠っている間、私は本当に何の力にもなれない。あなたの方は大丈夫なのか不安があったのが一つ」
「……問題ない。確かに大きな山が俺の知る限りあと一つあるが、俺の方でどうにかする」
次の満月の夜、楓はもう一度死地に臨む。
永遠亭。月の住民を名乗る、正真正銘の不老不死を相手に戦うことがすでに決まっていた。
彼女らの能力は未知数。得体のしれない月の技術を用いてくる可能性も高い。
しかし、瞬殺されることはないだろうと考えていた。レミリアを相手に勝利を収めたことで、楓は父の背中に追いつきつつあることを自覚していた。
「満月の夜のレミリアに勝ったと聞きましたわ。あなたも腕を上げましたわね」
「父上が死んですぐの頃とは雲泥の差だと自負している」
「半人半妖なのに人間以上の速度で成長して、羨ましいったらないわ。私も妖怪の枠組みからは出られないというのに」
「追いかける背中が遠かったのでな。死にものぐるいで走っているだけだ」
ただ、それももうすぐ終わりそうな気がしていた。
後何度か。死線をくぐり抜けることができたら、自分は父の背に追いつくことができる。そんな予感が楓の中にあった。
楓の目に何かが見えたのか、紫は感慨深そうに目をつむり、優しい光を宿した眼差しで楓を見る。
「私もすぐに眠るわけではないけど、何か力になれることがあったら言って頂戴。御阿礼の子に関することであれば、可能な限り協力するわ」
「スキマ妖怪からその言葉を聞けただけでも価値があるというものだ」
「あなたも言うようになったわね」
小さく笑い、次に紫は再び真剣な顔で楓を見た。
「……もう一つの要件は幽々子のことなの」
「彼女の?」
日々文通を交わし、顔を合わせることはなくとも彼女のことを頻繁に考えていた楓は意外そうな顔をする。
「幽々子自身の問題じゃないわ。……これは幽々子自身も知らないことになるのだけど、他言無用でお願いできるかしら」
「わかった。白玉楼の場所自体に何かあるんだな?」
紫の言い分から察するに、幽々子の生前とも無関係ではない可能性もある。
彼女は亡霊――死した肉体を持つ者のみがなれる存在である。
つまり――彼女の肉体は死んだ状態で今もなお存在しているのだ。
「……西行妖、というのを聞いたことはあるかしら」
「いや、初耳だ」
「白玉楼には西行妖と呼ばれる妖怪桜があるの。その美しさたるや、桜の下で人が幾人も自殺するくらいに」
「御阿礼の子より美しいのか」
「いきなり比較しにくいものをぶっ込んできたわね……」
呆れたように目を細める紫を見て、自分には関係なさそうだと思う楓だった。
御阿礼の子より美しくないならどうでも良いものである。
楓のどこか自慢げな顔に紫は何も言わず咳払いをし、話を戻してくる。
「んんっ! とにかく、その西行妖と呼ばれる妖怪桜は数多の命をすすってきたのよ。人を惹き付け、死なせて人の生き血を糧に咲き誇る桜」
「今はもうないんだろう。あるいは死者には効果がないのか」
「とんでもない。あれは私ですら手出しができないほどの力を持つに至っていた」
そんな力があるのなら、今なお話に出ないのはおかしい。
楓は片目を閉じて話が読めてきたと口を開く。
「であれば封印を施したか、破壊したか……ここで話題に出す以上、前者だと思うが」
「正解。当時から死を操る程度の能力を所持していたとある少女の肉体を使って西行妖は封印されました、めでたしめでたし――と、ここまでいえば少女が誰かはわかるわね?」
「存命だった幽々子の肉体を使用した封印か。なるほど、幽々子が知るわけにはいかないものだ」
亡霊は肉体の存在を知ってしまえば存在を維持できなくなってしまう。
幽々子が肉体のことを知らず、冥界の管理をしているのも紫が暗躍したからなのだろう、と楓は推測しながら話の続きを促す。
「封印が解かれた話もないのだろう?」
「冬が続いた異変があったでしょう。あれは幽々子が何も知らないながらも西行妖を咲かせようと春を集めた異変になるわ。実際は霊夢に阻まれて失敗したわけだけど」
「成功していた時が恐ろしいな」
「最悪の場合は私がどうにかするつもりでしたもの。……その封印が綻びかけている、といえば事態の深刻さは伝わるわよね?」
「どれほどの時間が経過したのか知らないが、形あるものがいつか壊れるのも道理か」
人間の肉体に依存した封印なのだ。肉体が滅び果てれば封印が解かれるのも当然の帰結と言えよう。むしろ予想より長く持ったと言っても良いのかもしれない。
「事態の究明はこの際横に置きましょう。楓にはそちらを注意しておいてほしいの。私が眠っている間に何かが起きないとも限らない」
「むしろ俺に話したから起きる可能性が増したんじゃないか?」
楓もいい加減、自分の間の悪さは自覚しているところである。
それを話すと紫はそれはそれで望むところだと、扇子を閉じる。
「起きるなら起きるで構わないのよ。あなたがいて、霊夢がいて、藍もいる。特にあなたは私にすら不可能と思われた状況を何度も打開した実績がある。幽々子のことも良い方向に収めてくれるでしょう」
「過分な評価だと言いたいが、その期待に応えるよう尽力しよう」
「だから教えておきたかったの。知らないまま巻き込まれるよりは良いでしょう?」
紫の言葉にため息をついて、楓は話も終わりだと席を立つ。
「俺がいる時にことが起きればどうにかする。良かれ悪かれ、な。俺とて文通仲間を失うのはしのびない」
「その言葉が聞けてよかったわ。私も安心して眠りにつけるというもの」
「ああ、目が覚めた時には――きっと、全部が良くなっている」
その時までに御阿礼の子の話にも決着がつくだろう。
楓は根拠がない、しかし揺るぎない確信を持って部屋を出ていくのであった。
「――見ているかしら。あなたの息子はこんなに大きくなったのよ」
閉じた襖から聞こえた、万感の思いと偉大な先駆者への敬意を込めた言葉を残して。
輝針城が終わった後の話と、次回の騒動の予防線を張るお話でした。
少しあれこれと話した後、白玉楼の騒動と深秘録をやって永遠亭の勝負になります。