阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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花の妖怪の見定め

「そう、もうそんな時期なんだ」

 

 稗田の屋敷に戻り、阿求に花映塚の話をすると阿求は静かにうなずいてその報告を受け取った。

 

「はい。しばらくは続くかと」

「異変が続いていたし、少し人々は不安に思うかもしれないわね。私みたいに記憶を引き継ぐわけでも、お兄ちゃんみたいに幻想郷縁起を暗記しているわけでもないから」

「仰るとおりです。永遠亭にて行った交渉の結果も含め、後ほど人里の方へ報告します。その際に慧音先生にも話しておきましょう」

「お願い。お話は上手く行った?」

「……なんとか協力は取り付けました」

 

 手のひらの上で転がされていた感じがしてならないが、了承は了承だ。

 阿求は納得のいってなさそうな楓の顔を見て、優しく笑う。

 

「ふふっ、お兄ちゃんがそういった場所に出るのは初めてだったもんね。大丈夫だった?」

「こちらの意図した方向に話を持っていけた、という点では問題ありませんでした」

「じゃあ良いのよ。過程がどうあれ、お兄ちゃんは結果を出した。そのことは誇って良いの」

「……お褒め頂き光栄です。これからも一層、精進いたします」

 

 父のように何でも上手く切り抜けられればそれに越したことはないが、自分にそれはまだ難しい。政治でも武力でも痛感してばかりである。

 だが足を止めることは許されない。楓は笑って自分を褒めてくれる主に頭を垂れ、一層の忠誠を誓う。

 

「今回のは異変というほどでもないし、記録として残しておくだけで良いでしょう。となると今のうちに永遠亭の人から話も聞きたいけど……」

「薬の話でこちらに来ることもあると思います。その時に聞いたらどうでしょうか」

「それが良いかな。こっちから訪ねるのは難しいのよね?」

「常人が行くには辛い場所かと。無論、行くのであれば私が手配いたします」

「行く用事があれば行く、ということで。じゃあお兄ちゃん、私の方は良いから人里の方へ報告をお願いしていいかな」

「かしこまりました」

 

 一つ頭を下げ、早速与えられた役目を果たそうと立ち上がる。

 

「あ、そうだ、お兄ちゃん」

「はい」

「戻ってきたら少しお話しましょう? 最近は忙しくて、お兄ちゃんと一緒の時間って作れなかったから」

「お望みとあらば。速やかに職務を片付けて戻ってまいります」

 

 むしろ仕事をサボってもいいくらいなのだが、それをすると阿求は怒るだろう。どんな感情であれそれが自分に向けられているなら無上の喜びとなる阿礼狂いではあるが、できることなら笑っていてほしいのだ。

 目を細め、満面の笑みで送り出してくれる愛しい主に楓もまた柔らかな笑顔を返し、再び彼の公人としての時間は始まるのであった。

 

 

 

 

 

「――という次第で、これから人里でも薬を卸してもらえそうです」

「おお、そりゃありがたい! ……って言いたいが、いきなり出てきた素性のわからんものの薬だ。すぐ受け入れてもらえるかは保証できねえぞ?」

「どういった形になるかはわかりませんが、それに応じて私の方でも考えます。傷薬の類であれば火継の家でも重宝しますので」

 

 効果が高く、副作用がないなら魔女が作ろうと悪魔が作ろうと気にしない家である。我がことながら、あの一族は頭がおかしいと思う。

 

「まあそこは考えていくしかねえか。ちなみに楓はどんな形を考えているんだ?」

「……主要な施設のいくつかに置き薬という形式でできれば、と考えていました」

 

 例えば霧雨商店、寺子屋などに薬箱を置き必要に応じて使う。定期的に永遠亭から薬の補充が来れば、供給を大きく崩すことなく薬を使うことができる。

 

「後は希望した家に置くくらいか。案としてはある程度形になりそうだな。悪くない」

「話を持ってきた手前、本来なら叔父さんのところに卸せる形が良かったのですが、そこまでは踏み込めませんでした」

「気にすんなよ。こういう商売、出過ぎた杭も打たれちまうもんさ。特に薬の独占販売なんて格好の餌食だ」

「そう言ってもらえると助かります」

「ハハハッ! お前さんとこうして繋がりが持てているだけでも値千金さ! 今だって儲け話を持ってきてくれたんだからな!」

 

 弥助は楓の肩をバンバン叩きながら豪快に笑う。

 ちょっと出歩けばすぐに知り合いを増やす、楓の持つ数奇な運命は弥助にとって非常にありがたいものなのだ。彼や彼の父親の伝手で得られた儲け話はいくらでもある。

 無論、それらがなくても魔理沙の幼馴染であり、敬愛する人物の息子である楓とは仲良くやっていくのだが。

 

「とにかく話を持ってきてくれてありがとな。里の総会の方でも話に出すし、楓も顔を出すだろ?」

「はい。私から言い出したことですから」

 

 それに人と話す技術の必要性も身にしみたので、そういったことを学べる場が欲しかった。

 今は相手の温情にすがっているような状態なのだ。根回しや事前の情報収集含め、速やかにこれらを覚えていく必要がある。

 もともと多少は父から教えられていたが、それでは全く足りなかった。

 

「そんじゃついでに話を聞かせてくれよ。楓の知り合った永遠亭って人の話や、魔理沙の話をな」

「魔理沙の口から聞いているのでは?」

「あいつのは誇張が入りまくる。娘の自慢話もこれはこれで乙なもんだが、やっぱり正確な話も聞きたくなるのさ」

「自分も全ての事情を把握しているわけではありませんが……わかりました。では先日の夜が終わらない異変から――」

 

 訥々と己の出来事を語り始める楓を、弥助は目を細めて見守る。

 永夜異変の際に影狼と出会い、馴れ馴れしい彼女と夜明けまで語ったこと。

 人里が危険な状態にあると勘違いした妹紅と戦い、初陣をそこで迎えたこと。

 迷いの竹林奥深くに住まう永遠亭の面々と知り合ったこと。彼女らはこちらと付き合いを続けていきたいと願ったこと。様々な出来事に彼なりの思惑や打算、感情などもつけてゆっくりと。

 

「……こんなところです。霊夢や魔理沙に比べれば地味でしょう?」

 

 彼女らは楓が話していた人物の大半と弾幕ごっこで戦い、倒しているのだ。話の盛り上がりとしてはそちらの方が良かっただろう。

 

「いやいや! おれみたいに里からあんまり出ないやつにはどれも面白いし、楓だって負けたもんじゃねえぜ? 魔理沙もあれで奇縁に好かれるというか、妙なものと知り合いやすいみたいなことを言ってたが、お前にゃ勝てねえよ」

「褒めてないですよね?」

 

 硬い表情で楓がつぶやくと、弥助はそんな楓を笑い飛ばす。

 ロクでもない妖怪にロクでもない好かれ方をしているのは間違いない。常人ならまず間違いなく真っ当に死ねたら幸運と呼べる出来事の渦中にいながら、五体満足で切り抜けているのだ。

 間違いなく彼は彼の父親と同種の何かを持っている。それが弥助には不思議と嬉しく感じられた。

 

 人はいずれいなくなるが皆、誰かや何かに託して次に受け継いでいる。受け継がれた側に自覚などなくても。

 当の本人である楓は弥助の眼差しを生暖かいものだと勘違いしたのか、憮然とした顔で話を変える。この話を続けていても自分が際限なく笑われるだけだと思ったのだろう。

 

「……それとこの前の異変とは関係ないですが、少し異常が起きてます」

「あん? また次の異変ってわけじゃないのか?」

「60年周期で起こる、四季折々の花が咲き乱れる現象をご存知ですか?」

「ああっと……名前は咄嗟には出てこねえが、聞いた覚えがある。ここで話に出すってことは……」

「ええ、その事象が起きているようです。この後慧音先生のところにも顔を出す予定ですが、叔父さんの方からも皆に注意を呼びかけてもらえると」

「そうだな。新進気鋭の守護者である楓の口から出た言葉、ってことにすれば皆も信じるだろうぜ」

「まだ何も結果を出せていない若造ですよ」

「異変で騒がしい時に、妖怪のいる場所にいって帰ってこれる。それだけで人里では貴重な戦力になるんだよ」

 

 それに今回の件もまだ表に出ていないだけで、薬師と人里の協力を取り付けたことは楓の思っている以上に大きな功績である。

 あいにくと当人が病知らずの半妖だからか実感が薄いようだが、彼の行いは確実に人里の医療水準を引き上げるものだ。

 それを弥助は楓に伝えているのだが、楓は真面目にうなずくばかり。

 

「里の医学が向上することは喜ばしい。何より阿求様のご健康にも繋がります」

「そういや、御阿礼の子の薬は誰がやってるんだ?」

「私がお作りしてます。その薬の比率などは父上に叩き込まれました」

 

 あらゆる手管を教え込まれたというのは、比喩でもなんでもない。

 確かにあらゆる面において彼の父より劣るものの、それはほぼ全ての部分で父と比較ができる状態にあるとも言い換えられるのだ。

 それを聞いた弥助はぽかんとした顔になった後、大きく笑って楓の肩を叩く。

 

「これなら人里も安心だ! これからも頼むぜ、楓!」

「ええ、ありがとうございます。それでは私はこれで――」

 

 失礼します、と言って立ち去ろうとした楓の顔が急に強ばり、硬直する。

 

「楓?」

「……いえ、少々見たくない顔が見えたので驚いただけです。失礼ですが、慧音先生への報告をお願いしても良いですか?」

「? さっきお前が行くって言ってなかったか?」

「急用ができたので、難しくなりました。お願いします」

「あ、おい!?」

 

 返事も待たず楓は霧雨商店を出る。そして店の外に出たところで、出会いたくなかった人物と相対する。

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。その諺を体現した人物と言っても良い、日傘を差して穏やかに微笑む少女。

 少女は楓を視界に入れると、穏やかな口調で声をかけてきた。

 

「こうして顔を合わせるのは初めまして、かしら。火継楓」

「そうだな。以前は家でたまに見ていたが、俺と話すのは初めてになる。――風見幽香」

 

 風見幽香。人里でも昔から特級の危険地帯として知られる太陽の畑を住処として、一年をほぼずっと花とともに過ごす妖怪。

 花と生きることを選んでいるため気質は穏やか――などということはなく、人間への友好度もほぼ最低。まず近づいたら死を覚悟するような存在だ。

 ところが、楓が生まれて少しした後で楓の父と彼女は交流を持った。交流と言うには一方的に幽香が父を追いかけていたような関係であったが、それが父の死という形で終わりを迎えても、彼女は定期的に人里へ訪れるようになっていた。

 だがそれも人里の花屋と話したり、霧雨商店の店主と話して花の種を探し求めたりする程度であり、楓と面と向かって接触したのは今日が初めてである。

 

「でしょうね。私はあいつの家によく通っていたもの」

「それで今日は何の用だ? あなたは普段、花屋に行くばかりだろうに」

「今日は忠告よ。今の事象、人間どもは知らないでしょう」

「そちらは俺の方から店主に告げてある。間もなく人里に知れ渡るだろう」

「ふぅん?」

 

 幽香は大して興味を持っていない様子でうなずき、楓に背を向ける。

 

「だったら良いわ。ここの店主と花屋の娘とはそれなりに話すから多少の世話は焼こうと思っていたけれど」

「戻るのか」

「少し付き合いなさい。会えたのは偶然だけど、話があるわ」

 

 それだけ言い放つと、幽香は日傘をくるりくるりと回しながら人里の外へ向かう。

 断ることを一切想定していない物言いであり、事実断る選択肢など楓にはなかった。

 なにせ彼女はその気になれば、指先一つで人里の一角を吹っ飛ばせる力の持ち主。そんな気まぐれを彼女が起こさぬよう細心の注意を払う必要があった。

 

 阿求様、戻るのが遅くなります、と内心で謝罪する。彼女のことなど放置して戻りたいのは山々だが、それをしたらどうなるのかぐらいは想像がついた。

 父はどうやってこの妖怪を御していたというのだ、と思いながら楓は歩調を速めて幽香の隣を歩く。

 幽香はその姿に何か興味を覚えたのか、口を開いてきた。

 

「私の隣を歩くのかしら?」

「――今の自分は誰が相手でも下手に出ることはない」

 

 虚勢を張るのも一つの技術である。自分が幽香と同等だとはまだ思っていないが、せめて姿勢だけでも対等なそれを崩すのはいけない。そう直感していた。

 そんな楓の姿がおかしかったのか、幽香は小さく笑う。

 やがて人里の外に出て、狂ったように四季の花々が咲き乱れる広い平原で幽香が立ち止まった。

 色彩も香りもデタラメで、千里眼を持ち五感も常人より鋭い楓は顔をしかめる。四季の判断というのは、香りや風景の色合いでも決まるのだと実感した。

 

「この子たちは今、咲いてしまっている。己が最も美しく、気高く映える時節を忘れ、人の霊が宿ったことで狂乱しながら花の命を散らしている」

 

 幽香は憂うように眉を伏せ、膝を折って優しい手付きで花を撫でる。

 撫でた花は今まで咲いていたことを忘れたのか、みるみるうちに萎み種へと戻っていく。

 

「…………」

「――あなた達が咲くべき季節は今ではないわ。その時までおやすみなさい」

 

 完全な種に戻ったそれを愛おしげに土に戻し、幽香はその繊手を振るう。

 すると平原一帯に咲き誇っていた花々がほとんど種に戻り、地面へと消えていく。いくらか花が残っているのは、それが今の季節に咲くべき花だからだろう。

 花の姿が見えなくなると、幽香は誰に聞かせるでもなく語り始める。

 

「ただ咲き誇る。花はそれだけで良いの。虫の営みも、鳥の営みも、獣の営みも、人の営みも、妖怪の営みでさえも。何もかも知ったことではないと、ただ己のあるがままに在れば良い」

「…………」

「でも、今回のはいただけない。外の世界にいた霊が依代を求め、花に乗り移ったことで起こるこの現象。――巫山戯るな、それは人間の都合だ」

「……俺に怒りを向けられても筋違いなんだが」

 

 楓は憮然と腕を組んで言い返す。彼女の言い分は人里が全く関係ないのだ。外の世界の事情など楓にわからないもので怒られても、八つ当たりをするなと言うだけである。

 しかし幽香はひらひらと手を振り、それを違うと否定した。

 

「ああ、失礼。私が言いたいのはそっちじゃないわ。ただ、あんたはどう思うか聞きたいだけ」

「俺がどう思うか?」

「その通り。私が苛立っているという現状を踏まえて答えなさい」

 

 迂闊な物言いは命取りになる、と言外に匂わされたが楓の答えは決まっていた。

 

「別にどうとも。強いて言えばそちらの言う通り花の咲く季節がずれて、今年の作物に影響が出ないかと懸念するぐらいだ」

「――」

 

 楓の言葉を聞いて、幽香はかえって興味を持ったとばかりに閉じた日傘で楓を指す。

 その日傘の先端に尋常でない魔力が集中しているのを見抜いた上で、楓は続きを話した。

 

「あなたは俺の父上を知っているのだろう。ならば答えもわかるはずだ」

「当人の口から聞きたいわね」

「――御阿礼の子に害がないものにどう心を動かせと?」

 

 仮に不作になったとしても、まるっきり何も収穫がないわけではない。それに一年程度なら問題なく過ごせるだけの備蓄はある。

 それに最悪の状況であっても自分と御阿礼の子は厚遇される。火継と稗田の家。どちらも人里、幻想郷双方において代わりのない役目を背負っているのだ。

 なので楓は異変が続いたとしても、御阿礼の子と人里に害がなければ良い経験が積めそうな場ぐらいにしか思っていない。

 

 楓の答えが満足の行くものだったのか、幽香は傘を横に退けて笑う。先ほどまで見せていた淑やかさとは無縁の、獰猛な獣の笑みだ。

 

「本来の目はそっちなのね。私は終ぞ、あいつをその目にすることができなかったわ」

「……父上のことか」

「私を童女扱いしたのは後にも先にも彼だけよ」

「…………」

 

 そんなことしていたのか、とは楓の本心である。父と彼女の間に繋がりがあったのは知っているが、どういう形なのかまでは把握していなかった。

 

「押しかけてくるのを心底嫌そうにしながらも、媚びへつらうことも、拒絶することもしなかった。……業腹だけど、あの時間は悪いものではなかった」

「……悔しそうにしているあなたを見た覚えはある」

「ええ、悔しかったわ。良いように言葉で丸め込まれて、力の勝負なんてさせてもらえず負けてばかり。悔しさで顔を赤くしていた時なんて正しく童女のそれよ」

 

 なんてことはないと幽香は静かな表情でそれを認めた。

 その姿を見て楓は幽香に、父と話していた時より落ち着いた印象を受ける。父との付き合いはこの妖怪にも何らかの変化を及ぼしたのだろう。

 

「――勝ちたかった。何度負けようと、命ある限り諦めず挑み続ける。負けっぱなしなんて他の誰でもない、この私が自分を許せない」

「父はもういない。俺は父の背を追いかけているが、父と同じになるつもりはない」

「知っているわ。花も人も噂が好きなのは変わらない。この前から急に頭角を現し始めた子供の名前も出ていたわ」

「…………」

 

 空気が変わる。先ほども幽香が傘の先端に魔力を集めていたが、その時は殺意が感じられなかった。

 だが今は違う。幽香の浮かべる笑みに違わないまま、猛々しい殺意が楓を射抜くように貫いている。

 

「私は今、二つの物事に興味を抱いているわ」

「それは今の状況に関係するか」

「ええ、する。――一つはあんたの父親について。久しく味わっていなかった敗北の味と、勝ち逃げされた悔しさの味というのを嫌というほど教えられたというのに、どうしてかそこまで怒っていないの。

 だから悪いものだと位置づけはしなかったけれど、結局私はこの感情をどうしたいのかしら」

「俺から言えることはなにもない」

 

 というか個人の感情など話されても反応に困る。感想を無理にひねり出すとしたら父はとことん面倒な輩に面倒な好かれ方をしたな、というぐらいである。

 そしてもう一つ、と幽香は日傘を槍のように楓に向けた。

 

「――あんたの器はあいつを凌ぐものなのか」

「…………」

「一つ、試してあげるわ。あんたを倒して、あいつに勝ったと胸を張れるほどの場所に到達できるのか。はたまたここで私に倒される程度か」

「……一応聞いておく。止める気はあるか」

 

 楓の言葉を聞いた様子もなく、幽香は酷薄な薄ら笑いを浮かべるばかり。

 日傘の先端に集中している魔力はすでに熱を発し、触れたものを溶かしてしまう勢いだ。

 

「手加減はしてあげる。――だからあんたの器を私に見せなさい」

 

 一切の躊躇など見せず、魔力で編まれた光線が楓の立っている場所めがけて発射される。

 

「――っ!」

 

 光線が発射される前に動き始めていた楓は光線を回避すると、二刀を抜刀。風見幽香めがけて走り出していくのであった。

 

 

 

 

 

 由々しき事態だ、と霊夢は花の咲き乱れる境内を前に腕を組んで唸っていた。

 明確な害があるわけではないが、どう見ても異常なこの状況。放置したら博麗の巫女は仕事をしていないとかあることないこと言われそうだ。

 ……楓が霊夢の尻を叩いて動かしている、と人里で認識されていることは両者とも知らないことだった。

 

「と言ってもアテもなし。まあ勘に任せて飛べばいいけど」

 

 真っ先に楓の顔が浮かぶものの、すぐに却下する。なんとなく今の彼に接触することは、恐ろしい結末になりそうな気がした。

 まあ良いか、と霊夢は一人納得してふわりと宙に浮かぶ。

 

「私が仕事してるって知ってもらえれば良いんだし、適当に飛んで妖怪ぶっ飛ばせば十分でしょ。はーまったく、こんな仕事熱心な博麗の巫女がいるなんて幻想郷は私に感謝すべきね」

 

 楓のみならず彼女と親しいものが聞いていたら何いってんだお前、と総ツッコミを受けそうなことを口走りながら霊夢は博麗神社を後にして、ある方向を指差す。

 

「んー……よし、こっち! 特に理由はないけど!!」

 

 指差した方角は魔法の森方面にある道で――無縁塚に通じる方角だった。

 誰もいない空を飛ぶのはレミリアの異変以来かしら、と独りごちて霊夢は空を飛ぶ。

 

 道中、人里にほど近い場所で凄まじい太さの光線が見えたが、多分魔理沙が弾幕ごっこに興じているのだろう。彼女もお祭り騒ぎには目がない性格だ。

 

 

 

 だから――いつも通りの光景と思って霊夢は気にせず前を見ることにしたのであった。




ということで幽香戦です。がんばれ、君ならできる(できなきゃ死ぬとも言う)

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