阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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あけましておめでとうございます。拙作は今年中に完結する予定ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。


花見の誘い

「あんたさあ、お師匠様に喧嘩売ったって本当?」

「喧嘩を売ったと言われるのは心外だが、輝夜と永琳に勝負を挑んだのは本当だ」

 

 人里の茶屋にて、みたらし餡のたっぷり付いた団子を頬張りながら聞いてきたのは永遠亭の薬売りである鈴仙だ。

 楓は自分の茶をすすりながら特に気負った様子もなくうなずいた。

 

「おそらく俺が求めるものに一番近いのが彼女らだ。今の状態では力を貸してくれそうにない以上、挑むしかない」

「わかってるの? 姫様はともかくお師匠はヤバいわよ? なにせかつて姫様を逃がすために月の使者を皆殺しにしたって話なんだから」

「わかっている。俺が知る人妖でも彼女だけは底が読めない」

 

 どれだけの力を隠しているのか。今なおはっきりと理解できたわけではなかった。

 しかしそれでも挑まねばならない。御阿礼の子の寿命を解決できる勢力はおそらくあそこだけだろう。

 魂という八雲紫にとってすら未知の領域である分野だ。魂を視認できる楓にも能力を使用した阿礼狂いへの一方通行しか作用ができないもの。

 

 つまり魂に干渉するのに必要なのは――現代の知識を持つ早苗たちさえも及ばない技術の力だ。

 鈴仙や永琳と話していて確信に至っているが、まず間違いなく月は幻想郷の人々にとって想像もつかない技術を所持している。

 文明のレベルからしてかけ離れているであろう月の技術。それこそが御阿礼の子にとっての希望となるはずだ。

 

「でもこうして私と話しても良いの? あんたに会ったことも報告するけど」

「こちらの事情で敵対はするが、それだけだ。いつの間にかなっていた永琳の弟子をやめるつもりもない」

「お師匠の弟子になりたいって人が月には大勢いたのに、贅沢なこと」

「月の住人じゃないのでな」

 

 そう言って茶を飲んでいると、不意に鈴仙がどこか疲れた視線で楓を見ていることに気づく。

 

「……どうした?」

「え、何が?」

「いや、どこか疲れているように感じた。無理せず休んだ方が良いぞ」

「大丈夫でしょ。妖怪なんだから身体の出来が違うわよ」

「そういう意味じゃない。精神の疲弊に気をつけろと言っていたのはお前自身だ」

「疲れているように見えた?」

「お前の言葉より自分の目を信じる程度には」

「……あんたに見抜かれちゃうんだ。私とは正反対なのに」

 

 迷った様子を見せない楓の態度に降参したのか、鈴仙はやれやれといった様子でため息をつきながら意味深なことをつぶやく。

 

「正反対?」

「私、結構やらかしてここにいるの」

「……月から逃げ出したのか」

 

 輝夜と永琳が罪人として月から追われているのは知っていた。

 てゐは元々地上に暮らしている妖怪兎なので月関連からは除外される。ならば鈴仙はどうなのか。

 色々と理由は考えられたが、一番ありそうな可能性を楓が口にすると、鈴仙は驚いたように目を丸くした。

 

「……その態度で確信に変わった。それらしい理由を当てずっぽうで言ってみただけだが」

「何でそう思ったわけ?」

「月と地上が違うと口にしているくせ、月に戻りたがる様子がなかった。文明レベルが違う場所に来て文句がないのは自分から望んできた場合ぐらいだ」

 

 その点で言えば早苗たちはよくやっていると思っていた。

 外の世界の文明レベルは月とは比べられないだろうが、それでも幻想郷からすれば天と地の差がある。

 

「別に責めているわけじゃない。ただ、文明レベルがあまりにも違う場所から来た場合、相応の苦労や不満が生まれるというのは理解できる。比較したり戻りたい感情が生まれるのは当然のことだ」

 

 しかし、戻る素振りを見せなかった。

 鈴仙は割と幻想郷に馴染んでいたので空気が合っていたのかもしれないが、他の理由があるとした方が考えやすい。

 

「戻りたいけど、戻れない。理由を考えるなら逃亡ぐらいだと思った」

「……ほんと、私とは正反対ね。その運の良さまで含めて」

 

 もう一度ため息をついて、鈴仙は淡々とした調子で当時のことを語り始める。

 

「私、これでも月の世界では軍人だったのよ。あんたみたいに大事なものを守ろうとしたわけ」

「ふむ」

「でもダメだった。当時を思い返しても何が悪かったのかわからないけど、私は逃げ出した。逃げた先で師匠に拾ってもらって、薬師としての勉強をしているってわけ」

 

 一気にそう言い切ると、鈴仙は口元を隠して視線をうつむかせる。

 

「……だからあの場所から逃げたら今度こそどこにも居場所がなくなる。私を置いてくれる最後の砦なのよ、あそこは」

「……? いや別に永遠亭を追い出されたら人里にくれば良いのでは?」

「は?」

「ん?」

 

 何を言っているんだこいつは、という目で見られてしまい楓の方が首を傾げてしまう。そんなにおかしなことを言っただろうか。

 

「人里にくれば良いって……」

「お前は優秀な薬師じゃないか。行くアテがないなら頭を下げてでも来てほしい人材だぞ」

 

 なにせ楓に匹敵、ないし勝るほどの薬師なのだ。頭を下げて人里に来てくれるなら喜んで土下座する相手である。

 そのことを正直に伝えると鈴仙は戸惑った様子で視線を右往左往させていた。

 

「だ、だって、私は師匠には全然及ばないぐらいで、まだ見習いもいいところなのに」

「永琳と比べれば彼女の方が優れた薬師だろう。だがお前の能力が悪いことの証明にはならないぞ。俺が保証したって良い。お前は人里にとって優れた薬師だ」

 

 そもそも人里が求めているのは病や怪我の治りが良くなる薬であって、不老不死の秘薬とかそういったものを求めているわけではない。

 そしてそのレベルであれば鈴仙は問題なく持っている。永琳の弟子を名乗るのに不足があるとしても、幻想郷の薬師を名乗るには十分な技量があるのだ。

 

「居場所がほしければ人里に来れば良い。里一番の薬師になるだろうし、厚遇する」

「……一度は逃げ出したのに?」

「人里から逃げたのでなければ気にしない。誰だって多かれ少なかれ逃げるものはある」

 

 逃げて良いものと悪いものの区別がついていればとやかく言うつもりはなかった。

 それにいざ逃げ出しても楓が見つけて連れ戻せば良い。

 

「逃げても見つけて連れ戻してやる。それで優秀な薬師が手に入るなら安いものだ」

「そ、それはそれでひどい気がするけど……。そっか、ここは私を受け入れてくれるんだ」

「永遠亭が嫌になったらこちらに来れば良い。薬師はいつだって大歓迎だ」

 

 専門性が高く、なり手が少ない役目なのだ。それが育てる必要もなく優れた人材が手に入るのであれば、楓としても人里としても万々歳である。

 それらを伝えたところ、鈴仙は疲れた笑みから一転してどこか気の抜けた笑顔を浮かべた。

 

「なんか一気に肩の力が抜けたわ。私を受け入れてくれる場所は案外多いんだ」

「永琳にも直接聞いてみれば良い。一度弟子と認めた相手を簡単に放り投げるような人じゃないはずだ」

「気が向いたらね。でも今回は助けられたわ。ありがと」

 

 そう言って鈴仙は楓の肩を軽く叩くと薬の入った箱を背負って立ち上がる。

 

「置き薬の配達、残りも終わらせないと! 今日は話に付き合ってくれてありがとね! あんたがよく人に頼み事されるのもわかる気がするわ」

「そんなものか」

 

 いつもどおりに振る舞っているだけだと答えると鈴仙はまた楽しそうに笑う。であればきっと生来の気質だろう。

 今ひとつ納得の行かない楓を尻目に鈴仙は軽やかに人混みの中へ消えていく。

 悩みが解決したようで何よりだと楓は一人うなずき、立ち上がる。

 

「さて……ついでに俺の相談にも乗ってもらえばよかったな」

 

 楓の手には一枚の便箋があった。仄かに桜の残り香がある――白玉楼からの手紙だ。

 内容は簡単。桜を見に白玉楼へ来ないかという幽々子からの誘いである。

 

「行くのは良いんだが……」

 

 紫から聞かされた西行妖のこともある。楓も自分が超の付く災難体質であることは自覚があった。

 多分、いやきっと父親譲りである、とさり気なく父親に責任転嫁しながら楓はどう答えたものか頭を悩ませる。

 

 何か理由をつけて行かないのは簡単だ。だがそうなれば幽々子はまた次の機会を狙うだけだし、問題の先送りにしかならない。

 

「西行妖のことを洗いざらい話して説得……いや、幽々子があれに興味を持つこと自体が危険だ。下手に掘り返して彼女の遺体が見つかったら亡霊は消えてしまう……」

 

 むむ、と頭を悩ませる。知らなければ何も考えずに行けるものを、紫に頼まれてしまった以上は頭を使わなければならない。

 行くか、行かないか。行くとして、何に備えるべきか。色々な情報が頭の中を飛び交い、案が浮かんでは消えていく。

 と、そんな時だった。買い出しに来たのか長ネギの飛び出した袋を片手に、腰に二振りの刀を差した少女――魂魄妖夢が楓に気づいて控えめに手を振ってくる。

 

「あ、楓。あなたの家以外で会うのは久しぶりですね」

「息災なようで何よりだ、妖夢。買い出しの帰りか?」

「はい。楓は見回りです?」

「兼、考え事だ。少し歩かないか」

 

 妖夢が快諾してくれたので楓たちは並んで歩きながらとりとめのない近況報告をしていく。

 と言っても白玉楼の毎日は代わり映えがしないのか、もっぱら話すのは楓の方で、彼の口から語られる近況報告――という名の異変一歩手前の騒動に関する話を面白そうに聞いていた。

 

「楓の周りはいつも楽しそうですね。幽々子様も一緒にいたら退屈しないで済みそうなのに」

「忙しいんだろう。冥界の管理とはいうが、具体的な内容は見当もつかない」

「実は私も幽々子様が働いているところはよく知らないですね……」

「白玉楼で長い妖夢も知らないとは相当だな……。ふむ」

 

 楓は相槌を打ちながら頭の片隅で考える。

 すなわち――彼女に西行妖のことを話してしまうか否か、である。

 そもそも知っている可能性は除外した。それなら紫がわざわざ人目を憚って楓に話などしないだろう。

 話した場合、楓は心強い協力者を得られるはず。デメリットは隠し事が苦手な妖夢に、紫とすら知恵比べが可能な幽々子を欺けるか。ほぼ不可能と言っても良い。

 

 紫が細心の注意を払って秘密を話す相手を選んでいたように、この内容は幽々子に知られること自体が消滅の危険を孕んでいる。

 境界の賢者すら相手を選んだ内容を、協力者が得られる程度のメリットで話して良いのか。

 

「……楓? どうかしましたか、いきなり黙って」

「……いや、幽々子から桜の見物に来ないかという誘いを受けていてな。どう返答したものかと迷っていたところだ」

 

 迷った末、楓は話さないことを選ぶ。協力者以上に幽々子へ知られる可能性を懸念したのだ。

 妖夢は楓の頭の中で行われた計算など知る由もなく、彼の口から語られた内容に首を傾げるばかり。

 

「え? 来ないんですか?」

「いや、あそこの桜は見事なものだから誰か誘って行こうと思っているだけだ。霊夢辺りでも誘おうかと」

「彼女は花より団子ですよ。桜の風情を解するとはとてもとても」

「あれで花見酒の旨さは知っているんだ。俺が誘えば多分来るはずだ」

 

 そんなものかと妖夢は不思議そうにするが、彼と霊夢の付き合いは非常に長い。物心ついてから大半の時を一緒に過ごしていたのだから、実の兄妹とそう変わらない絆があるのだろう。

 

「来る日が決まったら教えて下さい。冥界から外に出歩ける私はともかく、幽々子様はほとんど外に出ないので誰かと話すことに飢えているんです」

「俺ごときのつまらない話で良ければいくらでも聞かせよう」

「楓でつまらなかったら幽々子様の求める話のハードルが高すぎますよ……」

 

 実は妖夢、時々幽々子から文通の手紙を読ませてもらっているのだ。

 その中に綴られている、四苦八苦したことが伺える情緒と季節感の出だしから始まる彼の摩訶不思議なお話はあまり本を読まない妖夢をして夢中にさせるものがあった。

 彼の過ごした一年をまとめて本にしたらきっと大売れ間違いなしの冒険譚になるだろう、と確信を持つほどである。

 

 妖夢の言葉に楓は肩をすくめ、人里の外に出たところで彼女に手を振って別れを告げる。

 

「ではな妖夢。次は白玉楼で桜の見物に行く時に」

「はい。幽々子様ともども、楽しみにしています」

 

 冥界の方向に飛び去っていく妖夢を見送り、楓はひとりごちるのであった。

 

「――死、そのものを相手にする方法を今から考えておくか……」

 

 

 

 

 

 霊夢は困窮していた。

 普段は楓が日々持ってくる食糧や、彼女自身が買い出すもので問題なく、それどころか一般家庭に比べれば裕福な暮らしができていたのだ。

 しかし冬に入り始めてから問題が出てきた。新しい居候になった針妙丸がやたらと食べる――わけではなく、最近良く顔を見せるようになった鬼、伊吹萃香がふらりとやってきてはバカみたいに食ってふらっといなくなるのである。

 

 いつも酔っている彼女だが更に輪をかけて酔っており、事情を聞いてもアテにはならないだろうと無視していたが彼女いわく、鬼の二人がかりを退けられたとか何とか。できそうなやつは一人しか浮かばなかった。

 

「あいつが来たら食糧要求しようっと……言ったそばから!」

「霊夢、少し良いか――なんだその陰陽玉は」

「痛い目に遭いたくなかったら食糧よこしなさい。色々重なって貧乏なのよ」

「相当な量の物資を出しているだろう。あれ以上は少し時間がかかる」

「それじゃ私が飢え死にしちゃうわよ! 良い――」

 

 霊夢が事情を話すと楓は難しい顔になって腕を組む。

 

「……事情は把握した。情状酌量の余地は大いにあるが、人里も冬支度で入用なんだ。今日明日ですぐに、とはいかないぞ」

「理解してくれるんなら良いわ。あんたは時間かけても約束は破らないし」

「話には出そう。人里でも妖怪連中だと苦い顔になりそうだが……遠因が俺にありそうだからな」

「だと思った。なに、萃香と勇儀の二人がかりでも勝ったの?」

「最近覚えた仙術が便利でな」

 

 こいつどんどん強くなっているな、と霊夢は呆れた顔を隠さない。

 緋想天の異変の時には霊夢と一緒に戦って萃香に勝つのがやっとだったのに、いつの間にか一人どころか二人でも勝てない領域に至っている。

 そこまで強くなって何がしたいのか。阿求の力になりたいだけか。

 

「その呆れた顔はなんだ」

「いいえ別に? それであんたは何か用でもあったの?」

「ああ、白玉楼から桜の見物に来ないかと誘われていてな。お前も一緒にどうかと」

「桜ぁ? そんなもの博麗神社で嫌ってほど見てるし、腹の足しにもならないようなものに行く暇――」

「食事ぐらい出るだろう。俺から言っておいても良い」

「たまには冬に見る桜も風情があって良いわよね! あ、お酒は上物でよろしく!!」

「聞くだけ聞いておいてやる。……これで道連れはできたな」

「何か言った?」

 

 耳ざとく聞いてきた霊夢に首を横に振ってごまかすことにする。

 本当に不味いものなら霊夢の直感が働くだろうし、彼女がいればいざという時にできることの幅が非常に広がるのも事実。

 ……しかし、そうなるとここ最近で彼女と手合わせをしていないことを思い出してしまい、楓は憮然とした顔で腕を組む。

 

「何も。だが霊夢、最近俺以外との稽古をやってないだろう。少し鈍って来たんじゃないか」

「えー……私そういう暑苦しいの嫌なんだけど」

「今日の飯ぐらいはおごってやる」

「たまには身体を動かさないとダメよね! 博麗の巫女が弱くちゃ話にならないし!」

 

 欲望に忠実な妹分にため息を吐き、けれどこれ以上の小言は言わなかった。諦めたとも言う。

 楓と霊夢は日頃から稽古場に使っている場所に移動し、お互いに双掌を構えて相対する。

 

「ルールは?」

「お前が好きに決めていい」

「じゃあ刀なし術なし目隠し飛行あり!」

 

 楓が不利なルールを全部乗せたような内容だが、楓は文句を言う素振りも見せなかった。

 

「わかった。それで良いぞ」

「ついでに私が勝ったら今後一週間の食事はあんた持ち!」

「……おい待て。そこまでしてやる覚えはな――」

「はい開始!! 喰らえ陰陽玉!!」

 

 勝負に関係ないことまで盛り込まれたことに抗議しようとしたものの、霊夢が一方的に開始を宣言して陰陽玉を飛ばしてきたため、舌打ちと同時に目を閉じて横へ動く。

 逃げた先に置かれるように飛んでくる博麗アミュレットを弾幕特有の霊力から読み取り、紙一重で回避して前に進む。

 

 目を閉じているにも関わらず、弾幕を紙一重で避ける技量を身に着けている。霊夢は楓のデタラメな体術に目を剥くが、驚愕は一瞬だった。

 

(爺さんもこれぐらいやる! というかやられた覚えがある!! もうこいつを私と同格の相手だとは思わない! 楓はもう爺さんの領域にすぐそこのところまで到達している!!)

 

 今の楓相手に白兵戦は愚の骨頂。目を閉じていることなど何の障害にもならず、子供をあやすように霊夢を無力化するだろう。

 飛行をありにしておいて良かった。空ならば霊夢が絶対に優位を保てる。これは博麗の巫女としての矜持も含まれていた。

 

「そら、攻撃の手が緩んだぞ」

「あんた本当に目ぇ閉じてんの!?」

 

 弾幕が緩んだ一瞬の隙を縫って、楓が一直線に霊夢の場所まで迫って拳を振るう。

 対処できたのは我ながら奇跡だと後から思い返す反応で霊夢は楓の拳を両腕で絡め取り、地面へ投げ落とす。

 地面に落下させられた楓は片手で着地して体勢を立て直し、上空から降り注ぐ弾幕に対して拳を放って拳圧で最低限の空間を作れる分だけ撃ち落とす。

 

「術は禁止って言ったけど!?」

「妖術は使ってない! 純然たる技術だ!」

「訳わかんないことするんじゃない……わよっ!!」

 

 弾幕の一部を霊夢の能力で空に浮かせ、目を閉じた楓の認識から外す。

 夢想天生の応用で霊夢は自分のみならず、弾幕や他者を浮かせることもできるようになっている。

 空を飛ぶ程度の能力で浮かせた弾幕は半透明になり、外部からの干渉を受け付けることはなくなる。その代わり浮かせた弾幕が相手へ被弾することもなくなるが、そこは当たる直前に能力を解除すれば問題ない。

 

「――っ!」

「解除した瞬間を狙ったか……!」

 

 しかし楓は超人的としか言いようのない反応速度で出現した弾幕に反応し、一瞬の体捌きで全てを避け切ってみせる。

 あれで倒せる、とまではいかずとも多少の消耗は与えられると睨んでいた霊夢は唇を噛む。

 悔しいが、スペルカードを用いない通常の弾幕では多少の小細工をしたところで意味がない。

 やるなら体術。それも霊夢自身が空に浮くことで動きを読めなくしたものが必要になる。

 

「――っ!」

 

 覚悟を決めた霊夢の動きは早かった。

 これまでの弾幕を散発的に放つ動きから一転し、自らの体術と陰陽玉によるサポートを当てにした接近戦を挑む。

 攻撃を防ごうと上がった楓の腕をすり抜け、振り抜いた腕が彼のこめかみを撃ち抜く。

 だが軽い。手に響く感触は重いものを殴ったものではなく、風船を殴ったが如き感触だった。どうやらガードがすり抜けた瞬間に横へ飛んで衝撃を逃したらしい。

 

「捉えたぞ……!」

「私は誰にも捕まらないわよ!」

 

 そして殴った瞬間の腕に楓の足が絡みつくものの、霊夢がすぐさま空に浮いて振りほどく。

 そこから繰り広げられる乱打戦。一切の手加減を排した霊夢の渾身の一撃は全て楓に当たるものの、当たる直前に衝撃を全て受け流され、霊力がこもった一撃ですら決定打になり得ない。

 楓の一撃も全て霊夢が浮かせることで回避しているが、純然たる体力勝負になると霊夢の分が悪くなる。

 

 打開策を考える必要がある、と拳を顔面目掛けて放った霊夢の拳は、その手にタイミングを合わせた楓の拳とぶつかり合って相殺された。

 否、わざと相殺に抑えたのだ。楓がその気なら霊夢の拳を破壊することもできた、と霊夢は己の拳に走る衝撃で理解する。

 弾幕でも勝てず、白兵戦でも動きが読まれてしまう。真剣勝負にならなければ打つ手がないと判断した霊夢は身体から力を抜いて降参の意思を表す。

 

「あーもう、まいった! あんた腕上げすぎよ!」

「む、もう終わりか。霊夢の能力はやっぱり強力だな」

「嫌味にしか聞こえないわね。爺さんみたいに感じたわよ……」

「そう思ってもらえるのは光栄だな。今日の飯ぐらいはおごってやるから明日以降は自力で頑張れ」

「はー、せっかく集れるチャンスだと思ったのに」

「腕は落ちてないようだし、能力を使った一撃も強い。お前が博麗の巫女で良かったと思う」

「お世辞は良いわよ。あんたは普通にあしらってたわけだし」

「稽古なら俺が勝つだろう。だが真剣勝負ならわからない。違うか?」

「……身体動かしたらお腹すいちゃったわ。ちょうど良いしご飯作ってってよね」

 

 楓の言葉を曖昧にごまかした霊夢だった。楓も彼女の意を汲んでこれ以上の追及はせず、小さく笑ってうなずくに留めるのであった。

 

 

 

 

 

 ――そして白玉楼にて、強大な死と相対した霊夢は唐突な稽古の意味を理解し、楓に恨み節を吐きながら戦うことになるのだが、それは次のお話としよう。




鈴仙のお話と白玉楼のお話でした。次回は白玉楼の地雷解体イベントになります。
解体できるのか? できなきゃ幻想郷中の生物が死ぬだけです。問題ありませんね()
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