幻想郷は刺激に飢えた世界である。
それもそのはず、幻想郷に暮らす妖怪たちは精神の刺激がなければ生きることが叶わないのだ。
何かしらの噂、伝説といった話でも暇潰しになれば何だって乗っかってくる。
人里にもこういった気質は現れており、噂好きな人々が酒の肴に出どころも知れない尾ひれの付いた話をすることが多い。
無論、誰もが本気になるわけじゃない。だが――本当ならばその方が面白い。そんな思いがこもった噂は誰かが確かめに行くこともある。
当たれば儲けもの。外れても笑い話。いや、実はもっと別の真実があったでも面白い。
そんな風に幻想郷では日々、噂話が流れては消え、雨後の筍の如く再び現れるサイクルが形成されている。
楓はそういった噂話が数多くあることは知っているが、本気にしたことはなかった。
ただでさえ側仕えと日々の公務に忙しい身体だ。確証もない噂話に本気になる時間などない――と言いたいのだが、何事にも例外はある。
「都市伝説?」
「はい。外の世界でそう呼ばれていたものです」
その日、稗田の屋敷を訪れたのは東風谷早苗だった。
最近、人里で流れている噂について奇妙な符号を見出したため楓に話そうとしたところ、彼が今日は側仕えに注力していたため、屋敷を訪ねた次第となる。
客間に通された早苗は楓が阿求の傍らに侍り、静かに佇んでいるのをどこか新鮮な面持ちで見た後、自分の知っていることを話し始める。
「最近、人里で流れている噂についてはご存知ですか?」
「お兄ちゃん」
「いや、その手の噂話は生まれては消えを繰り返すからな。俺もほとんど聞き流している」
「私も寡聞にしてあまり詳しくありません。小鈴に聞いたら少しは違うのかしら」
「最近のは少し血なまぐさいというか、恐怖感を煽るものが多いので小鈴ちゃんも阿求ちゃんに話さないよう気をつけているのかもしれないです」
「ふむ、続けてください。不思議に満ちた幻想郷でことさらに奇妙なことが起こる。それは異変の前触れとも取れますから。御阿礼の子として、聞かない手はありません。お兄ちゃん、記録の用意を」
「こちらに」
いつの間にか楓の手に記録用の筆と紙が用意され、恭しく主に渡す。
阿求も当然のようにそれを受け取り、その細い指で筆を綺麗に持ち、早苗の話を促した。
「さて、ではお願いします」
「はい。噂話には人間の顔を持った犬が堆肥を漁っている、といったものや、足を売っている老婆がいるといったものがありまして。これらは私のいた世界で流行った怪談話――いわゆる都市伝説になるんです」
「外の世界の怪異――都市伝説とやらが幻想郷に入ってきている、と?」
「そうなります。私は話してないのに、聞き覚えのある話がどこからか流入しています」
「ふむ……」
筆を止めた阿求が思案するように腕を組む。
その姿は童女が腕を組む可愛らしいそれであったが、早苗はそんな阿求から言い知れぬ迫力が滲んでいることに気づいていた。
これが御阿礼の子。楓が生涯を捧げ、未来も捧げる一族。
求聞持の力を所持し、見聞きしたことを忘れない彼女の頭にはどんな考えが渦巻いているのか。
早苗は意図せず固唾を呑み、彼女の言葉を待つ。
「……ああ、お待ち下さい阿求様。早苗の話を聞いて私も思い出したことがあります」
「うん? なに、お兄ちゃん」
「霊夢らが最近、オカルトなる怪異の噂話を逆手に取って、自らの力にしているのです」
「どういうこと?」
「早苗の語る都市伝説と同じように、これらは噂話です。噂話とは口伝によって伝わるもので、その形も容易に捻じ曲げることができる」
「都市伝説を都合の良いように書き換えて、自分の力にしているってこと?」
「全容を知っているわけではありませんが、おそらく間違いないかと。霊夢がスキマを操っているのを見た覚えがあります」
結界術に長けた霊夢ならばいずれスキマを開くことも可能になるとは思っていたが、楓が見た限りそういった成長した末の技術とは別物だった。
「……ねえ、お兄ちゃん。そのオカルトの制御って噂話を私たちで改変して力に変えているのよね」
「そのはずです」
「都市伝説の改変さえできれば誰でもできますね。どんなオカルトを使うかは自分の能力に合わせる必要がありますが」
「ううん……」
阿求が難しい顔で腕組みを続けており、楓も早苗も彼女の言葉を待って黙っている。
「……話はわかりました。早苗さんはお知らせくださりありがとうございます。異変の先触れかもしれませんし、私たちの方でも注視してみます」
「はい、よろしくおねがいします。それにしても都市伝説まで自分の力にするなんてすごいですよね。発想で負けた気がします」
「恐れ知らずなだけだろう」
「だとしても、ですよ。私も出遅れるわけにはいきません! では、お邪魔しました!」
何に対抗意識を燃やしているのかわからないが、両手に力を込めた早苗が行儀よく屋敷から出ていくのを見送り、阿求と楓は顔を見合わせる。
「……お兄ちゃん」
「はい、何でしょう」
「都市伝説の噂を自分の力にするよう改変できれば、私でもオカルトの制御ってできるのかしら」
「理屈の上では可能かと。阿求様?」
「うん、ちょっと思いついたことがあるの。――私も一度くらいみんなと同じように遊びたいなって」
「弾幕ごっこで、という意味ですか?」
それだと楓はあまり良い顔をできなかった。
阿求は普通の少女と同じ健常な肉体を持っているが、弾幕ごっこは相応の危険も伴う遊びだ。
あくまで霊力も人並みな阿求では空を飛ぶのにも苦心するだろうし、そんな状態で弾幕ごっこをやったら万が一があってもおかしくない。
楓が渋い顔をしているのがわかったのだろう。阿求もさすがに生身で同じことをやろうとは思っていなかった。
「今、この状態で遊びたいって意味じゃないよ。ただ――オカルトの力を纏ったなら、私でもいい勝負できるんじゃないかって思うの」
「何かお考えが?」
「うん、あのね――」
早苗が都市伝説の情報を楓たちにもたらした翌日、人里ではこんな噂が流れていた。
曰く、オカルトボールと呼ばれる玉を七つ集めると、どんな願いでも叶うというもの。
楓はこの噂に関しては耳に留め、記憶するようにしていた。
「突拍子がない割に内容が具体的だ。突拍子がないだけならいつものことだが、内容に踏み込んでいるとなるともっとわかりやすい――意図的に誰かが噂をバラ撒いた可能性がある」
「目的はそのオカルトボールとやらを集めさせるため、ってことになるわね」
自警団の詰め所で天子と情報をまとめ、楓が千里眼で皆が動き出していることも語る。
「霊夢たちや他の妖怪も動き始めている。結構な数の人妖がこの噂を信じて……いや、真偽を確かめる意味でも動いているのだろう」
「現時点で人里に被害はないけど、どうするわけ?」
「……一応、霊夢の方に行ってもらえないか。オカルトボールがそもそも何なのか。本当に七つ存在するのか。七つ集めて何が起こるのか。七つ集めること自体が黒幕の目的で、願いを叶えるのは完全に眉唾だと思うが、確証がない」
そもそも最初の噂が正しいのかという問題すらある。
情報集めにも苦労しそうだと楓は嘆息し、それでもせめて霊夢には正しい情報を送ろうと天子を向かわせることを選択する。
「霊夢と一緒にいれば正誤はさておき情報は集まる。あいつはそういうやつだ」
「勘で最適解を突き進める博麗の巫女だからこそね。あんたはどうするの?」
「虎穴に入らずんば、と言うだろう。俺は異変に参加する形で動こうと思う。というかそれ以外に道がない」
「何かあったの?」
「……阿求様がオカルトの力を纏うことに成功されてな。異変の参加に前向きなんだ」
そうなると楓も参加せざるを得ない。
というか阿求が纏っているオカルトが他者の力を借りる方向性であることと、その影響で生まれたスペルカードも十分な霊力が貯まらないと使えない関係上、楓が側で護衛する必要がある。
その辺りの事情を話すと天子は興味深そうにうなずき、それなら阿求の方へ行くよう話す。
「だったらそっちに行きなさい。あんたがそういう人間だってのはわかってるし、阿求が乗り気なんでしょう? 従者は従者らしく盛り立てて来なさいな」
「助かる。……ただ、俺も本気で戦うわけじゃないから、異変の本筋から外れるかもしれない。俺の方はあんまり当てにしないでくれ」
「ん、了解」
詰め所を出ていき、阿求のもとへ向かう楓を見送り、残された天子は肩をすくめてまたやってきた冒険に胸を躍らせる。
「都市伝説とオカルトボール……本当、幻想郷は冒険が尽きなくて楽しいったらないわね!」
天子が霊夢のもとを訪れた時、霊夢は見慣れない黒紫色の球体を片手に首を傾げているところだった。
「オカルトボールねえ……魔理沙と弾幕ごっこしてたら出てきたけど、これは何なのかしら」
「お、さすが博麗の巫女。すでにオカルトボールを手にしていたのね」
「んぁ、天子?」
「楓から言われてね。こっちに来たわ」
「なるほど。楓は?」
「阿求の方に行ったわ。阿求は今回の異変、参加に前向きみたいよ」
「ふぅん……まあ余所は余所で好きにやればいいわ。私もさすがに阿求が異変の本筋に関わってるとは思わないし」
無論、それはそれとして立ちはだかるなら誰が相手だろうと容赦しないが、邪魔しないなら好きにしてくれという心境である。
「で、人里ではこのオカルトボールを七つ集めたらどんな願いでも叶うと来た。願いは眉唾だとしても、少しオカルトボールには興味が出てきたわ」
「何か面白いものでもあった?」
「ちょっと持ってみなさい」
霊夢から渡された球体を天子が持つと、その手にずっしりとした石の重みと冷たさが伝わってくる。
同時に得体のしれない力が込められていることにも気づき、天子は眉をひそめた。
「……奇妙な力が集まってるわね」
「でしょう。んで、持っている限り手放しても手元に戻ってくる」
天子の手にあったオカルトボールを霊夢が遠くへ放り投げるも、次の瞬間には霊夢の手に再び収まっていた。
「これは勘だけど、集めると逆に不味いと私は睨んでいるわ。魔理沙と弾幕ごっこしてる時に出てきたものだから、力を吸収する性質を持っている」
「そうして集まった力がどう作用するかわからない、と」
「そういうこと。あとオカルトボール自体の性質にも気になるところがある。私は動くけど天子はどうする?」
「そっちについて行くわ。さすがは博麗の巫女。異変解決はお手の物ね」
適当に動くことが最適解となるなど、楓が霊夢を羨ましがる理由がわかるものである。
「ん、わかった。じゃあキビキビ動くわよ!」
早速動き出した霊夢と天子はまず、オカルトボールを集めることを最優先目標とした。
「集めると不味くても弾幕ごっこで生まれる以上、突出した勢力があればそっちに集まるわ。自分たちの関与しないところでボールが七つ集まってしまう状況が一番不味い」
「私たちが一個持っている時点で他が七つ集める、なんて無理じゃないの?」
「生成される条件がわかってない。七つ以上あるボールを七つ集めたら、という可能性が否定できないでしょう」
言われると確かに。オカルトボールについて何もわかっていない以上、楽観視は危険であると霊夢は話しているのだ。
「なるほど。まあそっちの意見に従うわ。っと、あれは?」
とりあえず勘に頼って飛んでいた霊夢たちの前に一人の少女が現れる。
シニョンキャップを二つ頭に付け、指先から肩口まで包帯に覆われた右腕と、重そうな鎖付きの手枷を嵌められた左腕が特徴の桃色の髪を持つ少女だ。
天子はその姿に見覚えがなかったが、霊夢にはあったようで彼女に声をかけた。
「
「その玉……魔理沙から取ったのですか?」
「だったらどうしたってのよ。あんたがここまで来るなんて珍しい」
何しに来たのかわからない、といった口ぶりの霊夢だが、体勢はすでに戦闘用のものとなっており、華仙と呼ばれた少女が敵意を発しているのがわかっていた。
華仙はわかっているのかいないのか、説教じみた口ぶりで霊夢の持つ玉の危険性を説く。
「都市伝説についてはあなたも知っているようね。オカルトボールを七つ集めたら――」
「願いが叶うってやつ?」
「大異変が起きると――あら? 私が聞いた話と違うわね」
「そもそもオカルトボールの噂話を誰が広めたかもわからないっての。これ、持ってて良いものなの?」
「それはわからない。……だけど、ここで戦えばもう一個生まれるのでしょう!」
言うが否や、華仙の右腕の包帯が膨れ上がり霊夢たちに襲いかかる。
奇襲となった形だが、霊夢も天子も相手の行動に驚くことはなく、どちらも後ろに下がって攻撃を回避した。
華仙は傍らに巨大な猛禽を侍らせながら、霊夢と天子の二人を睥睨する。
「戦うってんなら容赦はしない! 異変解決の巫女に刃向かう恐ろしさを味わわせてやるわ!」
「相手は選ぶべきだったわね、仙人! 動物を操る能力も結構だけど天人の神通力の方が上よ!」
博麗神社からほど近い場所。そこで霊夢と天子はそれぞれの手にお祓い棒と緋想の剣を構え、片腕有角の仙人へと挑みかかっていくのであった。
「……ふむ」
「お兄ちゃん、どうかした?」
「霊夢の方に向かわせていた天子が誰かと戦い始めました。見覚えはあるんですが、話した覚えのない少女ですね」
「どんな感じの人?」
人里を阿求と二人で歩いていた楓が千里眼で見えた情報を阿求に共有する。
それを聞いた阿求も覚えがないと首を横に振り、わからないと特定を諦めた。
「うーん、私も知らない人だ。そっちの結果が出たら教えて」
「かしこまりました」
「オカルトボールなるものを七つ集めたら願いが叶う。私たちは今現在、三つ手元にある。結構順調に集まるものね」
「一輪、こいし、こころから獲得しました」
オカルトボールを集めたら覚りが開けるという噂話を確かめるべく襲ってくるものもいれば、ただ純粋に自らの都市伝説がどこまで通じるか襲ってきたものもいる。
こころは楓がうろついていたのを見かけたので喧嘩売ってきたのを返り討ちにしていた。楓としてはいつものこと扱いに入る出来事である。
「こころちゃん、そんなにお兄ちゃんに襲いかかってきてるの?」
「しょっちゅう襲われてはいますね。全部無傷であしらってますが」
あしらわれたこころはひとしきり悔しそうにした後、普通に楓と話して行ったり、茶屋の菓子をねだってくるのが通例となっていた。
そのため楓は彼女のことはそこまで嫌っていないというか、むしろ友達だと思っていた。
おそらくこころも友達だとは思っているだろう。それはそれとして暗黒能楽のために襲ってくるだけで。
「物騒な懐かれ方してるなあ……」
「わかりやすいので個人的に嫌いじゃありませんけどね。襲うにしても殺意があるわけでもなし」
「寛容さが高すぎる……」
殺されなければ良いのだろうか。
真面目に考えたら深淵に踏み込みそうな楓の交友関係を、阿求は一旦横に置く。
ともあれ阿求たち一行はすでに三回の弾幕ごっこを経て、オカルトボールを三つ集めることに成功していた。
楓が前に出て陽動と防衛を行い、その間に都市伝説の力も借りて用意した阿求のスペルカードで一掃する。この組み合わせが上手くハマり、今のところは連戦連勝を続けている。
「それにしても私たちって強いよね? 弾幕ごっこデビューで連戦連勝だもん!」
「人里に稗田阿求ありと言えるでしょう。広めてきましょうか?」
「ふふん、それはもっと勝ってからでも遅くないわ」
胸を張って自慢気にする阿求を穏やかな目で見つめた後、楓は道の先から向かってくる一人の少女に焦点を合わせた。
「その意気です。――さて、お前は何の用だ、マミゾウ」
煙管を片手に現れたマミゾウは煙管を持たない手をひらひらと上げ、戦意がないことをアピールする。
「なに、見慣れた童が異変解決と息巻いておるから何事かと気になっただけじゃ。オカルトボール、だったかのう」
「そうだな。十中八九、幻想郷の外部から持ち込まれたものだと思うが」
「え!?」
「ほっほ、気づいておったのか」
弾幕ごっこをすれば生成される石など――そんなものがあったならもっと昔から周知されているはずである。
今、このタイミングで生成されること。そして早苗から聞いた都市伝説の話。二つを組み合わせればオカルトボールの出処は予想ができた。
「まあそれがわかってもこっちにできることがない。七つ集めるのが不味いことだからといって、手をこまねいている間に他の勢力が集めたら意味がない。それに――」
「それに?」
「今は阿求様の願いを叶えることが最優先だ。集めた先に何があったとて、その先を決める権利があるのは勝者だけだ」
「なるほどのう。のう阿求や、オカルトボールについて儂の知っていることと黒幕の予想を話そう。儂を襲うのはそれで勘弁してもらえないかのう?」
「もちろん構いません! え、というかマミゾウさんは戦えるんですか?」
「不得手ではあるが、無理とは言わんよ。長生きしとると色々あるものじゃ」
そこで話そうかの、と言って茶屋を促したマミゾウに阿求と楓の二人はついていく。
キラキラした糖蜜がたっぷりとかかったみつ豆を美味しそうに頬張る阿求を横目に、楓は所持しているオカルトボールをマミゾウに見せる。
「ふむ……やはりか」
「何かわかったか?」
「まずお主の見立ては正しい。これは外の世界のパワーストーンというやつじゃな」
「パワーストーン?」
「文字通り、力のこもった石じゃ。これさえあれば誰でも結界を破ることができる」
結界を破る、という言葉の意味がピンときていなかったのか阿求は首をかしげるが、楓はそれの意図するところが読み取れてしまう。
「……一つだけでもできるのか?」
「できぬ。お主はもう察しておるようじゃが、博麗大結界を破るには一つでは足りぬ」
「なるほど、七つ集めたら願いが叶う、というのは黒幕の願いだったか」
「左様。このパワーストーンを七つ集めさせ、その力を持って結界を破ることが黒幕の目的じゃろう」
「……え? これってそんなに大掛かりな異変だったんですか?」
「異変は多かれ少なかれこんなものですよ。対処を間違えれば幻想郷が大変なことになりますが、まあいつものことです」
「さすが、人里の守護者様は歴戦じゃのう。それに阿求や、こう考えれば良い。その大変な異変になりそうだったものが、儂らの情報で事前に知ることができた、とな」
何も知らずにオカルトボールを七つ集めた状況に比べれば遥かにマシである。
しかし黒幕の狙いを知った以上、阿求たちも何も知らないままオカルトボール集めはできそうにない。
それは楓としても望まない。阿求の願いはこのお祭り騒ぎに乗っかっていっぱい遊ぶことなのだから、彼女が遊べない状況などクソくらえである。
「七つ集めても問題ない状態を作れば良い。マミゾウ」
「守護者様はもう考えついたのかえ?」
自分には思いつかないという顔をしているマミゾウだったが、楓は彼女が自分と同じことを考えていたに違いないと確信していた。
「よく言う。――オカルトボールに化けられるか?」
「朝飯前じゃ。何だったら外の世界の黒幕とやらを化かしてやっても良いぞ?」
「それが良いだろうな。ただ企てに失敗した、よりは痛い目を見せた方が同じことを危惧しなくて済む」
「マミゾウさんに化けてもらった状態でオカルトボールを七つ集めて、外の世界の黒幕に目的が達成できると誤認させる、ってこと?」
「はい。必要だったらそのまま幻想郷に招いても良い。――ただし、もどり道となるオカルトボールはマミゾウが化けているので戻れなくなりますが」
「うわぁ……」
阿求はそっと黒幕に同情する。外の世界を知るマミゾウと、情報さえ揃っていれば必ず答えを出せる楓が揃っていたのが運の尽きだ。
「外から幻想を盗み見ようとしたのじゃ。相応のリスクは背負ってもらわんと割に合わんよ。なに、儂も鬼じゃない。適当なところで外の世界には戻してやると約束しよう」
「だそうです。後は我々で七つ集めれば終わりです」
「もしくは七つ集めそうな勢力に突っ込んでマミゾウさんが化けたものを渡せれば良い、と。うん、これなら私もまだまだ遊べそう!」
「早速頼めるか」
「ほいほい……っと!」
マミゾウは葉っぱを頭に乗せるとくるりと回り、次の瞬間には楓が所持しているものと寸分たがわないオカルトボールがそこにあった。
持ってみれば石の冷たさと重さ、込められた力までそっくりそのまま再現されていた。
これなら黒幕だろうと化かせるだろう。楓は期せずして手に入った四つ目のオカルトボールを弄びながら阿求の方へ向き直った。
「食べ終わったら行きましょう。間違いなく我々が一番異変に近づいた組です」
「うん! えへへ、異変解決ってとっても面白いのね! お兄ちゃんはいつもこんなことしてるんだ……」
「こう上手く行く時ばかりでもありませんが……む」
楓の視界に霊夢たちが一直線に向かってきているのが映った。どうやら桃髪の少女との弾幕ごっこは霊夢たちの勝利で終わったらしい。
阿求に報告し、二人で人里の広場で迎え撃つことにする。
広場で阿求と待っていると、霊夢が天子とともにオカルトボールを二つ携え、楓たちの前に現れた。
「あんたもこのお祭り騒ぎに参加してたのね」
「阿求様の意向でな」
「オカルトボールは四つ。なに、願いが叶うなんて話を真に受けたの?」
「まさか。真意を知りたければ……これ以上は言う必要もなかろう」
楓は腰を落とし、隣に立つ阿求が自信満々な力強い表情で一枚のスペルカードを準備する。
「俺たちは二人一組で戦う。俺が前衛で阿求様が後ろでスペルカードを使う。俺が負けたら阿求様も負けで良い」
「なるほど。というか阿求、スペルカードなんて持ってたのね」
「この一枚だけですよ。ですが、霊夢さんの度肝を抜くことはお約束します」
「ふぅん……だったら始めましょうか! 異変解決に動く博麗の巫女の恐ろしさを教えてあげるわ!」
霊夢と天子が楓に殺到し、楓は刀を抜くことなく二人を迎撃する。
今回の遊びをするに当たって阿求は楓に本気で遊ぶことを命じ、その結果で勝っても負けても自分は気にしないと言ってある。
それ故楓は本領である抜刀をせず、体術のみで阿求と一緒に弾幕ごっこに興じていた。
霊夢のお祓い棒による打撃を受け流し、緋想の剣による斬撃を下がって回避し、更に天子の身体に蹴りを入れて霊夢の方へぶつけようとする。
しかし霊夢は天子を見ることすらせずに避け、天子もすぐに体勢を立て直して要石による弾幕を放つ。
さすがに霊夢と天子、二人の攻撃を素手で捌き切るのは難しかったのか、楓の腕に弾幕の火傷がいくつか生まれるが、それだけで彼の防御を崩すには至らない。
「私の都市伝説は狐憑き。奇行に走る人を人々はそう呼びました」
朗々と語られる阿求の頭頂部には可愛らしい狐の耳が生えており、同時に迸るような霊力がスペルカードに集まっているのがわかった。
急いだほうが良い、と霊夢の勘が告げているものの、楓は完全に攻撃を捨てて専守防衛に徹しており二人がかりでも突破には時間がかかることが自明の理だった。
「ですが狐憑きにはこうした言い換えもできます。――それは守護霊が憑いているのだと」
「守護霊――阿求! あんたまさか!!」
「本人でなくても構わない。一時の幻影であっても喜んで私はこの幻想に身を委ねましょう。――火継『我が最愛の灯火よここに』!!」
高らかに語られた阿求の言葉と同時にスペルカードが発動し――それは一人の人間の形を取る。
楓とよく似た和装で、一刀を携えた老年の男性だ。
男性の目は鋭く細められ、霊夢たちを睨んで佇んでいる。
そんな男性の右手を阿求は愛おしそうに左手で握り、空いた右手をいつの間にか戻っていた楓に差し伸べる。
大好きな家族と両手を握り合わせた阿求は、絶句して目を見開いている霊夢らを前に力強く自分の意思を謳った。
「さあ、行こう! お祖父ちゃん、お兄ちゃん!! 今回の異変の主役は私たちよ!!」
『御意』
ノッブ(スペルカード)
詳しいお話は次回いたしますが、スペルカードとして再現されているだけで本人ではありません。
今回の異変の一度限り。夢幻の如き親子の異変解決をお楽しみいただければ幸いです。