阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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遅くなりました。狭間の地が私を呼んでいる……。


彼女らは勝ち過ぎてしまった

 人里を練り歩いている二人の前に現れたのは霧雨魔理沙その人だった。

 

「よう、楓はともかく阿求まで出歩いているのは珍しいな」

「今回の異変は私も参加しようと思いまして。オカルトボールもあるんですよ?」

「てことは誰かは知らないが、弾幕ごっこで勝ったのか。へえ、どんな手品を使ったんだ?」

 

 魔理沙の質問に阿求は強気に笑い、一枚のスペルカードを用意する。

 

「気になるなら確かめてみます? オカルトという都市伝説の力が使える今回限りのものですが、間違いなく私の人生最高のスペルカードですよ?」

「大きく出たな。そういや霊夢は見てないのか? こういう時は真っ先に動くだろうに」

「もう顔を合わせて弾幕ごっこをしましたよ。あいにく、途中でオカルトボールが七個できてしまったので結果はお流れになってしまいましたが」

「七つ集めたら……願いは叶ったか?」

 

 楓と阿求は揃って肩をすくめた。

 

「そういう代物じゃなかったな。あれ自体は外の世界から持ち込まれたもので、七つ集めると結界を破壊しながら外に向かうものらしい」

「詳しいな。知っているやつがいたのか?」

「そんなところだ。――さて、オカルトボールはお前の想像するようなものじゃないが、やっていくか?」

「ぶつかり合うと生まれるオカルトボールが望んだものじゃないのは残念だが――弾幕ごっこに理由はいらないよな?」

 

 阿求がここまで自信満々にするだけのスペルカードにも興味があった。

 魔理沙は魔法のほうきにまたがり直し、空を飛ぶと楓も追随する形で空を飛んだ。

 

「戦うのは俺がやるが、スペルカードは阿求様のものになる。俺を落とす、ないしスペルカードの攻略がお前の勝ちだ」

「なるほど、阿求は飛べないと思ったが楓との変則マッチか。良いぜ、乗った」

「では始めよう。俺は剣を抜かないが――当たりどころが悪ければ死ぬかもな?」

「そんなミスしないって点は信じてるぜ、楓!」

 

 ミニ八卦炉から星型の弾幕がいくつも放たれ、楓がそれらを飛び越えて接近する。

 しかし魔理沙はほうきを翻し、楓から一目散に距離を取っていく。

 

「霊夢と殴り合えるやつ相手に近接戦なんてお断りだぜ!」

「そう言うな。付き合ってもらうぞ」

「へっ、嫌だね!」

 

 魔理沙が頭上に放り投げた魔法瓶が破裂し、中に込められていた星の魔力が流星の如く無数に散らばる。

 綺羅星煌めく空間で一切の被弾なしに切り抜ける自信はなかったのか、楓は深入りすることなく後ろに下がり、魔理沙の手元を注視した。

 ミニ八卦炉と魔法瓶が魔理沙の使う主な魔法だ。そしてどちらの使用にも手の動きが不可欠となる。

 行動の起点が見えていれば必ず対処できる。自信ではなく、事実としてそう考えていた楓だが、魔理沙はその視線に気づいてニヤリと笑う。

 

「手だけだと思ったら大間違いだぜ、楓!」

 

 スカートの内側に隠していた魔法瓶を落とし、器用に足で拾い上げると楓目掛けて蹴飛ばしてくる。

 

「器用なやつだが、一発芸だな」

「だと思うか? 足と手は別に動くんだぜ?」

 

 危なげなく避けた楓を魔理沙のミニ八卦炉が狙っていた。

 足元で炸裂した弾幕のせいで一直線に距離を取ることができない。そして魔理沙の弾幕はそんな楓をお構いなしに射抜く。

 

「まずは食らっとけ――マスタースパーク!!」

「――っ!」

 

 直撃したら阿求がスペルカードを使う間もなく負けてしまう。

 それは不味いと判断した楓は魔法瓶の弾幕を強引に抜け、多少の手傷と引き換えにマスタースパークを回避する。

 

「避けたか。とはいえ無傷じゃないみたいだな」

「慢心と受け止めよう」

 

 本来ならこの会話の間に治る程度の傷だが、今回は遊びの範疇でやっているため人間と条件を揃えるべく、傷はあえて再生させない。

 

「だがもう少し急ぐべきだったな。阿求様の準備は終わった」

「――火継『我が最愛の灯火よここに』!」

「待ってやったんだよ。スペルカードも見せずに終わるなんてつまらないから……そう来たか……」

 

 召喚されたスペルカードの姿を見て、こと弾幕ごっこにおいては歴戦である魔理沙が絶句する。

 スペルカードの使用を終えた阿求も狐の耳を生やして魔理沙と相対した。

 

「霊夢さんも驚いてましたよ。私が世界で一番信じられる人たちですから」

「色々と世話になった身だし、やりにくさはあるが――はいそうですかと負けてやる義理はないな!」

「お兄ちゃん、お祖父ちゃんと仕掛けて! 魔理沙さんは一発が大きいけどそれさえ見抜ければ!!」

「おっと、甘いぜ!」

 

 右から楓が、左から祖父が挟撃を仕掛けようと動くが、それより早く魔理沙がさらに上空へ飛び上がる。

 

「霊夢みたいに体術バカじゃないんだ。苦手分野で勝負してやるほど優しくはないぜ」

 

 楓たちの上からいくつもの魔法瓶がバラ撒かれ、破裂して星型の弾幕が流星雨の如く降り注ぐ。

 下がれば回避は容易いが、接近戦以外の攻撃方法がない自分たちでは攻めあぐねてしまう。

 すでに軽い怪我を負っている現状、さらなるリスクを背負って勝ちに行くべきか楓は一瞬だけ逡巡するが、傍らのスペルカードは迷わず魔理沙への接近を選択していた。

 

「――っ!」

「迷うな。守りは相手の優位になると考えろ」

「っ、申し訳ありません!」

 

 よもや幻とはいえ父に諭されるとは。

 だいぶ父の領域に近づいたと自惚れていたと自戒しつつ、楓も流星群へ飛び込む形で弾幕の中へ入っていく。

 そうだ、阿求のスペルカードはオカルトとしての力も借りた破格のスペルカードだが、弾幕ごっこのルール上、決して永続するわけではない。

 このスペルカードは阿求たちの勝利に欠かせない明確な切り札であると同時、攻略されたらその時点での敗北が確定するものなのだ。

 発動させた以上、攻め続ける以外に道はない。守りに入ったところでスペルカードを発動していられる時間が目減りしていくだけである。

 

「父上!」

「――!」

 

 視線でのやり取りでお互いの考えを読み取らせる。

 父の技量の再現こそできていないが、逆に言えば再現できなかった部分はそれぐらいである。阿七、阿弥、阿求と三代続けて仕え続けた男のパーソナリティはほぼ完璧に再現されている。

 魔理沙は速度を緩めず弾幕に向かってくる二人を前に挑発的な笑みを浮かべた。

 

「向かってくるか、上等! 弾幕から出てきたところを撃ち落としてやるぜ!」

「――っ!」

 

 流星群の弾幕をくぐり抜けながら、楓とスペルカードは一度合流し二人で突破を図っていく。

 無策で弾幕を抜けたら魔理沙に狙い撃ちにされる。それは互いの共通認識だった。

 そして狙い撃ちでマスタースパークなどの大技を受ければ、楓と言えど戦闘不能は免れない。

 

(だが弾幕で魔理沙はこちらを確認できていない。弾幕の密度が濃いのも考えものだ)

 

 煌めく星々の輝きは楓たちの目にも眩いが、魔理沙にとってもこちらを視認しづらくなるデメリットがあった。

 楓たちは合流後、協力しながら二人で弾幕を突破して魔理沙の眼下に現れる。

 挟撃すべく別れていた二人が合流していたことに魔理沙は少しだけ驚いた様子を見せるが、知ったことではないとミニ八卦炉を向けた。

 

「二人一緒だろうと、私の魔法は撃ち抜く!」

「――今!」

 

 楓の合図と同時、二人が再び左右に分かれて動く。

 魔理沙のミニ八卦炉は一瞬だけ止まるが、すぐに楓の方へ狙いを定めた。

 

「お前さえ倒せば勝ちなんだ。集中狙いさせてもらうぜ!」

「――いいや、お前の負けだ」

 

 一瞬でも阿求のスペルカードから視線を切った時点で、魔理沙の敗北は必定になっていた。

 魔理沙は今の彼を人間時代と同様のものだと思い込んでしまっていた。

 阿求がスペルカードによって再現した彼は生前の技量を失い、引き換えに都市伝説としての強度に物を言わせた身体能力こそが持ち味。

 楓に視線を向けた一瞬の間に、懐まで潜り込むことなど造作もない。

 

「な、速……っ!?」

「人間の再現と侮ったな、魔理沙」

 

 懐まで潜り込まれた時点で魔理沙に成す術はなく。

 阿求が切り札と信じるスペルカードの斬撃という弾幕に切り刻まれ、地に落ちていくのであった。

 

 

 

「んぁー! 負けた! 爺ちゃんを人間時代のやつだと勘違いしてた! あんな速いなんて聞いてないぜ!」

 

 地上に落とされたものの、予め落下地点で構えていた楓が彼女を抱き止めることで、無傷で着地した魔理沙はピンピンした様子で悔しそうに地団駄を踏む。

 阿求はそんな彼女に微笑みかけながらも、自分たちの勝利であることを喜ぶ。

 

「言ってませんから。霊夢さんはすぐ見抜きましたけどね」

「あいつは爺ちゃんから稽古をつけてもらってたんだろ? それなら気づくのもあり得るか」

「まあ勝ったのは私たちですけど! お祖父ちゃんとお兄ちゃんは最強なんです!」

「くっそー! もう一回勝負しろ! ……って言いたいけど、これ異変の時だけなんだろ? あんまり時間取らせるのも悪いか」

「それにオカルトボールも出てきちゃいましたし。もう集めるつもりもないんですけど、結局集まっちゃうんですよね」

 

 すでに楓の手元には二つのオカルトボールがある。

 魔理沙と戦う前に戦った白蓮と、魔理沙のオカルトボールで二つが手中にある状態だった。

 

「七つ集めさえしなけりゃ結界は破られないんだろ。後のことは後で考えれば良いんじゃないか?」

「魔理沙の言う通りかと。また集まったら霊夢に任せる手もあります」

「そうね。七つ集まらない範囲であれば気軽に遊べる異変だし」

「じゃあ私もオカルトボール集めはやめて、オカルトの力で遊んでる奴らと弾幕ごっこするだけに留めておくかな。阿求も遊ぶんだろ?」

「こんな機会、一生であるかないかですから! お祖父ちゃんとお兄ちゃんの強さをもっと堪能します」

「ということだ。なので俺も異変の本筋は霊夢に任せて、阿求様の剣となり、盾となっている」

「なるほどな。じゃあ私はそろそろ行くぜ。ああ、あと阿求に弾幕ごっこの先輩から一つアドバイスだ」

「なんですか?」

「――あんまり勝ち過ぎるな。こんな異変だと、特にな」

 

 意味深な魔理沙の言葉を阿求が聞き返す前に、彼女は魔法のほうきに跨って飛んでいってしまう。

 

「どういう意味だろう、お兄ちゃん」

「言葉通りの意味かと。我々の今までの勝ち方を覚えておられますか?」

「え? えーっと……お兄ちゃんが守りを固めて、その間に私がスペルカードを発動。発動後に一気に攻めて勝つ、って流れだよね?」

「はい。我々の勝ちパターンは概ねそれに集約されます。言い換えれば、初見殺しが上手く嵌っているとも」

「ふむふむ」

「となれば、二回目以降は間違いなく対策されます。私を集中狙いするか、スペルカード発動後は徹底して逃げるか。その二つの策を取られるだけで一気に苦しくなる」

 

 阿求のスペルカードが攻略されそうになったのは霊夢との戦いを除けば存在しないが、攻略しようと思えば攻略は可能だろう。

 そもそも、発動時点で制限時間があるのだ。その間を逃げ回るだけでも勝利できてしまう。

 

「そしてもう一つ――突出した相手というのは袋叩きにあいやすい」

「あ……」

「我々は勝ち過ぎている。まだ良いかもしれませんが、いずれは――」

「おや、楓さんたちではありませんか」

 

 話の途中に割り込んできたのは豊聡耳神子だった。

 希望が失われた異変の時と同じ、大仰なマントを羽織った姿で楓たちに声をかけてくる。

 

「お二人も異変解決に乗り出されたので?」

「いや、我々は異変にかこつけて遊ぼうと思っているだけだ。オカルトボールも集まってしまうが」

「二つですか。……ふむ」

 

 神子は笏で口元を隠しながら思案する。

 正直、御阿礼の子と阿礼狂いが一緒にいる時点でできることなら関わりたくない面子だが、神子の行動目的上、オカルトボールを所持している組と話さないわけにはいかない。

 神子もまた、独自の情報網と自身の見識によりオカルトボールの性質を見抜き、これを全て集めることを目的としているのだ。

 

「私も実はオカルトボールを集めてまして。楓さん、私の知りうる事情をお話いたしますので譲ってもらうことはできませんか?」

「戦わないと譲れないということはわかっているだろうな?」

「もちろん。ですが、あなたは話が通じる相手である、と確信しております」

「阿求様」

「お話だけでも聞いてみましょう? 私たちも知らない事実があるかもしれないし」

「話の機会をいただけることに感謝を。では、オカルトボールが七つ以上存在することはご存知ですか?」

「俺たちは一度、七つ集めることに成功している。その時は七つ集まったオカルトボールが博麗大結界を一部破り、外の世界に通じた」

「さすが。楓さんの周りはいつも情報が集まりますね」

「巡り合わせが良いだけだ。感謝の心は忘れないようにしている」

 

 異変の本筋に関わる気もなかったのだが、マミゾウの話を聞いていなければ不味い事態になっていた可能性もある。

 楓とて一個人。想像力には限界があり、幻想郷の異変は想像の斜め上を行くことも多々ある。

 そういった時に頼れるのはやはり人の縁である。なので楓は知らない人とも積極的に交流を深め、友誼を結ぶことに躊躇はなかった。

 

「素晴らしい心がけです。――ではその先、オカルトボールがその役目を終えた時にどうなるかはご存知ですか?」

「……いや、知らないな。消えるのではないのか?」

 

 というより、黒幕の目的から推察するにオカルトボールが役目を終えた後を考えているとは思えなかった。

 なにせ黒幕の目的は外の世界から幻想郷へ自分の意志で訪れること。

 マミゾウに化けたオカルトボールを使ったとは言え、その目的は半ば達せられている。

 後始末のことまで考えているなら、最初からオカルトボールの数を決めておくはずだ。

 

「残念ながらオカルトボールは消えません。むしろ分裂し、さらなるオカルトを招きます」

「……そういう性質なのか?」

「おそらくは。ですがご安心を。対策もすでに発見しております」

「というと?」

「これらは集まると幻想郷の結界を破壊しますが、逆に言えば幻想郷の結界のみです。我らが住まう仙界に持ち込めば安全に無力化できる」

「なるほど。すでに一度七つ集めて結界は破られたのだから、後は集めておけば良いわけか」

「そうですね。私からの説明は以上になります」

「お兄ちゃん、どうする?」

「ふむ……」

 

 どうしたものか。オカルトボールは結界を破る用途に用いられているが、力の塊でもある。

 それを数集めて神子が管理する、というのは幻想郷のパワーバランス的によろしくない。

 仙界におけば無力化して管理できるとはつまり、いつでも幻想郷の結界を破壊できる力を保持するとも言い換えられる。

 

「……一つ、気になっていることがある。それの答え次第で協力を考えよう」

「拝聴します。どういったものでしょうか?」

「オカルトボールは全てが外の世界由来のものではない。俺の知る限りでは黄泉比良坂からのオカルトボールも存在している」

「ふむふむ、続けてください」

「――黒幕以外の誰かが意図してオカルトボールを作った可能性はないか?」

 

 楓が提示した可能性を神子も考えていたのか、にこやかな顔から笑みが消えて先を促してくる。

 

「…………」

「俺が懸念しているのは異変が終わった後に誰か第三者が状況を手のひらで動かしていたのではないか、というものだ」

「……実を言えば私も考えていた可能性でした。ですが結論はおそらく楓さんと同じ。――知ったところで現時点でできることはない」

「…………」

「おそらく楓さんの推測は正しい。この状況を利用した第三者は確かにいるでしょう。しかしこちらで打てる手は何もありません。強いて言えば今回の異変を完璧な形で終わらせて、後顧の憂いを残さないことでしょうか」

「……そうだな。言う通りだ」

 

 神子の言葉に楓もうなずくしかなかった。

 

「阿求様」

「お話はわかりました。私たちもオカルトボールを集めて封印することには賛成です。ですが――それは何も仙界だけで可能な話ではないでしょう?」

「む……」

「私たちが勝ったらオカルトボールは霊夢さんに渡します。結界に長けている博麗の巫女なら良い封印も可能でしょうから」

「気づいてしまいましたか。ええ、それも一つの解決策でしょう」

「となれば――後はどちらが勝つか、ですよね?」

 

 好戦的に笑う阿求の手には一枚のスペルカードが握られていた。

 それが意味するところをわからないほど、神子も幻想郷で日が浅いわけではない。

 

「結局こうなりますか。ですが、今回は私にも勝ち目のある勝負のようですね!」

「それはどうでしょう。私のスペルカードはとっておきですよ」

 

 阿求が楓の後ろに下がり、楓が両の拳を握って構えを取る。

 神子もまた笏を片手に裏地の赤いマントを翻し、楓と相対した。

 

「どちらが勝っても恨みっこなし。お互いの目的のため戦いましょう。ということでさっきから実は溜めておいた霊力で発動です! ――火継『我が最愛の灯火よここに』!!」

「なるほど、強かだ! ですがどんなスペルカードでも耐えるぐらいはしてみせましょ……!?」

 

 現れた阿求の愛する祖父の幻影に神子は大きく目を見開かざるを得なかった。

 顔を合わせた時間はほんの僅か。彼はこちらに関心を寄せることなく、神子たちもまた彼に関心を寄せはしなかった。

 しかしあまりにも大きな存在感を伴っていた一人の男が再び現れたのだ。驚きの一つもしようものである。

 

「――なんとまあ。本人ではないのでしょうが……呼び出してもよろしいので?」

「――私が呼べば来るに決まってるじゃないですか。私のもの(・・・・)ですよ?」

「いやはやなんとも……」

 

 普通の親子とするには歪な、しかし確かな愛情のこもった声を聞いて神子は内心で引きつった笑いをこぼす。

 指摘したところで揺らぐことはないだろう。彼らはその在り方を千年続け、今に至っているのだ。生半可なつながりではない。

 

「さ、私の信じる最強の揃い踏み。あなたはどう攻略します? 神子さん」

「ふ、私を見くびらないで欲しいですね。これでも仙人の端くれ。――時間を稼ぐ術は心得ています!」

 

 神子の言葉と同時、彼女の周囲から煙幕に似た白煙が撒き散らされ、濃霧にも似た白煙に神子の姿が完全に消えてしまう。

 仙術によって作られた視界を封じる煙であると楓は即座に理解するが、対策は風の術で煙ごと吹き飛ばすしかない。そして今、楓は遊びであるため術を全て封じていた。

 

「阿求様!」

「お祖父ちゃん、足でかき回して!」

「御意」

 

 やや強引だが、スペルカードの身体能力に物を言わせて煙を払ってしまう作戦である。

 その意図を読み取った楓は縦横無尽に動き回る父の動きと、そこから見える僅かな煙の動きから神子の居場所を見抜く。

 

「――そこ!」

 

 ほんの僅かな煙の揺れと、微かに見えたマントの赤い裏地によって位置を看破した楓の拳が矢の如く放たられる。

 

「お見事! ですが私の赤マントは破れません!」

 

 楓の拳に伝わるのは上質なマントの手触りのみで、神子の身体を捉えた感触はない。

 マントに何か仕掛けがあると気づき、身体を捻った回し蹴りを放つがこれもマントに絡め取られる。

 

「本来は攻撃用の用途でしたが――怪人赤マントはマントの下を誰にも知られていない! これを逆手に取れば私の肉体をマントの下から消すことも可能!」

「当たっていないんじゃなくて、そもそもマントの下が存在していないのか……!」

 

 オカルトの力を上手く利用した防御策に楓も舌打ちを隠さない。

 得意げな神子の顔面だけは攻撃が通る。しかしそれぐらい神子にもわかるはず。仙術による防御を十重二十重に被せているだろう。

 

「仙術破りを使えば――」

「楓さんなら使うでしょうね。ですが、それを見越して幾層も束ねて術を使えば対策が取れます! 後はスペルカードの効果が切れるまで耐えますよ」

 

 楓の拳を避けなかったのは神子の自信の表れだろう。事実として、楓の拳に返ってきた感触は人の肌に触れたものではなく、鉄の塊を殴ったかのような重厚なものだ。

 だがそれでもわかったことがある。およそダメージらしいダメージはないが、衝撃は通っている。彼女の頬が殴られた形に一瞬だけ凹んだのだ。

 であれば策は見つかった。楓は自身の後方にいるスペルカードに一瞬だけ視線を向け、目配せを一つ。

 それで意図を理解したスペルカードも更に加速し、瞬時に神子の背後を取る。

 

「一つ!」

「あ、何をしてくるか読めましたよあなたたち容赦とか躊躇とかないんですか!?」

 

 すなわち――前後で全く同時の攻撃を放ち、衝撃を一点に集中させることでダメージを通すというもの。

 スペルカードの拳が神子の後頭部を叩くと同時、楓の拳が神子の顔面を正確に撃ち抜く。

 一秒後の未来を正確に理解してしまった神子は涙目になっていたが、二人の拳を受けて顔面の穴という穴から赤い液体を噴き出す。

 

「がぱっ!?」

「もう一発!」

「参った! 参りましたからこれ以上はやめてください!? ほら、オカルトボールも出てきましたし!」

「なんだ。仙人なんだから死にはしないだろ」

 

 神子の顔面に二発目が当たる直前で拳を止めた楓は不思議そうに首を傾げる。

 魔理沙が相手だったら間違っても取らない戦法だが、相手が仙人である神子なら話は別だ。

 

「死にませんがこれを迷わずやる判断が恐ろしいです。思いついたからってやりますか?」

「お前が人間だったらやらなかっただろうな。それと弾幕ごっこで対処不能な技は基本的に禁じ手だ。禁じられる理由は今わかっただろう」

「あなたみたいな人が手段を選ばないということですね。身に沁みました」

 

 顔の血をふき取った神子は阿求たちの方へ戻り、三つになったオカルトボールを見る。

 

「当初の約束通り、オカルトボールの譲渡は諦めます。そちらで対処してもらえれば良いかと」

「確かに受け取りました。ふふ、お祖父ちゃんとお兄ちゃんは強いでしょう?」

「とても。過去に彼が、そして今はあなたが人里を守っているのです。幻想郷の人々の黄金時代はまさに今と言えるでしょう」

 

 ですが、と神子はそこで言葉を切る。

 

「今回の異変で言えばあなたたちは少し突き抜け過ぎています。勝ちの目は確かにありますが非常にか細い。――一度ぐらい、そちらが敗北した姿を見たいというのも人情」

「神子さん……?」

「…………」

 

 楓は油断なく周囲に目配せし、阿求を自身の後ろに隠す。

 神子は両手を大きく広げてマントを翻し、この場にいる面々に呼びかけた。

 

「どうです、皆さん! ここは我らが手を取り合うというのは! 全戦全勝の相手に一度ぐらい土を付けようではありませんか!」

 

 神子の呼びかけに応える形で飛び出してきたのは霧雨魔理沙、聖白蓮、物部布都の三人。

 

「勝ち過ぎるってのはこうなるってことだ。弾幕ごっこは平等な遊びだからな」

「我ら四人と戦うというのは不利に聞こえますか? それとも……これぐらいでちょうど良いと思いますか?」

「さっきの雪辱戦とさせてもらおう! 我ら思想も目的も違えど――今、そなたらに勝ちたいという思いは同じ!」

 

 数的不利は否めない。楓も体術だけで彼女ら四人を相手にするのは無謀だ。

 だが――御阿礼の子が傍らにいる状況で阿礼狂いに敗北の二文字はない。

 

「阿求様、ご命令を」

「うん。――お兄ちゃん、勝とう!! 私の信じる最強の証明をここに!!」

「御意」

 

 オカルトを用いた此度の異変において、これが最大の対決となるだろう。

 阿求がスペルカードを準備し、楓が四人を相手に相対する。

 

 

 

 かくして四対二という不利で公平な(・・・)条件のもと、両者の激突が始まるのであった。




概ね阿求がスペカの性能を堪能して気持ち良く無双する回です()
なお勝ち過ぎたので数による袋叩きが発生する模様。

次回は4対2の勝負を描き、深秘録は終了になります。画面外で霊夢がめっちゃ奮闘してる。
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