阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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そして、伝説は揺るぎなく

「椿、ここからは手伝え。武器なし術なしでは厳しい」

『待ってました! 私たちのコンビネーション、見せつけちゃおう!』

 

 楓が拳を握って構えを取ると同時、相対している四人が素早く声を交わす。

 

「椿、ですか。魔理沙さん、何かご存知ですか」

「楓にしか見えないし干渉できない何かがいる、ってのは知ってる。弾幕ごっこに使うってことは楓にだけは干渉できるってのを上手く使うんだろ」

 

 霊夢に次いで楓と付き合いが長い魔理沙は椿の正体も知っていた。

 前に出て戦う予定の白蓮、神子は魔理沙の情報に破顔する。しかも知っていなければ成すすべがない類の情報である。

 

「さすが幼馴染。よくご存知で」

「褒めても出るのは弾幕だけだぜ。良いか、楓はあれで意外性の塊だ。突拍子もないこともやるから注意しておけ」

「肝に銘じます」

 

 体術という分野で見れば楓と白蓮はほぼ互角となる。体術のみの条件で一対一の勝負をしたとして、楓の勝率は六割弱といったところだろう。

 さらにそこに神子が加わるので、単独での勝利は諦めた方が良い。

 布都と魔理沙は後ろから弾幕の援護を行い、神子と白蓮が楓と戦う。

 即席の組み合わせ故、連携の精度は見込めないだろうが数の力はそれでも脅威である。

 ひたすら守りと逃げに徹すればどうにか少ない負傷でスペルカードの発動まで粘れるだろう、と楓が見立てたところで後ろから袖を引かれる。

 首を後ろに向けると阿求が真剣な顔で楓を見上げていた。

 

「お兄ちゃん、正直に言って。四人相手で大丈夫?」

「……剣も術もなしだと厳しい勝負になります」

「一人で勝ち目はある?」

「絶対に無理だ、とは言いませんが苦しいですね。百に一つか、万に一つか」

 

 楓の本領は剣術、体術、妖術の全てを組み合わせた動きにある。

 その中で二つを自発的に縛っている関係上、手足を縛っているも同然なのだ。

 なので率直なところを阿求に話す。無論、勝ちに行けと言われれば遊びの範疇で死力を尽くすがそれで勝率が上がったところでたかが知れている。

 阿求も想定内の回答だったようで首肯を返し、彼の耳元でそっと話しかけてくる。

 

「だよね。だとするとお祖父ちゃんを呼んでも状況は厳しい。違う?」

「否定はしません。ですが我らこそ阿求様の剣にして盾。勝てと仰っていただければ全力で勝ちに行きます」

「ううん、私が言いたいのはそうじゃなくて――私もリスクを背負えば遊びのまま勝ちに行けるんじゃないかってこと」

「……何か策があるのですね。拝聴します」

 

 阿求が耳打ちしてきた内容に楓はうなずいて聞いていたものの、最後まで聞いた時点で顔をしかめるものになっていた。

 

「……阿求様、今回の異変は遊びです。それを承諾するのは難しい」

「遊びだからこそ、本気で勝ちに行きたいの!」

「ですが万一を考えると――」

「召喚できる直前に呼ぶから、その時だけ力を貸して! 一度くらい私もお祖父ちゃんの技を見てみたいの!」

 

 そう言われると楓に反論はできない。何もかもを呑み込んだため息を吐いた後、改めて拳を握って構えを取る。

 

「直前になったらお呼びください。イメージは作っておきます」

「うん、お願い! さあ、始めましょうか!」

 

 阿求がスペルカードを構え、楓も腰を落とした。

 白蓮と神子が白兵の構えを取り、布都と魔理沙が弾幕を用意する。

 

「さて、いざ開戦と行きたいところですが魔理沙さん、阿求さんたちの狙いはわかりますか?」

「多分な。さすがの楓も素手で四人相手にするってのが無謀なことくらいわかるはずだ。となると一発逆転の手を探す。あいつらの一発逆転と言えば――スペルカード以外にないよな?」

 

 そしてここにいる面々も一度は阿求のスペルカードを見ている。

 同じスペルカードを実行したところで、各々すでに自分に合った形での対策を用意しているだろう。

 阿求にそれがわからないとは思えない。つまり一発逆転の札はスペルカードにあると推測できた。

 

「……スペルカードによって作り出された爺ちゃんはスピードとパワーがあったが、他がなかった。だがそれは阿求に再現できる限度があったってことじゃないか?」

「……つまり?」

 

 魔理沙の言いたいことを察したのだろう。白蓮が冷や汗を一筋流しながら続きを促す。

 

「楓ならその点の心配はない。あの二人で召喚したら正真正銘本物――いいや、人間だった頃より強い爺ちゃんが召喚される」

「私たちはその御仁をほとんど知りませんが、どういった方なのです?」

「弾幕ごっこが生まれる以前の幻想郷で吸血鬼を退治した。本物の鬼が闊歩する百鬼夜行を一人で薙ぎ払った。親父から耳にタコができるくらい聞かされた伝説だ」

 

 そしてその息子である楓の力量と、今なお父に追いつけていないと語る彼の口ぶりを見る限り、おそらく本当の話だろう。

 

「爺ちゃんが召喚されたら一気に苦しくなる。その前に楓を集中狙いで落とす。異論はないな?」

「承知しました。援護はおまかせします! 布都も頼みましたよ!」

「お任せを! いざとなれば太子様もろともに焼き払ってみせましょう!」

「やめてくださいね? 布都? やめてくださいよ!?」

 

 布都からの返事がないことに一抹の不安を覚えながらも神子が前に出て楓とぶつかり合う。

 先ほど戦ったように赤マントの力を防御に使用した場合、楓からの容赦がなくなるのでマントの下を露わにしつつ自身が笏を振るって戦うスタイルだ。

 

「神子さん、合わせます!」

 

 同時に白蓮も楓に殴りかかる。

 霊力のこもった拳の一撃を受け流し、二人を相手にした殴り合いを展開していく。

 

(神子は仙人の力に振り回されている感じがするが、白蓮は手慣れている。この二人を崩すのは手間だぞ……)

 

 白蓮も自分の方が白兵戦に慣れていると自覚しているのだろう。神子に好きに動いてもらい、自分が隙を潰す方向で動いている。

 振るわれる笏を紙一重で避け、動きにくい場所を狙い定めて放たれる白蓮の蹴りを受け止め、一度距離を取るべく後ろに下がる。

 

「おっと、一息つかせないぜ!」

「我らの弾幕、避けきれるかのう!」

 

 逃げた先に置くように魔理沙、布都の弾幕が展開される。

 流星と炎が降り注ぐ中、楓は椿とともに再度前進する道を選ぶ。

 

「椿!!」

『任せて!』

 

 踏み出す足に椿の足を合わせ、一気に加速して神子に接近。

 急加速に驚いた白蓮が神子の援護に回る前に、神子の身体へ手加減なしの拳を放つ。

 

「がっ!?」

「神子さん!」

「使わせてもらうぞ……!」

 

 殴った拳を開き、マントを掴む。神子の身体を引っ張り、白蓮の拳の盾に使ったのだ。

 白蓮は咄嗟に殴る手を止めるが、それこそ楓の狙い。神子の身体を離して硬直している白蓮の懐に潜り込むと、その身体に肩から渾身の体当たりを食らわせる。

 

「美鈴の直伝だ!」

「ぐぅ……っ!?」

 

 体当たりの直撃を受けた白蓮はぐらりと身体が揺らぎ、大きなダメージを受けていることがわかった。

 楓は彼女の状態を確認することなく飛び出し、次いで魔理沙たちの方へ疾駆する。

 

「こっちに来たぞ!?」

「楓ならこれぐらいやる! 打ち合わせ通りにやるぞ! せーのっ!!」

「――っ!」

 

 魔理沙の掛け声と同時、布都と魔理沙が別方向に飛び出したのだ。

 白兵戦が不得手な二人が固まって一緒に落とされるよりマシだと考えたのだろう。

 悪い判断ではないが、各個撃破を目論む楓にしてみれば好都合だった。

 楓は迷うことなく魔理沙の方へ身体を向けるとそちらへ走る。

 

「こっちに来たか!」

「――なんてな」

「んなっ!?」

 

 魔理沙に近づく――と見せかけて、楓が虚空を蹴り上げて方向転換し、布都の方へ加速したのだ。

 椿の存在があるため、楓は好きな方向への急加速が行える。無論、椿との連携が必須になるので乱用はできないが、彼女との意思疎通は目だけで行える。

 自分の方に来ると思ってなかった布都が硬直している隙を狙い、楓の拳が振るわれる。

 

「うぐぅ!?」

「布都!」

 

 仙人である肉体強度など意に介さない。内側に響く打撃が布都に打ち込まれてうずくまるが、楓が容赦なく追撃を加えようと首元を掴み、その身体を後ろに回す。

 布都を助けようと動いていた神子と白蓮の動きが一瞬だけ止まる。綿密な連携ができていない場合の欠点である、味方を傷つけかねない攻撃ができないという点を突いているのだ。

 

「不味いですね、これは……」

「ええ、これでは実質各個撃破されているのと変わりません!」

「だったらこうするんだよ!! 布都、お前の仇は討ってやるからな!」

 

 迷わなかったのは魔理沙だけだった。

 ミニ八卦炉に膨大な魔力を集中し、楓を落とせるなら三人が犠牲になろうと必要な犠牲だと言わんばかりの顔である。

 

「ちょっと魔理沙さん!?」

「こいつ相手に犠牲なしで、なんてのが虫の良い話なんだよ! 楓に合わせて戦ったら各個撃破されて終わる! だったら犠牲ありでもダメージを蓄積させる方が良い!!」

「――正解だ。土壇場の判断は間違えないな、魔理沙は」

 

 上手く立ち回っても魔理沙は本質を突いてくる。

 ここで楓が最も嫌なことは布都もろともにマスタースパークを撃ち込まれることだ。

 魔理沙たち四人は一人落ちても弾幕ごっこが続行できるが、楓は自分が落ちたら終わりなのだ。

 楓が舌打ちしつつ布都を離し、神子たちに押し付けて魔理沙の魔法から逃れるように動く。

 

「この距離なら外さない! 行くぜ――恋符『マスタースパーク』!!」

「本当に撃った!?」

「早く離れてください! 私たちも巻き添えになります!」

 

 神子が布都を引きずり、白蓮とともに逃れていく。

 狙いの中心にいる楓は自身をまっすぐ狙う白磁の魔力砲撃を見据え、小さくつぶやく。

 

「――椿」

『任せて!』

 

 踏み出す足に椿の後押しを受けて、テンポ良く加速した楓が悠々とマスタースパークの範囲から逃れる。

 

「椿は俺にしか見えないし俺以外に干渉もできないが、こういうことはできる」

「あーくそ! こいつの加速を忘れてた!」

「そして時間切れだ――阿求様!」

「うん、準備OK! お兄ちゃん、来て!!」

「――っ! お前ら、距離取れ! 爺ちゃんが来る!!」

 

 魔理沙の第六感が告げているのだ。

 今から呼ばれる存在を前に一瞬でも気を緩めてはいけない。緩めた時が敗北に直結すると。

 総身から迸る霊力を全てスペルカードに集め、片割れを求めるように差し出された阿求の手を楓が取る。

 そして阿求の記憶にある祖父の全てと、楓の記憶にある父の技量。二つを組み合わせた、文字通り一世一代のスペルカードが産声を上げた。

 

『――火継『我が最愛の灯火よここに』!!』

 

 

 

 

 

 さっき見た幻影とはまるで圧が違う。

 スペルカードで作り出された幻影を一度見たことがある白蓮、神子、魔理沙は幻影が出現した時点で空気が変わったことに息を呑む。

 

「……こうなったら全員で固まるぞ。命蓮寺の魔女と仙人様は死ぬ気で守れ。布都と私でできるだけの援護はしてやる」

「ご助言はありがたく。ですが勝機を見出してもらえた方が私たちは嬉しいのですが……」

「わからん。楓一人でも私たちが手こずってたんだぞ。そこに爺ちゃんまで加わったら――え」

 

 白蓮と会話していたはずの魔理沙の視線が意図せず上を向き、呆けた口から息が漏れる。

 視線の先にはいつ動いたのかまるでわからなかった老爺が二刀を振りかぶっており――

 

「っ、魔理沙さん!」

 

 咄嗟に反応できたのは白蓮だけだった。

 魔理沙の身体を加減なしで突き飛ばし、両手に魔力を漲らせてスペルカードの二刀と打ち合いを始める。

 

「――」

「っ、ダメ、速すぎ――きゃぁぁ!」

 

 打ち合いの体裁を保てていたのはほんの僅かな間だけ。文字通り刃の嵐を前に白蓮の身体がまたたく間に切り刻まれた。

 一瞬で、しかもこの中で最も戦闘に長けていたと言える白蓮が倒れた。

 その事実が脳に届く前に白蓮を倒し終えた老爺の目が神子と合う。

 

「――」

 

 その視線で見据えられただけで蛇に睨まれた蛙のように神子は動きが固まってしまう。

 これがかつて青娥の欲した力。彼女の手に渡ったら本当に幻想郷が終わっていたかもしれない。そう心から考えてしまうほどに目の前の力は強大だった。

 

「――あ」

「おらぁっ!!」

 

 刃が眼前に迫った直前、魔理沙の投げた魔法瓶が破裂して内部の弾幕を撒き散らす。

 スペルカードの攻撃はそこで止まり、大きく距離を取って阿求たちの元へ戻る。

 

「助かりました、魔理沙さん」

「運が良かった……というか爺ちゃんが弾幕を警戒しただけだ。次は楓と一緒に来るぞ」

「それはまた何とも……」

 

 神子の視線の先では狐の耳を生やした阿求が腕を組んで力強く笑い、その前を楓とスペルカードの幻影が並んで構えを取っている姿が映る。

 

「――楓、二人を一時抑えろ。後は俺がやる」

「わかりました。ご武運を」

 

 短いやり取りの後、再びスペルカードの姿がかき消え、魔理沙の前に姿を表す。

 距離を取る時間どころか呼吸を整える暇すら与えられない。魔理沙は悪態をつきながら魔法瓶を構える。

 

「どんな動きしてんだよ爺ちゃん!」

「人間ならできる動きだ」

「ウソつけ!!」

 

 投げた魔法瓶を刀の刃先で絡め取り勢いを殺し、地面に落として見せる絶技を片手間にやってのけ、スペルカードの刃が魔理沙を捉える。

 

「ぐぁ……っ!」

「今の俺はスペルカードとやらなんだろう。死にはしないから安心しろ」

 

 どこか懐かしさと優しさを感じる声音を耳にしながら、スペルカードの斬撃を全身で受けた魔理沙の意識は急速に薄れていく。

 だが薄れゆく意識の中で思ったのは一つのことだった。

 死にはしないと言いながらもスペルカードの斬撃は精妙に魔理沙の首を狙っていたのだ。

 

(やっぱ楓の親父なだけあるな。容赦ねえぜ……)

 

 仮にも赤ん坊の頃から知っている親友の孫娘をここまでこっぴどく扱うとは。

 起きたらもういないだろうが、せめて楓に悪態の一つをついてもバチは当たるまい。

 などと考えながら魔理沙は魔法のほうきから滑り落ち――大きな手がそれを支える感触を最後に意識を落とすのであった。

 

 一方、楓は布都と神子の二人を相手取って大立ち回りを演じていた。

 魔理沙、白蓮の無事は気にしない。父がこの一瞬だけ全盛期以上の力を伴って現れたのだ。勝敗の天秤を気にする段階は過ぎている。

 今は彼の言いつけ通り、この二人を釘付けにしておくのが楓の役目である。

 

「お前たちは付き合いが長いからな。残しておくと面倒な相手だと思っていた」

「その言葉、真にしてやろうと言いたいが……!」

 

 布都の言葉に神子も言葉なく同意し、歯噛みするしかない。

 自らの役割をわきまえ、守りに徹している楓を突破するのは至難の業。

 攻め立てたところで柳のようにするりとかわされ、弾幕を放っても椿との合わせ技で悠々と離脱されてしまう。

 布都は諦めた様子を見せていないが、神子はすでに現状に見切りをつけていた。現状への理解が早いのも為政者の資質である。

 

「……これは私たちが見誤りましたか。楓さんが四人相手でもどうにかできる実力であるとは」

 

 神子が戦意を失ったことに気づいた楓も拳を下ろし、彼女の話に付き合う姿勢を見せる。

 

「椿がいなければさすがに厳しかった。手札を隠しているのはそちらだけではないということだ」

「私たちが即席の組み合わせでなければ。我々がもっと戦に慣れていれば。たらればはいくつも思いつきますが、どれも夢想でしかない。ああ、ですがこれだけは言っておきましょう」

「……聞こう」

 

 

 

 ――次は負けません。

 

 

 

 その言葉を最後に後ろから迫ったスペルカードが刃を一閃し、布都と神子は崩れ落ちる。

 そうして動くものがいなくなった中、楓は小さく含み笑いをこぼしてスペルカードが訝しげに口を開く。

 

「……何か面白いことでもあったか」

「ええ。次は負けないと啖呵を切られました」

「次はもうないと思うがな」

「それでも、こうして次があるというのは良いことですよ。父上が作り上げた光景です」

「俺一人のものじゃない。全員がそれを願ったからこそ意味がある」

「……ああ、後もう一つ。個人的に嬉しいことがありました」

「何だ?」

「夢現の作り物とはいえ、父上と肩を並べて戦えたことです」

「…………」

 

 スペルカードは何かを言うことなく視線をそらし、楓の肩を叩く。

 共闘した相手を称えるようなそれに楓は目を細め、父の幻影が消えていくのを見届けるのであった。

 

 

 

 

 

「どうですか私のお兄ちゃんとお祖父ちゃんは! 四人相手でも鎧袖一触ですよ!!」

 

 四対二という変則弾幕ごっこが阿求たちの勝利で幕を下ろした後、阿求が得意満面の笑みで自分の従者を自慢していた。

 魔理沙たちも負けてしまったからには聞くのが敗者の義務であると阿求の自慢を聞いていた。

 

「四人がかりで負けちまったら何も言えないわな。やっぱ楓一人でも守りを固められるとキツイぜ」

「ですが魔理沙さんの指示は的確なものでした。私たちがもっと上手く動けていれば……」

「たらればを語るなら霊夢がいなかったことだな。霊夢がいたら俺も本気で危なかった」

 

 椿がいたとしても霊夢は直感で動きを見抜いてくる上、素の体術で楓と十分に渡り合える力量がある。

 もし四人の中に霊夢が混ざっていたら、本気で守りを固めていても突破される可能性があった。

 魔理沙も楓の意見には同意らしく、神妙にうなずく。

 

「だよな。命蓮寺の魔女が思いの外やれたのは驚いたけど、そこ止まりだ」

「後のスペルカードも食い止めきれず、申し訳ありません……」

「良いって。あの爺ちゃんは誰が相手でも無理だ。霊夢だってお手上げだろうさ」

「一回だけですけどね。でもお祖父ちゃん、格好良かったなあ……」

 

 祖父や楓の力量を堪能できた阿求はうっとりと余韻に浸っている。

 その姿に魔理沙も苦笑するしかない。だがこれも御阿礼の子の前で戦うことを良しとしなかった火継の一族に問題がある。

 これぐらい可愛いわがままだろう。なので魔理沙は楓の助けを求めるような視線は無視することにした。

 

「ま、今回は阿求に花を持たせてやるよ。せっかくの異変なんだ、楽しまないと損だぜ」

「とっても楽しかったです! お祖父ちゃんとお兄ちゃんが本当に強いこともわかりましたし!」

「そうだな。私も爺ちゃんが戦うのは初めて見たが、やっぱり伝説の人なだけあったな。楓が追いかけるのもわかるわ」

「だいぶ近づいたと自負している。それにしても人数差があると生まれるオカルトボールの数も変わるんだな」

 

 この弾幕ごっこを始める前に持っていたのが二つ。そして弾幕ごっこが終わった後にオカルトボールが四つ生成され、楓の手元には六つのオカルトボールが揃っていた。

 神子がそれについて顎に手を当て、持論を語る。

 

「おそらく私たち四人と楓さんが一人で戦う――一対一を四回繰り返したと判定されたのでしょう。阿求さんのお祖父さんとやらは破格のスペルカードですが、あくまでスペルカード。我々と戦ったとはみなされない」

「太子様のお考えが妥当かと思われます。しかしお主ら、これでオカルトボールを何個集めた?」

「霊夢さんたちと弾幕ごっこをする前は四つでしたから……これで十個ですね」

「阿求様、次に誰かと遊べばオカルトボールが七つになり、再び結界が破られます。霊夢が独自に動いている現状、それは避けた方がよろしいかと」

「うん。私も満足したしここまでかな」

「となると異変も終わりかな。霊夢が動き出してしばらく経ったし、あいつなら今日中に終わらせるだろ」

 

 魔理沙の言葉に楓もうなずき、空を仰ぐ。

 夢中になって遊んでいたからか、すでに夕焼けが辺りを覆い始めている。この調子ならすぐ辺りも暗くなるだろう。

 

「異変は夜が華……と言いたいが、楓がおっかない顔してるし、阿求を悪い道に誘うのはやめとくぜ」

「今日は朝からたくさん遊びましたから。今のうちにお祖父ちゃんたちの勇姿を書き記しておかないと」

「では我々も行きましょうか。阿求さんはオカルトボールの処理をお忘れなく」

「ご安心ください。しっかり霊夢さんにお渡ししておきますので」

「それを聞いて安心しました。では」

 

 神子らが去っていくのを見送り、残された阿求と楓は何を言うでもなく手を重ねる。

 

「……お祖父ちゃん、強かったね」

「ええ、私が追いかけている背中です」

「あんな大きな背中に私は守られていた。そしてこれからも私は守られる」

「それが我らの存在意義です、阿求様。御阿礼の子の火を絶やさないという使命のもと我らは生き続け、私に到達した」

 

 楓こそが火継の結実。半人半妖の肉体を持ち、阿礼狂いの精神を持つ、御阿礼の子の旅に同道し続けられる唯一人の少年だ。

 

「……楓さん」

「はい」

「稗田阿求が……ううん、今代を生きる御阿礼の子として願います。――何代先になっても、私の隣はあなたが良い」

「――ご下命、確かに賜りました」

 

 阿礼狂いにとって、何者にも勝る宝である。

 もうこれで楓が阿礼狂いとして揺らぐことはなくなった。

 後は――最強の阿礼狂いの背中を追い越すだけである。




阿求が気持ち良く無双したいと私の脳内に囁いたので続いたお話もここで区切りとなります。

次回は異変終了後の後日談的なお話が霊夢の口から語られたりします。
それから少し間を開けて、楓が永遠亭に挑みます。ここが最大の正念場となる予定です。



ようやく終わりが見えてきたな……(三年近く書いていることにビビる作者)
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